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[リア]
玉座の間
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王宮に到着すると、普段使われる『謁見の間』とは別の場所に案内された。
なんと本家本元の王座がある『玉座の間』だ。祖父役のベルソールさんも目を丸くしていた。
しかも、案内役がフォルセティ宰相なので、まるで国賓のような待遇だ。
「ちょっと宰相様、こんなの聞いていないですよ」と、普段どおり話すわけにもいかないのでやりにくい。
宰相に促されて部屋に入ると、玉座でどっしりと貫禄を漂わせたイケオジ陛下が待っていた。
まさにキング。イケオジの中のイケオジ。キング・オブ・イケオジだ。
どうしたのですか、陛下……。いつもと違いすぎてわたしは大混乱ですわ。
最近の陛下は、忙しいこともあってラフな服装をしていることが多い。シャツ一枚で腕まくりをしてバタバタ走っている姿をしょっちゅう見かけるし、肌寒い日はそれに簡単なジャケットを羽織っている程度。
その代わり、お付きの人がきちんとしたロングジャケットやタイなど「王様変身セット」を常に持ち歩いているのだ。
しかし、わたしにはわかる。今日の陛下のジャケットとタイは、いつも目にしている王様変身セットのそれではない。
これは外国からお客様が来たときなどに着ている本気バージョンの王様セットだ。
どうして今日はこんなにも気合いが入っているのだろう。
目を細めて見ていると、陛下の口元がニヤリと緩んだ。
わざとだ……この状況を面白がっている。
陛下とは古い付き合いだというベルソールさんも、その様子を見て口元をほころばせた。
豪華な装飾が施された玉座の隣には、少し小ぶりな王妃様用の椅子があった。
大陸の守護者である『大地の龍』の像が、それらを包み込むように翼を広げており、両のかぎ爪には特大の宝石を持っている。
天蓋からは鮮やかな青のカーテンが下がっていて、美しいドレープを作って端にまとめてあった。普段はそれを閉めて玉座全体が見えないようにしてあるのだろう。
子どもたちは大きな龍を見上げて「うわぁー」と言ったきり、口が開きっぱなしだ。
わたしとベルソールおじい様が挨拶を終えると、子どもたちは教わったとおりお辞儀をして挨拶をした。
テオとショーンが念願の臣従礼で騎士様のように振る舞うと、近衛の皆さんから思わず「おおっ」と好意的なリアクションが漏れた。陛下はニッコニコの笑顔で拍手をして褒めてくれた。
六人は物怖じすることなく、陛下に聞かれたことにハキハキと答えた。
教会での暮らしは大変だったこと。でも今は楽しくて、友達が増えたこと。塾で勉強をしていること。学校にも行ってみたいこと。毎日のごはんが美味しいこと。お気に入りのお菓子があること。いなくなった友達を探してほしいこと。新しいお友達から聞いた話などなど。
みんな本当にえらくて、頼もしくて……わたしは感動で号泣しそうだった。
イケオジ陛下はテオの不思議な瞳に興味を示し、彼を近くに呼び寄せてじっくりと見ていた。
「この子は、調べても父母がわからないのだったな?」と、陛下は言った。
「養父母だった者は見つかりましたが、実親はわからないままでございます」と、ベルソールおじい様は答えた。
「北の地に『七色の藍』と呼ばれる瞳を持つ者がいると聞いたことがある。それに該当するかはわからんが、興味深い色だな」
六人の子どもたちの調査は、テオ以外は比較的スムーズに終わっていた。
どの子も両親が経済的に困窮したことがトリガーで孤児になっている。親戚や近所など、少し余裕のある家に預けられたあと、その家から姿を消したか、もしくはもう一つ別の家を経由してから失踪状態になっていた。
いずれも「いなくなった」ということになっているけれども、自主的に家を出て孤児院へ行ったのはサナだけだった。
テオは途中で手がかりが途絶えてしまい、実親についての情報がない。
陛下の言う「北の地」がどのあたりを指しているのかはわからないものの、彼のルーツを探す手がかりになる可能性がある。ベルソールおじい様が引き続き調べを進めることを伝えると、陛下は満足そうにうなずいた。
「せっかく来たのだ。王宮を見学し、美味い菓子でも食べて帰ると良い。案内をさせよう」
案内係は宰相だ。ニッコニコで子どもたちを王宮ツアーへ連れていってくれた。
なんてぜいたくな社会科見学だろう。国会議事堂に行ったら首相が出てきて案内してくれるようなものだ。
子どもたちにはベルソールさんが付き添い、わたしは少し話があったので陛下のところに残った。
☟
「もう出てきていいぞ」と陛下が言うと、太い柱の影からお義父様が顔を出した。隠れて見ていたらしい。
「随分と肝の据わった子たちだったな。あの小さな女の子は個性的で最高だ」と笑っている。
マイペースなロリーのお菓子話は今日も絶好調だった。
彼女の話に登場した「ヒゲのオジサン」はくまんつ様だと話したところ、近衛の人たちまで巻き込んでの大爆笑になった。
「ささ、リア、座りなさい」
陛下が隣の椅子を勧めてきた。
「いえいえ、そこは王妃様の席ですから」
「いや、これは聖女の椅子だぞ?」
「そんな、余計に座れません。わたしは廉価版ですので」
「まあまあ、そう言うな」
お義父様に押され、結局ぽてっと座ってしまった。
「あら……?」
「普通だろう?」と、陛下が言った。
「意外と……」と、わたしは答えた。
玉座から見える景色は拍子抜けするほど普通だった。
来た人が見る王の姿は、ゴージャスで威厳に満ちている。しかしその一方で、王はごくシンプルな背景の中で冷静に来客を見ていた。思い返してみると、謁見の間もそんな感じだったかも知れない。
豪華な王様の服も、おそらくはその目くらましの一つなのだろう。
「なんだか、だまされたような気分ですわ」
「こちらをだまして利用しようとしている輩も多い。お互い様だな」
王宮は陛下にとって自宅であり、戦場でもある。ほかにもこういった仕掛けをしている部屋があるらしい。
三人で少し話をしてから、わたしは玉座の間をあとにした──
なんと本家本元の王座がある『玉座の間』だ。祖父役のベルソールさんも目を丸くしていた。
しかも、案内役がフォルセティ宰相なので、まるで国賓のような待遇だ。
「ちょっと宰相様、こんなの聞いていないですよ」と、普段どおり話すわけにもいかないのでやりにくい。
宰相に促されて部屋に入ると、玉座でどっしりと貫禄を漂わせたイケオジ陛下が待っていた。
まさにキング。イケオジの中のイケオジ。キング・オブ・イケオジだ。
どうしたのですか、陛下……。いつもと違いすぎてわたしは大混乱ですわ。
最近の陛下は、忙しいこともあってラフな服装をしていることが多い。シャツ一枚で腕まくりをしてバタバタ走っている姿をしょっちゅう見かけるし、肌寒い日はそれに簡単なジャケットを羽織っている程度。
その代わり、お付きの人がきちんとしたロングジャケットやタイなど「王様変身セット」を常に持ち歩いているのだ。
しかし、わたしにはわかる。今日の陛下のジャケットとタイは、いつも目にしている王様変身セットのそれではない。
これは外国からお客様が来たときなどに着ている本気バージョンの王様セットだ。
どうして今日はこんなにも気合いが入っているのだろう。
目を細めて見ていると、陛下の口元がニヤリと緩んだ。
わざとだ……この状況を面白がっている。
陛下とは古い付き合いだというベルソールさんも、その様子を見て口元をほころばせた。
豪華な装飾が施された玉座の隣には、少し小ぶりな王妃様用の椅子があった。
大陸の守護者である『大地の龍』の像が、それらを包み込むように翼を広げており、両のかぎ爪には特大の宝石を持っている。
天蓋からは鮮やかな青のカーテンが下がっていて、美しいドレープを作って端にまとめてあった。普段はそれを閉めて玉座全体が見えないようにしてあるのだろう。
子どもたちは大きな龍を見上げて「うわぁー」と言ったきり、口が開きっぱなしだ。
わたしとベルソールおじい様が挨拶を終えると、子どもたちは教わったとおりお辞儀をして挨拶をした。
テオとショーンが念願の臣従礼で騎士様のように振る舞うと、近衛の皆さんから思わず「おおっ」と好意的なリアクションが漏れた。陛下はニッコニコの笑顔で拍手をして褒めてくれた。
六人は物怖じすることなく、陛下に聞かれたことにハキハキと答えた。
教会での暮らしは大変だったこと。でも今は楽しくて、友達が増えたこと。塾で勉強をしていること。学校にも行ってみたいこと。毎日のごはんが美味しいこと。お気に入りのお菓子があること。いなくなった友達を探してほしいこと。新しいお友達から聞いた話などなど。
みんな本当にえらくて、頼もしくて……わたしは感動で号泣しそうだった。
イケオジ陛下はテオの不思議な瞳に興味を示し、彼を近くに呼び寄せてじっくりと見ていた。
「この子は、調べても父母がわからないのだったな?」と、陛下は言った。
「養父母だった者は見つかりましたが、実親はわからないままでございます」と、ベルソールおじい様は答えた。
「北の地に『七色の藍』と呼ばれる瞳を持つ者がいると聞いたことがある。それに該当するかはわからんが、興味深い色だな」
六人の子どもたちの調査は、テオ以外は比較的スムーズに終わっていた。
どの子も両親が経済的に困窮したことがトリガーで孤児になっている。親戚や近所など、少し余裕のある家に預けられたあと、その家から姿を消したか、もしくはもう一つ別の家を経由してから失踪状態になっていた。
いずれも「いなくなった」ということになっているけれども、自主的に家を出て孤児院へ行ったのはサナだけだった。
テオは途中で手がかりが途絶えてしまい、実親についての情報がない。
陛下の言う「北の地」がどのあたりを指しているのかはわからないものの、彼のルーツを探す手がかりになる可能性がある。ベルソールおじい様が引き続き調べを進めることを伝えると、陛下は満足そうにうなずいた。
「せっかく来たのだ。王宮を見学し、美味い菓子でも食べて帰ると良い。案内をさせよう」
案内係は宰相だ。ニッコニコで子どもたちを王宮ツアーへ連れていってくれた。
なんてぜいたくな社会科見学だろう。国会議事堂に行ったら首相が出てきて案内してくれるようなものだ。
子どもたちにはベルソールさんが付き添い、わたしは少し話があったので陛下のところに残った。
☟
「もう出てきていいぞ」と陛下が言うと、太い柱の影からお義父様が顔を出した。隠れて見ていたらしい。
「随分と肝の据わった子たちだったな。あの小さな女の子は個性的で最高だ」と笑っている。
マイペースなロリーのお菓子話は今日も絶好調だった。
彼女の話に登場した「ヒゲのオジサン」はくまんつ様だと話したところ、近衛の人たちまで巻き込んでの大爆笑になった。
「ささ、リア、座りなさい」
陛下が隣の椅子を勧めてきた。
「いえいえ、そこは王妃様の席ですから」
「いや、これは聖女の椅子だぞ?」
「そんな、余計に座れません。わたしは廉価版ですので」
「まあまあ、そう言うな」
お義父様に押され、結局ぽてっと座ってしまった。
「あら……?」
「普通だろう?」と、陛下が言った。
「意外と……」と、わたしは答えた。
玉座から見える景色は拍子抜けするほど普通だった。
来た人が見る王の姿は、ゴージャスで威厳に満ちている。しかしその一方で、王はごくシンプルな背景の中で冷静に来客を見ていた。思い返してみると、謁見の間もそんな感じだったかも知れない。
豪華な王様の服も、おそらくはその目くらましの一つなのだろう。
「なんだか、だまされたような気分ですわ」
「こちらをだまして利用しようとしている輩も多い。お互い様だな」
王宮は陛下にとって自宅であり、戦場でもある。ほかにもこういった仕掛けをしている部屋があるらしい。
三人で少し話をしてから、わたしは玉座の間をあとにした──
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