弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

女神アティナン

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 コギーとヒロは、更に10階フロアの奥へと進み、遂に最奥の部屋に到着した。

 防衛のためか10階は扉が多く入り組んでおり、ここまでにかなりの時間がかかった。

 コギーが軽くノックをする。

「どうぞー」

 返ってきたのは、気が抜けるような高い少女の声だった。

「失礼します」

「……失礼します」

 ヒロは、コギーに倣いそう言った。

 着古したベージュのコートの埃を払った。その時、彼は分かりづらいが、至る所に縫った後があることに気がついた。

 また、ワータイガーとの戦いで血と泥で汚れていたのに綺麗になっている。

 ——ミアさんが……?

 恐らく、ミアが洗濯、修復をしてくれたのだろうと思い至った。

 ヒロは、ベッドの傍にある机の上に畳まれて置いてあったものを気にせず着てきた。彼は、自分の格好に無頓着なため今のいままで気がつかなかったのだ。

 コギーは、メテオの時とは比べ物にならない程速く扉を引いた。

 扉の方に向けて置かれた大きな机。そこには、大きさに見合わない小さな少女が腰を掛けていた。

 腰までありそうな白髪の長髪に琥珀色の眼、色白の肌。

 どこをとっても最高級の芸術品の様に美しい。

 傍に机に立て掛けられている神々しい青い槍を見なくても一目瞭然だった。

 ——あれが女神アティナン……

 ヒロは、これまで街中で見かけるくらいでしか神を見たことがなかった。

 普通神々は、加護を与え眷属とした者達と共に地上で生活を共に送るのだが、彼に加護を与えた神は地上に降りてこなかった。

 そのため、彼は神を見慣れていなかった。

「そんなに見つめられると恥ずかしいのだけど」

 女神アティナンは、どこか気が抜け、心安らぐ様な声で言った。その顔には、照れくさそうな微笑が浮かんでいた。

「見とれるのもわかるが、その辺にしとけ」

 コギーは、ニヤニヤと笑いながらヒロを肘でつついた。

 ヒロは、慌てて頭を下げた。顔が火が出そうな程熱くなった。

「す、すみません!ヒロ・プラヴァンです!」

「プラヴァン……か。いい名前だね」

 女神アティナンの目付きが一瞬変わった。しかし、直ぐに同じく微笑を浮かべた。

「改めて、私は都市と槍の女神アティナン。よろしくねヒロ」

 女神アティナンは、静かに立ち上がるとそのまま机の前のソファーまで移動し、腰を掛けた。

「まずは座りなさい。ゆっくり話を聞くよ」

「アティナン様もそう言ってくれてるし」

 ヒロは、コギーに促され彼と共にソファーに移動し、座った。

「で?何の用で来たの、コギー?ヒロを連れて来たってことはそれ絡み?」

 コギーとヒロが座ったことを確認し、女神アティナンは、口を開いた。

 コギーは、彼女の言葉に「はい」と静かに頷いた。

「こいつ、ヒロは加護が効力を発揮していません。それについて聞きに来ました」

「なるほどー。ヒロは誰の眷属なのかな?」

 女神アティナンは、ふむふむと考える素振りを見せた後、ヒロの方を向いた。

 彼は、静かに首を横に振る。

「わかりません。文献にも載ってない刻印で」

 刻印とは、神々が自分の眷属の証として右手の甲に刻むものだ。

 本人の意思や神々の干渉によって浮き上がり、普段は見えない。

 刻印には、ステータスや加護の情報が内包されている。

 女神アティナンがちょいちょいと手招きした。右手を出せということだろう。

 ヒロは、指示に従い包帯が巻かれた右手を差し出した。

 彼女は、そっと彼の右手の甲に包帯の上から触れる。

「————」

 女神アティナンの透き通った歌う様な声が室内に響く。

 ヒロは、歌や絵画を嗜むことなどしないが、その声が言葉に出来ない程美しいことは、理解出来た。

 しばらくすると、炙り出しの様に彼の右手の甲に巻かれた包帯の上に薄緑に淡く光る刻印が浮かび上がり始めた。

 それが完全に姿を現した時、女神アティナンは目を見開いた。まるで、信じられない物を見たかの様に。

「まさか……サガー?!」

 そして、そう口にした。

「サガー……様?聞いたことありますか?」

「いいや、ないな」

 ヒロがコギーに問うと、コギーは首を横に振った。

「わからないわけよ……サガーがこれまで加護を与えたのは私が知っている限りヒロ含めて2人だけだもの」

「2人?!」

 コギーは、その少なさに驚愕した。

 どれだけ力がない神でも少なくとも50人には加護を与えているからだ。

 ヒロは、どれだけ力がない神なのだと気が気でなかった。

「その……何の神様なのでしょう?」

「サガーはね——、物語と英雄の神よ。ものすごく偏屈でとても強力な神」
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