恋するソムニと白馬の幻

ナポ

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8.薬屋ポーレおば様


ソムニがチルドと一緒に町へ出るのは、ひさしぶりのことだった。
といっても、目的はデートではない。チルドが山から採ってきた薬草を、薬屋へ売りに行くだけ。

「ポーレおば様、いらっしゃいますかー!」

「おやおや、ソムニちゃんにチルド坊や。珍しい取り合わせねえ。……って、あらまあ?」

くるりと振り返った薬屋の奥から、太った猫を抱えたポーレおば様が現れた。

「その後ろの綺麗な子はだれだい? 人間じゃないように見えるけど……妖精かい?」

「……初めまして。フィリオ・エルヴァリス。ソムニに呼ばれて来た。契約中だ」

「けっけっけ。契約中、ねえ。そういうの、昔流行ったねえ。あんた、ソムニちゃんの彼氏?」

「違いますっ!!」

「可能性はある」

「フィ、フィリオぉ!?!?」

チルドがどこか眉をひそめた。

「……で、おば様。薬草、今日も良いのが採れたってチルドが」

「はいはい、お金に困ってるお貴族様のために、今日も張り切って買い取らせてもらうよ」

ポーレおば様は薬草の束を広げると、鼻をひくつかせて品質を確かめる。

「ん、いい匂い。これは『恋の呼び草』ね。昔はねえ、これを髪に忍ばせて告白したもんだよ」

「へえ……恋の、草……」

隣でうっとりしているソムニに、チルドは小さくため息をついた。

「また花畑か、おまえ……」

「だってロマンじゃない!?草ひとつで恋が叶うなんて!!」

「……恋って、そんな簡単に叶うのか?」

突然、フィリオが真顔で割り込んできた。

「えっ?」

「草で叶うなら、努力も感情もいらない。なら、恋って……何の意味がある?」

「えええっ!?ちょ、ちょっと、今哲学的なこと言ったよね!?ていうか僕に聞かないでよ!!」

「あらあら。これは一波乱あるねえ……。いいねえ若いって……。じゃああたしから、ひとつ恋の知恵を」

ポーレおば様がにやりと笑って、
香水瓶をひとつ取り出す。

「『恋のレモン香』。胸がきゅうっとなるあの味よ。使いすぎに注意、惚れ薬じゃないけど、気持ちはちょっと揺らぐかもねえ?」

「えっ、ほ、惚れ薬じゃないんですか?」

「そう思って使えば惚れ薬よ」

「ええええええ!!!」

チルドがまた額を押さえた。

「……くだらねぇ」

「チルド、僕、これ買っていいかな……!?いや買えないけど……!!」

「やめとけ。そもそも金無いだろ」

「……そうだった」

「いいじゃないか。それより、僕に恋を教えてくれよ、ソムニ」

「うわあああ、ちょ、ちょちょっ、今、店内っ!!やめてってばっ!!ポーレおば様がにやにやしてるう!!」

「けっけっけ。いいもん見せてもらったわい」

「じゃあ明日、街で恋の研究しよう」

「えぇぇ?!」
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