昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

猛獣使い §1

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 テオはほかの子とは少し違う行動をとることがあった。
 皆が宝探しに夢中になっているのに「オレは別にいいや」と言って、くまんつ様のそばを離れない。
 年下のショーンはその影響を受け「僕もいいや」とついていく。
 二人は腰に新聞紙で作った棒(剣のつもりらしい)を下げ、くまんつ様が腕を組めば同じように腕を組み、ポケットに手を入れればそれも真似していた。

「一緒にやろうよ」とディーンが誘っても、彼らは動かない。
 ほかの子どもたちは、二人の行動が理解できず、ついにはサナが「あんたたち、何してんの?」と強い口調で言い始めた。六人の間の空気がピリッとし始める。

「やっぱりそうなりますか」と、わたしはつぶやいた。
「想定どおりの展開ですね」と、アレンさんは苦笑している。

 第三騎士団から「テオは少し難しい子です」と報告があったのは、教会での世話を任せて二日後のことだった。
 素直でいい子だが、素直すぎて協調性に欠ける。いずれ施設で暮らすのだから、問題児にならないよう今のうちに何か対策を――と、そんな内容だった。

 わたしにとっては思いもよらぬ助言だった。ショックを受けてオロオロしていると、アレンさんはこう言った。
「大丈夫です。早々に『猛獣使い』と話をしましょう」
「……なんだその二つ名」と思ったけれど、彼の表情は真剣そのもの。
「猛獣をネコに変える男を、よく知っています」と言うのだ。
 彼はその人物と会う約束を早々に取りつけた。

 翌日の午後、場所は騎士団通りにあるカフェの個室。わたしたちは失礼のないよう、早めに入って待っていた。
 猛獣を意のままに操るなんて、いったいどんな人物なのだろう。
 職人肌のおじいさんや、包容力あるお母さんタイプなど、いろいろと想像しながら、わたしは祈るように手を組んだ。
 どうか、テオくんをお救いください、と。

 満を持して現れた猛獣使いは、ラフな服装で「よお」と言いながら部屋に入ってきた。
 顔を見た瞬間、わたしは椅子から転げ落ちそうになった。
「すみません、休みの日に」と、アレンさんが頭を下げている。
「午後は空いていたから、問題ないぞ」
「く、くまんつ様……!」

 まさかの展開だった。猛獣使いとは、くまんつ様のことだったのだ。
 彼の異名は「オルランディアの虎」か「猛虎」だったはず……。いったい、いくつ二つ名を持っているのだろう。しかも「猛獣使い」って何!?

「今日はテオのことでご相談が……」
 アレンさんが経緯を説明する間、くまんつ様は固めのクッキーをポキポキ割りながら、落ち着いた様子で聞いていた。

「俺も昨日、ニッコロから同じ報告を受けたけどさぁ」
 わたしの好きなカジュアルくまんつ様だ。いつか、わたしにもこんな感じで話していただけないかしら。
「どうにも要領を得ないというか、事の本質をきちんと捉えていない気がしてな」
 そう言ってクッキーをひとかけら食べ、お茶を飲んだ。

「テオの協調性うんぬん、というのは問題ないということですか?」
 アレンさんが尋ねると、くまんつ様は手の粉を払いつつ、気の抜けた声で言った。
「だってお前さあ……ずうっと一人で水みと薪割りをしていて、協調性が必要だと思うか?」
「いいえ、まったく」と、アレンさんはきっぱり答えている。

「だろ? 教える大人もいないのに、身につくわけがない。教えてやればいいだけの話だろ?」
「……仰るとおりです」
「あるはずのないものを『ないない』『問題だ』と騒ぐのは違うと思うぞ」

 くまんつ様は「協調性がない」という報告そのものを疑っていた。
「俺は本当に協調性のない奴を見てきているからな」
「私も何人か、心当たりがありますが……」
 二人は知り合いの誰かを思い出しているのか、うなずき合って笑みをこぼしている。

「皆で何かすると毎回ケンカ、勝手に単独行動、上下関係のない仲間内で王になろうとする――本当に協調性がない人間とは、そういう奴のことだろう?」
「そうですね。しかし、テオはそういうタイプの子ではありません」とアレンさん。
「だろうな。ほかの子を連れて逃げ、共同生活をし始めたわけだし……」

「テオは皆のために闘っていた子なのです」
 アレンさんの言葉に、わたしは何度もうなずいた。
 テオは口数の少ないリーダーだった。威張らず、指図もせず、必要なことを一人で黙々とやって皆を守る――そんな子だ。

「もっと冷静に現場を見て、整理してから報告し直せ、と話したところだ」
「そうだったのですね」
 わたしとアレンさんは顔を見合わせた。

 王宮から帰ってすぐ「テオが!」と報告を聞かされ、ワーッと慌てふためいて冷静さを欠いた。現場の状況も見ずに人に頼った自分が恥ずかしい。
 もし、あの時の勢いで教会に乗り込んでいたら、きっと子どもたちを驚かせてしまっただろう。とにかく反省しきりだ。

 わたしたちが謝ると、くまんつ様は首を振った。
「いや、謝るのは俺のほうだ。未熟な部下が忙しい二人に迷惑をかけた。申し訳ない」
 くまんつ様はそう言って、ふっと微笑んだ
「あの子は大丈夫だ。自分が手を止めたら仲間が死ぬとわかっていたのだろう。大したものだ。なかなかできることではない」

 夕方にはニッコリさんと隊長さんも合流し、騎士団の会議室で詳しい話を聞いた。
 テオは空腹時に食べ物へ興味を示す以外、憧れの騎士が絡まないとほとんど反応を示さなかった。英雄伝の読み聞かせでも、騎士が登場する場面しか聞かないらしい。
 皆が本に興味を持ち始めても「オレはいい」と言って新聞の棒を振り回していた。短く簡単な単語なら読めるが、文になると「面倒くさい」と言って拒んだ。

 いくら憧れても、読み書きができなければ騎士にも兵士にもなれない。普通の仕事を探すのも難しくなる。せめて少しずつでも――それが皆の願いだった。

「すみませんでした。一番の問題というか、我々が困っていたのは、彼が『学ぶことに興味を持ってくれない』ことなんです」
 そう言うと、ニッコリさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
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