そうだ、小説について話をしよう

読者は手の中の鳩のように扱おう

　メジャーリーグの元監督ラソーダ氏の言葉を引用する。

　野茂英雄がメジャーデビューした時の、ドジャーズの名将の言葉である。

「監督業とは手に鳩を抱くようなもの。強く握れば死んでしまうし、弱ければ飛んでいく」

　この言葉に出会ったとき、ジオラマは強い感銘を受けた。

　それは、高い普遍性のある格言だったからだ。

　この言葉は当然小説にも当てはまる。

　どう当てはめるか。

　鳩は読者、監督とは物書きと読み替えてみてほしい。

　つまりはこういうことだ。

　語りすぎては、読者の心を殺してしまう。語らなければ物語は始まらず、読者は飛んで行ってしまう。

　これが「書きたいことを書かない」という話につながる。

　書きたいことは、大概にして、直接的な表現で語ってはいけないことだ。

　一番美味しいところは読者に味わってもらう。

　自分自身の想像力で補ってもらう。

　自然と答えにたどり着けるよう、作者は、何もしていないふりをして、優しく読者の心を誘導するだけ。

　誘導されているとすら感じないほど、自然な思考の流れを、文と文の組み合わせで紡いでいく。

　嫌われる文章は、よく「説明っぽい」と言われる。

　これにはいくつかの要素があるけれど、一番の原因は「一番美味しい部分を作者が持っていってしまっている」ということ。

　一番楽しみにしていたデザートを横取りされて、食べられているところを見せられているような感じかな。

　この際だから、敵を作るのを承知で、自分のことを棚に上げて言ってしまおう。

『Web小説の少なくとも九割は、作者が美味しいところを持って行っている』

　要は、説明っぽい文章が大半と言うこと。

　そして、困ったことに説明が足りない文章も九割だ。

　九割足す九割は十八割だよね。ジオラマは算数もできないのかい？

　そうお叱りを受ける前に言っておこう。

「説明しすぎ」と「説明不足」は両立する。

　変な話、説明してほしいところは説明しないくせに、自分の思考を縛らないでほしいと思う部分はしっかり縛ってくる。

　最悪の組み合わせだ。

　説明が多くても、うんちくみたいに「へーそうなんだ」と、知的好奇心を満たしてくれる文章もある。
「説明が多い」のと「説明っぽい」のは似て非なるものだと思う。
　そこら辺の線引きは、単に読者の気持ちを作者が理解できているかによるのだろう。


　説明っぽさを消す方法はいくつかある。

　その一つが、読者に質問するという方法だ。

　これは、実は好き嫌いがあって、受け付けない人もいるので注意が必要だが、ジオラマ的にはありだとおもっている。

　一つ便利な魔法の言葉を挙げよう。

　それは、「気のせいだろうか」だ。

　この言葉の意味することは、「気のせいではない」だ。

　今まで読んできた小説で、「気のせいだろうか」が気のせいだったことは一度もない……多分。

　でも、気のせいだろうかと書くことで、多くの読者は考える。反語で突っ込みを入れる。

「気のせいだろうか？　いや、気のせいじゃないだろう」と。

　ここに、作者と読者のノリ突込み漫才が成立する。

　こうやって、読者にも小説に主体的に参加してもらえるギミックを準備することで、説明っぽさは少し軽減される。

★☆★

　今回も思い浮かんだことを、だーっと勢いで書かせてもらいました。
　こんな感じで、小説談話を続けていこうかなと思っています。