『ルームメイトの服を着てナニしているのを見られちゃいました。』他、見られちゃった短編集

雨月 良夜

文字の大きさ
43 / 61
『ご主人様に専属執事を辞める、異動届けを見られちゃいました。』

赤い蜜薬 (清都side)




約束どおり、次の日の朝、執務室の机には異動届けが置いてあった。さすが、うちの諜報部は優秀だ。

内容を見ると、笹部が言っていた通り、蒼紫の秘書をへ異動を希望する内容だった。

理由は最もらしく、『自信のスキルアップのため』云々と、いかにも形式ばったものが記載されていた。もちろん、本音ではないだろう。

身内に病気だとか、そういった事情も聞いていない。

 
いよいよ、兄貴に好意を抱いているとしか思えない。


俺は自分の中に、ドロリとした黒い淀みが、底から広がっていくのを感じた。


一体いつから、ハルの心は兄貴に向いていた?

俺の知らないところで、二人は情を交わしていたのだろうか……。
それとも、ハルの片思いだろうか?
それはそれで、激しい嫉妬に苛まれそうだ。
 

正直に聞いたところで、ハルは決して本当の理由を言わないだろう。

 
じっくりと、理由を聞き出すしかないな。

俺とハルの間柄に、他人が入るなんて教養出来ない。
出来れば、俺以外の存在をハルの視界から消し去りたいくらいだ。
ましてや、他人が横から拐おうとするなんて、許せるはずがない。

 
ちょうど、次の長期休暇に別荘に行く予定だ。
ハルと共に、羽を伸ばして過ごそうと思っていたが、そうはいかなくなった。
 
二人で長く過ごせるなら、ゆっくりと話ができる。


聞き出す方法は色々ある。
こちらが縋って乞い願えば、真実を教えてくれるかもしれない。

でも、俺の奥底に沈んだ淀みが穏やかではなかった。
このドロリとした胸に渦巻く感情を、どうやってハルに分からせようか。


もっと大胆に、もっと執拗に。もっと淫靡に。

ハルが誰のものなのか、
思い知ってもらわなければならない。

 
 

別荘には、俺とハルだけが屋敷を出発して向かった。最低限の使用人だけにしたのは、俺がこれからハルにする蜜事を秘密にするためだ。

信用している使用人しか、今回は別荘に行かせなかった。

別荘に到着して荷ほどきを終えたあと、書斎で読書に耽っていた。
休憩用の茶菓子とお茶を運んできたハルは、『話があるから時間をもらえないか。』と言い出した。


……いよいよか。

 ハルから切っ掛けを作ってくれるとはな。
異動の件を、俺に黙っているのも良くないと考えたのかもしれない。

 
ハルは、俺に対して何と答えるのだろう。
素直に、本音を吐露してくれればいいのだが……。
そうならないだろうな。


夕食後に時間を取ることにして、ハルには寝室に酒の用意もお願いする。俺も、ハルと話したいことが沢山あるんだ。

すべての手筈が整った。

 
夕食後に寝室でくつろいでいると、コンコンっと控えめにドアがノックされる。
了承の返事をすると、いつもの執事服を着たハルが、寝室に入ってきた。

テキパキとローテーブルに酒やら、軽食を並べていく。そのどれもが、俺の好みのものばかりだ。以前に美味しいと俺が言った、チョコレートも小皿に乗せられている。
ほぼ独り言だったのに、覚えてくれていたようだ。

こういった俺を特別扱いしてくれているのが、堪らなく胸を暖かく満たしてくれる。
自然と微笑みが漏れてしまった。


ハルは、テーブルの用意を済ませると緊張した面持ちをして立っていた。


「久々に晩酌に付き合え。ハル。」

俺は、ハルにも酒を酌み交わすよう促した。
ハルはだいぶ渋っていたものの、俺が駄々を捏ねると折れてくれた。

 二人きりだと言うのに、ハルは立場を気にして堅苦しい。それに、少し身体が強ばっていて緊張しているようだった。

俺は、昔みたいに気兼ねなく話をしようと、ハルに命令した。これは半分本心でもある。もう半分は、多少リラックスしてもらわないと、後程困るからだ。
 
これで、ハルはお酒を飲むしかなくなった。


俺は、用意しておいた赤ワインのボトルを、小型のワインセラーから取り出した。ハルには、友人から貰ったと説明したが、もちろん嘘である。
 

ハルはワインが好きなのだ。この日用意したのは、年代物の果実の芳醇な香りが漂う、口当たりの良いもの。

赤ワインのブドウの渋味が、良い具合に薬の苦味を巧みに隠す。臭いはアルコールと果実の香りで全く分からないだろう。

 
薬は眠気を誘い、ほんの少し身体を熱で火照らすものを。害がないように、お抱えの医者にも相談済みだ。
リラックスさせたのは、緊張で薬が効かないことがないようにするため。

医者は俺の親友で悪友だから、嬉々として協力してくれた。


俺は、強引にハルの手を引いてソファに座らした。久々に繋いだハルの手は細く、しなやかで、すぐにでも手折れてしまいそうだ。

ハルを座らせると、飾り棚に仕舞っていたワイングラスを取り出した。
繊細な植物の模様が彫られたグラスに、暗い闇を纏った赤い蜜薬が注がれていく。


まるで、俺の心に沈んでいるものを写した色だ。

赤は、これから始まるであろう、淫靡なことに対する期待。
ほの暗い黒は、獲物が他のものに目移りをしたという、怒りと嫉妬。

混ざりあった色は、性欲と支配欲にまみれた、見事なボルドーだった。


ワインを注いだグラスを、ハルに差し出す。
蜜薬がバレることはないだろうが、口をつけるまでは安心できない。

俺もワイングラスを片手に持ち、乾杯の合図とともに口元にグラスを運んだ。グラスを傾けて、中身を飲んだふりをする。

ハルもワイングラスの縁に口を当て、傾けて蜜薬を口に含んだ。喉仏がゴクリと小さく上下したのを確認する。

一口ワインを飲んだハルは、味に酔いしれて微笑んだ。
どうやら、中身が蜜薬だということには気が付かなかったようだ。


内心で俺はほくそ笑む。


しばらくして、ハルの表情が変わっていく。頬は赤くうっすらと上気し、吐息はほんの少し熱を帯びていく。
本人も異変に気がついたのか、困惑と焦りが見える。

そして、必死に俺の方を見たあとに、ほっと安堵の息をはいた。
自分自身の身が危険だというのに、先に主人である俺の心配をするとは。執事の鏡だな。

俺としては、もっと自分自身のことを大切にしてほしいものだ。


身体に力が入らなくたってきたのだろう。
ハルが持っているグラスが傾いて、中身が溢れそうだ。
そっとグラスを取り上げる。

焦点の定まっていない、ぼんやりとした目でこちらを見るハル。さすがに、俺が冷静すぎる様子に違和感を覚えたのだろう。
困惑の色が表情に浮かんでいる。

やがてハルの麗しい瞳が瞼で覆われていく。眠気に抗おうとして、睫毛が小刻みに震えている。


「おやすみ。ハル。」


手の平でハルの視界を遮って、深い闇に眠らせた。




感想 5

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

水泳部合宿

RIKUTO
BL
とある田舎の高校にかよう目立たない男子高校生は、快活な水泳部員に半ば強引に合宿に参加する。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。