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第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう

モモンガと戯れ、名前をつける

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昼頃にソルが食事を運んでくれるまで、俺とモモンガはずっと眠っていた。


「気持ちよさそうだけど、朝も食べてなかったから起きようね。」

「キュゥーっ……!」

ソルはモモンガの首根っこを摘まみながら、俺の肩を揺すって起こした。俺のアイマスクが抗議の声を上げながら離れて行く。……ああ、癒しが取れらた……。


俺はすっかり元気になって、鈍い頭痛もなくなっていた。身体の気怠さはまだあるが、頭痛がしなくなったのは本当にありがたい。

自分の左中指を見ると、黒色のバラは散りかけていた。今日中には、全ての花びらが無くなるだろう。


ソルが運んできてくれたパン粥を、なぜかソルにスプーンで口元に運ばれる。この歳でアーンとか、恥ずかしいんだが……。恥ずかし気な俺をよそに、ソルはなぜか楽し気にパン粥を食べさせていた。


「病人は大人しくしてるんだよ。大丈夫。孤児院で看病は慣れているから。ほら、あーん。」

パン粥はミルクがふんわり香る、身体に染みる優しい味だった。牛乳が二日酔いには効くらしい。


「闇魔法の先生に協力してもらって、二日酔いに効く食事を用意してもらったんだ。」

ソルは闇魔法の授業を専攻していないのに、わざわざ先生に話をしてくれたらしい。先生は呪いの研究もしている、すごい人なんだ。

この学園では、数少ない呪いについての理解者でもある。

ソルいわく、先生が二日酔いの振りをして、食堂に専用の食事を用意してもらったらしい。近々、先生にお礼を言いに行かないとな。


昼食を食べた後は、窓から差し込む、午後ののんびりとしてポカポカな日差しに微睡む。それに、傍らにはこれ以上ない極上のモフモフ。

いつの間にか、また眠ってしまって、気が付くとソルが学園から帰ってきて夕食の時間になっていた。


「もう、食べさせなくていいから……!」

「えー。」

えー、じゃない。とろりとした琥珀色の瞳を向け、口を少し尖らせたソル。そんな可愛い顔してもだめだからな!


ソルがまた粥を食べさせようとしてきたので、そのスプーンを奪って自分で食べる。残念そうにするソルを尻目に、食事を終えてさっさと寝る準備をすませた。


ソルがお風呂に入っている中、俺はリビングルームのソファで寛ぐ。一日の最後に、ソルと何気ない話をするのが学園に来てからの習慣になっていた。ソファに腰掛け、部屋を見渡す。


今日一日、一緒に居てくれたモモンガが、遊び足り無さそうに部屋をちょんちょん移動しているのが目に入った。部屋のカーテンを元気に飛び移っていく様子を見ながら、俺はふっと、前から思っていることを口にする。


「……いつも『モモンガ』って呼んでるけど、どうも呼びにくいんだよな……。名前はあるのか?」

そう。モモンガってあくまでも生き物の名前だ。
もし、本人にも人間のように名前があるのなら、その名前で呼んだほうが良いだろう。

図書棟に行けばモモンガがたくさんいて、魔力でしか見分けがつかないし。


俺の問いに部屋を駆けていたモモンガが、こちらにやって来た。俺の右手にまでよじ登ると、モモンガはふるふると首を振った。

どうやら、名前はないらしい。


「……俺たちといるときだけの、名前を決めようか?あだ名みたいなもんかな。」

「ぷうぷう。」

モモンガは嬉しそうに、少し高い鼻声で甘えるように鳴いた。どうやら、名前をつけることを許してくれた。

うーん、何が良いだろう?


右手からふいに飛び跳ね、俺の自室に向かってリビングから出て行ったモモンガ。その後ろ姿を見つめる。


クリーム色の淡い白色。モフモフの身体に、思わず触りたくなってしまう、ぽふりとふっくらした尻尾。日本で言うところの、エゾモモンガという北国の可愛い小動物にそっくりだ。


程なくして、モモンガがリビングに戻って来る。口に何やら、小さな白色の花が付いた茎を咥えてきた。花は全部で3つ。桜にも似た六花の花だ。

俺の右手に再び乗ったモモンガは、その小花のついた茎を口から離した。

……なんだろう?自分のお宝を見せてくれたのかな?
今はとりあえず、先に名前を付けよう。


「……モルン。雪を意味する『モルン』なんてどうだ?」

「ぷう。」

名前を告げると、モモンガは満足げに甘えた声を出した。それと同時に、3つの小花が淡く白色の光を発する。


「えっ?ヒズミ??……何してるの?」

風呂から上がったソルが、慌ててこちらに駆けよって来る。どうやら、この白色の光を見て何事かと思ったらしい。

光が収まったところで、モルンがプチっと茎から小さな手で1輪の花を摘み、自分の腕輪へと近づける。すると、白色の花が指輪に吸い込まれるように消えて無くなった。


「?!!」

花を吸い込んだ腕輪には、白色の六花の花模様が刻まれていた。えっ?今のは一体……?


「ぷう、ぷう。」

モルンは、残る2つの花がくっついた茎を口にくわえると、スルスルと俺の右腕を昇って、やがて首に辿り着く。ちょんちょんっと首から下げているチェーンを、手で引っ張られる。


「?……もしかして、これか?」

俺は服の襟から冒険者タグと、ソルの色をした宝石『深愛の導き』を取り出す。モルンの顔の前に差し出すと、モルンは咥えていた茎から白色の花を摘まんだ。

琥珀色の宝石に小花を近づけると、まるで水にでも入れるかのように、白色の花が宝石へ、とぷんっと入り込んでいく。そのまま、ゆっくりと八面体の尖った底へ沈んでいく。

蜜色の宝石の中で、小さな太陽のもと一輪の白色の六花が咲く。


俺の右肩から降りたモルンは、今度は唖然としたまま突っ立っているソルの身体をよじ登った。ソルが右手を出すと、ペッ!と1輪だけ残った茎を口から離す。

そのまま、勢いよく右手を蹴り上げ床に着地した。


「ちょっと。オレだけ扱いが雑じゃない?」

ソルの言葉を、モルンは知らないふりをしてプイっと顔を背けた。ソルは小花を摘まんで、首から下げている『深愛の導き』に近づける。

とぷんっと小花が宝石に入り込んで下に流れて行った。紫から濃紺に変わる宝石の中で、銀色の粉雪が舞い、白色の花が咲いている。


「キュっ。」

全員に小花が行き渡ったのを見て、モルンは満足そうに鳴いた。


「……ヒズミ、一体何をしたの……?」

「いや、モモンガに『モルン』っていう名前を付けただけだ。」

俺の言葉を聞いたソルは、額に手を当てて、はぁあぁっとため息をついた。


「……ヒズミ、たぶんそれ、眷属契約……。」

「……えっ?」


……あれ?俺、なんかやらかした?


モルンは丸くなって、俺の膝の上でプスプスと寝息を立てていた。


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