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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

海賊船、メルヘン世界からのギャップがすごい

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「ラパンの夢に飛び込んで、蓄音機の歯車を回収し作動させる」

巨大ラパンの前には、夢に飛び込むための魔法陣が地面に刻まれていた。


魔法陣は3人足を踏み入れると、瞬く間に光った。青白い光が魔法陣の線から上へと放たれたかと思うと、俺の目の前に光の文字がシュルリと浮かび上がった。

青白い光が空中に紡いだのは、なんと古代語だ。


『海賊』『王様』『画家』……??


古代語の示した単語の意味が分からず、頭に疑問を浮かべたままでいると、目が開けないくらいの光が下から襲う。あまりの眩しさに目をぎゅっと閉じると、ぶわっと下から勢いよく風が吹く。


「っ?!うわっ!」


足元が急に心もとなくなった。というか、実際に地面が無くなっている。勢いよく地面に引っ張られ、内臓がまろび出そうな感覚に陥った。ジェットコースターみたい……グエっ。


そんな急降下はすぐに終わり、眩しい光が止むと俺は木の床に足を着いていた。着地した床は確かに固いのに、地面は仕切りにぐわん、ぐらんっと上下に傾いている。


バシャーンッ!と波が打ち付ける音に、勢いのある波飛沫が顔を殴った。その飛沫は、磯独特の匂いが強い。


「海の上……?」


床が上下に傾く度に、樽や酒瓶が忙しなくゴロゴロと床を転がっていく。 見上げた空は、重い灰色の雲が完全に日差しを遮っていた。それでも周囲が見えるのは、時折り水面に轟音と共に落ちる閃光と、雲に燻る雷がピカッと光るからだろう。
 

嵐の空を見上げた先に、大きな風を掴むための布が見えた。帆は完全に開ききっている。一番大きな帆に書かれた絵を見て、俺ははっと気が付いた。


「……ラパンの海賊船」

黒色の帆に描かれていたのは、右目に眼帯をしたウサギ型の魔物、ラパンを模したどくろマークだった。うさ耳の頭蓋骨の下に、サーベルが交差している。


あれは、明らかに海賊のマークだよな?
おそらく、ここは荒れ狂う海の上の海賊船。

俺たちを取り囲む船員は、全員が魔物だ。
しかも……。


アトリが船員たちを見て、ふうっとため息を零す。


「これはまた……、先ほどのメルヘンチックな光景から、すごくかけ離れた感じですね」

カタカタカタと、小刻みに何かが動く音が聞こえてくる。

それはかなりの数で、こちらを威嚇するように、剥き出しの歯をカチカチと打ち鳴らして、じりっと距離を詰めてくる。船員なだけあって、頭にバンダナを巻いていた。


細く角ばった手には、弧を描いて湾曲したサーベルや斧、さらには鉄球を頭上でぶんぶんっ!と振り回している者までいる。

……その細腕で、どうやって重い物を回しているんだ?……そんな、現実逃避を一瞬だけした。


じりっとこちらに距離を詰めてくる敵は、俺たちに視線で殺気を飛ばした。……正確には、眼球があるはずの落ち窪んだ黒色の穴から、だけど。


「……アンデット。ゾンビじゃなくて、良かったかも」


長剣を構えたソルが、敵を警戒しつつ呟いた。

ソルの前に構えた長剣が、雷の光をチカっと反射した。それを合図に、一斉に海賊の服を着た骸骨たちが俺たちに襲い掛かる。


俺の目の前に来たガタイの良い(骨格が太いと言うべきか?)骸骨船員が、大斧で甲板ごと頭をかち割ろうと襲ってくる。振り上げられた大斧の攻撃を避け、振り降ろされた大斧にトンっと足先を乗せた。


甲板に刺さったままの斧を足で固定して、大きな頭蓋骨を右手の双剣で横一線で斬り払う。
骸骨たちの弱点は頭部。頭部を砕けば生き返ることはない。


海賊船は爆撃音や、剣撃の音、波が打ちつける音と実に騒がしい。


甲板は荒れ狂う波飛沫で滑るし、戦闘中も甲板は大きく揺らぐ。おまけに、樽やら酒瓶やらが転がり落ちてきて、足元にも気を配らないといけない。


「……もう、キリがない……!」

顔を顰めてぼやいたソルは、目の前に剣を振りかざしてきた骸骨の頭部を突き刺した。

頭蓋骨に突き刺さった剣を左に薙ぎ払って、骸骨を甲板にぶつけた。カタカタと喚いていた頭部が粉々に砕けて、骨だけの身体が動かなくなる。


左に払ったソルの長剣に、黄金のキラキラとした粒子の渦を巻く。さらに、小さな疾風が長剣にフォンっと音を立てながら渦巻いた。


光と風の複合魔法か!


「……光の制裁」

ソルが左から右に、ブンっ!という風切り音を立て剣を薙いだ。黄金の疾風が、ぶわっと甲板上へと吹き込む。黄金の粒子がキラキラと光る風は、半円の波紋状に広がった。


黄金の風に当たった骸骨たちが、サァァァと身体を灰にしてサラサラと消えて行く。やがて、その灰さえも嵐の海に消えて無くなる。

甲板には、骸骨の身に着けていた船員の服やバンダナだけが大量に残されていた。


「……すごいな、ソル。いつの間にそんな魔法を使えるようになったんだ?」

残党がいないかを確認したあとに、ソルが静かに長剣を鞘に納める。


「……ソバルトさんに、しばかれて……。アンデットたちのレベルがそんなに高くなかったから、消せて良かった……」

確かに、レベルはそれほど高くない魔物だが、なんせ数が多過ぎる。一度に数十体の魔物を屠ったソルの実力は、もはや上級冒険者並みだろう。

複合魔法を使用しても、余裕そうなソルを頼もしく見ていると、視線に気が付いたソルがふっと笑った。


どんよりと重かった空が遠のき、辺りに日差しが降り注ぐ。

荒れ狂った波も嘘のように穏やかになる。甲板はゆるゆると心地よく揺れた。


何処からかキーキーと金切り音が聞こえてきた。

俺たちから離れて、水の矢で骸骨の頭部を一発でぶち抜いて戦っていたアトリが、右手に白色の何かをぶら下げてスタスタとやって来る。


「船頭に、このラパンがいました」

アトリの右手には、首根っこを掴まれた真っ白なウサギ、もとい白ラパンが、バタバタ足を動かして暴れていた。

長い耳の間には、海賊が被る赤色の三角帽子をちょこんと乗せていた。映画でよく見る、左右と後ろを折り返し、尖った先端が前に来るあの帽子だ。


右目には黒色の眼帯。立派な赤色のコートを羽織って、金きらの肩飾りやら、勲章をつけている。


ウサギの海賊船長か……。
俺の膝下くらいの体長でやや大きいが、可愛いな。


しかし、この可愛い見た目に、騙されてはいけないのだ。


なんせ、この可愛いウサギ海賊船長こそ、骸骨の海賊船員たちをけしかけてきた張本人なのである。真っ赤なルビーの左おめめは、反抗的に眇められていた。



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