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しおりを挟む王立学園の始業式。
平凡で、静かに、目立たず、そう心に誓って門をくぐったリレフ。
朝、鏡の前で整えた髪はふんわりと光を反射し、制服は貴族家らしく仕立てが良すぎた。
控えめにしたはずなのに、どこか浮いているのは仕様かもしれない。
「くそ……なんで俺だけ着せ替え人形みたいなんだよ……」
ブツブツ文句を言いながら教室のドアを開けた、その瞬間。
「……かわ……」
「うぉぉぉぉぉっ!? すっげえ! お人形みてぇ!!」
「声がデカい」
耳が痛くなるほどの声で飛びついてきたのは、クラスメイトのアッシュ・トースト。
茶色の髪がぼさぼさで、目がキラキラしてる時点で危険信号だ。
「なあ! 君ってシーストンの跡取りのリレフだろ? 俺、アッシュ! よろしくな! なあ、なんでそんなふわふわしてんの?」
「朝からテンションが高いな……よろしく」
あぁ、面倒の匂いがする。
「アッシュ、騒ぎすぎ。リレフが逃げてるだろうが」
そう言ってアッシュの襟をひょいとつまんで引きずるように引き離してくれたのは、隣の席の輝く金髪に赤い瞳のタラード・マイヤーズ。
「教科書、持ってきたか?」
「……はっ!」
「忘れてると思った」
「ちぇー」
二人の会話を眺めつつ、リレフは(まともそうなやつがいて助かる)と思ったが、その数分後には、
タラードのカバンからなぜかリンゴが出てきて、思考をやめた。
そんなこんなで慌ただしい初日が終わり、寮の自室でリレフが一息ついていると。
「失礼するよ」
ノックもせず入ってくる黒髪の影。アネス・ルーベント。
「おい、ノックくらいしろ」
「したよ?」
「嘘つけ」
「今日も目立ってたね、リレフ」
「望んでねぇよ……全部アッシュのせいだ。あいつ、すぐ叫ぶし飛びついてくるし……俺は静かに暮らしたいんだ」
ぬいぐるみの耳を引っ張りながらうめくように言うと、アネスはふっと笑った。
「可愛いものが好きな君が、必死に平凡を守ってるの、見てて飽きないよ」
「からかってんのか?」
「とんでもない。癒やされてる」
「うぜぇ……」
口ではそう言いつつも、リレフは追い出さなかった。
むしろ、アネスがいるこの空間だけは、どこか自分を隠さなくてもいい場所に感じていた。
その夜、ベッドの中。
もふもふのぬいぐるみを抱きしめながら、リレフはぼそりと呟く。
「……平凡って、難しいな」
けれどその難しさも、ちょっとだけ悪くない、そんな風に思い始めていた。
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