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侯爵の晩餐

○4話

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 参加する前は料理を食べる余裕はないかもしれないと危惧していたけど、それは杞憂だった。
おれもケイジュも少し食べすぎなくらい宴会料理を楽しんでしまった。
まだ晩餐会は続いていたけど、ハッダード侯爵の従僕に帰りの挨拶を言付けて会場を出る。
二軒目を目指す酔いどれたちをかき分け、宿屋を目指した。
急に招待状が届いたときにはどうしようかと頭を抱えたけど、終わってみれば悪くない成果だ。
ハッダード侯爵が人情に厚い人でよかった。
権力を振りかざしておれを脅すこともしなかったし、こうしてすんなりと帰してもらえたし、きっと正義感の強い人でもあるんだろう。
わざわざミンシェン伯爵についても言及していたし、本当は最初から真っ向勝負でおれを仲間に引き入れようとしていたんじゃないだろうか。
連泊している宿屋に戻り、料理と酒と煙の匂いを風呂で洗い流す。
ケイジュは宿屋に戻ってからもちょっと難しい顔をしたままで、口数も少ない。
貴族社会と縁のないケイジュには、今日一日の情報量は多すぎたのだろうか。
おれが風呂を勧めても、どこか落ち着かない様子で返事をしていた。
いつもなら嬉しそうに風呂に入るのにな。
ケイジュの態度に、おれは見覚えがあった。
リル・クーロで告白されたあの夜も、あんな感じでむっつり黙り込んだかと思えば急に焦ったように部屋の外に連れ出したりして、ソワソワしていた。
おれは少し考えて、もしかして、と思う。
ここ数日まともに触り合う時間がなかったから、ケイジュは今夜に期待しているのだろうか。
考えてみれば、性的な意味で触れ合ったのは、スラヤ村に出発する前が最後だ。
その後は気の抜けない森の中でキャンプしたり、ケイジュの実家に泊まったり、列車の中だったりして、なかなか時間が取れなかった。
口付けだけは隙を見てしていたけど、おれもケイジュも若い男だから物足りなさはある。
そう考え始めると、おれの頭の中はあっという間に卑猥な想像で埋め尽くされた。
昨夜も疲れていてすぐ寝てしまったし、今夜は、1週間ぶりに……。
おれの股間に早くも熱がこもり始める。
待て待て、落ち着け。
風呂から出てきたケイジュにいきなり勃起してる様は見せたくない。
おれが深呼吸して水を飲んだりしているうちに、ケイジュがいつもより時間をかけずに風呂から出てくる音がした。
まずい、どうしよう。
おれは迷った挙句、荷物を整理するふりをして窓側を向いて立った。
意味もなく録音水晶板を引っ張りだし、汚れを指の腹で拭う。
ケイジュが部屋に戻ってきた気配がしたと思ったら、後ろから抱きすくめられた。
シャツ越しにケイジュのしっとりした体温を感じる。
ケイジュの吐息が首筋にあたり、熱を持った掌がおれの胸を撫でていく。
それはそのまま下におりていき、おれがゆるく勃起していることはすぐにバレてしまった。

「……セオドアも、期待していたのか?」

耳元に少し意地悪な声で囁かれて、腰を押し付けられる。
ごり、と熱と硬さを伝えてくるのはケイジュの勃起したペニスだ。
おれは息を詰めて、生唾を飲み込んだ。
ケイジュの手に自分の手を重ね、腰を少し揺らす。

「……期待してたら、悪いか?」

おれが苦し紛れに言い返すと、ケイジュの手がシャツの中に潜り込んでくる。

「……悪くない」

ケイジュは首筋に柔く歯を立てて、ちろりと舌先でうなじを舐める。
それだけでぞくぞくと気持ちよさが背中を走り抜けて、おれは湿っぽい息を吐いてしまう。
ケイジュの吐息も早まって、やや強引に腕を引かれてベッドに連れて行かれた。
どさりとシーツに投げ出されたおれの上に、ケイジュが覆いかぶさる。
おれを覗き込むケイジュの瞳は、獣のように爛々と底光りしている。
目を開けたままケイジュが口付けてきたので、おれも対抗して目を閉じずに最初から舌を使ってキスに応えた。
至近距離にあるケイジュの顔が、すぐに興奮でぼやけていく。
じゅる、と舌を吸われて唇が離れ、唾液の糸がおれとケイジュを繋ぐ。
おれは犬のように舌を出したまま呼吸を繰り返し、ケイジュの腰を足で押さえ込んだ。

「ケイジュ、もっと、」

おれの余裕のないおねだりに、ケイジュは同じだけの熱量を持って応えてくれる。
おれとケイジュはあっという間に服を脱ぎ散らかすと、欲望に身を任せて求めあった。

 おれはケイジュに与えられる快楽に、頭の芯が麻痺していくような心地になっていた。
ケイジュは何故か手を使おうとはせず、おれにキスをしながら腰を押し付け、ぐり、とかたくなった陰茎同士を擦り合わせていた。
お互いの熱が直接伝わってきてこれはこれで気持ちいいのだが、手と違って欲しい所に刺激を与えられない。
おれが触ろうとしてもケイジュはやんわりと手首を掴んでシーツに押し付けてくるので、ずっともどかしいままだ。
焦らされて辛くなったおれが半泣きで触ってくれと懇願しても、ケイジュは笑みを深めるだけで応えてくれない。
おれが半ば諦めて、自ら腰を突き上げて快楽を得ようとしていると、ケイジュはようやくおれの体を掌で撫でてくれる。
期待感で胸が高鳴るが、その手はおれの大胸筋を柔らかく揉み始めた。
おれがまさか、と視線を向けると、ケイジュはおれの胸を見下ろして目を細めていた。
その愛おしげな表情に心臓が痛くなったが、おれはゆるゆると首を横に振る。
胸の開発なら後でいくらでもしていいから、今はとにかく出したい。切ない。

「や、だ、下、触って、たのむ、から」

おれがもう一度願っても、ケイジュは宥めるように額にキスをしてくれるだけだ。

「もう少し、我慢だ。がんばれるよな?」

甘い声でそう言われたら、おれはもう何も言えない。
目頭が熱くなる。
おれは腕で顔を隠した。
ケイジュはおれが返事をしないのを良いように受け取って、ごく弱い力で胸や脇腹を指先でなぞる。
擽ったいはずなのに、身体が極限まで快楽に飢えているせいで、ぞくぞくして気持ちよくも感じる。
おれの背中が勝手にのけ反って、先走りをだらだら垂らしているペニスも駄々をこねるようにペちんと腹の上で跳ねた。
ケイジュの指先は徐々におれの乳首に近付いていき、乳輪のふちをくるくるとなぞられる。
今までそこにあることをほとんど意識してこなかった乳首が、急に存在を主張してぴりぴりと痺れを訴えてくる。
胸を見下ろすと、おれの大胸筋のてっぺんで小さい乳頭がぽつんと勃っている。
部屋の照明をつけたままなので、その生々しい赤色もよく見えた。
その周りをケイジュの指先が這う。
日々在来生物相手に短槍を振るってきたその指は皮膚が固くなっていて、少しカサついている。
その指先がかすかに乳首に触れると、おれの腰が大袈裟なくらいビクついた。

「っあ、は、」

声まで漏らしてしまったが、もう羞恥心も麻痺してきた。
なんでもいい、早く、気持ちよくなりたかった。
おれは快楽を拾うべく目を閉じ、シーツを握りしめて次の刺激を待つ。
しかし、一向に触ってこないので不思議に思って目を開けると、ケイジュが蕩けそうな顔でおれを見ていた。

「集中できて偉いぞ、セオドア」

甘ったるい声で褒められて、頭を優しく撫でられる。
おれは何を褒められているのかもよくわからないまま嬉しくなって、ふわふわと夢見心地で笑い返す。
ケイジュはおれから視線を外さないまま、くに、と右の乳首を押しつぶした。
ぞくん、と腰の奥から寒気のような感覚が這いのぼる。
おれが息を止めていると、ケイジュは更に指先でおれの乳首をくりくりと弄び、左の乳首の先端もカリカリと爪先で刺激する。

「っんふ、あ、ああぅッ」

ペニスを扱かれたりアナルをほじられたりするのに比べれば格段に弱い快楽のはずなのに、声が我慢できない。
男なのに乳首を弄られて悶えるなんて、と恥ずかしく思うことさえも興奮を掻き立てる。

「セオドアはどこも敏感でいやらしいな……ほら、乳首もさっきよりかたくなってきた」

ケイジュはぴんっ、ぴんっ、と両方の乳首を弾いて、おれの背中が弧を描く。

「ちゃんと見ていろ、セオドア」

さっきの優しい声色から一変して、今度は高圧的に命令される。
おれは涙が滲んでいるせいでぼやける視界に、自分の胸板をおさめた。
さっきよりも少し大きくなったように見える乳首が、ケイジュの指先に弄ばれて形を変えている。
おれは唇を噛み締め、フーフーと獣のように息を吐き出しながらその光景に耐える。
おれが言われた通りに見ていることを確認したケイジュが、見せつけるように舌を出して、ゆっくりと乳首に近付けていく。
こんな美しい男に、こんな下品なことをさせている事実がおれの脳を焼き、全身の毛が逆立つような背徳感に襲われる。
ケイジュの舌がちょん、と乳頭に触れた。

「ッア、く、」

おれの手がシーツを離し、勝手にケイジュの肩を抱きしめてしまう。
ケイジュの舌が焦らすように乳輪をなぞり、もう片方の乳首をカリカリと指先で擦られる。
おれの背中がしなり、ケイジュの顔に胸を押し付けてしまう。
それを恥ずかしく思ったのは一瞬で、ケイジュの舌がくにゅくにゅと乳首をいじめ始めるともうどうでも良くなった。
気持ちいい。
指とは全く違う熱くて濡れた粘膜が、すっかり性感帯に変えられてしまった乳首を容赦なく愛撫している。
舌先で転がされ、柔く吸い上げられ、緩急をつけてねぶられる。
たまらずケイジュの肩を抱く力も強くなったのだが、ケイジュの動作は変わらない。
ふやけそうなくらい吸われたあとに、今度はもう片方の乳首も同じだけ愛される。
それが終わる頃には、全身に熱がこもって汗がにじみ、背中がこわばってひくひくと痙攣していた。
口は閉じることもできずに、触られるたびに喘ぎ声を漏らしてしまう。
満足げな顔で口元を拳で拭ったケイジュがおれを見下ろす。
薄く微笑んだ唇は酷薄で、ゾクゾクした。

「ケ、イジュ、やめな、で、」

おれがすがりつくと、ケイジュは再びおれの胸に顔を埋めて愛撫を再開してくれた。
今度は手でおれのペニスも扱いてくれる。
ずっとほったらかされて痛いくらい勃起したまま先走りをだらだら垂れ流しにしていたペニスに、その刺激は強すぎた。
おれはケイジュの頭を胸に抱きかかえたままのけ反った。

「ああッ、ぅう、いっしょ、にされたら、ァ、おれ、すぐ、」

「……いい、好きなときにイけ」

ケイジュは吐息混じりにそう言うと、ペニスを扱く手の動きを速めた。
にゅち、にゅち、と先走りが塗り広げられる音。
ちゅく、ちゅく、と乳首を口の中で転がされる音。
それらがおれを快楽から逃れることを許さない。
元々出したくてたまらなかったこともあって、あっという間に射精の予感がこみ上げてきた。
ケイジュは淡々とペニスを上下に擦りながら、おれの乳首を弄ることもやめないので、二種類の悦楽におれは翻弄されることになった。 

「ぁ、あ、こん、な、イキかた、したら、ァ、おれ、おかし、く、なりそ」

危機感を覚えて首を横に振っても、ケイジュは慈悲をかけてくれることはない。
柔く乳首を噛まれて、舌先で敏感な箇所を何度も擦られる。
その快感は胸から腹、腰を伝ってペニスをびくんと痙攣させた。
その快感を増幅するようにケイジュの手がペニスを扱き、おれはたまらず絶頂に駆けのぼった。

「イッ、く、~~~ッ!あっ、あああッ」

しばらく出してなかったからか、自分でも驚くくらい大量の精液が迸る。
痙攣とともにおれの腹と、一部は鎖骨のすぐ下まで飛び散った。
開放感と快楽に思考がぼやける。
ケイジュはおれが最後まで気持ちよく射精できるようにゆるゆると刺激を続け、そしておれが深く息を吐くと同時にケイジュも顔をあげた。
あらわになったおれの胸板には赤い鬱血痕がいくつかあり、唾液で濡れた乳首と、白い体液が飛び散っている様子も相まって卑猥だ。
その様を、ケイジュが舐めるように見ている。
下品なこととは縁がなさそうなケイジュの美しい顔。
おれはそこに性欲に支配された雄を見出し嬉しくなった。
おれは息を整えながら膝を持ち上げ、すり、と膝頭でケイジュの股間を優しく撫でる。
そこは気持ちよく射精したおれに嫉妬するように猛り、ひくんと震えた。

「……頭、馬鹿になるかと思うくらい、きもち、良かったァ……つぎは、ケイジュ、な?」

おれの顔を見下ろすケイジュが、ぎり、と歯を食いしばる。
衝動的な動きでケイジュの手がおれの太ももを掴み、ぐいっと強引に足を開かせた。
そのままいつものように浄化魔法をかけられてアナル開発の続きをされると思っていたのに、ケイジュはおれの太ももを掴んだまま動かない。
その手に自分の手を重ねて、おれはケイジュの顔色を窺ったのだが、ケイジュは苦しげに眉間にシワを寄せたまま固まっていた。

「ケイジュ……続きは……しないのか?」

おれは上半身を起こして、ケイジュの頬に自分の頬を擦り付けながら声をかける。
ケイジュの指先にぐっと力がこもり、それからゆっくり離れていった。

「今日は、できない。止まれなくなりそうだ」

ケイジュの声には隠しきれない凶暴性が滲んでいて、それをギリギリで押さえ込んでいるかのように震えていた。
おれはケイジュの股間でいきり立っているペニスをちらりと見る。
痛そうなくらい勃起して、張り出したカリと浮き出た血管が生々しい欲望を主張している。
おれの中に入りたくて必死になっているんだ。
おれはつばを飲み込む。
もしケイジュが我慢しきれなくて今夜本懐を遂げたとしても、おれは絶対責めたりはしない。
けど、フォリオに到着するのは確実に遅れるだろう。
1日か2日遅れてもいいんじゃないか、と囁く悪魔を振り払い、おれは腰を引いた。
ずくずくとアナルが疼いたけど、今はケイジュのペニスを楽にしてやらないと。
おれはケイジュの頬に手を当てて、羞恥を堪えて微笑みかける。

「じゃあ、おれに、任せてくれないか?」








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