昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

文字の大きさ
65 / 392
2[リア]

和の食材

しおりを挟む
 焼きイカお兄さんに教えてもらった乾物屋へ行ってみると、感じの良い店主ご夫妻が対応してくれた。
 そこは主に南大陸のスュンノートという国の食品を扱っているお店で、予想外の個性を放っていた。
 お店の雰囲気を一言で表すなら「カオス」この一言に尽きる。

 謎の液体に漬けられた魚が視界に飛び込んできた。まるで理科室にあったホルマリン漬けのよう。
 そして、水分が抜けて石のようになったドス黒いミカンのような謎フルーツ。ひょろひょろに干からびたニンジン、触れただけで即死しそうな毒々しい色の干しキノコなどなど……
 食べても大丈夫なのか不安になる食品が、数えきれないほど並べられている。
 はるばる海を越えてくるので、乾燥、塩漬け、酢漬け、発酵など様々な手法で長持ちさせるための加工がされている。なかなかマニアックなお店だ。

 そこで愛しのお醤油を見つけた。
 このカオスの中に馴染みのあるものが埋もれているのは少し複雑な心境ではある。でも、また会えて嬉しい。

 醤油と言っても、おそらく日本のものとは少し違うと思う。
 商品名はとても長く、ナンチャラカンチャラ・ホニャホニャソースと書いてあった。
 瓶の裏側に書かれた原材料を見ると「米麹」と書いてある。
 あの醤油に感じた甘みは、米麹の仕業のようだ。
 南大陸には米がある。そして麹菌がいる。
 麹菌がいるということは、味噌もあるはず。

 お味噌、お味噌♪
 どこかなどこかな?
 むぅ……ちょっとカオスすぎるのでお店の方に聞いてしまいましょう。

「あのぅ、大豆を麹で発酵させたペースト状のものはありますか?」
「ええ、こちらにございますよー!」

 き、キターッ!
 お味噌ぉぉぉ、逢いたかったですよーっ。 

「これも買いましょう。今日は幸せいっぱいですねぇ」
「まさかリアが南大陸のものに興味を持つとはなぁ……」

 ヴィルさんは、スルメイカをうちわのようにパタパタと振りながら言った。
 勝手に袋をあけて取り出し、遊んでしまっている。
 もぉー、売り物なのにー。
 仕方がないので取り上げて袋に入れ直し、買い物カゴの中に入れた。

「これでスープを作りたいのですが、出汁を……」
「はいはい、小魚のでいいのかしら?」
「ありますかっ」
「地域によっては昆布も使いますけどねぇ。あとは、これトビウオね。カツオっていう人もたまーにいますよ」

 きゃーっ、きゃーっ♪
 ぜ、ぜんぶっ、ぜんぶ欲しいですっ。

 アゴだしまでゲットできるなんて、もはや嬉しすぎて発狂寸前。
 店主の奥様に教えてもらいながら、海苔とも再会を果たした。気分はすっかり秘境を旅するトレジャーハンターだ。

 お米も発見ーーっっっ!

 お店が精米機を持っていて、その場でガーっと精米して売ってくれるタイプだ。
 食通でセレブな貴族様が、たまーにポリッジ(お粥)用に買っていくそうだ。そして、南大陸ではお米を主食にしている地域が多いと教えてくれた。

 これで料理長にも本格的に異世界料理をご紹介できます。
 まずはお米からご説明させて頂きましょう。
 和の道「おにぎり」へ行くか、すんなり馴染めそうなイタリア方面「リゾット」へ行くかは要相談ですねぇ♪

 通行人を装って近くを通りがかったイケ仏様の視線が、わたしの手元に釘付けになっていた。
 抱えていた長~い昆布をガン見している。

 「ふ……アレンが面白い顔をしているな」と、ヴィルさんが言った。

「『そんなものを買って何をする気だ』と顔に書いてありますねぇ」
「ははっ、いかにもあいつが言いそうだ。リアに心を読まれている」
「うふふ」

 お菓子なども色々と買い込んだ。
 荷物は同行した人達がどんどん荷馬車まで運んでくれる。この市場でなら、いくらでも買い物ができそうだった。
 やはりわたしには大きなダイヤモンドよりも長~い昆布のほうが身の丈に合っているのだ。

「はあぁぁぁ、ありがとうございました。とても楽しかったです。ここにはまた来たいです。頻繁に来たいです。隣に引っ越したいくらいです」
「俺もリアのはしゃぐ姿が初めて見られて良かった。また来よう」

 額に小さなキスが落ちてきた。

 ドキドキして、嬉しいような、でもちょっと困るような……。
 イケ仏様かジェラーニ副団長がそばにいれば「触るな」と言って離してくれるけれども、彼らがいないときにヴィルさんを止められる人は誰もいない。むしろ王甥にそれができる人のほうが特殊だった。

「さて、歩き疲れただろう。どこかで休もう」
「あ、はい」

 ヴィルさんは外でも常に世界中を癒せそうな笑顔を浮かべていた。
 青く晴れた空を背景に見る彼の笑顔は、三つ目の太陽に匹敵するほど眩しい。

「貴族街のカフェか、途中で良い所があれば、そこでもいいが」
「そうですねぇ」

 お喋りをしながら市場の隣にある馬車停めへ向かい歩いていると、どこからともなく珈琲を焙煎する香りが漂ってきた。
 思わず立ち止まり、スンスンと香りが流れてくる方向を探す。

「リア、どうした? 俺が吸う空気がなくなるぞ」
「珈琲の香りがしませんか? 気のせいでしょうか」
「リアは珈琲を知っているのか? しかし、あっちは庶民街だな……」
「近くにカフェがあるのでしょうか。あ、それとも、焙煎だけをやっている工房とか?」
「珈琲の焙煎だけをやっている商人というのは、聞いたことがないな」
「ちょこっとだけ行ってみませんか?」
「ふむ、では少しだけ探検といこうか」

 わたし達は仲良くスンスンしながら香りを辿って歩き、ひっそりと佇む古めかしい喫茶店を発見した。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...