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しおりを挟む春の風が、校舎の間を吹き抜ける。
王立学園・卒業間近。
生徒たちは騎士学校への進路、就職、冒険者、そして貴族の家督、それぞれの道を歩き出そうとしていた。
リレフもまた、進路は決まっていた。
冒険者見習い。
目立たず、誰にも束縛されず、自由で平凡な暮らしを求めて。
そんなある日の放課後。
中庭でぬいぐるみを干していたリレフに、声がかかった。
「……リレフ」
聞き慣れた、けれど少し低くなった声。
振り返ると、そこにはディノ・アルバート。
いつものキラキラした笑顔はなかった。
制服の上着を脱いだ姿は、どこか旅立ちを思わせる静けさをまとっていた。
「時間、もらえるか?」
「……今さら何だ。しつこいって、何回も─」
「最後に言わせてほしいんだ。……本当に、これが最後だから」
リレフは黙ってうなずいた。
二人きりの庭園。
風が静かに吹き、桜のような淡い花が、ふわりと舞う。
ディノはリレフに向かって、まっすぐ立った。
「俺、君に初めて会った日、馬鹿みたいに一目惚れして」
「知ってる」
「……そうだな。全部、押しつけてばっかりだった。恋だ、運命だ、毎日うるさかったと思う」
リレフは、口を閉じたまま聞いていた。
「でも、分かってた。……君が俺を見てなかったことも、誰か別の人を見てたことも。全部、分かってた」
「……」
「それでも、俺は──君のこと、本気で、好きだったんだ」
ディノは、ポケットから小さな箱を取り出した。
中には、ぬいぐるみの形をした、小さなブローチ。
「これ、作ったんだ。君のこと、ちゃんと見てたつもりだったから。好きなものくらい、覚えてる」
リレフは驚いたように、それを受け取った。
「……なんだよこれ、こんな器用だったっけ」
「恋の力って、すごいんだな」
ふっと笑って、ディノは一歩下がった。
「俺は、君の答えが“NO”でも、もう大丈夫。ちゃんと、君の想いを尊重できるようになった。……それを伝えたくて来たんだ」
「……ディノ」
「返事はいらない。泣いたりしないから、安心してくれ」
「……泣きそうな顔してるぞ、お前」
「してない。カッコよく卒業したいんだ、俺だって」
そう言って、ディノはリレフに背を向けた。
「好きだったよ、リレフ……幸せになってくれ」
それは、騒がしかった彼の、最後の告白だった。
リレフは、受け取ったブローチを胸元で見つめながら、そっと呟いた。
「……お前、最後だけずるいくらいカッコつけるな」
風に吹かれたその声は、どこまでも優しくて、少し切なかった。
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