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第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう

二日酔い、モモンガと戯れる

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身支度をするソルを、俺はベッドの上で横になって見つめる。


「うぅっ……、頭痛い……。」

なんと、俺は今、二日酔いというやつらしい……。俺、お酒飲んでないんだけどな……。

酩酊の状態異常は、どうやら二日酔いもセットになっていたようだ。『絶望の倒錯』も、何もここまで忠実に再現しなくても良いのに……。


鐘をゴーンと打ち鳴らしされたときの、全身に響くような振動が、頭の中だけに全て納められているような、何とも鈍くて重い頭痛がする。


今日は平日。本来だと学園に通わなくてはいけないのだが、オレは今ベッドの住人になっている。これでは、授業どころではない。

もぞもぞと布団の中で動きつつ、オレは自分の左中指を見遣った。黒色の花が半分ほど散っていた。どうやら、今回の状態異常は短期集中型らしい。


ちなみに、俺は酔っぱらっていた時の記憶が全くなかった。ソルに『俺、何か迷惑かけてただろうか?』と確認すると、暫くの間ソルが黙ってしまった。

やっと口を開いたソルが、『いや、迷惑ではなかったよ。……でも、お酒を飲むのは、俺といるときだけにして?約束だよ?』と、約束をされることになった。


俺は、一体酔って何をしたんだ?
聞こうとしても、ソルにははぐらかされてしまった。そんなに酒癖が酷かったのかな……。


「お昼ご飯はここに持ってくるよ。……顔色が悪いから、今日は安静にしていてね?」

本当は、ソルも学園を休むって言ったんだけど、俺はただの二日酔いだ。勉強に支障をきたすのは良くない。心配そうにするソルを、ベッド上から送り出す。


「お手伝いモモンガ、仕事だぞ。」

出かけ際に、ソルがモモンガを呼んだ。リンゴの巣にいたモモンガは、眠そうにシパシパと大きな目を瞬かせる。寝ぼけ眼のフクフク顔を、巣穴にぎゅうぎゅうと入れた。


ん-っ、んーっ!という効果音が聞こえてくるように巣穴に顔を突っ込んだ。ひゅぽっ!という音がして身体を出すと、珍しくソルの右手へと駆け上っていく。

ソルが、モモンガに話しかけている。2人が触れ合ってる姿を見ることはあまりないから、なんか新鮮だ。


「……仕事内容は、今日一日、ヒズミを安静にさせること。しっかり見張って寮室から出させるな。……もし安静にしようとしなかったら、実力行使も躊躇うな。」

「キュッ!!」

了解!!と言うように、モモンガが力強く返事をする。お手伝いの内容が俺の見張りなんて、とてつもなく平和だ。まん丸な大きな目が、なんだか真剣身を帯びているように感じた。


……なんだ?モモンガの実力行使って……??


よしっと言うと、ソルは上着の内ポケットに手を突っ込んで小さな布袋を取り出した。布袋を開けて、小さなスグリに似た果実を取りだす。


モモンガは小さな手で、ソルの指から果実をひしっと受け取っていた。鼻を果実に近づけて忙しなく動かすと、パクっと口に果実を咥えてソルの手から降りていく。

向かった先は、リンゴの巣の隣に用意した小さな宝箱だ。


モモンガはその小さな宝箱の中に、果実をポトリと入れた。
そこには木の実や、綺麗な石がこっそりとしまってあるのだ。

モモンガは、木の洞に食べ物を溜め込む習性がある。
この寮室にはそれがないから、モモンガ用の備蓄庫を用意したのだ。宝箱の中は木の実でいっぱいだ。

ずいぶんとお手伝いを頑張っている。働き者なんだな。


渋々の様子なソルを送り出して、モモンガと2人っきりになった。モモンガは、もうすっかり目が覚めてしまったようだ。

モフモフの白い身体に、大きな尻尾がふりっと揺れた。勉強机にご機嫌な様子で立っているモモンガに、思わず笑みが零れる。


「……ふふっ。俺には構わず、お部屋で遊んできな?」

俺たちの寮室は、モモンガのために少し工夫していた。
天井からオーナメント風にした木の枝をぶら下げ、壁にはキャットウォークならぬモモンガウォークを作成した。室内に枝葉がある観葉植物を設置している。


あの司書さんに聞いたところ、このモモンガは野生のものとは違うらしい。もっと言うと、動物じゃない。なんと、妖精に近い存在とのことだ。


この世界には妖精がいる。只人には視ることができないが、特別な人間にはその姿が視えるそうだ。

だから、お手伝いモモンガは動物よりもはるかに知能は高く、賢い。そのため、人間の言葉も理解できるし、個体によっては魔法まで使用するものもいるらしい。


……モモンガの魔法か……。
どんな魔法を使うのか見てみたい。きっと可愛い。


あの図書棟の大樹は、モモンガたちが好きで住み着いているらしい。小さな妖精たちが気ままにあの図書棟で暮らしている。

人に合わせて生活するため、本来夜行性なモモンガも、こうして昼間は起きている。夜になると眠る。

人間の食べ物も、モモンガによっては食べるらしい。それに、食べれないものは、本人たちがしっかりと拒絶する。えらい。


俺はモモンガに話しかけつつ、ごーんっ、ぐわーんっという歪な痛みを奏でている頭を枕に沈めた。

しばらく、身動きできそうにないな……。


身体は重くて鉛のように怠い。背中に錘を下げてベットよりさらに深く沈んでいきそうな感じだ。

……ベッドのさらに奥ってどこだ?綿?
そんなバカげたことをつらつらと考えては、頭がぎゅうぎゅうに痛む。


うーんと魘されていると、モモンガが俺の勉強机からぴょんっと飛んで、本棚を足場にチョンっ、チョンっとベッドに着地した。ぽふっという小さな音とともに降り立つと、俺の傍に寄って来る。


俺の頬近くで、ふんふんと忙しなく鼻を動かす。小さくてぴくぴく動く鼻が肌に当たり、すごく擽ったい。


「くすぐったい……。」

はぁ、癒される……。
体調不良でなければ、存分に愛でたのに……。


二日酔いと言えば、カンパーニュの村にいた冒険者たちを思い出す。ギルドの2階にある食堂で飲み過ぎて、青白い顔をしながらぐえーっとテーブルに突っ伏していた人たち。

今なら、あの冒険者たちの気持ちが分かる。
全身が変に怠くて動けない。


ぶるっと寒気に襲われて、俺は布団と身体の隙間が出来いように手繰り寄せた。冷え性になったみたいに手足が冷たい……。


「……キュー……。」

心配そうなモモンガの声が聞こえる。俺をじっと見つめていたモモンガは、ふわふわ尻尾を一振り揺らした。

そして、俺の頬にぴちっと小さなものが触れる。目の前にいるモモンガが、小さな前足て俺に触れていた。


「キュ。」

「……えっ?」


そう一鳴きすると、モモンガの小さな手からぽわんっとした温かさを感じた。モモンガの手を中心に、全身に温かさが広がっていく。

冷えていた身体がポカポカと温まっていった。


「……もしかして、魔法?」

正解だというように、フクフクな頬を頬ずりしてくる。

すごい。こんなに小さな身体なのに、魔力量はかなり多いみたいだ。それに、魔力がとても優しい。じんわりと柔らかく染み渡っていく感じがする。


頭痛はまだひどいが、この調子だったらベッドの住人でなくてもいいかもしれない。そう思って、身体を起こそうと身じろいだ時だ。


「わっ。」

「キュイ!!」

俺の視界が、覆い被さって来たもので一瞬にして真っ暗になる。目を覆っているこのふわふわの毛布みたいな感触と、温かい体温……。

視界が暗くなる前にチラッと見えたのは、モモンガの白いお腹。


……どうやら、俺はモモンガのアイマスクを付けているようだ。


「え、見えないよ……。モモンガ、どいて?」

「キュキュ!」

動いちゃダメ!と咎めるように、モモンガは鳴いた。このまま身体を起こせば、モモンガが顔から急に落っこちてしまう。


とくとくとくっと、人間よりもやや早い鼓動が俺の肌を擽る。その鼓動がなんとも心地よい。

……なんだか、眠くなってきた……。
さっき起きたばっかりなんだけどな。

こんなに急激に眠気に襲われるのは、おかしい。


「……もしかして、眠くなる魔法もかけたの?」

「キュー。」

顔の上から聞こえた鳴き声に、そうだよーと言われたような気がして、俺はクスっと笑った。モモンガに実力行使されてしまったようだ。

俺は大人しく、モモンガのアイマスクをしながら眠りについた。


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