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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
次の階層、可愛いけど油断禁物
しおりを挟む鏡から獲得した鍵で、鉄格子の扉を開ける。
重く鈍い音を立てて、鉄格子は上下に分かれた開いた。その先は、長い白磁の階段だ。等間隔に壁に生えている青色の花が、呼吸をするように怪しく足元を照らす。
3人で襲い来る白コウモリの魔物を倒しつつ、階段をスタスタと登る。ソルもアトリも強いため、戦闘時に足を止めることなく、サクサクと進む。
攻略速度は早い方ではないだろうか?
「……それにしても、ヒズミはお手伝いモモンガにも好かれましたか……。」
俺の右肩に乗っているモルンを見ながら、アトリが苦笑気味に話をする。モルンは戦闘中、俺のローブの内ポケットに隠れているのだ。怪我でもしたら大変だからな。
俺が指示しなくても、自分から内ポケットに避難するのは賢い。
「アトリが学園にいたときにも、お手伝いモモンガって図書棟にいたのか?」
ふわふわと蠱惑的な尻尾を、アトリに挑発的に向けたモルンは、アトリが触ろうとしたところで、ヒョイッと器用に尻尾を反対側に動かして躱す。
再度、アトリ側に尻尾を動かしては、指を伸ばされるとギリギリでそれを躱すを繰り返している。
どうやら、モルンはアトリをおちょくって楽しんでいるようだ。そのモルンの動きに、アトリは懐かしそうに目を細めて、クスクスと笑っている。
「ずっと昔からいますよ。お手伝いモモンガは可愛いけど、中々近づいてくれなくて……。それに、木の実をあげてもすぐに逃げちゃうし。」
ちょこちょこと動きが速いし、触ろうとしてもいつの間にか姿を消していることもあったそうだ。
だから、俺の肩にモルンが乗っていることに、最初、アトリは目を丸くしてびっくりしていた。
「モモンガに縁のある教授の子孫が、私の同級生でしてね?今は図書棟で司書をしていると聞いています。随分とのんびり屋でしたけど、元気にしてるかな……。」
のんびり屋……。
たぶん、いつも俺たちにモルンのことを話してくれる、あの司書さんだろうか?確かに、アトリと同年代な気がする。
時々階段に仕掛けられたトラップと、白色のコウモリの魔物を屠りつつ、長い螺旋階段を上がっていく。
しばらく階段を上っていると、次の階層に繋がる扉が現れた。
「……可愛い。」
重厚なダークブラウンの両開扉の正面に立った俺は、思わず声を漏らしていた。
「これは……、ラパンですね。」
ふむっと頷いて、アトリがじっと扉を見た。
木製のその扉には、ウサギ型の魔物であるラパンがたくさん彫刻されていた。扉を彩っている花の匂いを嗅いでいる姿や、跳ねまわっているような姿まで。
なんだ、可愛すぎか、この扉。
「……この階層から、魔物が強くなるんだよな……。」
可愛さに油断してはいけない。
キィイイーと金属の軋む音を立てながら、俺は扉を開いた。
春のふんわりと暖かな風に、さらさらと揺れる葉。陽だまりが揺れて、白色の花びらが俺の目の前を気まぐれに舞う。
地面には色とりどりの小花が所狭しと咲いていて、桃色、白色、水色と淡色を揺らして、柔らかく足元を包み込んだ。
ちゅんちゅんっと小鳥がさえずる鳴き声が、そこかしこから聞こえてくる。
先ほどの白に支配された世界とは全く違う、色彩豊かな春の風景。黄緑色の葉たちが息吹く中、一層その存在が目立つ。
……色的にも、物理的にも。
「……でっか。」
目の前の生き物は、常軌を逸した大きさだった。
大きさは、人の数十倍はある。口を開ければ人なんて一口で食べれそうだ。スースーという大きな音と、それに合わせて真っ白でまん丸なものが上下する。
時折ピクっと長い耳が動き、風に合わせて白雪のような毛がほわほわと揺れる。大きな目は線になって閉じたまま。
春の森の中、巨大な白ウサギが気持ちよさそうに眠っている。この世界では、巨大ラパンというべきか。
「普通は大きくても胸に抱えるくらいなのに……。さすが幻想遺跡、大きさがもう夢みたい。」
ソルも目の前のラパンを見て、唖然としてる。
その隣には、これまた大きな蓄音機。手で回してレコードの音を流すタイプに似ている。これは、音楽を流すための魔道具だ。
金色の大きなラッパが、ラパンの耳部分に向いている。レコードを置いた木目の中央には、歯車のマークが3つ彫られていた。
この歯車を見つけ出してはめ込むと、蓄音機が作動して巨大ラパンを起こしてくれるのだ。
「……階層の名前は、『ラパンの夢』……でしたっけ?」
穏やかなアトリが言うと、なんとも和やかでほっこりする階層の名前だ。ただ可愛らしい名前と反して、魔物との戦闘が激しくなる階層でもある。
攻略方法は、1つだけ。
「ラパンの夢に飛び込んで、蓄音機の歯車を回収し作動させる。」
巨大ラパンの前には、夢に飛び込むための魔法陣が地面に刻まれていた。
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