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○好きなものは最後に食べる男

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 予期せず二人で休日を一緒に過ごすことになった水曜日から、二人の関係は表向きはさほど変わらず続いていた。
朝と昼にウォルフが店を訪れ、二人で穏やかな時間を過ごす。
蛇蜜丸は一瓶使い切ってしまったあともう一瓶買い足したが、中身はあまり減っていない。
ウォルフの仕事が落ち着いて、疲労を感じることが少なくなったのだ。
ギルドではウォルフの負担を減らすために大急ぎで新たなギルド職員を採用し、更に他のギルドからも応援の職員を呼ぶようになったそうだ。
ウォルフが勤める中級冒険者ギルドは最も多くの冒険者が訪れるにもかかわらず、下級や上級の冒険者ギルドと同じ人員でまわしていたので、もともと改善が必要だと検討されていたらしい。
しかし、ウォルフはシグに会うため店に通い続けている。
共に昼食を食べることはすっかり習慣として定着していたが、そこにもう一つ新しい習慣ができた。
ウォルフはシグに、定期的によしよしされている。
流石に水曜の夜ほど号泣したりはしないが、シグに抱きしめてもらい背中を撫でてもらって、ひたすら甘やかされる。
シグがウォルフに会うたびに、甘えていいぜ、よしよししてやろうか、と言い続けるので、ついに陥落してしまったのだ。
一度醜態を晒しているのだからもう強がらなくてもいいか、とウォルフは思ってしまい、そこから転がり落ちるのは早かった。
最初は軽いハグだけだったのに、だんだん抱擁の時間が長くなり、頭を撫でたり背中を撫でるオプションが増えていき、今では膝枕や添い寝にまで発展している。
もはや普通の友人同士ですることではない。
それにはウォルフも気付いているし、シグも特別な関係であることを時折匂わせてくる。
しかし、二人とも決定的な言葉は言わなかった。
この優しくて心地よい関係を、もう少し堪能してからでも良いか、と二人とも余裕の構えだったのだ。
それに、ウォルフはシグがたまに欲望を隠しきれていないギラついた目をしていることにも気付いていた。
だからウォルフはのんびり構えていた。
いつかシグの方から言ってくれるだろう、と。
しかし、ウォルフは知らなかった。
シグは優しく、世話好きで、情が深く、そしてとびきり我慢強い。
いや、我慢強いというよりは、執念深いのだ。
シグは一度目標を定めると、それを達成するまでにどんなに時間がかかろうと、手間がかかろうと、焦れったかろうと、絶対に目をそらさない。
達成するまでの過程を、心から楽しめる人間だった。
だからシグの方からも、関係を先にすすめるような言葉も行動もなく、そして気付いたら、ウォルフがすがりついて泣いたあの日から約一ヶ月経っていた。

 平日の午後、昼食の後にウォルフはいつものようにシグに甘やかされていた。
いつも甘えてばかりじゃ駄目だ、と思いながら店の扉をくぐるのに、シグにおいでと言われて両手を広げられてしまうと尻尾をブンブン振りながら胸に飛び込んでしまう。
シグは優しい。
毎日来ていいと言う言葉に甘えて入り浸る自分に、毎日昼食を用意し、お茶を入れて、話を聞いてくれる。
ことあるごとに褒めてくれるし、愚痴を言えば励ましてくれる。
その上シグは見目も良い。
顔立ちは線が細く、性別を感じさせない冷たい美しさがある。
しかし笑うと急に人懐っこい印象になるので、一緒にいて緊張しないし疲れない。
身体はしっかり鍛えられていて口調も砕けているので弱々しい印象はない。
だから背中を預けても安心だと思えるのだ。
これで好きになるなという方が無理、とウォルフは半ば開き直っていた。
こんな厳つい男を毎日飽きもせず抱きしめて撫でてくれるのだから、きっとシグも自分に好意を抱いてくれているはず。
ウォルフはそう感じているのだが、どこか不安もあって自分から付き合おうとは言い出せない。
もう一ヶ月くらいこの関係が続いているし、正直焦れったくなってきた。
しかし、もしウォルフがシグの気持ちを勘違いしていて、この優しい時間が永遠に失われてしまったら、それこそ蛇蜜丸でも誤魔化せない傷を負ってしまう。
それで結局踏み出せず、ウォルフはいつものように長椅子の上でシグに与えられる優しさに浸って目を閉じていた。
シグは後ろからウォルフを抱きかかえ、そのまま長椅子に寝そべってウォルフの髪を飽きもせず触っている。
シグの白い指先は爪も丸く削ってあって、薬草の匂いがする。
それが額や顔の輪郭を撫でていくと、ウォルフはいつもとろけたように身体から力が抜けてしまうのだ。
今日こそ言うぞ、とウォルフが目を開けると、シグのうっとりした顔が目に入って思わずみとれた。
幸せなことを隠そうともしない甘い視線。
シグは事実、このもどかしい時間を心底楽しんでいた。
もちろん若い男なのだから、シグはウォルフに性的な興奮を感じることもあった。
しかしそれ以上に、男らしい顔をふにゃりと緩めてとろけているウォルフを眺めるのは幸せだ。
ぺたんと力なく寝ている三角の犬耳も、先っぽだけがちょっと揺れている尻尾も、物欲しげにちょっと潤んでいる赤錆色の瞳も、少し開いた唇も、ずっしりと重みを感じるたくましい身体も、全てが愛おしい。
最初は友人同士のハグで満足していたウォルフが段々と欲張りになって、ついにこれでも満足できないくらい想いを深めてくれているのだ。
楽しくないわけない。
じっと顔を見上げてくるウォルフに、シグはふんわり笑いかけた。
緑色の瞳に底なし沼のような慈愛が滲んでいる。
ウォルフはそこにずぶずぶと身体が飲み込まれていく錯覚を覚えながら、ぽろりとこぼした。

「シグは、どうしておれと一緒にいてくれるんだ?」

ウォルフはそう声に出してから、ようやく自分の不安の原因がわかった。
シグが大切に扱ってくれていることはわかる。
好意を持ってくれていることも。
けど、その理由がわからないのだ。
店の太客というわけでもなく、シグに恩を売ったわけでもなく、庇護欲をそそるか弱い少女でもない。
シグに利益をもたらすどころか、ずっと世話をしてもらうばかりで、特になんの役にも立っていない自分を、シグはなぜこんなに慈しんでくれるのか。
もしシグが厳つい男が好みで、顔と身体目当てに近づいてきたのなら、とっくの昔に手を出されているはずだ。
けれど、シグがしてくれるのは性的なものを感じない優しい触れ合いだけ。
シグの考えていることが、いまいち掴みきれない。
だから、ウォルフは二の足を踏んでしまっていたのだ。
シグは少し意外そうな顔になって首を傾げた。

「どうしてって、そりゃ、好きだからだけど」

さらりとした口調に、ウォルフは我慢しきれなくなって身体を起こした。
シグと正面から向き合い、真意を探ろうと顔を覗き込む。

「それは、友人としてか?」

ウォルフは眉を吊り上げてシグに迫った。
シグは困ったように眉を少し寄せた。
もちろんただの友情ではない。
肉欲も独占欲もある。
しかし、それをウォルフに告げて、じゃあ甘えさせてもらったお礼に恋人になってやろう、などと言われたいわけではなかった。
ウォルフには恩など考えず好きに振る舞って欲しい。
その上で、自分と同じ気持ちになってくれたらいいな、と思っているのだ。
返答に困ってしまったシグを見て、ウォルフの耳がきゅうっと後ろを向いた。
そのまま細かく震えだし、ウォルフの不安を如実に現している。

「ウォルフ、」

「いや、答えなくていい。シグにばかり答えさせようとして悪かった……だから、おれが先に言うから聞いてくれ」

ウォルフの声は張り詰めていた。
もうすっかり元気になって、くまも消えたし痩けた頬も健康的な張りを取り戻しているのに、表情は酷く弱々しい。

「シグ、たぶんもう気付いていると思うが……おれは同性愛者だ。冒険者を引退したのは、片耳の聴力を失ったというのが大きな理由だが、それに加えて、同性愛者であることを隠し続けるのが辛くなっていたからだ……転職してからは忙しさもあって恋愛のことは忘れられたし、今はもう吹っ切れている。けど、おれが男を好きなのは変えられない。シグのことも、おれは勝手に同類だと思っていた。けど、おれの勘違いだったか?」

ウォルフは視線を下に向けたまま、絞り出すような声で告白した。シグは慌てて首を横にふる。

「いや、勘違いじゃない。正確に言うと両性愛者だけど、男も好きなのは当たってる」

そう言うとウォルフはちらりとだけシグを見て、ぎこちなく笑った。

「そうか、だったら、おれがシグの優しさを、友愛じゃなくて、性愛だと勘違いしたことも、少しは仕方ないって、思ってくれないか」

シグはウォルフが完全に失恋した顔で話していることに焦った。

「ウォルフ、先走って考えすぎてる。一旦待て!」

シグの号令で、反射的にウォルフの背筋が伸びる。
シグは指をこめかみに当てて、状況を整理しようとした。
当初の予定では、清い関係に我慢しきれなくなったウォルフが求めてくれるのを待つはずだった。
けど、ウォルフは思ったよりも自己肯定感が低くて、恋愛ごとに関しては特に自信がない。
それで臆病になっているのだ。
同性愛者であることを誰にも言わずに隠してきたからかもしれない。
シグは予定を変更して、まずははっきりウォルフにわからせることにした。

「まずはじめに、おれはウォルフをただの友達とは思ってない。恋人になりたい。けど、妙な義務感に縛られておれの恋人になってくれても嬉しくないし、気長に待つつもりだったんだ」

ウォルフの後ろを向いていた耳が徐々に立ち上がって前を向く。
尻尾も毛が逆立ち、もわもわになっていた。
シグは畳み掛けるように語る。

「それから第二に、おれはウォルフが同性愛者だってことは一ヶ月前から知ってる。パーティーのリーダーで、幼馴染の兄貴分が好きだったんだよな?」

ウォルフは、なんでそれを知ってるんだ、という顔をしてこくこくと頷いた。
しかし一旦無視してシグは言葉を続けた。

「やっぱりな。ウォルフはまだ片思いしてるかもしれないって思ったから、まずは全力で甘やかして、おれに心が傾くように努力してたんだ。けど、今の話だと、もう片思いしてないのか?」

ウォルフはまたこくこくと頷いた。

「なら良し!ウォルフは何も考えずに、おれに甘やかされてりゃあいいんだよ。それで恋人になってもいいなって思ったら、おれに言えばいい。恋人になるのは嫌だと思うなら、それもおれに言えばいい。おれは喜んでそれに応える」

鼻息荒く言い切ったシグに、ウォルフは戸惑った顔をしている。
シグが我慢強く待っていると、ウォルフはようやく口を開いた。

「どうして、シグはそこまでおれを大事にしてくれるんだ?」

シグは出会ったばかりの頃にも同じようなことを聞かれたな、と思いだしてかすかに笑った。
あのときははっきり答えずにはぐらかしたけど、今はもうはっきり言っておいたほうがいいだろう。

「好きだからだ」

迷いのない声にも、ウォルフの表情は晴れない。

「なら、どうして今まで手を出さなかったんだ?」

シグは服を脱がせて寝かしつけたときのことを思い出す。
何をされても良いと、無防備な姿を晒したウォルフのことを。
シグはなるべく綺麗な言葉で伝えようとしたが、なかなか思いつかない。
結局、やけくそ気味に言い放った。

「おれはなぁ、美味しい物は一番最後までとっておく人間なんだよ!さっさと手を出しても美味しいだろうけど、どうせだったらじっくり待って、ウォルフが我慢できなくなってきた頃に手ぇ出したほうが絶対美味しいだろ!」

自分で自分を焦らしプレイして楽しんでいる変態の言葉に聞こえそうでシグは赤面したが、事実そうなので言い訳ができない。
ウォルフはしばらく呆然としていたが、やがて気が抜けたように笑い出した。

「ふ、はは……そう、だったのか、おれが食べごろになるまで、わざわざ寝かせて待ってたんだな……ふふ、こんな年上の厳つい男を、大事に大事に、くく」

シグはそんな変態臭い言い方してない、というつもりだったのだが、ウォルフがあまりにも嬉しそうに笑っているので何も言えなくなった。
シグもつられて笑って、ため息をつく。
予定は狂ったが、これはこれでいい顔が見れた、と温かい気持ちが胸を満たす。
ひとしきり笑ったウォルフは、目をゴシゴシこすって顔を上げた。

「シグ」

「ん?」

「おれはもうこれ以上美味しくはなれない。今、食ってくれ。もう我慢出来ない」

色っぽい言葉のはずなのに、ウォルフの表情は晴れやかで、爽快感すらにじませていた。
一ヶ月前はどんよりと淀んでいた目には生き生きとした光が戻り、まっすぐシグを見つめている。
シグは胸に沸き起こる歓喜を押し止めることはできず、ウォルフの頬に手を伸ばした。
そして顔を近付け、ついに二人の唇が重なる。
今まで額や頬にキスをすることはあったが、唇の薄い皮膚が触れ合う感触は別格に興奮する。
ウォルフの腕は堪え兼ねたようにシグの背中にまわり、余裕なくローブの布地を握りしめた。
シグは角度を変えてウォルフの柔らかな唇の形を確かめる。
何度も繰り返しこすり合わせて満足すると、シグはウォルフの後頭部を手で押さえ逃げられないように固定し、先の割れた舌をウォルフの唇に這わせた。
ウォルフは恍惚とした鼻声を漏らし、自ら口を開けてその舌を迎え入れる。
シグは体温が低そうに見えるのに、実際は生々しい熱を持っていた。
獣人とは違い、やや薄くて長い蛇人の舌は、器用に動いてウォルフの舌を絡め取る。
じゅるり、と粘膜同士が擦れ合い、ウォルフもシグもそれだけで射精できそうなほどに興奮した。
しかし、シグはここでも得意のねちっこさを発揮して、器用な舌先でウォルフの口内をじっくりと暴いていった。
ちろちろ、とくすぐるように上顎の裏をなめられると、ウォルフの背中にゾクゾクと快感が走り抜ける。
崩れ落ちそうになるウォルフの身体をシグはしっかりと抱き寄せて更に身体を密着させていった。
酸欠と身体の熱でぼうっとし始めたウォルフを、シグは長椅子の上に押し倒す。
本気で抵抗すればシグくらい簡単に投げ飛ばせるであろうウォルフの屈強な肉体が、なんの抵抗もなくシグに組み敷かれた。
シグはそこでようやくキスを中断し、ちらりと時計に目をやる。
ウォルフの昼休みはあと15分くらいで終わってしまうので、ここで最後まではできない。
しかし、ウォルフの股間はもう熱を持ってどくどくと脈打っていた。
このまま仕事に行かせるのはかわいそうだ。
シグはウォルフのまぶたや頬に軽くキスを落としながら、ギルドの制服に手を伸ばした。

「しぐ、」

「大丈夫、休憩時間内に終わらせるから」

なだめるように額に口付けて、シグは手際よくベルトを外し、勃起しているペニスを下着の上から撫でた。
湿った熱が伝わってきて、シグはうっとりと目を細めて息を吐いた。

「あっ、シグ、駄目だ、今は」

「ん~?こんなにでかくしておいて、駄目じゃねえだろ?」

シグがわざとらしい猫なで声でささやくと、ウォルフの表情が苦しそうに歪む。
それでもシグを押しのけて逃げようとしないので、シグは下着をずりおろしてウォルフの陰部を露出させる。
ぶるん、と勢いよく飛び出したペニスはウォルフの体格に見合った立派な大きさで、大きく張り出したカリと太い血管が凶悪だ。
キスしかしていないのに完全に勃起していて、根本には犬系の獣人の特徴である亀頭球がぽっこりと張り出している。
シグはそれをやんわりと握り、その熱さと脈動を感じて恍惚とした表情になった。

「ウォルフはちんちんもかっこいいな。すっげぇ、あちぃ」

シグはそのまま軽くペニスを扱いた。
それだけなのにウォルフは余裕なく身体をのけぞらせ、目を固く閉じている。
噛み締めた唇からは獣のようにフーフーと鋭い呼吸音が漏れていた。
シグの手の中でびっくんとペニスが大きく跳ね、鈴口からは透明な先走り汁がにじみ出てきた。
時間があるならこの状態で焦らして泣かせたいところだが、今日は残念ながらそんな余裕はない。
シグは先走りを指ですくいペニス全体になすりつけると、本格的にペニスを擦りたてた。

「シグ、うっ、あ、ああ、やめ、てくれ、だめ、」

「やめて欲しい?気持ちよくないか?」

シグは凶暴に牙を見せて笑いながら、勢いよく根本から先端までを擦り上げた。

「ぐ、うううっ」

ウォルフの体が長椅子の上で跳ねる。
ペニスから脳天までを快楽が駆け抜け、ウォルフの頭の中が真っ白になってしまう。
その拍子にシグの手からも逃げたペニスは先走りをまき散らし、制服に卑猥なシミを作った。
シグは体重をかけてウォルフの身体を下に押し込めると、指先でくるくると亀頭をいじめてやる。

「っひ、あ、それ、ぁあッ」

「なぁ、気持ちよくないか?」

ウォルフは人の手でペニスを愛撫される快感に翻弄され、目には涙が滲んでいた。
いつもはこんなに早くないのに、もうすぐそこまで精液が迫っている感覚がある。
興奮のせいか、予想以上の快楽がウォルフから理性を奪っていった。
いつも優しいシグに意地悪く問い詰められると、恐ろしいほどに興奮してしまう。
今なら、シグにイケと命令されるだけで射精してしまうだろう。

「きもち、いいっ、きもちいいから、すぐ、いき、そう……ッ」

ウォルフは許しを請うようにシグを見上げた。
このまま出したら制服を汚してしまう。
だからせめてちり紙かなにかを準備して欲しい、と頼むつもりだった。
しかしそんな余裕をシグは与えず、さっきよりも強くペニスを握りしめ、重々しくにゅこ、にゅこ、と扱き始めた。
痛みの一歩手前の、重苦しい快楽が襲ってきてウォルフは首を横にふる。
シグは扱く手を止めないまま、ウォルフの頭に顔を寄せ、右の犬耳に興奮した吐息を吹き込んだ。

「ちゃんと言えてえらいな。いいこ、いいこ」

「や、ぁっ、ふく、よごれ、っあああ」

鼓膜を震わせる甘い声にウォルフの唇が緩む。
飲み込めなかった唾液がタラリと溢れて、精悍な男の顔を汚していく。
片方にしか聴覚が残っていないせいか、右耳は酷く敏感なのだ。
それなのに甘い声で褒められて、男の興奮した息遣いを直接流し込まれて、無事で居られるはずがない。
感じ過ぎて怖くなったウォルフは耳を後ろに向けて逃げようとしたが、シグの尖った歯が柔く耳の先を噛んでくる。

「だいじょうぶ、おれがきれいにしてやるから。だから出して良いんだぜ?びゅーびゅー射精して、気持ちよくなれよ」

蛇の囁きがウォルフのとろけた最後の理性も絡め取って、跡形もなく飲み込んでしまった。
ウォルフは焦点の合わない目を天井に向けながら、はっ、はっ、と胸を上下させる。

「は、ぁ、ああ、いく、いっ、う」

「いけ、イッちまえよ」

ちゅくちゅくとペニスを扱く湿った音が大きくなる。
ウォルフはそれに合わせて腰を突き上げ、シグのローブにしがみついた。
シグは手の動きを速めながらすがりつくウォルフを愛おしげに見つめる。

「はっ、はぁ、うぁ、ああっ!」

ひときわウォルフが大きくのけぞった瞬間、シグの手の中でペニスがどっくんと大きく震え勢いよく白濁を噴き上げた。
それはウォルフの服どころかシグのローブにも飛び散って白いシミを作っていく。
射精は長く続き、びゅる、びゅる、とシグの手をあっという間に熱い精液で覆っていく。
その最後の痙攣が治まるまでペニスを扱き精液をすべて搾り取ったシグは、うっとりした顔で余韻に浸るウォルフにキスをした。
舌を使わない優しい口付けの合間に、いっぱい出してすごいな、きもちよかったな、とウォルフを労る。
甘美な絶頂で麻痺した頭に、その麻薬のような言葉がしみて、ウォルフの頭に幸福感を植え付けていく。
ウォルフはシグに言われるまま頷いて、ぎゅうっとシグの身体を抱きしめた。
しかし、しばらくそうしていると、段々呼吸が落ち着いてきて理性が戻ってくる。
しまった、と青ざめるウォルフをよそに、シグは上体を起こして、ウォルフの精液まみれになったローブを見て笑った。

「ははは、すげー、めちゃくちゃ量多いな。しばらく抜いてなかったのか?」

「し、シグ、すまない、すぐ洗わないと、」

「ん、心配すんな」

シグは目を閉じると、魔法の詠唱を始める。
詠唱とともに淡い水色の燐光が二人の服を覆い、その光が汚れを吸収してシグの手の中に戻っていく。
水の魔法と相性が良い亜人ならだいたい使える浄化魔法だ。
服はほんの数秒で元通りになり、ウォルフは感心したように息を吐く。

「浄化魔法、使えたのか」

「あると便利だからな」

確かに、と相づちを打った後、ようやく我に返ったウォルフは慌てて下着とズボンをずり上げた。
そしてハッと目を見開いて、急いで時計を見る。

「ちゃんと時間内に終わったろ?」

シグは自慢げににやりと笑ったが、ウォルフは眉を下げてシグの下半身をちらりと見る。

「けど、シグは、」

「おれはほっといたら落ち着くからいい。このローブだったら、勃起しててもわかんないしな」

ウォルフはそういうわけにはいかない、と食い下がりたかったが、無情にも休憩時間は後数分で終わってしまう。
オロオロしているウォルフの背中を、シグは力強く押した。

「この続きは、また今度な。とりあえず今は頭切り替えて仕事終わらせてこいよ」

慌てて着衣を直し、休憩室から押し出されたウォルフは名残惜しそうにしながらも、店の出口に向かう。

「その、おれだけ、すまない。次の休みがわかったらすぐに知らせるから、そのときは一緒に過ごしてくれないか?」

扉の前で振り返ったウォルフは切なげに眉を寄せて言った。
シグは満面の笑みで頷く。

「ああ、もちろん。一日中ベッドの上で過ごしてもいいぜ」

その言葉でようやく笑い、緩く尻尾を左右に振ったウォルフは、ごく自然な動作でシグの身体を引き寄せて口付けた。
そして低音だが熱っぽい、甘い甘い声で囁く。

「離れがたいが、行ってくる」

シグは不意打ちのキスと愛の言葉に虚をつかれて、珍しく赤面した。

「お、おう、いってらっしゃい」

シグがぎこちなく手を振ると、ウォルフは目を細めて優しく微笑み、颯爽と外に出ていった。
一人店に残されたシグは、熱くなった顔を両手で覆い呻いた。

「ズルいなぁ」

さっきまであんなにとろけてたくせに、急に年上の顔するのはズルい。
シグは赤くなった頬をぱんぱんと叩き、扉の休憩中の札を営業中に変える。

「仕事だ仕事!」

わざと大きな声を出して気持ちを切り替えたシグは、髪をおろして顔を隠した。
いつもは鬱陶しいが、こういうときには火照った頬を隠せるので丁度いい。
シグは珍しく店の方針に感謝しながら、夕方の客を迎える準備を始めた。







 

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