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本編
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それから数日、今は社交シーズンでまたパーティーがあるらしい。カインを婚約者として発表したばかりの手前、ザックとカインはある程度そう言ったパーティーに2人で顔を出す必要がある。
「はあぁ~、テイトと離れたくないのに・・・」
大きなため息を吐きながら俺に抱きつくザックを無理やりはがす。
「少なくとも今はカインと婚約中なんだから、しっかりエスコートしてこい。」
「えぇー、もっとこうしていたいです。」
そう言って再び抱きついたザックに今度は俺がため息を吐く。なんでこいつはこうも甘え上手なのだろう。こうやって慕われることに満更ではない自分がいるので困ってしまう。
「ほら、早く行かないと遅れるぞ。」
「う~ん、それじゃあ僕に気力をください。」
「気力?」
「キスして欲しいです。」
「はぁ!?」
抱きついたまま強請るように俺を見上げたザックに、後ずさりたいのに身動きが取れない。
「ああ、もう!」
俺は中ばやけになってザックの額にキスを落とした。慣れないことをしたせいか、やけに顔が熱い。
ザックは「口じゃないのか~」なんて言っているけど一応喜んでいるらしい。
「・・・ほら。してやったんだから、さっさと行ってこい。」
「ふふ、帰ってきた後もお願いしますね。」
「調子に乗るな。」
俺が昔のようにザックにデコピンをすれば、ザックはこれまた昔のように「えへへ」と表情を緩めて笑っていた。
「よしっ、それじゃあ、行ってきますね。テイトは食事を食べて先に休んでいてください。」
「ああ、お前も楽しんでこいよ。」
そうして俺は出かけていくザックを見送った。「楽しんでこい」の一言にザックは微妙そうな顔をしていたが、見送りの言葉なんてそんなものしか思いつかなかったのだから許して欲しい。
「さてと。」
流石にザックがいない間公爵家でぐうたらしているわけにもいかない。
ここ数日俺は公爵の仕事のほんの一部を手伝わせてもらい、それに応じて小遣い程度の給与をもらっている。
ザックはそんなことはしなくてもいいと言ったが、俺がやりたいと駄々をこねた結果だ。
障害者に仕事などない世界なので、手伝い程度といっても何かを任せてもらえることが嬉しい。ザックはお金が必要なら自分が与えると言っていたが、俺の目的が仕事をすること自体だと気付いてからは何も言わずにできそうな仕事を回してくれるようになった。
そのことに感謝しつつ、今日もザックがいない間に少しやっておこうと自分に割り振られた書類を確認する。
いつもは父やカインが仕事をしているのを眺めていることしかできなかった俺は、気合を入れて仕事に取り掛かる。かつての状況は一見羨ましく思われるかもしれないが、それは暗に"どうせお前には何もできない"と言われているようで辛かったのだ。
だから、自分にもできるのだと証明したい。せめてザックのお荷物になるだけではなく少しは役に立ちたい。そんな気持ちが俺を突き動かしていた。
最初こそ、あまりのできなさに落ち込みもしたが、ザックや公爵邸の使用人たちが懸命に支えてくれて、なんとか簡単な書類仕事はできるようになってきた。
そうして、俺はパーティーに時間を取られるザックの代わりに、少しでも仕事を減らしておいてやろうと仕事に取り掛かった。
「はあぁ~、テイトと離れたくないのに・・・」
大きなため息を吐きながら俺に抱きつくザックを無理やりはがす。
「少なくとも今はカインと婚約中なんだから、しっかりエスコートしてこい。」
「えぇー、もっとこうしていたいです。」
そう言って再び抱きついたザックに今度は俺がため息を吐く。なんでこいつはこうも甘え上手なのだろう。こうやって慕われることに満更ではない自分がいるので困ってしまう。
「ほら、早く行かないと遅れるぞ。」
「う~ん、それじゃあ僕に気力をください。」
「気力?」
「キスして欲しいです。」
「はぁ!?」
抱きついたまま強請るように俺を見上げたザックに、後ずさりたいのに身動きが取れない。
「ああ、もう!」
俺は中ばやけになってザックの額にキスを落とした。慣れないことをしたせいか、やけに顔が熱い。
ザックは「口じゃないのか~」なんて言っているけど一応喜んでいるらしい。
「・・・ほら。してやったんだから、さっさと行ってこい。」
「ふふ、帰ってきた後もお願いしますね。」
「調子に乗るな。」
俺が昔のようにザックにデコピンをすれば、ザックはこれまた昔のように「えへへ」と表情を緩めて笑っていた。
「よしっ、それじゃあ、行ってきますね。テイトは食事を食べて先に休んでいてください。」
「ああ、お前も楽しんでこいよ。」
そうして俺は出かけていくザックを見送った。「楽しんでこい」の一言にザックは微妙そうな顔をしていたが、見送りの言葉なんてそんなものしか思いつかなかったのだから許して欲しい。
「さてと。」
流石にザックがいない間公爵家でぐうたらしているわけにもいかない。
ここ数日俺は公爵の仕事のほんの一部を手伝わせてもらい、それに応じて小遣い程度の給与をもらっている。
ザックはそんなことはしなくてもいいと言ったが、俺がやりたいと駄々をこねた結果だ。
障害者に仕事などない世界なので、手伝い程度といっても何かを任せてもらえることが嬉しい。ザックはお金が必要なら自分が与えると言っていたが、俺の目的が仕事をすること自体だと気付いてからは何も言わずにできそうな仕事を回してくれるようになった。
そのことに感謝しつつ、今日もザックがいない間に少しやっておこうと自分に割り振られた書類を確認する。
いつもは父やカインが仕事をしているのを眺めていることしかできなかった俺は、気合を入れて仕事に取り掛かる。かつての状況は一見羨ましく思われるかもしれないが、それは暗に"どうせお前には何もできない"と言われているようで辛かったのだ。
だから、自分にもできるのだと証明したい。せめてザックのお荷物になるだけではなく少しは役に立ちたい。そんな気持ちが俺を突き動かしていた。
最初こそ、あまりのできなさに落ち込みもしたが、ザックや公爵邸の使用人たちが懸命に支えてくれて、なんとか簡単な書類仕事はできるようになってきた。
そうして、俺はパーティーに時間を取られるザックの代わりに、少しでも仕事を減らしておいてやろうと仕事に取り掛かった。
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