4 / 24
3-2.光る君との出逢い〈承前〉
しおりを挟む
「わたくしに構わないでください! わたくしは終生誓願を立て、神にこの身を捧げると決めたのです!!」
「終生誓願だって!?」
「なんてこと……!」
終生誓願してしまえば、還俗は叶わない。私は生涯を独り身で過ごすことができるのだ。
「ルミリエ嬢!」
「ルミリエ様……!」
——ああもう、鬱陶しい。
私はテーブルセットから勢いよく立ち上がると、中庭から続く小径へと向かって駆けだした。
エルンストとルイーゼ以外にも、驚いた貴族の子女たちの声が追いかけてくるが、構うものか。
小径を少し行くと、辺りの樹木が手入れされた庭木ではなく、雑木林になってきた。
構わず駆け抜けると、やがて少し開けた場所に出る。公爵家の敷地内ではあるだろうが、しばらくここで時間を潰そうと、私は地面にしゃがみこんだ。
その時だった。
「こんなところじゃ、すぐに見つかっちゃうよ?」
男性の澄んだ声がして顔を上げる。
私は目を瞠った。
肩までの茶色の髪を垂らし、緑の瞳をいたずらっぽく揺らして私へ歩み寄るその男性の背後には、まばゆい光輪が光り輝いている。
「ほら、おいで! 俺が君を遠くへ連れてってあげるよ……っ」
「え!?」
いつの間にか近くまでやってきていた男性は、私の手をとって立ち上がらせた。
私が驚いて手を引く間もなく、彼はそのまま駆けだす。
「……ちょっ、待って、待ってください……!」
「ごめんね、もう少しだから」
私の手を引いた彼は雑木林をジグザグに走り、やがて屋敷を囲む塀の前へと辿り着いた。
古びた塀には、枯れた蔦が幾重にも絡みついている。
彼は私の手を離すと、蔦を足場に塀に上り始めた。さほど高くない塀なので、彼はすぐに向こう側へと飛び降りる。
そして、塀の向こうから私に手を差し出したのだ。
「君、けっこう走れたみたいだし、この塀も乗り越えられそうだ。ほら、早くおいで!」
「……!」
彼はどうして、私が迷いもなく付いて来ると思っているのだろう。
さきほど彼の周囲に輝いていた光輪——あれは、ヒーローの「オーラ」だ。彼はこの世界でヒロインと結ばれるべく生まれた、生粋のヒーローなのである。
つまり、彼は「過去の女」である私が決して関わってはいけない人物。
——関われば、きっと恋をする。そして捨てられるところまでワンセットだ。
その時、遠くから私を呼ばわる声がした。エルンストの声だ。
「ほら、追いつかれちゃうよ? いいの?」
塀の向こうで彼が告げる。私が逡巡する間にも声はどんどん近づいてきて——
私はその時、どうしてその選択を取ったのか、後になっても理解できない。
だが私は塀に絡まる蔦に足をかけると、いっきに塀を登り向こう側へと降り立ったのだった。
「終生誓願だって!?」
「なんてこと……!」
終生誓願してしまえば、還俗は叶わない。私は生涯を独り身で過ごすことができるのだ。
「ルミリエ嬢!」
「ルミリエ様……!」
——ああもう、鬱陶しい。
私はテーブルセットから勢いよく立ち上がると、中庭から続く小径へと向かって駆けだした。
エルンストとルイーゼ以外にも、驚いた貴族の子女たちの声が追いかけてくるが、構うものか。
小径を少し行くと、辺りの樹木が手入れされた庭木ではなく、雑木林になってきた。
構わず駆け抜けると、やがて少し開けた場所に出る。公爵家の敷地内ではあるだろうが、しばらくここで時間を潰そうと、私は地面にしゃがみこんだ。
その時だった。
「こんなところじゃ、すぐに見つかっちゃうよ?」
男性の澄んだ声がして顔を上げる。
私は目を瞠った。
肩までの茶色の髪を垂らし、緑の瞳をいたずらっぽく揺らして私へ歩み寄るその男性の背後には、まばゆい光輪が光り輝いている。
「ほら、おいで! 俺が君を遠くへ連れてってあげるよ……っ」
「え!?」
いつの間にか近くまでやってきていた男性は、私の手をとって立ち上がらせた。
私が驚いて手を引く間もなく、彼はそのまま駆けだす。
「……ちょっ、待って、待ってください……!」
「ごめんね、もう少しだから」
私の手を引いた彼は雑木林をジグザグに走り、やがて屋敷を囲む塀の前へと辿り着いた。
古びた塀には、枯れた蔦が幾重にも絡みついている。
彼は私の手を離すと、蔦を足場に塀に上り始めた。さほど高くない塀なので、彼はすぐに向こう側へと飛び降りる。
そして、塀の向こうから私に手を差し出したのだ。
「君、けっこう走れたみたいだし、この塀も乗り越えられそうだ。ほら、早くおいで!」
「……!」
彼はどうして、私が迷いもなく付いて来ると思っているのだろう。
さきほど彼の周囲に輝いていた光輪——あれは、ヒーローの「オーラ」だ。彼はこの世界でヒロインと結ばれるべく生まれた、生粋のヒーローなのである。
つまり、彼は「過去の女」である私が決して関わってはいけない人物。
——関われば、きっと恋をする。そして捨てられるところまでワンセットだ。
その時、遠くから私を呼ばわる声がした。エルンストの声だ。
「ほら、追いつかれちゃうよ? いいの?」
塀の向こうで彼が告げる。私が逡巡する間にも声はどんどん近づいてきて——
私はその時、どうしてその選択を取ったのか、後になっても理解できない。
だが私は塀に絡まる蔦に足をかけると、いっきに塀を登り向こう側へと降り立ったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
597
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる