ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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お盆

おかえりなさい、きゅう

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祖父への二つの質問を終えて帰ろうとすると、彼は俺を呼び止めた。とっとと帰って欲しそうな顔をしていたくせに。やはり祖父はツンデレなのだと顔が緩んでしまう。

「なんでしょうか、おじい様」

「せっかくの盆だ。お前に里帰りの許可を出そうと思ってな」

「……え?」

「お前を若神子が買ってどれくらい経った? 二年? いや、一年と少しか? 今まで帰してやれなくて悪かったな」

「い、いえ……」

里帰り? 里? 俺に里なんてない、血の繋がった家族はもう居ない、死んだんだ、あの大雨の日に。

「一週間この山を下りていい、監視は外せないがな。下界で好きにしてくるといい。里帰り以外の行動も自由だ、常識の範囲内ならな。メイドカフェ巡りでもしそうだと雪風が言っていた」

「……雪風と相談したんですか? 俺の、里帰り」

「雪兎にも話してある、不満そうだったが、まぁ、そこまでガキじゃない」

雪兎は俺の飼い主なのだから、里帰りも何もここが家だなんて言い出しそうなものだが──あぁ、だから「そこまでガキじゃない」なのか。そうだな、雪兎は子供ぶっているだけで俺よりずっと賢い。

「雪風の盆休みとは被りませんよね?」

「その辺は調整してある。雪兎にも学会やオンライン講義の予定を詰め込んでやった」

「……俺の意思は無視、ってわけですか」

「聞かれたかったか?」

「いえ、勝手に決めていただけてよかったと思います。俺は多分……聞かれたって何も言えませんから」

帰りたい場所なんてない、ここが俺の家だ──事前に聞かれてもそう言えたとは思えない。

「……一週間でしたね、いつからですか?」

「明後日」

「急ですね。了解しました。では、失礼します」

今度こそ祖父の私室を出て雪兎の私室へ戻った。一応報告はしたが、雪兎も俺の里帰りの決定に関わっているのだから報告の必要なんてなかった。

「一週間はただの許可なんだから、すぐに帰ってきてもいいんだよ。僕、おじいちゃんに予定詰め込まれたからあんまり構ってあげられないかもだけど」

「……そうしましょうかね。あぁ、でも……仏壇拝むくらいはしようと思います」

「なんか落ち込んでない? 帰っていいのに嬉しくないの? ポチが喜ぶと思って賛成したのにな」

「…………俺はあなたの犬ですよ。なのに一週間も外に出てみろなんて……捨てられた気分です」

里帰りの不安から漏らした言葉を俺はすぐに後悔した。

「僕、僕そんなつもりじゃ……ポチが、喜ぶと思って……僕っ」

「あっ……ご、ごめんなさいユキ様。ユキ様のご厚意は嬉しいんですよ」

「嬉しがってないじゃん! 気ぃ遣わなくていいよ!」

「…………親戚の家ほど嫌いなものはありません。でも、ユキ様が俺のことを考えてくださったことは嬉しいんです。気を遣った訳じゃありませんよ」

嫌な思いをしたこと、けれど雪兎の気持ちを知って嬉しく思ったこと、俺の感情の起伏をすぐに理解してくれた雪兎は泣きそうな顔を弱々しい笑顔に変えた。

「でも残念だなぁ……喜ぶと思ってたのに」

「俺の喜びはユキ様の傍に在ることです」

「……お金で無理矢理連れてきたのに」

「全てを失くした俺に、空っぽの俺にあなたを注いだのはユキ様じゃありませんか。俺のあなたへの心酔は狙い通りでしょう?」

「ふふ……うん、そうだよ。何があっても絶対に裏切らない、僕を愛してくれる人が欲しかったんだ」

「お金で買えてよかったですね、普通非売品ですよ」

流石にブラック過ぎたのか、その冗談は嫌いだと額を指で弾かれてしまった。
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