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第十四話※ざまぁ回
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一方、そのころ。
王城の裏庭の管理を一部委任されたエリヴィラ王女は、手伝いとして裏庭に連れてきた八人の宮廷メイドたちを前に、お怒りだった。
「まあ、あなたたちったら草むしりもできないの!? 使えないわね!」
ネルを含めた宮廷メイドたちは誰も彼も顔を青ざめさせて、びくびくしているが、それはエリヴィラ王女の怒りに対してだけではない。
夏に近づき、裏庭を飛び回る大小の虫たちに対してだ。
「も、申し訳……ひい! 虫!」
「きゃあああ!? こっち来ないでええ!」
「バッタじゃない。こんなの無視して、箒でそこの落ち葉を掃いてちょうだい」
当然、エリヴィラ王女は虫など平気だ。
「蜂! 蜂よ!」
「ただのアブよ。えい」
「王女殿下! そのようなことをしてはいけません!」
「もう、うるさーい! 仕事しなさい、仕事! 水かけるわよ!」
結局、昼までには連れてこられた宮廷メイドたち全員が根を上げて、少しでも裏庭から逃げようと壁に張り付いている。
エリヴィラ王女は十一歳ながら、大人びた少女だった。ため息を吐き、王族らしい重々しい声で宣言する。
「もういいわ。あなたたち、クビ。使えないメイドたちがいるからこちらで働かせてやって、って執事長に言われたけれど、ここでも使えないなんて……さっさと宿舎に帰って荷物をまとめて、王城から出ていきなさい!」
大量解雇を言い渡された宮廷メイドたちは、口々に懇願や抗議の声を上げる。
「そんな、お慈悲を!」
「そうです! 虫なんてみんな嫌いですよ!」
しかし、エリヴィラ王女は冷酷に、彼女らに対して現実を突きつける。
「エイダは文句も言わず、ここを綺麗にして草花の世話をしていたわ! それも、たった一人で! あなたたちはそれだけ集まってもエイダ一人に敵わないのよ、恥を知りなさい!」
エイダ、と名前を出されて、ネルを含めた何人かの宮廷メイドたちは気まずそうな顔をする。自分たちがいじめて裏庭に追い払ったメイドにも劣る、と言われては苛立ちも募る。
そこへ、温厚そうな薬師のデ・ヴァレスがやってきた。
「おやおや、血気盛んですな、エリヴィラ様」
「あら、デ・ヴァレスじゃない」
「それほど強く当たらずとも、彼女らも新しい環境に慣れていないのですから、もう少しお手柔らかに」
宮廷メイドたちはほっとした。薬師のデ・ヴァレスならエリヴィラ王女をなだめてくれるに違いない——そう安心したのも束の間だった。
急に、薬師のデ・ヴァレスは宮廷メイドたちへ怒鳴ったのだ。
「おい。そこ、その薬草を踏むな!」
「へ!?」
「何をしている! 誰が花壇に入っていいと言った! 踏み荒らすでないわ!」
「ひいい!? 申し訳ございません!」
宮廷メイドたちを追い払い、薬師のデ・ヴァレスは足元の草を守るように手で囲う。
いかにもな悲痛な声で、薬師のデ・ヴァレスはつぶやいた。
「何ということだ、国王陛下のための薬草を植えていたというのに」
宮廷メイドたちは、もはや顔色が青を通り越して白く、口を固く閉ざし、目を泳がせる。
どうにもならない、と彼女たちは悟っただろう。
エリヴィラ王女は、ついに彼女たちを解雇するだけの理由を得て、言い渡す。
「あなたたち……覚悟はできているかしら?」
この日をもって、宮廷メイド八人が解雇された。彼女たちはその日のうちに宿舎を追われ、以後の行方は誰も知らない。
王城の裏庭の管理を一部委任されたエリヴィラ王女は、手伝いとして裏庭に連れてきた八人の宮廷メイドたちを前に、お怒りだった。
「まあ、あなたたちったら草むしりもできないの!? 使えないわね!」
ネルを含めた宮廷メイドたちは誰も彼も顔を青ざめさせて、びくびくしているが、それはエリヴィラ王女の怒りに対してだけではない。
夏に近づき、裏庭を飛び回る大小の虫たちに対してだ。
「も、申し訳……ひい! 虫!」
「きゃあああ!? こっち来ないでええ!」
「バッタじゃない。こんなの無視して、箒でそこの落ち葉を掃いてちょうだい」
当然、エリヴィラ王女は虫など平気だ。
「蜂! 蜂よ!」
「ただのアブよ。えい」
「王女殿下! そのようなことをしてはいけません!」
「もう、うるさーい! 仕事しなさい、仕事! 水かけるわよ!」
結局、昼までには連れてこられた宮廷メイドたち全員が根を上げて、少しでも裏庭から逃げようと壁に張り付いている。
エリヴィラ王女は十一歳ながら、大人びた少女だった。ため息を吐き、王族らしい重々しい声で宣言する。
「もういいわ。あなたたち、クビ。使えないメイドたちがいるからこちらで働かせてやって、って執事長に言われたけれど、ここでも使えないなんて……さっさと宿舎に帰って荷物をまとめて、王城から出ていきなさい!」
大量解雇を言い渡された宮廷メイドたちは、口々に懇願や抗議の声を上げる。
「そんな、お慈悲を!」
「そうです! 虫なんてみんな嫌いですよ!」
しかし、エリヴィラ王女は冷酷に、彼女らに対して現実を突きつける。
「エイダは文句も言わず、ここを綺麗にして草花の世話をしていたわ! それも、たった一人で! あなたたちはそれだけ集まってもエイダ一人に敵わないのよ、恥を知りなさい!」
エイダ、と名前を出されて、ネルを含めた何人かの宮廷メイドたちは気まずそうな顔をする。自分たちがいじめて裏庭に追い払ったメイドにも劣る、と言われては苛立ちも募る。
そこへ、温厚そうな薬師のデ・ヴァレスがやってきた。
「おやおや、血気盛んですな、エリヴィラ様」
「あら、デ・ヴァレスじゃない」
「それほど強く当たらずとも、彼女らも新しい環境に慣れていないのですから、もう少しお手柔らかに」
宮廷メイドたちはほっとした。薬師のデ・ヴァレスならエリヴィラ王女をなだめてくれるに違いない——そう安心したのも束の間だった。
急に、薬師のデ・ヴァレスは宮廷メイドたちへ怒鳴ったのだ。
「おい。そこ、その薬草を踏むな!」
「へ!?」
「何をしている! 誰が花壇に入っていいと言った! 踏み荒らすでないわ!」
「ひいい!? 申し訳ございません!」
宮廷メイドたちを追い払い、薬師のデ・ヴァレスは足元の草を守るように手で囲う。
いかにもな悲痛な声で、薬師のデ・ヴァレスはつぶやいた。
「何ということだ、国王陛下のための薬草を植えていたというのに」
宮廷メイドたちは、もはや顔色が青を通り越して白く、口を固く閉ざし、目を泳がせる。
どうにもならない、と彼女たちは悟っただろう。
エリヴィラ王女は、ついに彼女たちを解雇するだけの理由を得て、言い渡す。
「あなたたち……覚悟はできているかしら?」
この日をもって、宮廷メイド八人が解雇された。彼女たちはその日のうちに宿舎を追われ、以後の行方は誰も知らない。
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