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気持ちは変わるもの

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「理屈じゃない……」

 凪はポツリと呟く。自分の中の常識では今まで有り得なかったことが実際に起こっている。1年前の自分だったら、男に抱かれるなんて考えもしなかったし、抱かれるかもしれないとわかっていて部屋に入ったりもしなかった。

 こんな女みたいな考え方、せずに済んだ。そう思うのに、千紘の部屋に入った時点で体を許しているものだといい加減認めなければならない。

「何? 凪も理屈で説明できないこと納得した?」

「……」

 千紘はからかうように凪の顔を覗くが、凪は千紘との視線を合わそうとはせずにその向こう側を黙って見つめていた。
 少し無神経だったか、からかい過ぎたか……と、軽く反省した千紘はゆっくりと離れて指先で頬を掻いた。

 玩具を使って凪をいたぶるつもりは毛頭ないが、好きだという気持ちが先行して密着した途端に下半身が反応してしまったのは事実だ。
 あれに嫌悪を感じたんじゃないかと今になって心配になったりする。

 帰ると言って必死にもがいていたから、もう二度と触らせたくないと思ったかもしれない。少しずつそんな不安が湧き上がる。

 しかし、千紘も黙ったところで凪の口が開いた。視線は未だに天井に向けられたままだが口が動くのは見えた。

「千紘」

 不意に名前を呼ばれ、千紘はピクリと反応した。素早い瞬きをして凪の顔を見る。こんなに自然と名前を呼ばれたのは初めてで、一瞬自分の名前じゃないような気がした。

「……千紘?」

 こてんと顔を千紘の方に向けた凪は、なぜ返事をしないのかとでもいいたげに顔をしかめた。

「え? は!? え?」

 二度も名前を呼ばれて動揺する千紘に対し全く動じない凪は、なぜ千紘がそんなふうに慌てているのかもわからないようだった。

「とりあえずすんならお前はシャワー浴びた後な。俺、仕事終わりにそのままとか無理だから」

 無表情でそう言われたら、また何のことだかわからなくなる。しかし、ようやく動き始めた思考回路が凪からお許しが出たことを教えてくれた。

「えっと、うん……もちろん。ちょっと、待ってて」

 千紘はふらっと立ち上がり、何も考えられないまま寝室を出た。パタンとドアが閉まった途端、千紘はぶわっと顔を真っ赤にさせた。

 え!? なにこれ、どういう状況!? 凪から誘ってくれた? シャワー浴びなきゃ無理ってこの後抱かせてくれるってことだよね!? そういう解釈でいいよね!? しかも俺のこと名前で呼んだし……。千紘って言った。あんなに呼んでって言っても嫌がってたのに、千紘って呼んだ。

 千紘は心の中でぶわーっと叫んで、その場にしゃがみ込んだ。

「うわぁ……好きだぁ……」

 千紘は、両手を床について声にならない程の声で呟いた。
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