昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

文字の大きさ
293 / 392
[リア]

誓いの魔法

しおりを挟む
 アレンさんはテオの頭を優しく撫でた。

「お前は秘密を守ることで自分自身と神薙を守れ」
「神薙様を守るの? オレが?」
「そうだ。神薙の名がリアであることも、住んでいる場所も、お前の『リア姉ちゃん』と『神薙』を結びつけるようなことを決して誰にも話してはならない。向こうにいる友達にも。誰にもだ」
「……うん」
「嘘をつき続けなくてはならないこともある。決して簡単ではない。辛いと思うこともあるだろう。それは我々騎士団員も同じだ」
「うん」
「守れるか、神薙を」
「はい」
「誓えるか」
「はいっ!」

「ならば、誓いを立ててもらう」と、アレンさんが言った。
「どうやって?」と、テオが首を傾げる。

「誓いの魔法だ。通常は王か宰相の前で自らの名に誓いを立て、破ると命を失うようにする。しかし、お前はまだ子どもだ。もう少し優しいものにしよう」

 なあああぁぁぁ……っ!
 思わず二人の間に割って入った。

「ちょっ、あのっ、アレンさん?」
「あ、すみません。怖かったですか?」
 アレンさんはスンとして言った。
 怖いとか怖くないとか、そういう次元の話ではない。

「重すぎて吐いちゃいそうですわっ」
 どうしてこの国は、簡単に「殺す」とか「死ぬ」とか強酸系の脅し文句が多いのだろう。もう少しマイルドな風味にして頂かないと、わたしの胃壁がもたない。

「気持ちは分かるのですが、子どもはお喋りですから、このぐらいしておかないとベラベラ喋られてしまいます」
「それは、そうかも知れないですけれど……」

「大丈夫。オレ、ちゃんと秘密守れるよ」と、テオが言った。
 理不尽な大人の都合に巻き込まれているというのに健気で泣けてくる。

「いいか、秘密を守る者は時に孤独と戦わなくてはならない。辛くなったら私に話せ。同じ思いを共有できる」
「うんっ」
「右手を出せ。この誓いを破ると……」

 ノォォォーーッッッ!!
 再び二人の間に手を出して制止した。

「いけませんっ! そんな魔法を使っては! 破ったときに痛い思いをするのは術者も一緒だと本で読みました!」

 アレンさんは感心したような顔で「さすがリア様」と言った。
「よくご存知ですね。実は、術者も腕が一本くらい折れたりします」

「それほど大事な秘密だったのなら、大人が先に誓っておくべきでしょう?」
「仰るとおりです。しかし、それは今からでは叶わないことです」
「その責任を子どもに負わせるなんて、有り得ませんっ」
「しかし、このままにはできません。彼には誓いを立ててもらいます」

 珍しくアレンさんが頑固だ。
 負けるもんかと、こちらも意地になって言い返す。
 わたし達がケンケン揉めていると、テオがそろーっと手を上げた。

「あ、あのさ? 『約束を破って喋ったら騎士になれない』っていう誓いでもいい?」
「ほう、お前の将来を懸けるか」
「うん。でもオレ、ちゃんと秘密は守るよ? それで、騎士にもなるから」
「もう決めたのか?」
「うん。騎士科の試験受けてみたいなーって」

 嗚呼ぁぁぁ、テオきゅん……テオきゅん……
 リア姉ちゃん、ダブルショックで死んでしまいますよぉぉぉ!

「いいだろう。では、お前が誓いを破ったら、私はその時点で王から賜った最も大きな勲章を返すことを誓おう」
「いけません、アレンさん! そんなことをしたら、お父様がショックで寝込んでしまいますわっ」
「はははっ、大丈夫ですよ」
「ハハハじゃありませんっ。わたしがお父様から叱られますっ」

 宰相がわたしの肩に触れ、何も言わず首を振った。

「宰相さま、お願いです。アレンさんを止めてください!」
「リア様、テオ君はまだ幼いですが、もう立派な男です……」

 あああ、宰相さまあぁぁぁ。
 元はと言えばあなたが喋るからですよぉぉ。なんてことを、なんてことぉー(泣)

「始めたまえ」と、宰相は二人に向かって言った。
「私が責任をもって立会人となろう」

 アレンさんは宰相の言葉に頷いた。
「テオ、お前はこの誓いをもって神薙を守る者の一人となる」
「心は神薙様の騎士ってこと?」
「そうだ。心の準備は良いか」
「うんっ!」

 わたしの抵抗も虚しく、誓いの儀式は進められた。
 宰相立ち合いのもと、アレンさんは短い詠唱をすると、テオの右手の甲に小さな魔法陣を浮かび上がらせる。そしてテオに誓いの言葉を言わせると、魔法陣から白い光が放たれ、やがて彼の体に染み込むように消えていった。
 テオは妙にハイな状態で「すげーカッコイイ」「体が軽くなった気がする」などと言ってはしゃいでいる。

「休みの日に稽古をつけてやろう。もう心が決まっているのなら、座学も含めて本格的に学べ。何でも教えてやるぞ」
 アレンさんが優しく微笑むと、テオはさらに興奮して大喜びした。

 真っ白に燃え尽きそうになっているわたしに、宰相がにこやかに話しかけてくる。
「結果的に良い方向に転がったようですね」
「そ、そうなのでしょうか……?」
「陛下も諸々の報告を受ける中で、彼を騎士にしてはどうかと仰っていました」

 宰相の言葉に、テオは「王様がっ?!」と反応した。
 嗚呼、どうして皆で寄ってたかって、テオきゅんの『騎士になりたいスイッチ』を押しまくるのでしょうか。

「楽しみですね」と、アレンさんはニッコリ微笑んだ。
 わたしは心で泣きながら黙って下を向いた。

 テオは宰相に一礼すると、皆のいるテーブルへ走っていった。それはそれはもう、満面の笑みだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

処理中です...