昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[クリス]

捜索 §3

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 俺が立っていたのは、領館前商店街の中でも有名なカフェ『ルクス』の前だった。
 やや高級路線のカフェではあるが、女性に人気だ。すでに聞き込みは終えている。店の前にはメニューが置いてあり、キャッピキャピの女性が群がって見ていた。

「あたしチョコのにしよっかなー」
「そこは王都のトリュフまで我慢ではっ!?」
「はっ、それがあったよ!」
「ああぁー楽しみで死ぬぜー!」
「最近そのお店で新商品が出たの」
「聖女様のショコラけぇ?」
「そそ、オランジェットってゆー」
「何それ! 何それ何それ!」
「美味しくて止まらないのー♪」

 オランジェットか……。
 あれは確かに美味かったし止まらなかった。ベッドに恵まれず、ささくれまくった俺の癒しだった。もう食べ終わってしまったから、あとはささくれる一方だ……って、そんなことは、どうでもいいんだよッ!!

 旧市街も探すべきなのかも知れない。
 古めかしい雰囲気が女性観光客に人気があるし、旅行雑誌にも載っていた。彼女なら出発前に見たいと思うのでは? しかし、聡明な彼女がそこまでの危険を冒すだろうか。
 やはり彼女を訪ねてきた人物がカギを握っている。そいつ次第で捜索場所が変わるのだ。

「干しオレンジのチョコがけか!」
「それガチうまそーじゃね?」
「チョコの聖地ヤッバいなー」
「卒業旅行に合わせてくれてる感パネェ」
「よし、何食う? ここで決めるべ」
「やっぱブドウで王様けぇ?」
「ぶぇへへへへっ」

 そうだ。土産物を買い足している可能性があるのではないだろうか。
 ブドウの菓子で有名な店がこの先にある。グレコル土産の定番中の定番だ。まずはそっちを調べるべきかも知れない。

「グレコルのスイーツ食べ納めるで」
「しばらく食えんしな」
「ワシ、二つ頼んでもい?」
「えーよー」
「やっばー! 決められんっ」
「ブドウ王になるっ」
「さすが臨時部員、わかってるねぃ!」
「イエーイ♪」
「ウエェーイ! フッフゥー!」

 があーーっ! うるせえーーーッッッ!!

 甘いもの好きな学生の集まりか何か知らないが、カフェの前で大騒ぎをしている連中がいる。
 青春なのはわかる。何もかもが楽しい年頃なのもわかる。落ち葉が落ちても笑えるような時代は誰にでもあるものだ。しかし、うるせえ。今は静かにしてくれ。
 どうやら卒業旅行で王都へ行こうとしているらしい。
 二週間かけて王都へ行き、美味いものをしこたま食べ、また二週間かけて帰ってくるのだろう。
 楽しそうで何よりだ。出発前のひとときを人気のカフェで過ごそうって魂胆も理解はできる。俺だって、そんな気楽な旅がしてぇよ。

 辺りを見回し、ザップの姿を探した。
 しかし、そこではたと考えた。

 ――あいつら、さっきなんて言った?
 オランジェットの話をしていたな。今日は何日だ?

 胸のポケットから手帳を取り出して日付を確認すると、俺が王都を出発して九日目だった。
「おいおいおい、ドノヴァン君……」
 俺に名探偵クリストファー・ジョンが憑依ひょういした。
 リア様が失踪した日、特務師のカノンは俺に試食用のオランジェットを渡しながらこう言った。
一昨日・・・、発売したばかりなんですよ」と。
 だから今日はオランジェット発売から十二日目だ。
 王都からグレコルまで、一般人が通る道のりならば約十四日かかる。
 つまり、食べたその日に王都を発ったとしても、まだグレコルにはたどり着けない!

「美味しくて止まらないのー」だと?
 それを、いつ! どこで食べたのだ!
 貴様、何者だ~~~!

 名探偵の俺は女子がギャーギャー騒いでいるカフェの入り口付近を見た。
 目ん玉ひんむいて凝視する。

「……っ!」

 ――ふっ。なるほど、そういうことか。

 俺はパタパタと服をはたいた。
 しかし、走り回って汗だくだったため【浄化】を使った。
 深呼吸をして、長く長く息を吐き出した。腹と肺がペシャンコになるくらいに。
「ふーーっ……」
 首を横に振った。
 まさかこんなオチがつくと、誰が思っただろう。

 カフェの前に、五人の若い女性がいる。
「ちょっと失礼」
 声をかけながら、俺は人をかき分け、前へ進んだ。
 掲示されているメニューにかじりついている一番かわいい女性に声をかけた。
「そこの美しいご令嬢、私は寂しい釣り人です。一緒に王都で疑似餌を眺めませんか?」
 断じてナンパではない。
 そういうことをするなら、俺はもう少し気の利いたことを言う。
 女性は振り返り、ぱっちりとした瞳をさらにパチクリとさせて「くまんつさま?」と言った。
 ――ああ、リア様だ……すげえかわいい。

 甘味同好会(?)の女学生に紛れて彼女がいた。
 聞いていたとおり平民の格好をしている。カーキ色のドレスだ。外が思ったより寒かったのだろう。格子柄のストールをかけていた。髪もおさげにしている。
 可憐かれんだ。カフェから漂う甘い匂いに混ざって、彼女の花の香りがする。

「っぎゃーー!」と、女学生たちが騒ぎ出した。
 こいつらが宿を訪ねてきた連中なのだろう。とんでもない護衛だ。こんな連中、うるさすぎて誰も近寄れやしない。
「若殿がナンパしてるぅぅぅー!」
「やめろぉぉーー!」
「リアちんは私たちのだあぁぁ!」
「そうだそうだぁーー!」
 こいつら、俺にまで虫よけ効果を発揮しやがった。なんて面白い奴らだ。
 ナンパだと? お前ら俺の下心を見たことあんのか! 俺が越えてきた山よりデカくて高いぞ、恐れ慄け。俺の性欲をナメんなぁぁ!(何の話だ??)
 俺は貴族らしくシレッと「ナンパではない。知り合いなのだ」と言った。

「どうして、ここに?」と、リア様が不思議そうな顔をして言った。
 それはそっくり丸ごと俺の台詞であるのだが「友人の代理であなたを探しに」と答えた。
「申し訳ございません。大変なご迷惑をおかけして」と、彼女はぺこぺこ頭を下げている。本当に腰の低い聖女だ。
「迷惑だなんてとんでもない。グレコルの街角にあなたがいるなんて夢のようです」と、俺は言った。うそ偽りなく、本当に夢を見ているようだった。

 感動が胸に広がり、泣きそうだった。
「若!」
「おお、見つかったぞ」
 従者のザップが合流し、感極まって涙を流した。
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