平凡になりたい俺

ナポ

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夕暮れ時。学園寮の廊下。

リレフは今日もなんとなく胸がざわついていた。
ラースと話したあと、自分の中で確かに生まれてしまった“気持ち”の輪郭。

……これって、恋……なのか?

考えたくないけど、考えてしまう。
そんな風に、もやもやとしたまま部屋に戻ろうとしたとき

「リレフ」

不意に、背後から呼び止められた。

振り返ると、そこにはアネス。
珍しく、髪が少し乱れていて、呼吸も浅い。何かが、違った。

「……どうした。用事なら明日でも……」

「だめだ。今日じゃなきゃ、もう抑えられない」

そう言って
アネスはリレフの腕をぐっと掴んだ。


「ちょっ、おい!? な、なんで部屋に――」

バタンと扉が閉まる。

リレフの背中が壁に押しつけられる。
至近距離に、アネスの黒い瞳。
熱がこもっていて、いつもの冷静なそれじゃない。

「俺の気持ち、もうずっと言えなかったんだ」

「は……?」

「誰よりも早く出会ったのは俺だったのに、誰よりもそばにいたかったのに、ずっと、ただの“友人”でいようとしてきたのに」

アネスの声が、震えていた。

「……なのに、なんでラースなんだよ」

「っ……」

「俺のこと、避けるようになったよな。視線も、言葉も。……もう、限界なんだ」

息が触れるほど近く、アネスはリレフの肩に手をついて、ぎりぎりのところで押しとどまっていた。

「なあ、リレフ……お願いだから、俺だけを見てくれよ」

リレフの胸がドクン、と跳ねる。

アネスの言葉はまるで熱を帯びていて、
その瞳は、リレフしか映していなかった。

「やめろ、そんな目で見るな……」

「じゃあ、どうすればいい?……こうすれば、伝わる?」

その言葉と同時に、アネスは
そっとリレフの手首を引き、ベッドに倒れこませた。

(……っ、あ)

片腕を枕元について、動けないように囲う姿勢。
けれど、アネスはキスをするわけでも、無理やり触れるわけでもなかった。

ただ、リレフの頬に額をそっと寄せるようにして

「……君に触れたい。でも、それで嫌われるのは……怖い」

震えた声は、たった一人の少年の、
長く押し殺していた想いだった。


沈黙の中、リレフは動けなかった。

怒っているわけでも、怖いわけでもない。

ただ、胸の奥がしんと疼いていた。

(アネス、お前……そんな顔、すんなよ)


この夜、ふたりはそのまま言葉を交わさずに過ごした。

ひとつの関係が、静かに壊れ始めていた。

そして、もう一つの関係が─確かに揺れ始めていた。

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