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遭遇5 〜侑〜
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自分のアパートまでは歩いて10分ほど。15分はかからない。でも今日は何故だか遠く感じる。背負ったお気に入りの鞄も重い。今夜は何を食べようか。
すっかり暗くなった上り坂を一人でゆっくり歩いていた。線路沿いのこの道は人通りは少ないけど、街灯もあるし1番の近道。もう少しだけ行ったところに自分のアパートへ通じる細道がある。
一本隔てた向こう側の道にはコンビニもあるし、スーパーや飲食店もあって賑やかだ。けれども今日は煩い中を歩く気持ちにはなれなかった。
『國彦くんは上手かったな。』
さっきまで受けていた授業を思い出す。資料作成ツールを使って上手く纏めていた。自分も同じ作成ツールで纏めていたけど、効果音までは考えてなかった。入れた方がいいかな?
そんな事を考えながら歩いていたとき、いきなり誰かの腕が背中を押した。自分は、右後ろから斜めに押されて、道の真ん中に向かって倒れ込んだ。
「危ないっ!」
坂の頂上から車のライトが光ると同時に、また後ろの方から誰かが走ってくるような音がした。自分の体が抱き抱えられて後ろに引き寄せられる。車が自分たちの足元のギリギリの所を通っていくと同時に、最初の1人が走り出した。
「ちょっと待ってろ。」
自分の後ろにいた男が呟いたかと思うとサッと立ち上がり、最初の1人が逃げて行った後を追い始めた。……力が入らない。尻もちをついたまま道の端によけて、男たちがあっという間に消えていった坂の上を眺めていた。
「いてっ! いてててっ! は、離してっ!」
『和樹!』
暫くして、やってきた2人を見て驚く。腕を後ろに捻り上げられて連れてこられたのは和樹だった。そしてその腕を掴んでいるのは。
『純!』
知ってる2人が目の前にやって来た。そしてこの状況。えっ? 最初に自分を転ばせたのは和樹だったの?
「お前、侑の元カレだろ? 別れたんじゃなかったのか。何? 未練? 女々しい奴だな。」
「…………。」
純が目を細くして和樹を見下げながら、低い声で語りかける。和樹は俯いたまま、声が出ないようだった。自分の体が小刻みに震えてきた。
「侑、どうする。俺が目撃者。コイツは駅からお前の後をつけて、わざと突き飛ばした。車が来るのを見計らって。……駅前の交番に突き出すか?」
顔を上げてこちらを見た純と目が合う。自分は首を横に振った。全身がガタガタと震えてきて、両腕を自分の体に巻きつけた。でも、震えが止まらない。和樹が……自分を……。
「お前な、今やった事は殺人未遂だぞ? 成人してんだろ? ムショ行きだ。それでもいいのか?」
腕をさらに捻り上げて語りかけた言葉に、和樹が首を振った。顔から雫が垂れている。……泣いてる。
「侑は警察に突き出さなくていいとよ。よかったな。でも、もう侑には近づくなよ? どこででもだ。近づいたと聞いたら、俺が黙っちゃいない。……分かるな?」
和樹が激しく頷く。
「じゃあ、状況証拠写真でも撮らせていただきますかね。ホラ歩け。」
2人が少しだけ近づいてくる。思わず後ろに行こうとした自分がいた。けれども、線路を隔てる柵があって、それ以上後ろに行くことができなかった。
「侑、ごめんな? あとでコイツが何かしてきた時の保険だから。コイツを捕まえてから録音もしてる。」
純が片手でスマホを操作して自分の方に向けて写真を1枚撮った。その瞬間、和樹が顔を上げる。和樹は鼻水を垂らしながら、顔をくしゃくしゃにしていた。純が手を離すと、和樹は一目散に駅の方へと駆け出していった。
すっかり暗くなった上り坂を一人でゆっくり歩いていた。線路沿いのこの道は人通りは少ないけど、街灯もあるし1番の近道。もう少しだけ行ったところに自分のアパートへ通じる細道がある。
一本隔てた向こう側の道にはコンビニもあるし、スーパーや飲食店もあって賑やかだ。けれども今日は煩い中を歩く気持ちにはなれなかった。
『國彦くんは上手かったな。』
さっきまで受けていた授業を思い出す。資料作成ツールを使って上手く纏めていた。自分も同じ作成ツールで纏めていたけど、効果音までは考えてなかった。入れた方がいいかな?
そんな事を考えながら歩いていたとき、いきなり誰かの腕が背中を押した。自分は、右後ろから斜めに押されて、道の真ん中に向かって倒れ込んだ。
「危ないっ!」
坂の頂上から車のライトが光ると同時に、また後ろの方から誰かが走ってくるような音がした。自分の体が抱き抱えられて後ろに引き寄せられる。車が自分たちの足元のギリギリの所を通っていくと同時に、最初の1人が走り出した。
「ちょっと待ってろ。」
自分の後ろにいた男が呟いたかと思うとサッと立ち上がり、最初の1人が逃げて行った後を追い始めた。……力が入らない。尻もちをついたまま道の端によけて、男たちがあっという間に消えていった坂の上を眺めていた。
「いてっ! いてててっ! は、離してっ!」
『和樹!』
暫くして、やってきた2人を見て驚く。腕を後ろに捻り上げられて連れてこられたのは和樹だった。そしてその腕を掴んでいるのは。
『純!』
知ってる2人が目の前にやって来た。そしてこの状況。えっ? 最初に自分を転ばせたのは和樹だったの?
「お前、侑の元カレだろ? 別れたんじゃなかったのか。何? 未練? 女々しい奴だな。」
「…………。」
純が目を細くして和樹を見下げながら、低い声で語りかける。和樹は俯いたまま、声が出ないようだった。自分の体が小刻みに震えてきた。
「侑、どうする。俺が目撃者。コイツは駅からお前の後をつけて、わざと突き飛ばした。車が来るのを見計らって。……駅前の交番に突き出すか?」
顔を上げてこちらを見た純と目が合う。自分は首を横に振った。全身がガタガタと震えてきて、両腕を自分の体に巻きつけた。でも、震えが止まらない。和樹が……自分を……。
「お前な、今やった事は殺人未遂だぞ? 成人してんだろ? ムショ行きだ。それでもいいのか?」
腕をさらに捻り上げて語りかけた言葉に、和樹が首を振った。顔から雫が垂れている。……泣いてる。
「侑は警察に突き出さなくていいとよ。よかったな。でも、もう侑には近づくなよ? どこででもだ。近づいたと聞いたら、俺が黙っちゃいない。……分かるな?」
和樹が激しく頷く。
「じゃあ、状況証拠写真でも撮らせていただきますかね。ホラ歩け。」
2人が少しだけ近づいてくる。思わず後ろに行こうとした自分がいた。けれども、線路を隔てる柵があって、それ以上後ろに行くことができなかった。
「侑、ごめんな? あとでコイツが何かしてきた時の保険だから。コイツを捕まえてから録音もしてる。」
純が片手でスマホを操作して自分の方に向けて写真を1枚撮った。その瞬間、和樹が顔を上げる。和樹は鼻水を垂らしながら、顔をくしゃくしゃにしていた。純が手を離すと、和樹は一目散に駅の方へと駆け出していった。
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