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本編

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それからと言うもの、俺は生活拠点の大半が公爵家に移っていた。当の婚約者であるカインは相変わらず伯爵家で過ごしているのだが、俺はザックに「半年間で変わらずテイトのことが好きだと証明するからそのために近くにいてくれ」と言われて公爵邸に居座っている。

たしかに自分から条件をふっかけた手前、その申し出を断ることはできなかった。それに、何だかんだと言ってもザックと過ごす時間は楽しい。


「テイト、テイトのものを一式揃えてみたのでちょっと来てください。」

ザックに呼ばれてついていけば、俺の部屋を準備していてくれたらしい。グレーと水色でまとまったシンプルな内装に合わせて必要な家具一式が揃えられていた。

「ザック、気が早いんじゃないか?でもまあ・・・ありがとうな。」

部屋はなかなか好みだし、準備してくれたことは純粋に嬉しい。もしかしたら使うのは半年程度かもしれないが・・・

「気に入ってもらえたようで良かったです。あとは服ですね。」
「いや、これ以上はもう・・・」
「いいえ、それじゃあ私の気が済まないんです。勘違いとはいえカインにばかり贈り物をしてしまって、テイトには申し訳ないことをしました。だからそのお詫びも兼ねて、ね?」

そう言われると俺は強く出ることはできなかった。

「・・・わかった。それじゃあ服屋は俺が指定していいか?」
「もちろん!」

そうして俺たちはかつてカインと訪れた「ジョニーの仕立て屋」へやってきていた。ザックが店の出立ちを見て俺に耳打ちしてくる。

「あの、本当にここでいいんですか?今人気のマダムローリーの仕立て屋の方が・・・」
「そこは以前断られた。」
「え?何故?」
「障害者に着られると店の評判に関わるからさ。」
「そんな・・・・・・」

ザックは、気遣わしげな表情をした後、少し憤ったように言葉を吐いた。

「あの店、二度と使うのは辞めます。」
「そんなこと言ってたから、お前も使える店がここだけになるぞ。」
「なら、ここを使えるようにしましょう。」

そう言ってザックは先導して店へと入っていった。俺は慌てて勢いよく歩き出したザックを追う。
店の中に入れば、少し寂れて古臭い感じは以前に来た時と同じままだった。


「久しぶりだな。」
「ん?ああ、あなたは!お久しぶりですね。」

フードを脱いで店主に声をかければ、店主も俺だと気付いて挨拶を返してくれる。俺はカインと2人で来た後も、たまに買い物に来ていたのである程度店主とは顔馴染みだ。まあ、買っていたのはスラムの屋敷にいる奴らの服だから安物ばかりだったのだが。

「今日はやけにきめ込んでますね。それに隣の方は・・・」
「私はアイザック・ヘンダーソン。一応公爵です。」
「こ、公爵?」

あっさり名乗ってしまったザックに店主は驚きを隠せないでいる。俺もここにザックを連れ来てしまった手前、本名を晒して良いのかと不安になって訪ねた。

「ザック!名乗って良かったのか?ここは・・・」

店主には悪いがここは平民向けの服屋だ。間違っても公爵が来るような場所ではない。

「構いません。今後も使用することになりそうですし、知っておいてもらった方がいいかと。」
「こ、今後も?それは、ご贔屓にどうも・・・?」

状況を飲み込めていない様子の店主が混乱しながら礼を伝えてくる。

「ええ、テイトの服はここで仕立てることになりそうですから。よろしくお願いしますね。」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「悪いな店主・・・」

俺はたじたじの店主に申し訳なさを感じつつ、ザックの勢いを止めることができない。

「それで、今ある服はここに出ているもので全部ですか?」
「ええ、そうです。」
「うーん、やっぱり新しく下立ててほしいですね。」
「どんな服をお望みですか?」
「そうですね、今流行りのベルベットを使用した服をいくつか。ベースは黒で。」
「ベルベットですか・・・」

俺は、青ざめる店主をよそに要望を伝え続けるザックを突っついた。

「ザック。」
「なんですか、テイト?」
「この店にベルベットなんかあるわけないだろ。」
「・・・そうでしたか、それは失礼しました。では、先に布代をお支払いしておきましょう。これで購入して頂けますか?」
「え、ええ分かりました。」

俺はここにある既製品で良いと言ったが、あくまでベルベットを諦める気がないらしいザックは勝手に店主とデザインを決め始めた。
こうなったザックはもう止まらない。俺は時々ザックが暴走していないか確認しつつ店内を物色した。

「テイト、お待たせしました。」
「いや、ありがとうな。」
「いいえ、完成品は公爵邸に届けてもらうことになりましたから、服はこれで大丈夫ですね。次はどこに行きましょうか?」
「まだどこか行くのか?」
「せっかくのテイトとのお出かけですから。もっとぶらぶらしましょう。」

そんな話をしながら、俺はザックにエスコートされて店を出た。
その後はザックと共に街をぶらついたり、カフェでスイーツを食べたりと充実した時間を過ごした。

今まで街に出たことは何度もあるが、いつも周りからの視線に怯えて心から楽しんでいたことはなかったと思う。でも今日はザックが隣にいるらか、安心して楽しむことができた。

「ザック、今日はありがとうな。お前のおかげで楽しかったよ。」

帰り道、不意にそう言った俺をザックは不思議そうに見た。

「その、お前が隣いてくれたおかげで人目を気にせず安心できた。」
「・・・それなら良かったです。これからはいつだって隣にいますから。」

ザックはそう言ってより一層俺に身を寄せ肩を抱き寄せた。まるでザックに守られているような感覚で、歳上としては情けないのだが、ザックの腕の中はなんとも言えない安心感があった。


後日、届いた服の量に頭を抱えたのはまた別の話だ。
あの短時間でよく注文したものだと呆れるほどの服が公爵邸に届き、ザックはそれを見て「腕は及第点ですね。」なんて言っていた。

俺は心の中で店主に謝り、服はありがたく着させてもらうことにした。
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