ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

はじめての……じゅうなな

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零能力者である俺から、祖父が一時霊力を感じたのは、俺が霊能力者である雪兎の体液を摂取していたから。潔癖症の祖父にそう説明するのははばかられたし、恥ずかしかった。

「……そうだな。じゃあ何故今、お前には霊力が全くないんだ?」

「代謝で……消費したものと思われます」

「何故、以前までのように霊力を常に宿した状態じゃないのか、って聞いてんだ」

「…………ユキ様と触れ合えていないからです。最近のユキ様は能力の暴発を気にして仮面を着けたまま俺にほとんど触れようとしません」

中出しはもちろんキスももう随分していない。

「雪風とは仲良くしてるんだろ?」

「……体液の種類によって含まれる霊力は違い、唾液に含まれる霊力はそれほど多くない……ので」

逆に霊力を多く含んだ体液は、血や精液だ。つまり、雪風に対しては俺が抱く側……中出しをする側なので、雪兎とのセックスよりずっと与えられる霊力が少ない。キスや前戯のフェラチオくらいでしか体液を飲まないんだから仕方ない、あぁ汗も飲むかも。汗は唾液より宿す霊力が少ないけれども。

「…………俺はユキ様に対しては注がれる側で、雪風に対しては注ぐ側……だから、ユキ様が自身の能力の危険性に怯えてからは、俺が身に宿す霊力が減った……ということになります、よね?」

「……そうだな。多大な配慮を感じる説明をどうも」

皮肉っぽいな。

「霊力がないと怪異とは戦えない。分かるな? ほとんどの怪異は実体を持たないから、霊力を宿した身体や道具でなければ怪異には触れることも出来ないんだ」

「はい……昨日読みました」

「ということはお前に与えるべきは、呪符だ。ちょっと待ってろ」

祖父は式神を作り出した紙を今度は細長く切り、人差し指で紙に何かを書いた。すると紙に模様が浮き出る、文字のような違うような……不思議な模様だ。お札っぽくもある。

「これが呪符ってヤツですか」

「即席だがな」

「……なんか焦げ臭い」

祖父の人差し指に墨がついている訳でもないのに何故紙に模様が書けたのか、その不思議は札を渡されて分かった。この黒いのは墨やインクではなく、焦げだ。するとまた不思議が生まれる、何故指でなぞっただけで焦げたんだ?

「あぁ、インク持ってきてないから霊力で焼き付けたからな。焦げ臭さなんてすぐ風で流れる、我慢しろ」

「……霊力って物焦がせるんですか?」

「その紙は霊力に反応しやすい特殊な物だからな。だから式神や札、呪符が作れる。普通の物を焦がすのは無理だ、そういう霊能力者も居るけどな。ほら、自然発火現象ってあるだろ? アレの数パーセントはそういう霊能力者の仕業、もしくは暴発だ」

「パイロキネシスってヤツですね」

「あぁ……そういう名前が付けられたんだったか? とにかく、その紙はそういう物だ、それなりの霊能力者ならみんな焦がして字を書くくらいは出来る」

やっぱり模様じゃなくて文字なんだな。そういえば以前叔父と仕事をした時にこんな文字を書いていたような覚えがある。

「……ちなみに、これなんて読むんですか?」

「そうか、読めないよな。その文字は若神子の一族が代々使ってるものだ」

ぜひ知りたい。読めるようになりたい。

「今度教え……」

「ちなみに若神子の人間以外が文字の意味とかを理解しようとすると発狂死するぞ」

「……てもらわなくていいです」

「何言ってる。お前は若神子 雪也だろうが。血を使った特殊なインクを使えば霊力がなくても呪符は作れる。今度教えてやるよ」

「籍だけでいいんですか? そういうのって血筋じゃないとって感じしますけど」

「若神子の人間以外が若神子の扱う文字を理解しようだなんて不敬……ってことで祟りが起こる。だから重要なのは苗字だ。お前よりもむしろ雪凪の方が危ないかもな。まぁ、お前既に発狂してるようなもんだから、苗字が若神子になる前から平気そうな感じもしなくはないが」

「……え?」

「ほら、そろそろ訓練に戻れ」

なんかとんでもないこと言われた気がする。悪口なのか? 軽口なのか? それともしっかりとした意味のある不穏な話なのか? 混乱して訓練に集中出来そうにない。
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