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第八話
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バストルが一枚の鉄扉に腰から下げた鍵束の鍵の一つを差し込み、鉄扉は鈍い音を立てて仰々しく開く。その先には、整然と木棚が並べられ、箱に入った品々が間隔を空けて置かれていた。
何となく、ブランシュは中に入りたくない気持ちに駆られた。バストルは平然と中へ入っているが、どうにも気が進まない。しょうがないので入り口で待っていることにした。
さっさと奥に進んだバストルは、一つの小箱を手に帰ってきた。それは見たこともない虹色の細工が細密に施された黒いツヤツヤの箱で、いかにもとんでもないものが中に入っています、と言わんばかりだ。
身構えるブランシュへ、バストルはゆっくりと小箱の蓋を開けて、中身を見せる。
「こちらが、シャルトナー王国の今はなきベラステラ公爵家から流れた封魔道具、逆さの指輪でございます」
ごくり、とブランシュは思わず息を呑む。
小箱の中には、何の変哲もない銀色の指輪が一つあった。しかし、ブランシュには分かる。その指輪の周囲に、目に見えない何かが渦巻いているような感覚があるのだ。本能的に忌避したくなるような、否定されてしまうような、恐ろしい感覚。
目を見開いて体を強張らせているブランシュへ、バストルは説明を続ける。
「指輪をつけている間は、魔法が使えません。また、指輪が安置されている場所からおおよそ馬車一台分ほどの距離では、あらゆる魔法の力がきわめて減衰します。体内あるいは空気中の力素に干渉して魔法の力の伝達を阻害するのです」
理屈は分からないが、魔法を阻害する効果があることは、ブランシュには十分に理解できた。こくこくとブランシュが頷くと、バストルは小箱の蓋を閉める。
「指輪を外せば、また魔法は使えるの?」
「ええ、しかしご注意を。封魔道具は例外なく強力な魔道具です。長く身につけることはおすすめしません」
ただし、それだけ強力だと知られているからこそ価値があるのです、とバストルは付け加えた。もっともな話だ、ブランシュは納得する。これがあるから魅了魔法を使えないと対外的に証明するには十分で、こんなものがここにあるくらいなら手に入れて隠していたほうがよさそうだとも考え、決める。
「いいわ、これをいただきたいの。お代はトリベール侯爵家に請求して、サインなら書くわ」
これさえあれば、取次のウスターシュに文句をつけられることはないだろう。ブランシュはその確信を得て、少しは胸を撫で下ろす。
ところが、この封魔道具があることでコシェ王城でとんでもない事件が引き起こされると予想できたのは、この時点では誰一人としていなかった。
何となく、ブランシュは中に入りたくない気持ちに駆られた。バストルは平然と中へ入っているが、どうにも気が進まない。しょうがないので入り口で待っていることにした。
さっさと奥に進んだバストルは、一つの小箱を手に帰ってきた。それは見たこともない虹色の細工が細密に施された黒いツヤツヤの箱で、いかにもとんでもないものが中に入っています、と言わんばかりだ。
身構えるブランシュへ、バストルはゆっくりと小箱の蓋を開けて、中身を見せる。
「こちらが、シャルトナー王国の今はなきベラステラ公爵家から流れた封魔道具、逆さの指輪でございます」
ごくり、とブランシュは思わず息を呑む。
小箱の中には、何の変哲もない銀色の指輪が一つあった。しかし、ブランシュには分かる。その指輪の周囲に、目に見えない何かが渦巻いているような感覚があるのだ。本能的に忌避したくなるような、否定されてしまうような、恐ろしい感覚。
目を見開いて体を強張らせているブランシュへ、バストルは説明を続ける。
「指輪をつけている間は、魔法が使えません。また、指輪が安置されている場所からおおよそ馬車一台分ほどの距離では、あらゆる魔法の力がきわめて減衰します。体内あるいは空気中の力素に干渉して魔法の力の伝達を阻害するのです」
理屈は分からないが、魔法を阻害する効果があることは、ブランシュには十分に理解できた。こくこくとブランシュが頷くと、バストルは小箱の蓋を閉める。
「指輪を外せば、また魔法は使えるの?」
「ええ、しかしご注意を。封魔道具は例外なく強力な魔道具です。長く身につけることはおすすめしません」
ただし、それだけ強力だと知られているからこそ価値があるのです、とバストルは付け加えた。もっともな話だ、ブランシュは納得する。これがあるから魅了魔法を使えないと対外的に証明するには十分で、こんなものがここにあるくらいなら手に入れて隠していたほうがよさそうだとも考え、決める。
「いいわ、これをいただきたいの。お代はトリベール侯爵家に請求して、サインなら書くわ」
これさえあれば、取次のウスターシュに文句をつけられることはないだろう。ブランシュはその確信を得て、少しは胸を撫で下ろす。
ところが、この封魔道具があることでコシェ王城でとんでもない事件が引き起こされると予想できたのは、この時点では誰一人としていなかった。
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