昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[クリス]

捜索 §2

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 タヴァルコ市長夫人と顔を合わせて五分も経たぬうち、俺は階段を駆け下りていた。
 彼女はまだ何か言おうとしていたが、もう大事なことは聞けた。領館を飛び出し、従者を呼んだ。
 夫人は護衛を連れており、俺の姿を見るやホッとした様子で「これでもう王都までの道中も安心」と言った。

 リア様は無事で、宿にいる。
 彼女は旅行会社で王都行きの旅を予約していた。グレコル滞在中に知り合った人の中に、五人で王都へ行く予定のある女性がいたらしい。しかし、そのうちの一人が個人的な都合で出発できなくなった。彼女はその空いた枠に入れてもらって帰ることになった。
 出発は今日の十四時二十分。馬車駅の中央発着場からの駅馬車だ。最悪でも、その時間、その場所へ行けばリア様と会える。

 市長夫人はリア様が発つ前に領館で父と面会し、事の経緯を話すことにしたようだ。
 リア様はダドリーの件で領館に対し著しく心証を害しており、夫人には同行しなかった。

 夫人と父が話し終わるのを待ち、宿へ同行してリア様と会う選択肢もあった。貴族然とした振る舞いなら、断然そちらだろう。だが、俺はそれが待てず雑踏の中にいる。
 馬は置いてきた。さすがの名馬も限界であり、これ以上働かせるには治癒師を呼んで回復させてやらねばならない。

 リア様と市長夫人が滞在していた宿は、領館からほど近い場所にあった。
 長期滞在者向けの宿で、決して悪くはない。しかし、聖女が泊まるような宿でもなかった。残りわずか数時間であっても、そんな場所に彼女を護衛なしで置いておくのは嫌だ。
 走って宿に飛び込み、受付でリア様を呼び出してもらおうとした。ところが、宿の主人が耳を疑うようなことを言っている。
「十分ほど前に誰かが訪ねてきて、一緒にお出かけになったようです」
「出かけた? 名は! どのような人物だったかわかるか!」
「い、いいえ、申し訳ございません。わたくしは、そこまでは……」
「取り次いだ者は? 直接話が聞きたい!」
「実は、休憩時間で外に出てしまっておりまして、それで、ここに書いてある記録しか……」

 まずい。聖女が護衛もなしに、誰だかわからない人間と街へ出てしまった。
「ザップ! 手分けして探すぞ!」
「はい!」
 ――ついさっきまでここにいた。まだそう遠くへは行っていないはずだ!

 二人で手分けをし、宿に近い場所から順に店に入って聞き込みをしていく。
 リア様は平民の姿をしていると市長夫人は言っていた。髪や瞳の色、雰囲気などを伝えて店に来なかったかを尋ねて歩く。しかし、徒歩十分ほどで行けそうな場所を探しても見つからない。
 従者と落ち合って情報交換をしたが、手がかりが得られなかった。

「範囲を広げるぞ! お前はあっち! 俺はこっちを行く!」
「はいっ!!」
 商店街の西側の通りをザップに任せ、俺は東側を捜索した。
 乗り合い馬車の待合所、土産物の店、書店、雑貨屋、服屋、文具屋、カフェ……女性が行きそうなところを順に回る。
「くそっ、どこだ! なぜ何も手がかりがない!」
 街はさらに人出が増えていた。
 人気店の建ち並ぶ商店街は普段からごった返している。さらに運が悪いことに休日だった。
 乗り合い馬車や循環馬車で、次から次へと人がやって来てあふれかえる。学生は大人と違って一人では街に出ない。仲間と連れ立ってやって来るから街が混み合うのだ。

「はい、じゃー次、ここでーす」
「わぁー、ブドウのケーキだって!」
「王宮品質のブドウを使用? すごくね?」
「これ毎年やってんね?」
「高いが美味いんだわ~」
「うわ、ほんとだ、お高い!」
「王宮品質ですから、王様キブンですよ、お嬢様」
「かーっ、王様なりてぇぇ!」
 老舗のカフェの前で、口の悪い女性が楽しそうにはしゃいでいた。
 俺も末期だ……女性が全部リア様に見える。

 彼女はすっかり変装の達人と化しており「本当に平民の町娘に見える」と、ヴィルは話していた。
 あの艶やかに美しく波打つ髪は大きな特徴だ。しかし、帽子で隠したり、束ねたりされてしまえば、とてもではないが見つけ出せる自信がない。

 どうすればいい。どこへ行けば彼女の手がかりをつかめるのだろう。
 宿に訪ねてきた人物とは何者なのだ。目的はなんだ。なぜ連れ出す必要があった。
 まさかとは思うが、妙な男に連れ去られたのではないだろうな……。そうなったら、この大陸はお終いだ。いや、世界が終わるかも知れない。少なくとも局地的に俺の人生は終わる。

 考えろ……。
 考えろ。
 考えろ!

「こっちのケーキも美味しそうっ」
「やーっばい、マジ決まんねーなコレ」
「ああぁぁ、全部食いたいよぅ」
「あっちの店も捨てがたいけどなー」
「もうムリ。思考停止だわ」

 くっそ……ちょっと静かにしてもらえないか。俺は今、ケーキどころの騒ぎではないのだ!
 しかし、俺の周りはそんな会話ばかりだった。
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