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君は今日から大切な彼氏
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セイカへの告白が成功した。初恋が叶わないなんて言ったヤツは誰だ? 出てこい、セイカをお姫様抱っこしながら煽り散らしてやるぞ。
「幸せだ……セイカと付き合えるなんて。夢みたいだよ」
「……趣味悪ぃなぁ」
「ふふ、一旦離すぞ」
「ん」
抱擁を終え、恐る恐るセイカの顎に手を添えてみる。
「……あの、キスとか……いいかな」
「したいのか? 好きにしろよ」
「えっ、ぁ、で、でもさ、セイカってその、ノンケ、ヘテロ……異性愛者、ぁー、女の子が好きだよな? だから……急に男とキスとか、キツくないかな。もう俺しか居ないって自暴自棄になって受け入れてくれてるとかなら……その、悲しいから、正直に言って欲しい。キス断ったくらいで俺の愛は変わらないからさ、ワガママにやってくれ」
濁った瞳が微かに下を向く。
「…………いい学校に入って、いい会社に就職して、いい女と結婚して、いい子供作る。それが俺の価値だった、それが出来なくなった今の俺に女が好きとかない」
「えっと……それは人生の理想図みたいな話で、好きとかとは別の話じゃないのか?」
「そうなのか……? よく分かんないな、それ以外で女が好きな理由って何かあるのか?」
「……好きに理由はないよ。可愛いからとか、そういう感覚でしかない」
「感覚…………感覚はだいぶ前から死んでる気がする」
「俺が遅れて泣いたり、俺が話したら笑ってくれたりするんだから生きてるよ」
泣いたことは恥ずかしく思っているらしく、セイカは愛らしいジト目を更にジトっとさせて俺を睨んだ。俺を虐めていた時の目付きとはまた違っている、今は敵意がない。
「……それもそうか。生きてるか……でも、なんだろ、お前以外にそんなこと思ったことないな。昔から全部何ともなかった。飼ってたハムスターが死んだ時も、遠足や修学旅行に行った時も、学校で戦争モノの映画見せられた時も……俺の、何? 心? ってのは……動かなかった。でも、お前と話すのは楽しいって感じた、勝手に裏切られた気になって怒って……イジメもまぁまぁ楽しくて…………うん、お前だけだから俺の感覚は瀕死だな」
「な、なんかそれ嬉しいなぁ」
「お前の好きなヤツが瀕死なんだぞ」
「ふふふ……俺性格悪いから」
セイカと話していると独占欲が満たされる。彼は今どこにも行けないし、友人や恋人も居なければ家族も見舞いに来ていないらしい。心も俺だけのものだなんて……最高だ。俺をこの部屋で一人寂しく待ち続けるだけなのは可哀想に思うが、同時に仄暗い悦びが湧き上がる。
「で、キスは?」
「していいのか? 本当に? 俺しか居ないからとかじゃなくて」
「……ないから、しろよ」
震える手でセイカの顎を支え、緊張している俺を笑うセイカの唇に唇を重ねる。
「…………感想は?」
「……最高。もう、語彙力死んだ。セイカは?」
食事などのためなのか全身を覆う包帯は口と目だけは避けている。唇も切れたようで赤黒い血の線が引かれているが、触れても痛みはないようだ。
「別に……口ふにってしたなーって、だけ。まぁでも、ガッチガチになってたとことか、まつ毛ぷるぷるさせながら目ぇ閉じてたのとか、タコみたいな口して美形台無しにしてたのとか、今照れてるとことか、俺とキスしただけでめちゃくちゃ喜んでるのとか……なんか、イイ。可愛いって言うのかな」
声にならない声を上げて喜びに悶える俺をセイカは楽しげに眺めている。機嫌がいい今テディベアを見せるべきだろう。
「あ、そうだ……あのさ、セイカ昨日俺が帰る時めちゃくちゃ泣いてただろ?」
「忘れてくれ」
「寂しいのかなーと思ってさ、じゃん! クマのぬいぐるみ!」
俺は買ってきたテディベアをセイカに見せた。寝た状態でベッドに拘束されている彼の視界は狭いだろうから、テディベアは見えていなかったのだろう。少し驚いたようだった。
「俺が居ない間、俺だと思って可愛がってやってくれ」
「……別に寂しい訳じゃ、ない……と思うんだけど、違うのかな……よく分かんない。まぁ、一応もらっとく。乗せといてくれ」
「ここでいいか?」
セイカの太腿の隣にテディベアを置く。セイカは左腕を動かそうとして拘束具に阻まれ、右腕を動かして空を掻いた。
「…………俺の上に」
「こ、ここ?」
「寝かせて」
「こうか……?」
仰向けのセイカの上にテディベアをうつ伏せで寝かせる。覆い被さる形だ、羨ましい。って何ぬいぐるみに嫉妬してるんだ俺は。
「……ん」
セイカの右腕は拘束を受けていない、何も掴めず柵に打ち付ける長さもないからだろう。そんな腕でテディベアを抱き締めるセイカはとても可愛い。
「ふわふわしてるな……」
「どうだ? 俺代わりになりそうか?」
「……喋んないからなぁ」
「はは……まぁ、ぬいぐるみだからな。でも聞き上手だぞ、話しかけてやってくれよ」
病室の扉が開く。
「面会時間終わりですよ」
「あ、はい。すぐ出ます」
「……っ、鳴雷……」
セイカは泣きそうな声で俺を呼んだが、昨日のように泣き叫ぶことはなくテディベアを強く抱き締めた。
「鳴雷……明日も来てくれるか?」
「うん、出来るだけ早く来るよ」
「…………待ってる」
キスをしたことで俺がセイカを嫌いになって来なくなるというのがただの杞憂だと分かったのか、テディベアが役に立っているのか、今日は昨日より精神状態が安定しているだけなのか、今日のセイカは静かだ。
「ばいばい、また明日」
看護師に促されて扉に向かう。
「ぁ……鳴雷っ、車とか、えっと……ほ、他にも色々っ、気を付けろ。周りにあるもん全部がお前を殺しにかかると思えよっ!? 分かったか、全部敵だぞ!」
「あぁ、気を付けるよ。おやすみ、セイカ」
「…………おやすみ」
病室を出て扉を閉める。セイカの声は聞こえない。今日は泣かれずに済んだと胸を撫で下ろした。
「あのぬいぐるみはあなたが?」
「あ、はい。いけませんでしたか?」
「いえ、お優しいんですね。彼が飛び降りた日に知り合った訳じゃないんですか?」
「……同じ中学だったんです。卒業してからは一度も会ったことがない、何をしてるのかも知らない程度の関係だったんですけど…………片想いしてたんです。だから支えてあげたくて……弱みにつけ込むみたいで気が引けますけどね」
「…………あなたのように素敵な人に好かれているのなら、もう心配はなさそうですね」
「だったら嬉しいですね」
油断は出来ない。今後も気を張っていかなければ。
「幸せだ……セイカと付き合えるなんて。夢みたいだよ」
「……趣味悪ぃなぁ」
「ふふ、一旦離すぞ」
「ん」
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「……あの、キスとか……いいかな」
「したいのか? 好きにしろよ」
「えっ、ぁ、で、でもさ、セイカってその、ノンケ、ヘテロ……異性愛者、ぁー、女の子が好きだよな? だから……急に男とキスとか、キツくないかな。もう俺しか居ないって自暴自棄になって受け入れてくれてるとかなら……その、悲しいから、正直に言って欲しい。キス断ったくらいで俺の愛は変わらないからさ、ワガママにやってくれ」
濁った瞳が微かに下を向く。
「…………いい学校に入って、いい会社に就職して、いい女と結婚して、いい子供作る。それが俺の価値だった、それが出来なくなった今の俺に女が好きとかない」
「えっと……それは人生の理想図みたいな話で、好きとかとは別の話じゃないのか?」
「そうなのか……? よく分かんないな、それ以外で女が好きな理由って何かあるのか?」
「……好きに理由はないよ。可愛いからとか、そういう感覚でしかない」
「感覚…………感覚はだいぶ前から死んでる気がする」
「俺が遅れて泣いたり、俺が話したら笑ってくれたりするんだから生きてるよ」
泣いたことは恥ずかしく思っているらしく、セイカは愛らしいジト目を更にジトっとさせて俺を睨んだ。俺を虐めていた時の目付きとはまた違っている、今は敵意がない。
「……それもそうか。生きてるか……でも、なんだろ、お前以外にそんなこと思ったことないな。昔から全部何ともなかった。飼ってたハムスターが死んだ時も、遠足や修学旅行に行った時も、学校で戦争モノの映画見せられた時も……俺の、何? 心? ってのは……動かなかった。でも、お前と話すのは楽しいって感じた、勝手に裏切られた気になって怒って……イジメもまぁまぁ楽しくて…………うん、お前だけだから俺の感覚は瀕死だな」
「な、なんかそれ嬉しいなぁ」
「お前の好きなヤツが瀕死なんだぞ」
「ふふふ……俺性格悪いから」
セイカと話していると独占欲が満たされる。彼は今どこにも行けないし、友人や恋人も居なければ家族も見舞いに来ていないらしい。心も俺だけのものだなんて……最高だ。俺をこの部屋で一人寂しく待ち続けるだけなのは可哀想に思うが、同時に仄暗い悦びが湧き上がる。
「で、キスは?」
「していいのか? 本当に? 俺しか居ないからとかじゃなくて」
「……ないから、しろよ」
震える手でセイカの顎を支え、緊張している俺を笑うセイカの唇に唇を重ねる。
「…………感想は?」
「……最高。もう、語彙力死んだ。セイカは?」
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「あ、そうだ……あのさ、セイカ昨日俺が帰る時めちゃくちゃ泣いてただろ?」
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俺は買ってきたテディベアをセイカに見せた。寝た状態でベッドに拘束されている彼の視界は狭いだろうから、テディベアは見えていなかったのだろう。少し驚いたようだった。
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「こうか……?」
仰向けのセイカの上にテディベアをうつ伏せで寝かせる。覆い被さる形だ、羨ましい。って何ぬいぐるみに嫉妬してるんだ俺は。
「……ん」
セイカの右腕は拘束を受けていない、何も掴めず柵に打ち付ける長さもないからだろう。そんな腕でテディベアを抱き締めるセイカはとても可愛い。
「ふわふわしてるな……」
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「……喋んないからなぁ」
「はは……まぁ、ぬいぐるみだからな。でも聞き上手だぞ、話しかけてやってくれよ」
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「あ、はい。すぐ出ます」
「……っ、鳴雷……」
セイカは泣きそうな声で俺を呼んだが、昨日のように泣き叫ぶことはなくテディベアを強く抱き締めた。
「鳴雷……明日も来てくれるか?」
「うん、出来るだけ早く来るよ」
「…………待ってる」
キスをしたことで俺がセイカを嫌いになって来なくなるというのがただの杞憂だと分かったのか、テディベアが役に立っているのか、今日は昨日より精神状態が安定しているだけなのか、今日のセイカは静かだ。
「ばいばい、また明日」
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「あぁ、気を付けるよ。おやすみ、セイカ」
「…………おやすみ」
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