昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

誓いの魔法

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 アレンさんはテオの頭を優しく撫でた。

「お前は秘密を守ることで自分自身と神薙を守れ」
「神薙様を守るの? オレが?」
「そうだ。神薙の名がリアであることも、住んでいる場所も、お前の『リア姉ちゃん』と『神薙』を結びつけるようなことを決して誰にも話してはならない。向こうにいる友達にも。誰にもだ」
「……うん」
「嘘をつき続けなくてはならないこともある。決して簡単ではない。辛いと思うこともあるだろう。それは我々騎士団員も同じだ」
「うん」
「守れるか、神薙を」
「はい」
「誓えるか」
「はいっ!」

「ならば、誓いを立ててもらう」と、アレンさんが言った。
「どうやって?」と、テオが首を傾げる。

「誓いの魔法だ。通常は王か宰相の前で自らの名に誓いを立て、破ると命を失うようにする。しかし、お前はまだ子どもだ。もう少し優しいものにしよう」

 なあああぁぁぁ……っ!
 思わず二人の間に割って入った。

「ちょっ、あのっ、アレンさん?」
「あ、すみません。怖かったですか?」
 アレンさんはスンとして言った。
 怖いとか怖くないとか、そういう次元の話ではない。

「重すぎて吐いちゃいそうですわっ」
 どうしてこの国は、簡単に「殺す」とか「死ぬ」とか強酸系の脅し文句が多いのだろう。もう少しマイルドな風味にして頂かないと、わたしの胃壁がもたない。

「気持ちは分かるのですが、子どもはお喋りですから、このぐらいしておかないとベラベラ喋られてしまいます」
「それは、そうかも知れないですけれど……」

「大丈夫。オレ、ちゃんと秘密守れるよ」と、テオが言った。
 理不尽な大人の都合に巻き込まれているというのに健気で泣けてくる。

「いいか、秘密を守る者は時に孤独と戦わなくてはならない。辛くなったら私に話せ。同じ思いを共有できる」
「うんっ」
「右手を出せ。この誓いを破ると……」

 ノォォォーーッッッ!!
 再び二人の間に手を出して制止した。

「いけませんっ! そんな魔法を使っては! 破ったときに痛い思いをするのは術者も一緒だと本で読みました!」

 アレンさんは感心したような顔で「さすがリア様」と言った。
「よくご存知ですね。実は、術者も腕が一本くらい折れたりします」

「それほど大事な秘密だったのなら、大人が先に誓っておくべきでしょう?」
「仰るとおりです。しかし、それは今からでは叶わないことです」
「その責任を子どもに負わせるなんて、有り得ませんっ」
「しかし、このままにはできません。彼には誓いを立ててもらいます」

 珍しくアレンさんが頑固だ。
 負けるもんかと、こちらも意地になって言い返す。
 わたし達がケンケン揉めていると、テオがそろーっと手を上げた。

「あ、あのさ? 『約束を破って喋ったら騎士になれない』っていう誓いでもいい?」
「ほう、お前の将来を懸けるか」
「うん。でもオレ、ちゃんと秘密は守るよ? それで、騎士にもなるから」
「もう決めたのか?」
「うん。騎士科の試験受けてみたいなーって」

 嗚呼ぁぁぁ、テオきゅん……テオきゅん……
 リア姉ちゃん、ダブルショックで死んでしまいますよぉぉぉ!

「いいだろう。では、お前が誓いを破ったら、私はその時点で王から賜った最も大きな勲章を返すことを誓おう」
「いけません、アレンさん! そんなことをしたら、お父様がショックで寝込んでしまいますわっ」
「はははっ、大丈夫ですよ」
「ハハハじゃありませんっ。わたしがお父様から叱られますっ」

 宰相がわたしの肩に触れ、何も言わず首を振った。

「宰相さま、お願いです。アレンさんを止めてください!」
「リア様、テオ君はまだ幼いですが、もう立派な男です……」

 あああ、宰相さまあぁぁぁ。
 元はと言えばあなたが喋るからですよぉぉ。なんてことを、なんてことぉー(泣)

「始めたまえ」と、宰相は二人に向かって言った。
「私が責任をもって立会人となろう」

 アレンさんは宰相の言葉に頷いた。
「テオ、お前はこの誓いをもって神薙を守る者の一人となる」
「心は神薙様の騎士ってこと?」
「そうだ。心の準備は良いか」
「うんっ!」

 わたしの抵抗も虚しく、誓いの儀式は進められた。
 宰相立ち合いのもと、アレンさんは短い詠唱をすると、テオの右手の甲に小さな魔法陣を浮かび上がらせる。そしてテオに誓いの言葉を言わせると、魔法陣から白い光が放たれ、やがて彼の体に染み込むように消えていった。
 テオは妙にハイな状態で「すげーカッコイイ」「体が軽くなった気がする」などと言ってはしゃいでいる。

「休みの日に稽古をつけてやろう。もう心が決まっているのなら、座学も含めて本格的に学べ。何でも教えてやるぞ」
 アレンさんが優しく微笑むと、テオはさらに興奮して大喜びした。

 真っ白に燃え尽きそうになっているわたしに、宰相がにこやかに話しかけてくる。
「結果的に良い方向に転がったようですね」
「そ、そうなのでしょうか……?」
「陛下も諸々の報告を受ける中で、彼を騎士にしてはどうかと仰っていました」

 宰相の言葉に、テオは「王様がっ?!」と反応した。
 嗚呼、どうして皆で寄ってたかって、テオきゅんの『騎士になりたいスイッチ』を押しまくるのでしょうか。

「楽しみですね」と、アレンさんはニッコリ微笑んだ。
 わたしは心で泣きながら黙って下を向いた。

 テオは宰相に一礼すると、皆のいるテーブルへ走っていった。それはそれはもう、満面の笑みだった。
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