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幼馴染とゲーム体験会に行ってみた
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お冷を飲み干してトイレに立ち、便座に座って深く息を吐く。足首まで下ろしたズボンと下着、反った陰茎が滑稽に思えた。
「はぁっ……ぁあ、もうっ、レンのバカ……」
ワンピースの裾をめくった際の挑発的な微笑み、むっちりとした太腿の見た目、すべすべの肌触り、もちっとした触り心地、そして何より──彼がいたずらに漏らした喘ぎ声。偽物だと分かっているのに脳内再生をする度に陰茎がずくんと痛む。
「ふっ……ふ、ぅっ……! はぁ……」
裏筋や亀頭を重点的に責め、早い射精を促した。精液はトイレットペーパーで受け止めて流し、手を洗うついでに頬を濡らして顔の赤みを下げようと努力した。
「はー……レン、ただいま」
「おかえりなさいノゾムさん、そろそろ行きましょうか」
「あ、うん……」
いつもより高い声、揺れるツーサイドアップの茶髪、おふざけのない敬語、それらは俺に彼をレンとは別人のように思わせる。腕を組まれて見上げられると彼女が出来たような錯覚に陥った。
「…………気持ちよかった、ですか?」
「へっ?」
素っ頓狂な声を漏らしてレンを見下げると、艶やかな唇が「お、な、にぃ」と卑猥な言葉の形を作った。
「な、なんで、したって分かるんだよ」
「したんですか? 冗談で言ってみただけなのに……ふふっ、ノゾムさんのえっち。ノゾムさん、オカズは何でしたか?」
「……っ、レンの太腿とさっきの喘ぎ声だよっ」
「正直な人、好きですよ」
「えっ……ぁ、ありがとう……」
レンが俺を好きでいてくれているのは知っているのに、俺は何を今更喜んでいるんだ? 彼はレンで、彼女じゃないのに。
「……あっ、あの、俺が払う」
「何言ってるんですか、ノゾムさんお水しか飲んでなかったじゃないですか」
「でも……」
男だし、と格好つけようとしてレジに表示された金額を見て躊躇う。
「ノゾムさんが来る前、ケーキセットも頼みましたから」
レンは微笑みながらカードで支払いを済ませ、ぺったんこの胸を俺の腕に押し当てた。
平日昼間の電車は空いている、席に座ったまま目的の駅まで辿り着けた。
「そういえばノゾムさん、貞操帯の履き心地はどうでした?」
今朝起きると貞操帯のベルトが外れるようになっていて、今は普通のパンツを履いている。あのレザーの締め付けを思い出すと何故か内股になってしまう。
「キツかった……勃つと痛いし」
「ふふっ、また今度履いてくださいね。ノゾムさんは私のものなんですから」
「うん……レンがそうして欲しいなら」
ぎゅっと腕を抱き締められると自然と姿勢がよくなる。道行く人の羨望の眼差しも感じて、レンの可愛さは誰にでも通用するのだと改めて理解した。
「あ、あのさ……レン、仕事……どうだった?」
「……幽霊ビル、知ってますよね。地鎮祭が行われていなくて……あの土地の古い霊、もはや妖怪とも呼べるそれが悪さをしていたんです。それなりに強かったんですけど、首塚の霊の代わりにはなりそうにありません。師匠達はもうしばらくこの街に滞在すると思います」
「そっか……レンもその分仕事に行くんだよな」
「…………せっかくのデートの日に仕事の話、嫌です」
「あ、ご、ごめんっ……」
しゅんと拗ねた表情も女の子そのもので、十何年も一緒に居る幼馴染なのに「女の子への対応が分からない」なんて焦ってしまう。
「……ねぇノゾムさん、正直に言ってください」
「え? 何を?」
「私がお仕事に行ってるって話……ちょっとえっちなこと考えてましたよね?」
「は!?」
デリヘルとか……ってことか? そんなこと考えていない、本当に考えていないんだ、なのにどうしてそんな難癖を付けられなきゃいけないんだ、考えてしまうじゃないか。
「ノゾムさん、私のお仕事……どんなものだと考えましたか?」
除霊をするレンの格好いい姿を想像していたのに、汚い大人達に奉仕をする艶やかな姿を想像してしまう。
「……おっさん、のを、しゃぶらされてるの、とか」
「やだ、ノゾムさん。私のお仕事そういうのじゃないのに」
俺だってレンが変なことを言い出すまで考えていなかった。今回ばかりはレンが悪い。
「ノゾムさん、そういうのしてる私を想像すると興奮しますか?」
リップで飾られた艶やかな唇。ぷるんとしたそれを汚したがった中年の男が、カスまみれの臭い陰茎をレンの綺麗な顔に押し付けて、レンは嫌悪感に眉と目を歪ませながらも頑張ってしゃぶって──なんで詳細に妄想しているんだ俺は、そんなことして欲しくないのに。
「し、しないよ……そんなの、嫌だ。レンは、レンはっ……俺のものだ」
「ノゾムさん……! ふふっ、すっごくきゅんとしちゃいました。嬉しい……」
きっとレンの想定を遥かに超えた醜悪な妄想をしたんだ、ときめいてもらえる資格なんて俺にはない。
「あ、ここですよノゾムさん」
ゲーム体験会が開かれるビルに到着した。入口からこの会社の代表作のポスターなどが貼ってあり、予約を確認するレンの隣で俺は静かにはしゃいでいた。
「三階ですって。行きましょう」
「う、うん……ぅわこのエレベーターラッピングしてあるすごぉい……あぁ生きててよかった、最高……!」
「……ノゾムさん本当にこの会社のゲーム好きですよね」
呆れ気味のレンと共にエレベーターに乗り込み、三階へ。壁に貼られた案内に従って体験会が開かれる部屋へ。何の変哲もない会議室には数人の男性が見えた、どいつもこいつも童貞臭い成人だ。俺達は浮いているのかもしれない。
「あぁサメ太郎の実寸大フィギュア飾ってある欲しい撮りたい撮っていいかなレンっ!」
「撮影可って書いてますよ」
つぶらな瞳のサメのフィギュアを様々な角度から撮影し、レンにツーショットも撮ってもらう。他の展示品も撮影していると、童貞共の僻みの声が聞こえてきた。
「今なんつったそこのクソ童貞!」
俺をこき下ろす内容にはむしろ優越感を覚えた。しかし、俺の不良っぽい見た目のせいでレンまで軽く扱われるのは気に入らなかった。
「ノゾムさんっ? どうしたんですか急に」
見た目通りの行動をしてしまいそうになると、レンが俺の腕を掴んで止めた。華奢な女の子のような姿だが実際は男だ、それなりの力はある。
「そいつが今レンのことをヤンキーに媚びるクソビッチって!」
「い、ぃ、言ってません、言ってません」
「言っただろうが童貞が僻みやがって!」
「童貞童貞ってノゾムさんも童貞じゃないですか、童貞同士の争いは不毛ですよ、やめてください」
喚く俺と焦る男、その騒ぎはレンの落ち着いた言葉でシンと静まった。
「どどっ、童貞じゃないし!? なんてこと言うんだよレン!」
「童貞じゃないですか」
「ぅ、あ、うっ……オナホ使ったことあるし!?」
「童貞じゃないですか」
「やめてくれよ俺はレンのために怒ったのになんで俺が精神攻撃受けてるんだよぉ!」
普段なら男同士のじゃれ合いとして軽く流せる童貞ネタも、女の子の姿をしたレンに高い声で言われると胸に突き刺さる。
「ごめんなさいお兄さん、ノゾムさんがうるさくて……」
「い、い、ぃ、いえ…………女の子に話しかけられちゃった、お兄さんだってさオイ……! これはもう童貞卒業したと見ていいよな……!」
俺が絡んだ男は仲間内で何やら騒いでいるが、もう喚く体力はない。レンに促されて席に座って待つ、そろそろイベント開始の時間だ──扉が開いた。
「四年くらい前に出たあのサメ育成恋愛シュミレーター、サメ子を育てて! 俺アレのサメ子メイドエンドがマジで好きなんですよ。健気なサメ子がマジ可愛くて!」
「あのゲームの企画僕なんですよ、ありがとうございます! あのエンドって結構な周回数いるでしょ、いややり込んでもらえて嬉しいなぁー」
「キャラとしては二年前に出たサメ美の方が好きなんですけどね、ストーリーはサメ子かなやっぱり」
ゲームハードを持った会社員らしき男性が、イベント参加者と共にやってきた。
「え、形州……いや、秘書さん……? マジかよ」
イベント担当の社員と意気投合している参加者の男性には見覚えがある。褐色肌だとか、三白眼だとか、黒い着物だとか──
「……今回はリズムゲームでしたっけ、期待してますよ。じゃ、お願いしまーす」
──彼は俺とレンを一瞥し、何事もなかったかのように社員に視線を戻して軽く頭を下げ、席に着いた。
「…………レン、他人のフリしてよう」
「そう……です、ね。向こうもその気みたいですし」
素を出していたレンはすぐにハスミンらしさを取り戻し、社員の説明を真面目に聞き始めた。
「はぁっ……ぁあ、もうっ、レンのバカ……」
ワンピースの裾をめくった際の挑発的な微笑み、むっちりとした太腿の見た目、すべすべの肌触り、もちっとした触り心地、そして何より──彼がいたずらに漏らした喘ぎ声。偽物だと分かっているのに脳内再生をする度に陰茎がずくんと痛む。
「ふっ……ふ、ぅっ……! はぁ……」
裏筋や亀頭を重点的に責め、早い射精を促した。精液はトイレットペーパーで受け止めて流し、手を洗うついでに頬を濡らして顔の赤みを下げようと努力した。
「はー……レン、ただいま」
「おかえりなさいノゾムさん、そろそろ行きましょうか」
「あ、うん……」
いつもより高い声、揺れるツーサイドアップの茶髪、おふざけのない敬語、それらは俺に彼をレンとは別人のように思わせる。腕を組まれて見上げられると彼女が出来たような錯覚に陥った。
「…………気持ちよかった、ですか?」
「へっ?」
素っ頓狂な声を漏らしてレンを見下げると、艶やかな唇が「お、な、にぃ」と卑猥な言葉の形を作った。
「な、なんで、したって分かるんだよ」
「したんですか? 冗談で言ってみただけなのに……ふふっ、ノゾムさんのえっち。ノゾムさん、オカズは何でしたか?」
「……っ、レンの太腿とさっきの喘ぎ声だよっ」
「正直な人、好きですよ」
「えっ……ぁ、ありがとう……」
レンが俺を好きでいてくれているのは知っているのに、俺は何を今更喜んでいるんだ? 彼はレンで、彼女じゃないのに。
「……あっ、あの、俺が払う」
「何言ってるんですか、ノゾムさんお水しか飲んでなかったじゃないですか」
「でも……」
男だし、と格好つけようとしてレジに表示された金額を見て躊躇う。
「ノゾムさんが来る前、ケーキセットも頼みましたから」
レンは微笑みながらカードで支払いを済ませ、ぺったんこの胸を俺の腕に押し当てた。
平日昼間の電車は空いている、席に座ったまま目的の駅まで辿り着けた。
「そういえばノゾムさん、貞操帯の履き心地はどうでした?」
今朝起きると貞操帯のベルトが外れるようになっていて、今は普通のパンツを履いている。あのレザーの締め付けを思い出すと何故か内股になってしまう。
「キツかった……勃つと痛いし」
「ふふっ、また今度履いてくださいね。ノゾムさんは私のものなんですから」
「うん……レンがそうして欲しいなら」
ぎゅっと腕を抱き締められると自然と姿勢がよくなる。道行く人の羨望の眼差しも感じて、レンの可愛さは誰にでも通用するのだと改めて理解した。
「あ、あのさ……レン、仕事……どうだった?」
「……幽霊ビル、知ってますよね。地鎮祭が行われていなくて……あの土地の古い霊、もはや妖怪とも呼べるそれが悪さをしていたんです。それなりに強かったんですけど、首塚の霊の代わりにはなりそうにありません。師匠達はもうしばらくこの街に滞在すると思います」
「そっか……レンもその分仕事に行くんだよな」
「…………せっかくのデートの日に仕事の話、嫌です」
「あ、ご、ごめんっ……」
しゅんと拗ねた表情も女の子そのもので、十何年も一緒に居る幼馴染なのに「女の子への対応が分からない」なんて焦ってしまう。
「……ねぇノゾムさん、正直に言ってください」
「え? 何を?」
「私がお仕事に行ってるって話……ちょっとえっちなこと考えてましたよね?」
「は!?」
デリヘルとか……ってことか? そんなこと考えていない、本当に考えていないんだ、なのにどうしてそんな難癖を付けられなきゃいけないんだ、考えてしまうじゃないか。
「ノゾムさん、私のお仕事……どんなものだと考えましたか?」
除霊をするレンの格好いい姿を想像していたのに、汚い大人達に奉仕をする艶やかな姿を想像してしまう。
「……おっさん、のを、しゃぶらされてるの、とか」
「やだ、ノゾムさん。私のお仕事そういうのじゃないのに」
俺だってレンが変なことを言い出すまで考えていなかった。今回ばかりはレンが悪い。
「ノゾムさん、そういうのしてる私を想像すると興奮しますか?」
リップで飾られた艶やかな唇。ぷるんとしたそれを汚したがった中年の男が、カスまみれの臭い陰茎をレンの綺麗な顔に押し付けて、レンは嫌悪感に眉と目を歪ませながらも頑張ってしゃぶって──なんで詳細に妄想しているんだ俺は、そんなことして欲しくないのに。
「し、しないよ……そんなの、嫌だ。レンは、レンはっ……俺のものだ」
「ノゾムさん……! ふふっ、すっごくきゅんとしちゃいました。嬉しい……」
きっとレンの想定を遥かに超えた醜悪な妄想をしたんだ、ときめいてもらえる資格なんて俺にはない。
「あ、ここですよノゾムさん」
ゲーム体験会が開かれるビルに到着した。入口からこの会社の代表作のポスターなどが貼ってあり、予約を確認するレンの隣で俺は静かにはしゃいでいた。
「三階ですって。行きましょう」
「う、うん……ぅわこのエレベーターラッピングしてあるすごぉい……あぁ生きててよかった、最高……!」
「……ノゾムさん本当にこの会社のゲーム好きですよね」
呆れ気味のレンと共にエレベーターに乗り込み、三階へ。壁に貼られた案内に従って体験会が開かれる部屋へ。何の変哲もない会議室には数人の男性が見えた、どいつもこいつも童貞臭い成人だ。俺達は浮いているのかもしれない。
「あぁサメ太郎の実寸大フィギュア飾ってある欲しい撮りたい撮っていいかなレンっ!」
「撮影可って書いてますよ」
つぶらな瞳のサメのフィギュアを様々な角度から撮影し、レンにツーショットも撮ってもらう。他の展示品も撮影していると、童貞共の僻みの声が聞こえてきた。
「今なんつったそこのクソ童貞!」
俺をこき下ろす内容にはむしろ優越感を覚えた。しかし、俺の不良っぽい見た目のせいでレンまで軽く扱われるのは気に入らなかった。
「ノゾムさんっ? どうしたんですか急に」
見た目通りの行動をしてしまいそうになると、レンが俺の腕を掴んで止めた。華奢な女の子のような姿だが実際は男だ、それなりの力はある。
「そいつが今レンのことをヤンキーに媚びるクソビッチって!」
「い、ぃ、言ってません、言ってません」
「言っただろうが童貞が僻みやがって!」
「童貞童貞ってノゾムさんも童貞じゃないですか、童貞同士の争いは不毛ですよ、やめてください」
喚く俺と焦る男、その騒ぎはレンの落ち着いた言葉でシンと静まった。
「どどっ、童貞じゃないし!? なんてこと言うんだよレン!」
「童貞じゃないですか」
「ぅ、あ、うっ……オナホ使ったことあるし!?」
「童貞じゃないですか」
「やめてくれよ俺はレンのために怒ったのになんで俺が精神攻撃受けてるんだよぉ!」
普段なら男同士のじゃれ合いとして軽く流せる童貞ネタも、女の子の姿をしたレンに高い声で言われると胸に突き刺さる。
「ごめんなさいお兄さん、ノゾムさんがうるさくて……」
「い、い、ぃ、いえ…………女の子に話しかけられちゃった、お兄さんだってさオイ……! これはもう童貞卒業したと見ていいよな……!」
俺が絡んだ男は仲間内で何やら騒いでいるが、もう喚く体力はない。レンに促されて席に座って待つ、そろそろイベント開始の時間だ──扉が開いた。
「四年くらい前に出たあのサメ育成恋愛シュミレーター、サメ子を育てて! 俺アレのサメ子メイドエンドがマジで好きなんですよ。健気なサメ子がマジ可愛くて!」
「あのゲームの企画僕なんですよ、ありがとうございます! あのエンドって結構な周回数いるでしょ、いややり込んでもらえて嬉しいなぁー」
「キャラとしては二年前に出たサメ美の方が好きなんですけどね、ストーリーはサメ子かなやっぱり」
ゲームハードを持った会社員らしき男性が、イベント参加者と共にやってきた。
「え、形州……いや、秘書さん……? マジかよ」
イベント担当の社員と意気投合している参加者の男性には見覚えがある。褐色肌だとか、三白眼だとか、黒い着物だとか──
「……今回はリズムゲームでしたっけ、期待してますよ。じゃ、お願いしまーす」
──彼は俺とレンを一瞥し、何事もなかったかのように社員に視線を戻して軽く頭を下げ、席に着いた。
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