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後輩に電話かけてみた

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風呂場で髪を染め、染まるのをボーッと待つ。

「根元だけだし……三十分くらいでいいかなー、ダメかなー……」

スマホなしで一時間はキツい。三十分もキツいけど。

「濡れちゃダメだし……んー、でも、気ぃ付ければ大丈夫かな」

泡を流すのはヘアカラーを落としてからにすれば身体を洗って待つのも大丈夫だろう。愚かにもそう判断した俺はボディソープを泡立てた。

「ピアス滲みなくなったなー……」

ピアスつきの乳首を泡まみれの手で洗っても、以前のように滲みることはなくなった。二週間の約束だからセンパイはまだ弄ってくれないだろうけど。

「楽しみだな……ピアス弄り」

何の気なしに乳首ピアスをつまみ、軽く引っ張る。

「んっ……!」

想像以上に敏感だ。担任に玩具をつけられたのを除けば、最後に弄られたのは一週間以上前だろうに。

「ん、ぅ、うっ……」

あぁ、そういえばセンパイに教えられたな。センパイの手癖、あの大きな指がどう俺の乳首を弄ぶのか。

「は、ぁあっ……センパイ、國行センパイぃっ……」

泡でぬるぬると滑る指で乳首をつまむと、硬くなった乳首の中にあるより硬いピアスの感触がよく分かる。芯の中に芯がある、そんな感覚だ。

「くにゆきせんぱいっ、もっと強く……ひぃっ、ん、んんっ……!」

目を閉じてセンパイが居るのを想像し、乳輪まで巻き込んで乳首をクリクリと指の間で転がす。ピアスを引っ張ったりもして虐めていくが、耐え切れずに右手を陰茎に下ろした。

「ぁ、ああっ、ひ、んんんっ……!」

乳首だけでイってみたかったけれど、堪え性のない俺には自分一人じゃ難しい。今度センパイに頼むとして、今日はこれで我慢しよう。

「ふーっ……ぁ、これこのまま流したら詰まるな……」

射精直後の冷静な頭は排水溝に流れていく精液の処理を提案したが、絶頂直後の気だるい身体はそれを拒否した。



風呂を出ると腹が鳴った。担任に夕飯を奢ってくれと頼めばよかったなんて思いながらダイニングへ行くと、 母が不機嫌そうに待っていた。

「た、ただいま」

「ただいま? 四日……三日? 何日も連絡なしでどっか行っといてよく言うわ」

誘拐されたりセンパイの家に連れ込まれたり色々あったんだ、なんて言っても言い訳にすらならない。

「ごめん、友達んち泊まってて……」

「別に私はノゾムが死のうが何しようがどうでもいいんだけどね? 世間様はそうでもないの、母親の監督責任を問うの。だから、死ぬなら、十割ノゾムが悪いような死に方してね」

母の居るダイニングでカップ麺を食べたくない。部屋に持って帰れるものはないだろうか、戸棚を漁ってみるか。

「っていうか急に金髪にしだした時点ですっごい迷惑被ってるんだけどね、こっちは。人の迷惑考えないなんて本っ当にガキ、高校生になったなら少しは私の立場も考えてよ」

スナック菓子しか見つからなかった。まぁ、腹に溜まるしこれでいいだろう。

「聞いてんの!?」

スナック菓子の袋を持って部屋に戻ろうとすると立ち上がった母に髪を掴まれた。

「痛い……離せよ」

「汚ったない金髪に染めて……その髪のせいで私が何言われてるか知ってんの!?」

「知らねぇよ! 息子の髪色一つで嫌味言われるような人間関係築いてるような奴のことなんか!」

「んっのクソガキ! 誰に向かって口きいてんの!?」

髪を掴まれたまま揺さぶられ、扉に頭を打ち付ける。少しは気が晴れたのか髪を離されたので、慌てて部屋に帰った。


数週間前まで自室は一番落ち着く空間のはずだった。けれど今は違う、自室に居るだけで胸が締め付けられる。

「レン……」

何故自室が一番落ち着く空間だった? いつもレンが安心させてくれたから。
じゃあ今どうして胸が痛いの? いつもレンが居た空間だから。

「毎週金曜は、どっちかの家に泊まる決まり……あの日からなくなっちゃったな」

レンは俺の精神安定剤、レンは俺の安心毛布、傍に居ないと不安で泣きたくなってくる。なのに恋心なんて抱いてしまったせいで傍に居ても心が休まらない。
抱き締めて欲しい、指を吸わせて欲しい、大丈夫って言って欲しい、甘やかして欲しい、愛して欲しい──母にもらえなかった全て、レンが満たしてくれていたのに。

「電話……?」

持ってきたスナック菓子を惰性で食べて、窓際に座って空を眺めているとスマホが鳴った。センパイからの電話だ。

「もしもし、センパイ? どうしたんですか?」

もしもしとの返事もなく、深いため息が聞こえた。

『……どうしたんですか、だと? 何度かけたと思ってる』

「センパイ……? 怒ってます?」

『……お前には怒っていない』

呼吸音が大きく聞こえるのは──これは、煙草を吸っているのかな? さっきのもため息じゃなかったのかもしれない。

『………………それで、月乃宮。今どこだ?』

「今ですか? 部屋で天体観測中です……この辺じゃ第三角も見えませんね、七夕は雨が降らないといいんですけど」

雨が降ったら彦星と織姫は出会えないんだっけ、なんか毎年降ってる気もするけれど……今年は晴れを祈ろう。綺麗な天の川をレンと眺めたい。

『…………あの後、根野に何をされた』

「フツーにセックスしただけですよ。すいませんね、ゆっるいオナホで」

『……お前は悪くない。やっぱり殴っておくべきだった』

「やめてくださいよ、大学行けなくなりますよ」

沈黙が長い。無言の時間を苦痛に思わないセンパイの精神が理解出来ない。相手を不快にしたのか不安になる、怒らせたのかと謝り方を考えてしまう、胸も胃もどんどん痛くなる、この感覚は俺だけだろうか。

『………………兄ちゃんに土下座でもして頼めば、人一人くらい消せるかもしれない』

「は……? な、何言ってるんですか?」

『……兄ちゃんなら、根野を消せるかもしれない』

「怖いこと言わないでくださいよ、根野センは別にそこまで酷いことしてませんって」

担任はただ、ハメ撮りで脅したり、誘拐したり、監禁したり、首を絞めたりするだけ──いや、酷いな。でも殺されるほどではないと思う。

「っていうか……お兄さん、マジでそんなヤバい人なんですか?」

『……確証はない、直接聞いたわけじゃないんだ。もし俺の勘違いでも、兄ちゃんに頼らなくても根野は消せる。お前が望むなら俺は一人くらい殺しても構わない』

「何言ってるんですか……やめてくださいよ、センパイは優しすぎますって。オナホごときにそんなに思い入れて……今はテンション上がってるだけです、明日になれば馬鹿らしいこと言ったなーってなりますよ」

俺は本気で担任をどうにかしようとは思っていない。監禁されても一日で逃げ出せたせいか「どうにかなるだろ」という諦めのような楽観がある。

「それより聞いて欲しいことがあるんですよ、センパイ」

『……なんだ?』

「さっき髪染め直しました。ビデオ通話にします?」

『…………いや、直接見たい』

センパイの声色が微かに明るくなった。俺の髪を楽しみにしてくれているのだ。

「分かりました。それと……その、一人でする時にちょっとピアス弄ってみたんですけど、もうちゃんとピアスホール完成したと思うんで……まだ十日も経ってませんけど、明日弄って欲しいなー……と」

『…………本当に大丈夫なのか?』

「大丈夫ですって、引っ張っても何しても痛くありませんし、見た感じもちゃんと穴っぽいんで。センパイにして欲しくて……さっき、お風呂で……前に教えてもらったセンパイの手癖真似して、乳首弄っちゃいました」

『……そうか』

常時ローテンションの能面男、そんなふうに揶揄されることもあるセンパイ。けれどよく見れば表情は変わっているし、声色からも機嫌を読み取れる。きっと俺にしか出来ないことだ、これは俺の特技だ、俺だけがセンパイを理解出来ているんだ。

「センパイ、ピアス弄りしたくなってきません?」

『…………そうだな』

声に吐息が混じっている。興奮して体温でも上がったかな。

「ねぇ、センパイ……明日学校サボりませんか? 根野に会いたくないし、明日サボれば三連休ですし」

『……あぁ、いいな、いいアイディアだ』

「ですよね! じゃあ明日は朝から……!」

『…………白玉、食べに行くか?』

一日中ピアスを弄られる倒錯した時間を夢見ていた性欲は、セックス以外の時間を過ごしたがる気色の悪い乙女心へと取って代わる。

「え……? ぁ、い、いいんですか? 行きたいです……!」

俺はレンが好きだから、ミチや担任の想いに応えてやれない。自分の恋が叶っていないからこそ他人の恋を踏みにじる行為が痛い。彼らと居るとメンタルが削れていく音が聞こえる。

『……明日、迎えに行く』

「はい……! 待ってます!」

俺はよくミチを傷付けてしまう。けれど、センパイは俺を好きじゃないから傷付けてしまう心配がない。だからセンパイとの時間は癒しだ。

『…………じゃあな』

「はいっ、さようなら!」

通話が切れて、スマホを下ろして暗い画面を覗くと気持ち悪い笑顔を浮かべる自分が居た。

「何着てこっかなー……」

今日は寝る間も惜しんで明日のためのコーディネートをしなければ。
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