恋するソムニと白馬の幻

ナポ

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1.夢見る花畑の貴族


とある貴族のソムニ・パーティクルは、煌びやかな部屋とは言い難い質素な部屋でひとり刺繍を指していた。

貴族と言っても貧乏でお金が無く、家計が火の車であるパーティクル家。

少しでも稼ごうとソムニは手を動かした。

しかし、恋に恋する彼の脳内ではいつもの様に花が咲いていた。

『今日もまた、世界は恋に満ちている……そう、ここは美しい花畑!可愛らしい妖精と優しい王子様……!優しく手を引かれて散歩をする…』

「……ふふふ、ようこそ、我がバラの館へ。ええ、あなたが私の運命の相手……ですね?なんてっ!」

刺繍糸をくるくる巻きながら、ソムニ・パーティクルはぽわんと頬を染めて微笑む。

目の前にあるのは、ただのクッションカバー。けれど彼にとっては、王子様との永遠の愛を誓う夢の舞台である。

「おい、また始まってるぞ」

部屋の扉が開いた音に、ソムニはびくりと肩を跳ねさせた。

現れたのは、泥だらけのブーツにシャツの袖をまくった、見慣れた少年。

「チルド!ノックして!乙女の妄想空間に無遠慮に踏み込まないで!」

「つーか乙女ってなんだ、お前男だろ!」

「僕の心はいつだって乙女だよ!!」

「あーはいはい、お前は乙女だったな」

「もう!」

ソムニの幼なじみ、チルド・キャールソン。万能便利屋(自称)今日も山から帰ってきたばかりらしく、魔物の毛皮と薬草入りの袋を背負っていた。

「父様の手伝い、終わったの?」

「ああ。山道ぬかるんでたけど、例の皮、持って帰ってきたぜ。……ほら、報酬の半分」

いつもの様にチルドが今日の取り分を手渡す。

「ありがとう!今夜のおかずが豪華になるね……!」

くるくる変わるソムニの表情を見ながら、チルドは手を洗いに奥へと向かった。

戻ってくると、机の上には紅茶とクッキーが用意されていた。

「おぉ、今日は焼いたんだな。……ん、美味い」

「ほんと?それ、夢見るマジョラムの香り、恋の味!」

「知らねーよ」

年季の入った少し軋むソファーに、二人で並んで静かに紅茶を飲む。

村の外れの小さな屋敷。薄汚れたソファと、擦り切れた絨毯。でもこの部屋は、ソムニにとって世界で一番、安心できる場所だった。

「ねえチルド……最近、妖精のタマゴが見つかったって話、聞いた?」

「……またその手の話か。どこの誰が言ってたんだよ」

「薬屋のポーレおばさまが!昔、森で拾ったことがあるって……!僕もいつか拾って素敵な王子様と恋をするんだ」

「タマゴ拾っただけで何でそうなるんだよ」

「もう、現実を突きつけないで!」
 
頭を抱えるチルドの横で、ソムニの妄想劇場がまた開幕しはじめた。

「――白い光に包まれ、卵から現れる麗しの王子。「君を迎えに来たよ」と囁く声に、胸は高鳴り……!!」

「……おまえのその妄想、いったい何回目だ?」

「今回の王子様はね、妖精で、冷たくてツンとしてるけど、実は孤独な人なの!そこに僕が癒しを与えて、そしてふたりで恋に落ちて、夜明けの森でキスを……」

「こら待て、夜明けの森はまずいだろ、狼が出るぞ」

ソムニは紅茶を飲み干し、うっとりと息をついた。

「いつかきっと、迎えに来てくれるの……僕の、白馬の王子様が」

その横で、チルドは小さく鼻を鳴らした。

「……バカか、おまえ」

「バカじゃないもん!ロマンチストなの!」

その声にチルドはふと視線を外す。日差しの差し込む窓の向こう。あの光の先に、ソムニの夢はあるのかもしれない。
……でも。

「白馬の王子が来ねぇなら、俺が馬になってやってもいいぞ」

「えっ?」

「……いや、なんでもねぇ」

妄想にふけっていたソムニはチルドの言葉が聞き取れず疑問符を浮かべる。

チルドはそっとクッキーを取り、口に放り込んだ。


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