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第十九話
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あくる週、本当にジーベルン子爵が私を訪ねてやってきました。使用人たちに大量の本を持たせて、店に運び入れさせます。
「あー……エミー、先日はすまなかった。謝罪する」
本を背に、ジーベルン子爵は頭をかきながらそう言いました。その顔はどこかしょんぼりしていて、前に会ったときのふてぶてしさが鳴りを潜めて気弱げです。
私は許す許さないということが言える立場ではありません。ジーベルン子爵へ当たり障りのないことを言うしかないのです。
「気にしておりません、と言えば嘘になりますけど、閣下がお気になさるほどのことではありませんわ」
「いや、そういうわけにはいかない。お前はワグノリス王国の出身だから知らないだろうが」
「その話はバルクォーツ女侯爵から聞きました。あなたが求婚してくるであろうことも、聞かされています」
私は先手を打ちました。長々同じことを話していても、私が疲れるだけです。
ジーベルン子爵は「そ、そうか」と納得して、あからさまに照れながら話を切り出します。
「なら、話は早い。従兄弟殿の手回しのよさに甘えて、単刀直入に言おう。エミー・ウィズダム、俺はお前に結婚を申し込む。受けてくれるだろうか」
その言葉の図々しさとは裏腹に、だんだん声が小さくなっていきます。前に会ったとき、ジーベルン子爵はもっと俺様な明るい性格かと思っていましたが、それは興味のある分野でだけ発揮されるもので、いつもはこんな感じで奥手な方なんだろうな、と窺えます。
私は——ちょっと、意地悪な質問をすることにしました。
「好きでもない女と結婚しようと思うのですか?」
それを聞いたジーベルン子爵は、必死になって首を横に振りました。
「エミー、それは違う。俺はお前のことが嫌いじゃない。もっとお前のことが知りたい、もっとたくさん話がしたい。俺がそう思う人間は滅多にいないんだ、それにお前だって俺のことを知らずにそう言っているだろう?」
確かに、それはもっともな話です。私はジーベルン子爵についてそれほど知っているわけではありません、私の中のジーベルン子爵像は、ステレオタイプな貴族らしさやバルクォーツ女侯爵から聞いた話がほとんどです。
私はこの方のことを、何も知らないも同然です。ワグノリス王国の文学が好きな青年貴族、少しだけ変わっている、そんなことしか知らないのです。
それなのに、私のことを嫌っているとレッテルを貼るのは、おかしいと言えばおかしいでしょう。
でも。
「お座りください。話をしましょう、少しずつでも」
「ああ、そうだな。とりあえず、求婚については頭の片隅にでも置いておいてくれ」
「分かりました。じゃあ閣下は」
「アレクシスでいい。親しい人間はアレクと呼ぶ、それでかまわない」
ならば、と私はジーベルン子爵のことをアレクと呼ぶことにしました。
アレクに、私は真っ先に聞かなければならないことを、本当は全然聞きたくなんてなかったけど、問いかけます。
「アレク様は、私のことが醜いと思われないのですか?」
「あー……エミー、先日はすまなかった。謝罪する」
本を背に、ジーベルン子爵は頭をかきながらそう言いました。その顔はどこかしょんぼりしていて、前に会ったときのふてぶてしさが鳴りを潜めて気弱げです。
私は許す許さないということが言える立場ではありません。ジーベルン子爵へ当たり障りのないことを言うしかないのです。
「気にしておりません、と言えば嘘になりますけど、閣下がお気になさるほどのことではありませんわ」
「いや、そういうわけにはいかない。お前はワグノリス王国の出身だから知らないだろうが」
「その話はバルクォーツ女侯爵から聞きました。あなたが求婚してくるであろうことも、聞かされています」
私は先手を打ちました。長々同じことを話していても、私が疲れるだけです。
ジーベルン子爵は「そ、そうか」と納得して、あからさまに照れながら話を切り出します。
「なら、話は早い。従兄弟殿の手回しのよさに甘えて、単刀直入に言おう。エミー・ウィズダム、俺はお前に結婚を申し込む。受けてくれるだろうか」
その言葉の図々しさとは裏腹に、だんだん声が小さくなっていきます。前に会ったとき、ジーベルン子爵はもっと俺様な明るい性格かと思っていましたが、それは興味のある分野でだけ発揮されるもので、いつもはこんな感じで奥手な方なんだろうな、と窺えます。
私は——ちょっと、意地悪な質問をすることにしました。
「好きでもない女と結婚しようと思うのですか?」
それを聞いたジーベルン子爵は、必死になって首を横に振りました。
「エミー、それは違う。俺はお前のことが嫌いじゃない。もっとお前のことが知りたい、もっとたくさん話がしたい。俺がそう思う人間は滅多にいないんだ、それにお前だって俺のことを知らずにそう言っているだろう?」
確かに、それはもっともな話です。私はジーベルン子爵についてそれほど知っているわけではありません、私の中のジーベルン子爵像は、ステレオタイプな貴族らしさやバルクォーツ女侯爵から聞いた話がほとんどです。
私はこの方のことを、何も知らないも同然です。ワグノリス王国の文学が好きな青年貴族、少しだけ変わっている、そんなことしか知らないのです。
それなのに、私のことを嫌っているとレッテルを貼るのは、おかしいと言えばおかしいでしょう。
でも。
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「アレクシスでいい。親しい人間はアレクと呼ぶ、それでかまわない」
ならば、と私はジーベルン子爵のことをアレクと呼ぶことにしました。
アレクに、私は真っ先に聞かなければならないことを、本当は全然聞きたくなんてなかったけど、問いかけます。
「アレク様は、私のことが醜いと思われないのですか?」
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