33 / 87
遭遇5 〜侑〜
3
しおりを挟む
「侑、ほら、手。」
差し出された手を掴んで立ち上がる。まだ体の震えが止まらなかった。膝までガクガクしている。何を考えたらいいかわからず、何も話せなかった。
「家は近いのか? 送るよ、一応な。」
自分が頷くと、純が後ろを振り返りながらついてくるのが分かった。「ありがとう。」そう言いたいのに、やはり言葉は出てこなかった。
上り坂をもう少しだけ行くと、自分のアパートに続く細道になる。力が入らない足を動かそうと努めながら、ゆっくりと登っていった。
「おい、侑、大丈夫か。」
「だいじょう……ぶっ、うっ!」
後ろからかけられた言葉に振り向いて言葉を発した途端、吐き気が込み上げた。思わず線路脇の柵を掴んでしゃがみ込む。けれども、空っぽの胃からは、焼けるような胃液しか出て来なかった。
「おいっ! 侑!」
純が駆け寄ってきて隣に屈み、肩に手を回したのがわかったけど、何も答えることができなかった。後から込み上げる吐き気を抑えるのに必死だった。
「家までどのくらいだ?」
「はぁ、はぁっ……そこの道を入って……最初のアパート……。」
「ほら、支えてやるから歩け。とにかく帰った方がいいだろ。」
純の言葉に頷き、後ろから回された手で脇の下を支えてもらいながら立ち上がった。さっきより幾分楽。道を渡って細道に入り、見えてきたアパートへ向かって歩き続けた。
「じゅん……ありがとう。」
これだけは言わなくちゃ。この人は恩人なのだから。少しだけ朦朧とする頭の中で考えながら、やっと言葉を出すことができた。
「偶然だよ。駅前でダラダラしていた時に、侑が改札口から出てきたのがわかった。そして少ししたらアイツが後ろを歩き出すのが分かった。待ち伏せしてたようだな。」
「…………。」
待ち伏せ? ……全然気づかなかった。和樹は最初から自分を襲うつもりで?
「アイツの姿がどこかで見たような気がして、俺もついていった。歩くうちに、侑をつけてるとハッキリ分かって警戒してたんだ。……っておい、大丈夫か?」
膝から崩れ落ちたのが分かった。気持ち悪い。何も考えられない。……考えたくない。
「お前、熱あるぞ? えっ? ショックで熱が出たのか?」
熱……そういえば、風邪をひいていたんだっけ。今日はずっと調子が悪かったんだ。ショックでなんかじゃない。自分はそんなに柔じゃない。
そこからはあまり覚えてない。やっと近づいたアパート。鍵を取り出すのに下ろした鞄。玄関の靴が出しっぱなし。……ベッド。やっと横になれる。自分の布団。……安心して眠ることができる。
誰かが、少しだけ甘い飲み物をストローで飲ませてくれた。誰かが、冷たいタオルを額に乗せてくれた……。その日、記憶にあるのはそれだけだった。
差し出された手を掴んで立ち上がる。まだ体の震えが止まらなかった。膝までガクガクしている。何を考えたらいいかわからず、何も話せなかった。
「家は近いのか? 送るよ、一応な。」
自分が頷くと、純が後ろを振り返りながらついてくるのが分かった。「ありがとう。」そう言いたいのに、やはり言葉は出てこなかった。
上り坂をもう少しだけ行くと、自分のアパートに続く細道になる。力が入らない足を動かそうと努めながら、ゆっくりと登っていった。
「おい、侑、大丈夫か。」
「だいじょう……ぶっ、うっ!」
後ろからかけられた言葉に振り向いて言葉を発した途端、吐き気が込み上げた。思わず線路脇の柵を掴んでしゃがみ込む。けれども、空っぽの胃からは、焼けるような胃液しか出て来なかった。
「おいっ! 侑!」
純が駆け寄ってきて隣に屈み、肩に手を回したのがわかったけど、何も答えることができなかった。後から込み上げる吐き気を抑えるのに必死だった。
「家までどのくらいだ?」
「はぁ、はぁっ……そこの道を入って……最初のアパート……。」
「ほら、支えてやるから歩け。とにかく帰った方がいいだろ。」
純の言葉に頷き、後ろから回された手で脇の下を支えてもらいながら立ち上がった。さっきより幾分楽。道を渡って細道に入り、見えてきたアパートへ向かって歩き続けた。
「じゅん……ありがとう。」
これだけは言わなくちゃ。この人は恩人なのだから。少しだけ朦朧とする頭の中で考えながら、やっと言葉を出すことができた。
「偶然だよ。駅前でダラダラしていた時に、侑が改札口から出てきたのがわかった。そして少ししたらアイツが後ろを歩き出すのが分かった。待ち伏せしてたようだな。」
「…………。」
待ち伏せ? ……全然気づかなかった。和樹は最初から自分を襲うつもりで?
「アイツの姿がどこかで見たような気がして、俺もついていった。歩くうちに、侑をつけてるとハッキリ分かって警戒してたんだ。……っておい、大丈夫か?」
膝から崩れ落ちたのが分かった。気持ち悪い。何も考えられない。……考えたくない。
「お前、熱あるぞ? えっ? ショックで熱が出たのか?」
熱……そういえば、風邪をひいていたんだっけ。今日はずっと調子が悪かったんだ。ショックでなんかじゃない。自分はそんなに柔じゃない。
そこからはあまり覚えてない。やっと近づいたアパート。鍵を取り出すのに下ろした鞄。玄関の靴が出しっぱなし。……ベッド。やっと横になれる。自分の布団。……安心して眠ることができる。
誰かが、少しだけ甘い飲み物をストローで飲ませてくれた。誰かが、冷たいタオルを額に乗せてくれた……。その日、記憶にあるのはそれだけだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
22
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる