101 / 392
2[ヴィル]
王宮からの発表
しおりを挟む
文官の汚職が絡んでいた一連の事件は、何がしかの正式な発表をしなくてはならず、王宮では議論に発展していた。
イドレの汚職、そしてスルトの謀反について、どこまでを発表するのか。
主要な新聞社に概要を説明して事前質問を受け付けたところ、どこの新聞社も『当日降った雨』について説明を求めてきた。
事件の日、リアが涙を流したことで王都に小さな雨が降った。
降るべき場所で降るべき量しか降らせないはずのそれが、無計画に王都全体の地面をしっとりと濡らしたのは久々のことだ。
リアは知ってか知らずか、感情を爆発させることなく声を殺して静かに泣いた。
それは彼女の心の均衡を保ち、かつ王都を大雨洪水被害から守る唯一の方法でもあった。
先代神薙の時代、王国の民はありとあらゆる自然災害に悩まされていた。
これまで新聞や雑誌の記者たちは、起きている事実を独自に観察し、分析して記事を書いていた。天候は商売や国民生活に直結するため、昔から関心が高い。
彼らはうわさのような形ではなく、王宮の正式な見解を知りたがっていた。
最近の素晴らしい天気は今だけなのか、それとも当代の神薙が在位している間ずっと続くものなのか。長年愛用してきた砂塵よけの外套に帽子、防塵布、ヴェール……ありとあらゆる対策用品は捨てても良いのか。
そんな中、無理もないことなのだが、彼らは久々の雨に対して過敏に反応していた。
よもや再び大雨洪水・落雷突風に砂ぼこりを食らい続ける日々が戻ってくるのではあるまいな、と。そう不安に思う気持ちは俺にもよく分かる。
もともと王宮では、リアの功績を何らかの形で国民に伝えようという動きがあった。
俺個人としては、こういった悪い知らせに混ぜるような形で発表をするのは反対だ。願わくは明るい話題として彼女のことを知ってもらいたい。
しかし、雨に関する質問を無視すれば、神薙の印象が悪くなる懸念があった。
議論の結果、神薙に関する部分についても発表をすることになった。
神薙が夫を選んでいること。
その過程で謀反人が文官と結託し、事件を起こしたこと。
神薙を人質にしたが、第一騎士団がそれを阻止したこと。
すべては法の中で行われたことではあるが、神薙が深く傷つく結果になったこと。
これを踏まえ、王宮は組織と法の見直しを行うこと。
このようなざっくりとした発表ではあるのだが、起きた事実の大半が網羅された内容となった。
王宮がここまで文官の不祥事について発表をすることは稀だ。
「それだけのことが起きていながら小雨で済んだ。当代の神薙は慈悲深く、民への影響は最小限で抑えられている」と王宮は発表した。
どの新聞社も何がしかの確信を持つに至ったのだろう。リアに対し、好意的かつ同情的な記事を書いた。
リアはまだ毒沼のような薬を飲んでいる――
イドレの汚職、そしてスルトの謀反について、どこまでを発表するのか。
主要な新聞社に概要を説明して事前質問を受け付けたところ、どこの新聞社も『当日降った雨』について説明を求めてきた。
事件の日、リアが涙を流したことで王都に小さな雨が降った。
降るべき場所で降るべき量しか降らせないはずのそれが、無計画に王都全体の地面をしっとりと濡らしたのは久々のことだ。
リアは知ってか知らずか、感情を爆発させることなく声を殺して静かに泣いた。
それは彼女の心の均衡を保ち、かつ王都を大雨洪水被害から守る唯一の方法でもあった。
先代神薙の時代、王国の民はありとあらゆる自然災害に悩まされていた。
これまで新聞や雑誌の記者たちは、起きている事実を独自に観察し、分析して記事を書いていた。天候は商売や国民生活に直結するため、昔から関心が高い。
彼らはうわさのような形ではなく、王宮の正式な見解を知りたがっていた。
最近の素晴らしい天気は今だけなのか、それとも当代の神薙が在位している間ずっと続くものなのか。長年愛用してきた砂塵よけの外套に帽子、防塵布、ヴェール……ありとあらゆる対策用品は捨てても良いのか。
そんな中、無理もないことなのだが、彼らは久々の雨に対して過敏に反応していた。
よもや再び大雨洪水・落雷突風に砂ぼこりを食らい続ける日々が戻ってくるのではあるまいな、と。そう不安に思う気持ちは俺にもよく分かる。
もともと王宮では、リアの功績を何らかの形で国民に伝えようという動きがあった。
俺個人としては、こういった悪い知らせに混ぜるような形で発表をするのは反対だ。願わくは明るい話題として彼女のことを知ってもらいたい。
しかし、雨に関する質問を無視すれば、神薙の印象が悪くなる懸念があった。
議論の結果、神薙に関する部分についても発表をすることになった。
神薙が夫を選んでいること。
その過程で謀反人が文官と結託し、事件を起こしたこと。
神薙を人質にしたが、第一騎士団がそれを阻止したこと。
すべては法の中で行われたことではあるが、神薙が深く傷つく結果になったこと。
これを踏まえ、王宮は組織と法の見直しを行うこと。
このようなざっくりとした発表ではあるのだが、起きた事実の大半が網羅された内容となった。
王宮がここまで文官の不祥事について発表をすることは稀だ。
「それだけのことが起きていながら小雨で済んだ。当代の神薙は慈悲深く、民への影響は最小限で抑えられている」と王宮は発表した。
どの新聞社も何がしかの確信を持つに至ったのだろう。リアに対し、好意的かつ同情的な記事を書いた。
リアはまだ毒沼のような薬を飲んでいる――
45
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる