Vanishing Twins 

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瀬戸遥の思い出

3.落とし物

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二人の共生は奇妙なものだった。
医療などで普通に言われる多重人格とは違う。あれは片方の意識が覚醒していると、もう片方は休眠状態になるそうだ。しかし、遥とカナタの共生は、同時に意識を持ちお互いの思考で会話をすることもできる。運動のなどのために意識が強くなるときは、短時間片方だけの意識が強く表に出る。それでも、隠そうとさえしなければ相手も自分がしていることは認識できる。また、行動な認識できるが、相手が何を考えているのかは相手が話すか伝えようとしない限りは思考は分からない。普通の人間同士のように目に見える行動は見えるが、目に見えない考えは読めないのだ。

先日などは、カナタが深夜のテレビが見たいと考えた。それが遥の苦手なモノだとカナタは分かっているから遥が完全に寝るまで待って一人で起きた。眠っている遥は、それを知らなかった。ただ翌日に遥の知らない体の倦怠感が残っていただけだ。
つまり一般的な多重人格とは違う。大袈裟に言えば空想上の友達が一番当てはまるが、勝手に体を動かす事ができるのを空想で考えるには無理がある。
遥自身も最初は楽しく遊んでいたが、年を重ねるうちに妄想かと考えたこともあった。しかし、それにしてはカナタは明確に存在し過ぎて、自分だけでなく周囲までたじろがせてしまう。やがて、遥自身も害が出るわけでもないからこのままでもいいかと考えるようになっていた。それに何より遥は、カナタがいる事で心が落ち着くのが分かったのだ。

「ねーぇ、さぼっちゃおうよ。いいじゃん古文なんて。」

不意に物思いに更ける遥に向かってカナタが強請る様に言う。暢気で朗らかなカナタは、時々こういう事を言って遥を困らせた。本当は古文は苦手だかし、今日は天気もいいし、何よりさっきの出来事を考えるとそれも良いかもしれないと遥の心が折れそうになっている。何より結局のところ、昼食も食べないで午後の授業を受けるのは遥にも辛い。

「そうだね、さぼっちゃおっか。」
「やったぁ、じゃぁさ、映画でも見に行こうよ。」
「やぁよ、カナタ、ホラーばっかり見るんだもん。」

なんでよ面白いのにぃとブツブツ言うカナタを感じながら彼女は笑う。遥は大きく伸びをして立ち上がると、ヒラリと春風にスカートのプリーツをはためかせて歩き出した。

「サスペンスくらいまでなら譲歩するけど?」
「さっすが、遥!話しが分かるぅ~。」

クスクスとお互いに笑いながら彼女たちは歩き出す。
変えようもないのは、私達が二人で一人だからだと遥には分かっていた。これが正しい事なのかは知らないが、自分は変えようとも思わない。

二人でいる事は安らぎであり、楽しみでもあった。
誰もいなくても、必ず遥の傍にはカナタがいる。
私たちは二人で一つ。
それが私たちの本質なのだから。
彼女は私と一緒・私も彼女と一緒。
考え方も性格も違うけど魂の根源が一緒なのだから。
それが、永遠に続くと高校生の彼女たちは信じていた。


※※※


結局、カナタに押し切られて一番苦手なホラー映画を見てしまった事を遥は本気で後悔した。カナタの大丈夫たいしたことないの一言を信じてしまった映画上映前の自分を、死に物狂いで止めたい。カナタに任せて心の奥に閉じ籠ろうにも、カナタは恐くないらしく「ほら!そろそろ来るよ!」「下からか!予想外!!」等と態々ホラー解説を繰り広げる。結局、流してみるつもりの遥も丁寧な解説のお陰で、怖い部分だけは完璧に観賞するはめになった。
やっと明るくなった館内で立ち上がると、遥はげんなりした気持で映画館のドアを開く。既にカナタは満足げに心の奥で眠りについていて、映画を頭の中で反芻して楽しんでいるのがわかる。こういう時は体を動かして家まで帰るのに、体の主導権が自分に大幅にある事が少し恨めしい。改めて映画の間遥が眠ってしまえばよかったのだけど、音が大き過ぎるしカナタの解説つきでは、それも出来なかった。結局、後から思い出して暗闇とか夜中に怖くなるのに、最初から最後まで怖い場面はじっくりとカナタにつきあってしまった。

「カナタ……ずるい。」

ため息交じりに呟いて、よろよろと外に出ると新鮮な空気を吸い込む。
映画の映像は作りものとわかっていても、あの音響と映像が一緒になるとどうも気持ちが悪い。あり得ないモノが、本当にそこに出てきそうな気がするし、本当になったら更に嫌だ。
はぁ、と溜息をもう一度ついて遥は、気を取り直す様にまだ人の少ない時間の昼の街を歩き始めた。

「ねぇ、君!」

不意にかけられた声を彼女は最初自分にかけられたものとは思っていなかった。
ところが、二度目は声をかけられながら肩をたたかれて、ハッと振り返る。視線の先に自分と対して年の変わらなそうな青年が、見慣れた自分のパスケースを手に立っていた。ハッとしたようにポケットに手をやると、確かにあるはずのパスケースの感触がない。

「今目の前で、これ落としたから。」

なかなかの好青年の微笑に遥は真っ赤になりながらそれを受け取ろうと手を差し出した。
ただただ真っ赤になった彼女を青年はくすっと笑いながら見つめその手にパスケースを乗せてくれる。震える手でパスケースを握り小さな声でありがとうございますと言葉を絞り出した。彼はそれに何を言うでもなく優しい微笑みを浮かべている。後なにか気の聞いたことでもと思い惑う遥に、青年はじゃぁ気をつけてとだけ言って数人の友人らしい人の群れに駆け戻っていく。戻った途端友人達の何か軽口に、彼が笑うのが少し遠く見えた。
少し頬を赤らめながらその姿を見つめていた遥の口が、不意に開いた。

「遥は、あぁいう感じがタイプなんだ。」
「ち、違うよ、落とし物を拾ってもらっただけ。」

慌てた様に遥はカナタに反論する。
ふぅんとカナタが小さく笑いながらまた眠りにつくのを感じながら、遥は不思議な気持ちで遠ざかるその背中をそっと見送っていた。

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