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辺境地にて7
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食事の後は、お土産を買う為に買い物を楽しみ、一度昨日泊った宿屋で馬と荷物を回収してアレクの家に向かう。
相変わらずの一方的なおしゃべりをしつつ、この国の騎士なら、内側から二番目の城壁内にアレクの家があるのだろう。そう思っていた。
のだが。
彼は二番目の城壁内をそのまま進み、一番内側の城門を潜ってしまった。
「え?」
私が戸惑うのも無理はないと思って欲しい。
だって、ここに住めるのは、城主一家と、直接彼らの生活に関わる人々のみ。騎士や、領内の有力貴族などもいるが、いずれもこの領内の中核を担う人々だ。
やはり、アレクくらい腕がたつと、騎士の中のエリートということだろうか。
2の城壁内を素通りした時に、そう思った。
けれど、1の城門を抜けた後、人々の態度に胃の裏側が冷たくなったように感じた。
道行く人が、皆アレクに頭を下げていく。
歩いている人は足を止め、作業している人はその手を止め、いかにも貴族が乗っているというような馬車ですら道を開ける。
「えーっと……」
この人は一体何者なのだろう?騎士だと思っていたけれど、違うのだろうか。
それよりも、心配なのは……。
私は彼の馬に括られた大きな魚籠を見た。中身は、当然生の魚だ。
彼の家に招待をされた時、折角だから家の方に魚料理を教えてもらいたい、とお願いしてみたのだ。彼はそれをあっさりと聞き届けてくれた。
けれど……。
これは失敗したかもしれない。
今までの事から、彼がある程度の立場の人なのは、何となく想像ができていた。だけど、どこまでいっても、騎士だと思っていたのだ。もしかしたら、いいお家で、料理を作るのは料理人かもしれない、とは思っていけど、だったら、その人に教えてもらえばいいと。
料理人とはいえ、家族とは近い関係の人を想像していたから。
例えば、領内貴族のように。
どこでもそうなのだが、領内の貴族は正式には貴族と認められないような、名ばかりの家が多い。大体は領主の一族の末席や、昔からその地にいた豪族の末なのだが、やる事は領主のサポートが主で、中には実質農民という家も珍しくない。当然、王や王宮に呼ばれることもない。
そう言う家では、料理人を雇う事もあるが、正式に貴族と呼ばれる家に比べ、もっと互いの距離が近い事も多い。アレクの家もそうなのでは?と勝手に思い込んでいたが、これは……。
因みに我が家は一応、正式な貴族。国から侯爵位を貰っているし、領地もある。ただ父が変わり者で、軍に入っているし、変わり者なだけに、使用人との距離も近い。
そういう感覚もあって、今回は選択を間違えたかもしれない。
悶々と考えながらも、私はアレクと1の城内のさらに中心部へと向かって行く。
ああ……これは、やはり………。
目の前に聳える城。明らかに領主の城だろう。その門に、平然とアレクは近づいていき、周囲を守る衛兵も彼の行動を咎めない。
やって……しまったか……。
これはもう確定だろう。
観念しつつ、心の中で一人反省会を開こうとしたその時。目の前に何かが降ってきた。
そう、降ってきた。花びらや書類、鳥の羽とかという軽いものではない。人、一人分くらいの重さというか質量の……。
え?
驚いて、改めてその降ってきたものを見ると、そこにいたのは、何とも可憐な美少女だった。
背はさほど高くはない。けれど、バランスいい体系。恐らくかなり細いのだ。
緩く巻かれた黒い髪。卵型の小さな輪郭。
大きな目と、長い睫毛に囲まれた、サファイアのようなキラキラした瞳。
すっと通った鼻筋と、絶妙な大きさと形の艶やかな赤い唇
アレクもそうだけれど、この少女も見るものを圧倒するくらいの美形だ。
美形なのは違いないけれど。
一体どこから降って来たのだろう。
見上げるけれど、該当部分がない。木の枝もないし、積み上げられた箱もない。あるとすれば、普通の建物なら三階に当たる部分にあるバルコニーのように、出ている部分だけれど……。
まさかね。
あんなところから落ちたら、無事ではいられないどころか、骨折どころではない騒ぎになるだろう。
でも、他にないし。
若干引き気味で言葉を失っていると、美少女がにっこりと華やかな笑みを見せた。
「初めまして。貴女がラファのおすすめの娘さんね?」
「は?」
ラファとは誰ぞや?そんな名前の知り合いはいないのだけれど。それ以上にこの方は一体だれなのか。
説明を求めて隣を見ると、アレクがうんざりとした顔をしている。そして。
「姉だ」
短いけれど、端的な答え。
慌てて、アレクから美少女に視線を戻すと、彼女は花のような微笑みのままで告げた。
「ローレイン辺境伯、オーギュスト・シューバリエが長女、オーレリア・ステラ・シューバリエよ。ようこそローレインへ」
「い、いかがですか?」
「!エルちゃん、凄く美味しい!」
幾分緊張気味に差し出した白身魚の揚げ物に、アレクのお姉さま「アウルって呼んでね」のオーレリア様が満面の笑みで親指を上げる。
「臭みが全然ないのは、粉と混ぜたビールのせい?」
「それもありますけど、今回は衣にパセリも入れてみたんです」
広い厨房の一画。
お昼が終わり、夜の準備に入る前のひと時。私は厨房の隅を借り、アレクの『お家の方』であるシェフに郷土料理を習っている。
うん。まあ、『お家の方』には間違いないんだろうけれど。
先に挨拶しなければならない領主夫妻がお留守ということで、挨拶の前に厨房へ、という事になったのだ。
そこで、魚の滑りや臭みの消し方、香味野菜やスパイスの使い方、魚の下ろし方など、基本的な事を教わり、いざ実践なところである。
料理自体は好きなので、不安はないが、海産物を扱う事はあまりないので、基礎から教えて貰えるのはありがたい。
この先、海のない王都に帰れば必要ない事なのかもしれないけれど、いつかどこかで使える日がくるかもしれない。
知識は腐らないしね。
そう思って熱心に話を聞き、メモを取り、作った料理に絶賛の声を貰った。
「エルちゃんなら基本さえ押さえれば、何でもできるのね!いつもはレモンかビネガーだけど、こっちの甘酸っぱいソースも美味しいわ」
教わったのは、ジャンルや国を超えて、シェフが美味しいと思ったもの。サーモンとチーズから始まり、牡蠣の香草焼きや、イワシを香草やオレンジ、パン粉を使って焼いたもの。アクアパッツァやブイヤベース。スズキなどの白身魚のグリル。パイ料理。ワインで蒸したもの。勿論、実戦だけでは時間がないので、ほとんどがレシピだけだ。
それでも様々な料理を習った後に、おやつ的に作ったのが、今の揚げ物。
おやつと言うより、軽食なのだが、気に入ってくれたようだ。
「で、エルちゃんの料理上手は証明されたのだけど、これは何かしら?」
にこにこと上機嫌で魚のフライを食べつつ、空いた方の手で彼女が指さしたのは鰻。
あの後、マグロ亭の店主や周囲のテーブルにいたお客さんたちと談笑した時に、醤油の話を聞いたのだ。
実は、我が家では師匠の為に(というか、師匠の作る美味しい料理の為に)醤油を買っているのだが、その醤油は東の国からの輸入品で、このローレインを経由して買っているらしい。
我が家がいつも大量に買っているから、ここローレインでも、一部業界で何に使うのかと話題になっていたとか。
そこで私は醤油があるなら、と、マグロ亭のご主人にお願いして鰻を何匹か買い取った。
因みにその鰻を背開きで開いたのは、アレクだったりする。
最初は買った時に、こんな形にさばいて欲しいとマグロ亭のご主人にお願いしたのだが、やった事がないからできない、と断られてしまった。それを隣で聞いていたアレクが、釘を使ってまな板に縫い留め、自分のナイフを出してあっさりとさばいてくれた。
彼曰く、刃物で『切る』『そぐ』という行為なら誰にも負けない自信がある、とか。……彼の言葉を聞いた時の、凍り付くような店の空気が忘れられない。
ともあれ、調味料もあるし、素材もある。ついでに短いお米も手に入れた。ので、後は作るべし!作るべし!作るべし!
アレクにお米を食べてもらうのは、これが最後になるのかもしれないし。
鰻を蒸して、串を打ち、焼き上げる。柔らかい鰻の串打ちは上手くないけれど、取り敢えずひっくり返せるなら良しとして、後は調味料を使いつつも、とにかく焼き続ける。
たれも若いから、醤油の尖った味が気になるけれど、ご容赦願いたい。
そうして、厨房どころか、城中に醤油の焦げるいい匂いが広がる頃、ご飯も炊きあがった。
鰻と聞いて、一度は頬を引きつらせたアウル様も、完成を今か、今かと待ってくれている。
さあ、後は盛り付けて……となった時、いきなり大きな音で厨房の扉が開いた。
驚いて振り返ると、そこには目にも眩しい美形カップルがいる。
一人は、ガラスでできたかと思うようなキラキラしい人。銀の髪に紫の瞳。見た目は20半ばというくらい。彫刻かってくらい、人間の理想を写したような顔と体型の。
「?アレクのお兄様?お父様?」
髪と瞳の色こそ違うけれど、間違いようがない。だってそっくりだもの。
そして、もう一人はといえば。黒髪青目の極上の美女。こちらは何から何まで、アウル様にそっくりだ。ということは。
私は慌てて姿勢を正し、彼らに向けてカーテシーをする。
「ああ…。ローレイン辺境伯、オーギュスト・シューバリエだ。歓迎する」
「妻のミカエラですわ。どうぞ、お楽になさって」
え?辺境伯夫妻?ちょっと待って!若すぎない?
それはともかく。
「あ……マエル・ベルトランが娘、エルーシア・ベルトランです。勝手にお城に入ってしまった上、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
畏まって挨拶すると、辺境伯夫人が柔らかく微笑んでくれた。
「留守にしていたのは、こちらだもの。気にしないで。それより、みんなが厨房から出てくるまで待っているつもりだったんだけど、美味しそうな香りに負けて来てしまったの。驚かせてごめんなさいね」
にっこりと笑った奥様は、若々しく、美しく、とてもアウルお姉さまや、アレクのような大きな子供がいるとは思えない。
思わず見惚れていると、彼女は尚も笑みを深めて言った。
「で、その美味しそうな物は何なの?」
相変わらずの一方的なおしゃべりをしつつ、この国の騎士なら、内側から二番目の城壁内にアレクの家があるのだろう。そう思っていた。
のだが。
彼は二番目の城壁内をそのまま進み、一番内側の城門を潜ってしまった。
「え?」
私が戸惑うのも無理はないと思って欲しい。
だって、ここに住めるのは、城主一家と、直接彼らの生活に関わる人々のみ。騎士や、領内の有力貴族などもいるが、いずれもこの領内の中核を担う人々だ。
やはり、アレクくらい腕がたつと、騎士の中のエリートということだろうか。
2の城壁内を素通りした時に、そう思った。
けれど、1の城門を抜けた後、人々の態度に胃の裏側が冷たくなったように感じた。
道行く人が、皆アレクに頭を下げていく。
歩いている人は足を止め、作業している人はその手を止め、いかにも貴族が乗っているというような馬車ですら道を開ける。
「えーっと……」
この人は一体何者なのだろう?騎士だと思っていたけれど、違うのだろうか。
それよりも、心配なのは……。
私は彼の馬に括られた大きな魚籠を見た。中身は、当然生の魚だ。
彼の家に招待をされた時、折角だから家の方に魚料理を教えてもらいたい、とお願いしてみたのだ。彼はそれをあっさりと聞き届けてくれた。
けれど……。
これは失敗したかもしれない。
今までの事から、彼がある程度の立場の人なのは、何となく想像ができていた。だけど、どこまでいっても、騎士だと思っていたのだ。もしかしたら、いいお家で、料理を作るのは料理人かもしれない、とは思っていけど、だったら、その人に教えてもらえばいいと。
料理人とはいえ、家族とは近い関係の人を想像していたから。
例えば、領内貴族のように。
どこでもそうなのだが、領内の貴族は正式には貴族と認められないような、名ばかりの家が多い。大体は領主の一族の末席や、昔からその地にいた豪族の末なのだが、やる事は領主のサポートが主で、中には実質農民という家も珍しくない。当然、王や王宮に呼ばれることもない。
そう言う家では、料理人を雇う事もあるが、正式に貴族と呼ばれる家に比べ、もっと互いの距離が近い事も多い。アレクの家もそうなのでは?と勝手に思い込んでいたが、これは……。
因みに我が家は一応、正式な貴族。国から侯爵位を貰っているし、領地もある。ただ父が変わり者で、軍に入っているし、変わり者なだけに、使用人との距離も近い。
そういう感覚もあって、今回は選択を間違えたかもしれない。
悶々と考えながらも、私はアレクと1の城内のさらに中心部へと向かって行く。
ああ……これは、やはり………。
目の前に聳える城。明らかに領主の城だろう。その門に、平然とアレクは近づいていき、周囲を守る衛兵も彼の行動を咎めない。
やって……しまったか……。
これはもう確定だろう。
観念しつつ、心の中で一人反省会を開こうとしたその時。目の前に何かが降ってきた。
そう、降ってきた。花びらや書類、鳥の羽とかという軽いものではない。人、一人分くらいの重さというか質量の……。
え?
驚いて、改めてその降ってきたものを見ると、そこにいたのは、何とも可憐な美少女だった。
背はさほど高くはない。けれど、バランスいい体系。恐らくかなり細いのだ。
緩く巻かれた黒い髪。卵型の小さな輪郭。
大きな目と、長い睫毛に囲まれた、サファイアのようなキラキラした瞳。
すっと通った鼻筋と、絶妙な大きさと形の艶やかな赤い唇
アレクもそうだけれど、この少女も見るものを圧倒するくらいの美形だ。
美形なのは違いないけれど。
一体どこから降って来たのだろう。
見上げるけれど、該当部分がない。木の枝もないし、積み上げられた箱もない。あるとすれば、普通の建物なら三階に当たる部分にあるバルコニーのように、出ている部分だけれど……。
まさかね。
あんなところから落ちたら、無事ではいられないどころか、骨折どころではない騒ぎになるだろう。
でも、他にないし。
若干引き気味で言葉を失っていると、美少女がにっこりと華やかな笑みを見せた。
「初めまして。貴女がラファのおすすめの娘さんね?」
「は?」
ラファとは誰ぞや?そんな名前の知り合いはいないのだけれど。それ以上にこの方は一体だれなのか。
説明を求めて隣を見ると、アレクがうんざりとした顔をしている。そして。
「姉だ」
短いけれど、端的な答え。
慌てて、アレクから美少女に視線を戻すと、彼女は花のような微笑みのままで告げた。
「ローレイン辺境伯、オーギュスト・シューバリエが長女、オーレリア・ステラ・シューバリエよ。ようこそローレインへ」
「い、いかがですか?」
「!エルちゃん、凄く美味しい!」
幾分緊張気味に差し出した白身魚の揚げ物に、アレクのお姉さま「アウルって呼んでね」のオーレリア様が満面の笑みで親指を上げる。
「臭みが全然ないのは、粉と混ぜたビールのせい?」
「それもありますけど、今回は衣にパセリも入れてみたんです」
広い厨房の一画。
お昼が終わり、夜の準備に入る前のひと時。私は厨房の隅を借り、アレクの『お家の方』であるシェフに郷土料理を習っている。
うん。まあ、『お家の方』には間違いないんだろうけれど。
先に挨拶しなければならない領主夫妻がお留守ということで、挨拶の前に厨房へ、という事になったのだ。
そこで、魚の滑りや臭みの消し方、香味野菜やスパイスの使い方、魚の下ろし方など、基本的な事を教わり、いざ実践なところである。
料理自体は好きなので、不安はないが、海産物を扱う事はあまりないので、基礎から教えて貰えるのはありがたい。
この先、海のない王都に帰れば必要ない事なのかもしれないけれど、いつかどこかで使える日がくるかもしれない。
知識は腐らないしね。
そう思って熱心に話を聞き、メモを取り、作った料理に絶賛の声を貰った。
「エルちゃんなら基本さえ押さえれば、何でもできるのね!いつもはレモンかビネガーだけど、こっちの甘酸っぱいソースも美味しいわ」
教わったのは、ジャンルや国を超えて、シェフが美味しいと思ったもの。サーモンとチーズから始まり、牡蠣の香草焼きや、イワシを香草やオレンジ、パン粉を使って焼いたもの。アクアパッツァやブイヤベース。スズキなどの白身魚のグリル。パイ料理。ワインで蒸したもの。勿論、実戦だけでは時間がないので、ほとんどがレシピだけだ。
それでも様々な料理を習った後に、おやつ的に作ったのが、今の揚げ物。
おやつと言うより、軽食なのだが、気に入ってくれたようだ。
「で、エルちゃんの料理上手は証明されたのだけど、これは何かしら?」
にこにこと上機嫌で魚のフライを食べつつ、空いた方の手で彼女が指さしたのは鰻。
あの後、マグロ亭の店主や周囲のテーブルにいたお客さんたちと談笑した時に、醤油の話を聞いたのだ。
実は、我が家では師匠の為に(というか、師匠の作る美味しい料理の為に)醤油を買っているのだが、その醤油は東の国からの輸入品で、このローレインを経由して買っているらしい。
我が家がいつも大量に買っているから、ここローレインでも、一部業界で何に使うのかと話題になっていたとか。
そこで私は醤油があるなら、と、マグロ亭のご主人にお願いして鰻を何匹か買い取った。
因みにその鰻を背開きで開いたのは、アレクだったりする。
最初は買った時に、こんな形にさばいて欲しいとマグロ亭のご主人にお願いしたのだが、やった事がないからできない、と断られてしまった。それを隣で聞いていたアレクが、釘を使ってまな板に縫い留め、自分のナイフを出してあっさりとさばいてくれた。
彼曰く、刃物で『切る』『そぐ』という行為なら誰にも負けない自信がある、とか。……彼の言葉を聞いた時の、凍り付くような店の空気が忘れられない。
ともあれ、調味料もあるし、素材もある。ついでに短いお米も手に入れた。ので、後は作るべし!作るべし!作るべし!
アレクにお米を食べてもらうのは、これが最後になるのかもしれないし。
鰻を蒸して、串を打ち、焼き上げる。柔らかい鰻の串打ちは上手くないけれど、取り敢えずひっくり返せるなら良しとして、後は調味料を使いつつも、とにかく焼き続ける。
たれも若いから、醤油の尖った味が気になるけれど、ご容赦願いたい。
そうして、厨房どころか、城中に醤油の焦げるいい匂いが広がる頃、ご飯も炊きあがった。
鰻と聞いて、一度は頬を引きつらせたアウル様も、完成を今か、今かと待ってくれている。
さあ、後は盛り付けて……となった時、いきなり大きな音で厨房の扉が開いた。
驚いて振り返ると、そこには目にも眩しい美形カップルがいる。
一人は、ガラスでできたかと思うようなキラキラしい人。銀の髪に紫の瞳。見た目は20半ばというくらい。彫刻かってくらい、人間の理想を写したような顔と体型の。
「?アレクのお兄様?お父様?」
髪と瞳の色こそ違うけれど、間違いようがない。だってそっくりだもの。
そして、もう一人はといえば。黒髪青目の極上の美女。こちらは何から何まで、アウル様にそっくりだ。ということは。
私は慌てて姿勢を正し、彼らに向けてカーテシーをする。
「ああ…。ローレイン辺境伯、オーギュスト・シューバリエだ。歓迎する」
「妻のミカエラですわ。どうぞ、お楽になさって」
え?辺境伯夫妻?ちょっと待って!若すぎない?
それはともかく。
「あ……マエル・ベルトランが娘、エルーシア・ベルトランです。勝手にお城に入ってしまった上、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
畏まって挨拶すると、辺境伯夫人が柔らかく微笑んでくれた。
「留守にしていたのは、こちらだもの。気にしないで。それより、みんなが厨房から出てくるまで待っているつもりだったんだけど、美味しそうな香りに負けて来てしまったの。驚かせてごめんなさいね」
にっこりと笑った奥様は、若々しく、美しく、とてもアウルお姉さまや、アレクのような大きな子供がいるとは思えない。
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「で、その美味しそうな物は何なの?」
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