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98.幕間_フレッドの婿入り
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フレッドは"白の宮殿"にある図書館で本を読んでいる花子様のために、お茶をいれている時、ふと数日前のことが思い浮かんだ。
フレッドは、花子の祖母であるマリアに言われ、
婿入りのための書類に承認をもらうべく、珍しく実家へと戻ってきていた。
現在、実家は長兄――フレッドが当主として切り盛りしている。
貴族の古いしきたりでは、婿養子に入る際、実父と現当主の両方の署名が必要とされていた。
実父の署名はすでにもらってある。
彼は当主を譲ってから王都の魔法図書館に勤めており、
フレッドはその足で実家へと向かったのだった。
一般庶民の家より少しばかり広い敷地に足を踏み入れたそのとき――
フレッドは、どこかで見たことのある人物とばったり出くわした。
「……なんでここにいるんだ、ミイ?」
庭先でほうきを手に、落ち葉を集めていたのは、幼馴染のミイだった。
(……は? ミイがここに? 彼女の仕えてる家は王都のはず……まさかまた何かあって、兄貴に呼ばれたのか?
無差別級に出場したときみたいに、また俺の邪魔をしに来たんじゃ……)
フレッドの懸念をよそに、ミイはぶつぶつ言いながら落ち葉を集め続けていた。
「なんでって、そりゃあ今はここで仕事してるからよ」
「はあぁ? 今なんて言った? ここで仕事って、なんでまた?」
「うっさいわね。それより、なんであんたがここにいるのよ?」
ミイはイライラした様子で、集めた落ち葉を足で踏み固めている。
「いろいろ用事があるんだよ。いいから、どけよ」
「ちょっと、それ幼馴染に言っていい言葉じゃないよね?」
「はあぁ? “幼馴染”って言葉を出せば、全部許されると思ってないよな?」
「ちょっと……何熱くなってるのよ。冗談じゃない」
言い合いがヒートアップしかけたそのとき、
家の中からひょっこりと現れたのは、長兄・フレッシュだった。
「なんだ、誰かと思ったらフレッドじゃないか。何しに来たんだ?」
「ちょっと、兄貴にサインをもらいたいものがあって戻ってきたんだよ」
「サイン? まあいい。俺もお前に用事があったんだ。早く入れ」
フレッドは言われるまま屋敷に入った。
……が、なぜか後ろからミイもついてくる。
「おい、なんでお前も来るんだよ?」
「えっ、だって……お茶、入れてあげようと思って」
「いらん。サインもらったらすぐ帰るから」
「ちょっと! そういう言い方ある!?」
またしても始まりそうな口論に、フレッシュが割って入った。
「お前ら、いい加減にしろ。……フレッド、こっちだ。執務室じゃなくて応接室に通す」
「はあ? なんで応接室なんだよ」
「久しぶりに帰ってきたんだ。他の姉妹にも会いたいだろ?」
「いや、まったくもって会いたくない」
応接室に通されたフレッドは、さっそく書類を取り出して兄・フレッシュの前に差し出した。
「これ、マリア様から。婿入りの承認に必要なサイン、頼む」
「……ああ、それな。まあ、サインはするけど――」
「“けど”じゃない。さっさと書いてくれ。俺、すぐ帰るから」
「お前なあ、もうちょっと実家に帰ってきた感出せよ……」
「出す必要ないだろ。俺は書類を持ってきただけだ」
フレッシュはため息をつきながらも、渋々ペンを取り、
フレッドの差し出した書類にサラサラと署名を入れた。
「……よし、これでいいだろ?」
「助かる」
フレッドが書類を受け取ってホッとしたその瞬間――
「おーい! みんなー! フレッドが花子様の婿になるってよー!」
フレッシュが突然、部屋の外に向かって叫んだ。
「はあああ!? おい、兄貴、何を勝手に――」
バタバタと廊下を駆ける足音。
次の瞬間、隣の部屋から兄弟姉妹たちがどどどっとなだれ込んできた。
「ばんざーい!!」
「ばんざーい!!」
「ばんざーい!!」
全員が両手を挙げて、見事な三唱を決める。
「ちょっ……お前ら、何を勝手に盛り上がって――!」
「いや~、これでミート家も安泰だねぇ!」
「さすがフレッド! やるときゃやるじゃん!」
「花子様、かわいいし、しっかりしてるし、最高の奥様だよね~!」
「ちょっと待て! 俺、まだ何も――!」
「お茶のおかわりいる人~?」
ミイがトレイを持って再登場。
「……いらんって言っただろ!」
「うるさいわね、祝いの席で水分補給は大事なの!」
「祝いって誰が決めたんだよおおおおお!!」
フレッドの叫びが、ミート家の天井に虚しく響いた。
「フレッド、どうかした?」
花子の声に、フレッドははっと我に返った。
どうやら、数分ほどぼんやりしていたらしい。
「……いえ、なんでもありません」
そう答えると、彼はにっこりと微笑み、
本に夢中になっている花子の前に、そっと湯気の立つお茶を置いた。
「少し休憩しながらお読みください」
「ありがとう」
花子は一瞬だけ視線を上げて、柔らかく微笑んだ。
けれど、すぐにまた本の世界へと戻っていく。
その真剣な横顔を、フレッドは静かに見つめていた。
ページをめくる指先。
わずかに動く唇。
光を受けてきらめく髪。
――この表情を見るのが、最近の自分の一番のお気に入りだ。
彼女が本に夢中になっている時間。
そのそばで、何も言わずにお茶を淹れる時間。
それが、フレッドにとって何よりも心地よかった。
(……このまま、ずっとこうしていられたらいいのに)
そんな想いを胸に、彼は周囲を警戒しながらもそっと椅子に腰を下ろした。
フレッドは、花子の祖母であるマリアに言われ、
婿入りのための書類に承認をもらうべく、珍しく実家へと戻ってきていた。
現在、実家は長兄――フレッドが当主として切り盛りしている。
貴族の古いしきたりでは、婿養子に入る際、実父と現当主の両方の署名が必要とされていた。
実父の署名はすでにもらってある。
彼は当主を譲ってから王都の魔法図書館に勤めており、
フレッドはその足で実家へと向かったのだった。
一般庶民の家より少しばかり広い敷地に足を踏み入れたそのとき――
フレッドは、どこかで見たことのある人物とばったり出くわした。
「……なんでここにいるんだ、ミイ?」
庭先でほうきを手に、落ち葉を集めていたのは、幼馴染のミイだった。
(……は? ミイがここに? 彼女の仕えてる家は王都のはず……まさかまた何かあって、兄貴に呼ばれたのか?
無差別級に出場したときみたいに、また俺の邪魔をしに来たんじゃ……)
フレッドの懸念をよそに、ミイはぶつぶつ言いながら落ち葉を集め続けていた。
「なんでって、そりゃあ今はここで仕事してるからよ」
「はあぁ? 今なんて言った? ここで仕事って、なんでまた?」
「うっさいわね。それより、なんであんたがここにいるのよ?」
ミイはイライラした様子で、集めた落ち葉を足で踏み固めている。
「いろいろ用事があるんだよ。いいから、どけよ」
「ちょっと、それ幼馴染に言っていい言葉じゃないよね?」
「はあぁ? “幼馴染”って言葉を出せば、全部許されると思ってないよな?」
「ちょっと……何熱くなってるのよ。冗談じゃない」
言い合いがヒートアップしかけたそのとき、
家の中からひょっこりと現れたのは、長兄・フレッシュだった。
「なんだ、誰かと思ったらフレッドじゃないか。何しに来たんだ?」
「ちょっと、兄貴にサインをもらいたいものがあって戻ってきたんだよ」
「サイン? まあいい。俺もお前に用事があったんだ。早く入れ」
フレッドは言われるまま屋敷に入った。
……が、なぜか後ろからミイもついてくる。
「おい、なんでお前も来るんだよ?」
「えっ、だって……お茶、入れてあげようと思って」
「いらん。サインもらったらすぐ帰るから」
「ちょっと! そういう言い方ある!?」
またしても始まりそうな口論に、フレッシュが割って入った。
「お前ら、いい加減にしろ。……フレッド、こっちだ。執務室じゃなくて応接室に通す」
「はあ? なんで応接室なんだよ」
「久しぶりに帰ってきたんだ。他の姉妹にも会いたいだろ?」
「いや、まったくもって会いたくない」
応接室に通されたフレッドは、さっそく書類を取り出して兄・フレッシュの前に差し出した。
「これ、マリア様から。婿入りの承認に必要なサイン、頼む」
「……ああ、それな。まあ、サインはするけど――」
「“けど”じゃない。さっさと書いてくれ。俺、すぐ帰るから」
「お前なあ、もうちょっと実家に帰ってきた感出せよ……」
「出す必要ないだろ。俺は書類を持ってきただけだ」
フレッシュはため息をつきながらも、渋々ペンを取り、
フレッドの差し出した書類にサラサラと署名を入れた。
「……よし、これでいいだろ?」
「助かる」
フレッドが書類を受け取ってホッとしたその瞬間――
「おーい! みんなー! フレッドが花子様の婿になるってよー!」
フレッシュが突然、部屋の外に向かって叫んだ。
「はあああ!? おい、兄貴、何を勝手に――」
バタバタと廊下を駆ける足音。
次の瞬間、隣の部屋から兄弟姉妹たちがどどどっとなだれ込んできた。
「ばんざーい!!」
「ばんざーい!!」
「ばんざーい!!」
全員が両手を挙げて、見事な三唱を決める。
「ちょっ……お前ら、何を勝手に盛り上がって――!」
「いや~、これでミート家も安泰だねぇ!」
「さすがフレッド! やるときゃやるじゃん!」
「花子様、かわいいし、しっかりしてるし、最高の奥様だよね~!」
「ちょっと待て! 俺、まだ何も――!」
「お茶のおかわりいる人~?」
ミイがトレイを持って再登場。
「……いらんって言っただろ!」
「うるさいわね、祝いの席で水分補給は大事なの!」
「祝いって誰が決めたんだよおおおおお!!」
フレッドの叫びが、ミート家の天井に虚しく響いた。
「フレッド、どうかした?」
花子の声に、フレッドははっと我に返った。
どうやら、数分ほどぼんやりしていたらしい。
「……いえ、なんでもありません」
そう答えると、彼はにっこりと微笑み、
本に夢中になっている花子の前に、そっと湯気の立つお茶を置いた。
「少し休憩しながらお読みください」
「ありがとう」
花子は一瞬だけ視線を上げて、柔らかく微笑んだ。
けれど、すぐにまた本の世界へと戻っていく。
その真剣な横顔を、フレッドは静かに見つめていた。
ページをめくる指先。
わずかに動く唇。
光を受けてきらめく髪。
――この表情を見るのが、最近の自分の一番のお気に入りだ。
彼女が本に夢中になっている時間。
そのそばで、何も言わずにお茶を淹れる時間。
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