自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

文字の大きさ
36 / 87
 ー純ー

2

しおりを挟む
 途中男とぶつかって相手がよろめいたが、俺は坂の上に見えた車と侑しか目に入らなかった。夢中で侑をかかえて背後に倒れ込む。線路との間を仕切る柵が俺たちの体を受け止めてくれた。

 目の前を車が通り過ぎる。『良かった。』と思う間もなく、近くに立っていた男が走り出すのが分かった。

『この野郎!』

 侑を置いて追いかける。坂の上から自転車で降りてきた爺さんが怪訝な顔をしてこちらを見たが、構ってはいられなかった。坂の向こうの十字路で、どちらに行こうか奴が躊躇した隙に腕を掴む。

「……はっ、はっ、離せっ!」
『無理。』

 なんだ、こんな短距離で息切れか? 興奮したようにはぁはぁ言っている男の腕を両方後ろに回し、そのまま道を戻る。奴も諦めたのか、それとも後ろ向きで歩かされるのが嫌だったのか、しばらくすると自分から方向変換をして前向きに歩き始めた。

 コイツとはどこで会った? 少し俯き加減で歩く男のうなじを眺めながら考える。視界に侑が入った途端、パズルのピースが当てはまるように、侑とこの男が手を繋いで歩いていた情景が脳裏に映った。

『元カレか! 確か侑が別れたと言ってた奴だ。』

 そう思った瞬間に奴の腕を掴んでいた腕に力が入り、さらに上に捻り上げていた。

「いてっ! いてててっ! は、離してっ!」
 
 こちらを向いて情けない声を上げた瞬間、コイツも侑に気づいたらしい。俯いてそれっきり黙り込んでしまった。侑が驚いた顔でこちらを見ている。……無理もない。
 
「お前、侑の元カレだろ? 別れたんじゃなかったのか。何? 未練? 女々しい奴だな。」
「…………。」

 侑の手前1メートルの所で止まって侑を見る。元々白い顔が、さらに真っ青になっているのが分かった。

「侑、どうする。俺が目撃者。コイツは駅からお前の後をつけて、わざと突き飛ばした。車が来るのを見計らって。……駅前の交番に突き出すか?」

 侑が自分の体を抱き込むようにして首を振る。コチラを見ていられないかのように地面に視線を落とすのが見えた。……震えている。無理もない。

「お前な、今やった事は殺人未遂だぞ? 成人してんだろ? ムショ行きだ。それでもいいのか?」

 視線をコイツのうなじに戻して語りかける。たぶん、コイツも学生だろう。侑と同じ大学か? そう思った瞬間に、さらに手に力が入った。
 
「侑は警察に突き出さなくていいとよ。よかったな。でも、もう侑には近づくなよ? どこででもだ。近づいたと聞いたら、俺が黙っちゃいない。……分かるな?」

 頷いたのを確認して写真を撮る。コイツが2度と侑と関わろうとしないように。これで懲りればいいんだが。

 腕を解放すると俺や侑には目もくれずに、駅に向かって一目散に坂を下っていった。あの様子じゃ大丈夫だと思うが……油断はできないな。男が視界から消えるまで見送り、視線を侑に向ける。

「侑、ほら、手。」

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...