俺の名前は今日からポチです

ムーン

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そふ、いち

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イチャつきながらのシャワーを終え、雪兎に用意された服を着る。ジーンズにパーカー……相変わらず中学生みたいなセンスだ、いや、雪兎は中学生だったな。

「……よし! 行こ、ポチ」

化粧水を塗った頬をペちっと叩いて気合を入れ、水兵服を模した夏服に着替えた雪兎はキリッとした顔を作る。
祖父に会うのにそんなに気合いは必要ないだろうと笑いながら、久しぶりの孫と初対面の大きな孫にお菓子でもくれないかと期待しながら、別館への道を行く。

「……おや、跡継ぎ様。どうなされました」

別館の扉の前で箒を持った使用人に止められる。

「おじいちゃんに会いに来たんだけど」

使用人は携帯端末を取り出して何かを確認し、顔を上げた。

「そのようなことは聞いていませんが」

「……急はダメ?」

「いいじゃないですか、孫が遊びに来てんですよ?」

祖父母というのは娘息子よりも孫を可愛がるものだ、俺にも覚えがある。俺にお菓子を与え過ぎた祖父母が母に怒られるのをしょっちゅう見た。

「どうしてもおじいちゃんに話したいことがあるんだ」

「……人づてや電話ではダメなくらい、重要なことですか?」

他の使用人とは違い彼は雪兎に対して随分と高圧的だ、慣れていないのか雪兎は怯えている。

「…………そんなことは、ないけど」

「……ならお帰りください」

「そんなことあるでしょユキ様、大事なことでしょう?」

大嫌いだと叫んだことを謝りに行く、それは人づてでも電話でもダメだ、直接会わなければならない大事なことだ。

「……でも、忙しいのかもしれないし」

「雪風ならともかくお祖父さんはもう引退したんでしょ? なら忙しくないですよね? ほら、ユキ様、勇気出して」

「う、うん……あの、お願い。大事なことなんだ、ちゃんと会って話したい。通してくれないかな……?」

威嚇のために使用人を睨んでみるも、彼が引く様子は気配すらない。

「……確認してみてくれませんか? お祖父さんに。あなたの判断で孫を追い返した、そう知ったら怒るかもしれないでしょう? あなたが怒られるかも。独断はよくないと思いますけどね」

威嚇の方法を理性的なものに変えてみると、使用人は携帯端末を操作し始めた。

「…………雪成様、雪兎様とその犬がお見えになられています」

犬って言ったかこいつ。まぁ事実だけれど、そこは雪也様とか言って欲しかったな。

「え? い、いえ、大した用事ではなさそうで…………は、はい、承知しました……え? ぁ、はい……すいません……失礼します」

使用人は電話を切ると先程よりも深いため息をつき、雪兎と俺を順番に睨み、視線を逸らして舌打ちをした。

「……どうぞお通りください」

扉を開け、不機嫌に呟く。俺達は社交辞令の礼と会釈をして別館の中に入った。外はじっとしていても汗が滲むような暑さだったが、中は玄関でも涼しい。やはり全館冷房は素晴らしい、金持ち最高。

「あの人態度悪かったですね、報告しといた方がいいんじゃないですか?」

「うーん、でも、何か理由があるのかもしれないし……あそこ任されてるってことは結構信頼されてるんだろうし」

玄関前の掃き掃除なんて雑用に思えるが……やはり門番なのか? 敷地のド真ん中で?

「雪兎様、雪也様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

にこやかな使用人に案内されて入った部屋で白いスウェットの上下と靴下を渡される。それにマスクも。

「…………おじいちゃん潔癖症だから」

面倒臭さから苦虫を噛み潰したような顔にでもなっていたのだろう、珍しく雪兎がフォローに回った。
着替えを終えて白いスリッパを履いて廊下に出ると、先程の使用人がアルコールのボトルを持って待っていた。

「ワンプッシュお願いします」

「……こういうのする方が良い菌も死んで良くないとか聞きますけど」

「口答えせず、お願いします」

口答えって……まぁ、いいか。別に手に怪我をしている訳でもないし。

「手荒れそう……」

雪兎はかなり気にしているようだ、可哀想に。
アルコールボトルを持った使用人に突き当たりの部屋に向かうよう言われてそのまま進むと、これまでとは違った豪奢な装飾の観音開きの扉に出迎えられる。

「……おじいちゃーん? 雪兎だけどー……入っていーい?」

扉を叩きながら雪兎がそう言うと「入れ」ぶっきらぼうな声が返ってきた。

「…………失礼しまーす」

恐る恐る扉を開けて入る雪兎の後を追い、祖父の部屋へ。潔癖と聞いた時からの想像とは違って部屋は普通だ、掃除は行き届いているけれど。
キィ……と音がしてその方を向けば、雪兎の二、三歳下に見える少年が車椅子に乗ってやってきた。
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