平凡になりたい俺

ナポ

文字の大きさ
2 / 12

2

しおりを挟む

王立学園の始業式。

平凡で、静かに、目立たず、そう心に誓って門をくぐったリレフ。

朝、鏡の前で整えた髪はふんわりと光を反射し、制服は貴族家らしく仕立てが良すぎた。
控えめにしたはずなのに、どこか浮いているのは仕様かもしれない。

「くそ……なんで俺だけ着せ替え人形みたいなんだよ……」

ブツブツ文句を言いながら教室のドアを開けた、その瞬間。

「……かわ……」

「うぉぉぉぉぉっ!? すっげえ! お人形みてぇ!!」

「声がデカい」

耳が痛くなるほどの声で飛びついてきたのは、クラスメイトのアッシュ・トースト。
茶色の髪がぼさぼさで、目がキラキラしてる時点で危険信号だ。

「なあ! 君ってシーストンの跡取りのリレフだろ? 俺、アッシュ! よろしくな! なあ、なんでそんなふわふわしてんの?」

「朝からテンションが高いな……よろしく」

あぁ、面倒の匂いがする。

「アッシュ、騒ぎすぎ。リレフが逃げてるだろうが」

そう言ってアッシュの襟をひょいとつまんで引きずるように引き離してくれたのは、隣の席の輝く金髪に赤い瞳のタラード・マイヤーズ。

「教科書、持ってきたか?」

「……はっ!」

「忘れてると思った」

「ちぇー」

二人の会話を眺めつつ、リレフは(まともそうなやつがいて助かる)と思ったが、その数分後には、
タラードのカバンからなぜかリンゴが出てきて、思考をやめた。


そんなこんなで慌ただしい初日が終わり、寮の自室でリレフが一息ついていると。

「失礼するよ」

ノックもせず入ってくる黒髪の影。アネス・ルーベント。

「おい、ノックくらいしろ」

「したよ?」

「嘘つけ」

「今日も目立ってたね、リレフ」

「望んでねぇよ……全部アッシュのせいだ。あいつ、すぐ叫ぶし飛びついてくるし……俺は静かに暮らしたいんだ」

ぬいぐるみの耳を引っ張りながらうめくように言うと、アネスはふっと笑った。

「可愛いものが好きな君が、必死に平凡を守ってるの、見てて飽きないよ」

「からかってんのか?」

「とんでもない。癒やされてる」

「うぜぇ……」

口ではそう言いつつも、リレフは追い出さなかった。
むしろ、アネスがいるこの空間だけは、どこか自分を隠さなくてもいい場所に感じていた。


その夜、ベッドの中。
もふもふのぬいぐるみを抱きしめながら、リレフはぼそりと呟く。

「……平凡って、難しいな」

けれどその難しさも、ちょっとだけ悪くない、そんな風に思い始めていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...