僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

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教育実習三週目

20

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 気がつくと、リョウの顔が間近に迫っていた。
「や、やだっ!」
 反射的に顔を背ける。一昨日の小池、昨日のトモ……。偶然とはいえキスしてしまった。でも誰でもいいわけじゃない。嫌なものは嫌なんだ。

「なぜ? 減るもんじゃあるまいし。」
「へ、へ、減ります!」
 断言してから考える。何が減る? いや何が減るのかは分からないけど、何かが僕の中で減っていくような気がする。ここでリョウとキスするのは違うだろ。……何が違うんだ? 誰とキスするのかってそんなに重要?

「……ね、トモとキスした?」
「!!」
 囁くように言われた言葉が僕の脳髄に稲妻のように響いた。驚きすぎて何も隠すことが出来なかった。僕ってそんなにおかしかった? なぜバレてるんだ? たぶん真っ赤なままの僕の顔を、リョウが真剣な目でジッと見つめていた。
 
「やめろっ!」
 いきなりキッチンのドアが開いて、トモが飛び出してきた。トモの顔を見て力が抜ける。トモは大きな手で、リョウをベリっと引き剥がして、僕から遠ざけてくれた。膝から崩れ落ちてヘナヘナと座り込む。

「なになに? 何かやってる?」
 トントンと軽い足音を響かせながら、ユウが階段を降りてきた。今まで寝てたのか、茶髪の髪に手櫛を通しながら。心臓がバクバクしているのを鎮めようとしながらユウを眺めた。降りてくる姿も何故か優雅に見えて……ユウらしい。

「いや、カズがあまりにも初心な反応だからさ、つい調子に乗っちゃった。」
 ユウがトモの隣に立ち、長身2人に迫られてリョウが舌をペロリと出す。真剣だった表情が消え、戯けた振りをしているのが丸わかりだった。

「はいはい。じゃあ、ゆっくりと話を聞こうか。」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
「暴れるな。危ないだろ?」
 ユウがリョウを担ぎ上げた。それこそ俵でも持ち上げるように、軽々と肩に担ぎ上げて。降りようとするリョウの膝のあたりをしっかりと押さえ込み、また2人で階段を昇っていった。

「……大丈夫か?」
 唖然と2人を見送っていると、トモが僕の頭に手を乗せた。途端に体がピクンと反応する。昨日の事を思い出して、羞恥で顔が熱くなるのが分かった。

 2日前から、僕の周りが動き始めたように思う。いや、厳密に言えば3週間前。この3人がいつの間にかシェアハウスに乗り込んできた時からだ。教育実習も後1週間。明日はまた小池と会う。どんな顔をして会えばいい? あと5日間で、小池に何か言ってやることができるだろうか? 何を? 僕は何を言いたいわけ?

「ほら、立って。」
 トモから差し出された手を取り立ち上がる。混乱する頭を抱えながら取ったトモの手はとても温かかった。

「だ、大丈夫。」
 だと思う……。何が大丈夫なのか自分でも分からないけど、とにかくあと5日間でなんとかしなければ。小池の心を傷つけたままではダメだ。

 トモの顔を見上げながら、そんな事をふと考えていた。


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