昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

言わない約束でしたのに

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 子ども達が待つ庭園に出ると、お茶のテーブルに着いているベルソールさんの背中が見えた。サナも同じテーブルだ。
 背の低いお子様用のテーブルセットが近くに用意されていて、そこにはロリーとエッラ、それからディーンがいる。遠目からでも皆がお行儀よくお茶とお菓子を頂いていることが分かった。
 神薙の家プロジェクトの文官二人(ムツゴロウ)が面倒を見てくれているようで、子ども達に話しかけてくれている。

 ところが、テオとショーンの姿が見当たらない。

「あの二人はどこに行ったのでしょう?」

 心配してキョロキョロしていると、アレンさんが前方斜め右を指差した。

「リア様、あれを」
「なっ、あ、あれは……!」

 新聞紙と幅広のテープ、それからハサミの刃が開きっぱなしで放り投げてある。
 我が家の庭でもしょっちゅう見かけるそれは、あの子達が来て以来、庭の景色の一部になっているお道具三点セットだった。
 思わず息を飲んでアレンさんの腕をガッシと握り締めてしまった。

「ど、どうしましょう。もう、もう、とっても嫌な予感がします……」
「リア様、落ち着いて」
「ちょちょちょっ、急ぎましょうっ?」
「大丈夫ですから」

 ちっとも急ぐ様子のないアレンさんは、普段と同じ速度でゆっくりとわたしを連れて歩く。早く行こうと言っても「人目もあるから慌てないの」と言うだけでスンとしている。
 日本にいた頃のわたしなら、とっくに猛ダッシュして現場に駆けつけているところなのに、こんな状況でも神薙様はシズシズと歩かなければならないのだ。 
 あああぁ、お願い早くぅぅ。

「やあーーッ!」

 大きな掛け声が聞こえて血の気が引いた。ショーンの声だ。
 お茶会で出す声ではない。
 詰んだ。終わった。もう死んだ……

「あの子達、絶対にやらかしていますわっ」
「ショーンが犯人ではないかも知れませんよ?」
「まさか、テオきゅんが主犯だと?!」
「どうせやらかしているなら、急いでも急がなくても結果は同じですね」

 わたしの嫌な予感は的中していた。
 テオとショーンは、こともあろうに王宮のお庭で、美味しいお菓子とお茶もそっちのけで新聞ソードを振り回していた。しかも、二人が剣を向けていた相手はフォルセティ宰相だ。

 イ、イヤアアァァァーーッッ!!
 う、う、うちの子がっ! 新聞とは言え宰相さまに剣を向けているザマスぅぅーー!!

 ふと彼らの振り回している新聞ソードが、普段とどこか違うように感じた。
 グリップのすぐ上に十字にしたつばが付いていて、心なしか普段より剣らしい見た目だ。

 アレンさんが顎を触りながら「さすが宰相ですね」と言った。
「常々、あの子達の新聞剣にガードがないことが不満だったのですよねぇ」

 ははぁ、なるほどぉ、新聞ソード(改)ですねぇー……って、言ってる場合ですかッッ!!
 わたし達はここに新聞ソードを改良しにやって来たわけではないのですよぉぉーっ(泣)

 宰相がこちらに気づいて手を振ってくれた。
 ジャケットを脱ぎ、腕まくりして彼らの相手をしてくださっている。

「やあ、リア様、お話は済みましたか?」
「ももも申し訳ございませんっ! 子ども達が大変な失礼を!」
「いやいや、私が誘ったのですよ。噂通りなかなかスジが良いですなぁ」
「噂……?」

 宰相が「ここらで休憩にしよう」と声を掛けると、ショーンは「はーい!」と明るく返事をした。そして、手に持っていた新聞ソードをポイと放り投げてお茶のテーブルへと駆けていく。

「もぉ、あいつは……」と言いながら、テオがそれを拾い上げた。
 宰相は微笑みながら見守ってくれている。

「行儀も良く、何を聞いてもしっかりと答えられる。テオ君に剣の才があるというのは既に噂になっております。さすがは神薙様が自ら保護された子だと皆で話しているのですよ」

 わたしとアレンさんは、同時に「あ……っ」と声を出した。



「子ども達には身分を明かさないほうが良い」と最初に言ったのは、何を隠そうこの宰相だった。
 それをきっかけに皆で隠ぺい工作に奔走したというのに、このお方はたった今、テオの前で自らバラしてしまわれた。

「さ、宰相さま、そのお話は……」

 恐る恐るテオを見た。
 彼は二本の新聞ソードを手にぶら下げたまま、ぱかーんと口を開けて固まっている。

 子どもたちは道徳教育の一環として、週に一度、大聖堂で子ども向けの説法を聞いている。当然、神様や神薙様に関する説明も受けていた。
 彼は神薙様が何であるかを、よーく知っているのだ。

「リア姉ちゃんが神薙様?」と、彼は目を丸くして言った。
 もう、誤魔化しようのない状態だ。
 宰相も自身の失言に気づき、口元に手をやって申し訳なさそうに顔をしかめた。

「もう少しこちらへ来い。大きな声では話せないことだ」
 アレンさんが手招きをすると、テオは素直に「はい」と言って新聞ソードを芝生の上に置いた。

 わたし達四人はほかの子ども達から離れ、うっかり話が漏れないよう十分な距離を取った。

「今聞いたとおり、お前の『リア姉ちゃん』は、この大陸の神薙だ。お前はこれを決して口にしてはならない。これは国にとって重大な秘密であり、お前しか知らないことだ」

 アレンさんの言葉に、テオは凍り付いていた。

「ごめんなさい。ベルソールさんは本物の祖父ではないけれど、わたしは祖父のように慕っているの。二人で一緒に商売をしているのは本当なのよ?」
 わたしがしゃがんで謝ると、彼はしっかりと目を見て「うん」と言った。

「だって、いっつも二人で会議してるもんね? ヴィル兄ちゃんからも、おいしい白ソースはリア姉ちゃんが売ってるって聞いたし……」
「騙したかったわけではないの。悪い大人がたくさんいるから、皆が危険なことに巻き込まれるのが嫌だったの。お家が完成するまでの間、安心して過ごしてほしくて」

 彼は再び「うん」と頷いた。そして「大丈夫」とも言ってくれた。
「ねね、じゃあさ、ヴィル兄ちゃんは偽者の婚約者なの?」と、テオが聞いてきた。

 問題はそこだ。ヴィルさんの素性をどこまで話すのか……。
 迷っていると、アレンさんが代わりに答えてくれた。

「団長は本物の婚約者だ。しかし、第十一・・騎士団は存在しない。我々は第騎士団だ。神薙の騎士と言ったほうが分かりやすいか?」
「やっぱすごい人だったんだ。なんか変だなーって思ってた。だってニッコロ兄ちゃんより強いんだもん」

 アレンさんは「第一騎士団」ということは伝えたものの、それ以上は言わなかった。
 いずれヴィルさんが王甥であることも分かるだろうけれども、あえて今すべてを話すことはしないようだ。

「テオ、お前は秘密を守らなくてはならない」
「うん……」
「喋ればリア様を危険に晒し、同時にお前自身の安全も脅かされる」
「う、うん」
「つい先日も、神薙に取り入ろうとした者が大勢の人を巻き込んで騒ぎを起こした」
「うっそ! リア姉ちゃん平気だったの?」

 テオが心配そうな顔でこちらを見たので「大丈夫」と答えた。

「アレンさん達が守ってくれたから平気。でも、全然関係のない女性が二人巻き込まれたの」
「そうなんだ……ほんとにヤバいんだね……」
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