不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

文字の大きさ
4 / 70

溶けるほど暑い日

しおりを挟む
 わらわの住まう燃えさかる炎ノ宮バーニングパレスには、中庭に大きなプールがある。
 どれくらい大きいかというと、大人のドラゴンが三頭は入れるほどじゃ。
 なので、妾のような華奢きゃしゃ女子おなごが一人で浮いていると、どでかいプールで入水自殺でもあったかのように見えるらしい。

「バーミリオン! 大丈夫か!?」

 突然、浮き輪から持ち上げられた妾は、驚いて叫んでしまった。

「ギャァ!!」

 一体何ヤツ! と相手を睨むと、黒いスクール水着の妾を持ち上げた、びしょ濡れ白シャツ男と目が合った。

「なんじゃ、兄じゃではないか」

 なぜか半泣きの顔の三番目の兄、ドーン・サハラサス・ドラゴニアだった。

「びっくりしたよ、バーミリオン。君がこの大きなプールで孤独のあまり世をはかなんで、向こう岸に行こうとしていたから」
「いや、妾は別にーー」
「わかるよ。うん、ぼくはわかりすぎるくらい、わかるよ。ぼくらは立場は違えど、同じ苦悩を抱えているものね。皇女としての重圧に、君がいっそこの冷たい水の中に沈んで消えてしまいたいと思っていたこと、ぼくは気づいていたよ」
「いや、妾は暑かったから水に浸かっていただけーー」
「でもね! 何も一人で逝くことはないんだ。ぼくが共に逝ってあげるよ。君を一人になんかしないから、安心しておくれ」
「・・・・・・」

 何か恐ろしいことを言っておるが、いつものことじゃ。
 妾はとりあえず兄とプールから上がることにした。
 ミンミンがタオルを持ってきてくれたので、ドーン兄に身体を拭いてもらう。

「すまぬの。ドーン兄じゃは、妾が拭いてしんぜよう」

 タオルを手に拭き始めたものの、兄の背が高いせいで胸より上が拭けぬ。

「いいんだ、バーミリオン。君は本当にやさしい子だね」

 服のままプールに飛び込んだ兄は、びしょびしょで微笑んでいる。
 今日は本当に茹だるような暑さなので、まあ、濡れていてもすぐに乾くじゃろう。
 妾はプールサイドのパラソルの下に兄を誘った。

「兄じゃも暑かろう。飲み物はいかがじゃ?」

 すると、兄は指を鳴らし、少し離れた場所で待機していた侍従を呼んだ。
 ちなみに、兄には常に三人が付き従っておる。
 警護の騎士二人と、侍従が一人。
 妾には騎士一人と、侍女のミンミンとヤンヤン。
 兄妹わらわたちの邪魔にならぬよう、いつもちょうどいい距離に離れておるのじゃ。

 呼ばれた兄の侍従は、手にしていたかごからお茶のセットを取り出してテーブルに置くと、また下がっていく。

「君とお茶をしようと思って宮を訪ねたんだよ」

 突然の来訪はそういうことだったらしい。

「なるほど。兄じゃがわざわざうちのプールに涼みに来る必要はないものな」

 ドーン兄の住まう朝焼けの橙ノ宮サンライズパレスにもプールはある。
 しかも妾のプールより大きなプールが!
 別に羨ましくなどはないぞ。

 兄自らがポットからお茶を入れ、妾の前にケーキと共に置いてくれた。
 美味しそうなフルーツタルトと、アールグレイティーじゃ。

「さあ、どうぞ」

 ドーン兄の爽やかな笑顔に、妾も微笑み返す。

「かたじけない」

 しかし、手は一向に動かず、フォークを取ることもない。

「どうしたんだい? さあ、食べようよ」

 先に兄がケーキにフォークを突き刺す。
 そして、綺麗にぐと口にーー。

「イカーーーーーーン!!」

 素早く立ち上がり、妾は兄の口に運ばれるケーキを手で払った。
 バチーン! と叩かれた兄の手からフォークとケーキが吹き飛ぶ。
 くるくるくるっと回ったフォークが、スタッとテーブルに突き刺さると、兄が驚きの顔で妾を見た。

「一体、どうしたんだい?」

 ここで注意しなければならぬ。
 皆、騙されてはいかんぞ。
 ドーン兄は見てくれは、おっとりやさしげなんじゃが、とんでもないものに取りかれておるのじゃ。
 このよわい二十の男はーー。

 妾の態度をまるで意に介さず、兄も立ち上がると、今度はお茶のカップを手にすすめてくる。

「お行儀が悪いよ、バーミリオン。でもほら、ケーキが気に入らなくても、お茶なら大丈夫だろう」

 妾の席の隣まで来ると、手にしたカップを強引に口に当てようとしてきた。

「ダメじゃ!」

 妾はカップを押しのけ拒む。

「どうしてだい?」
「兄じゃ、また毒を盛ったであろう」

 指摘すると、兄は頷いた。

「ああ、それが心配だったのか。この前の毒は効き目が悪かったからなぁ。今度はちゃんとすぐに死ねる毒にしたよ」

 悪びれるどころか、平然とした顔じゃ。

「他の者で試したから安心して」

などと、まったく安心できないことを言っておる。

「飲んだ直後に痙攣けいれんが始まり、泡を吐きながらの窒息。そして、顔がれ上がって青黒くなったところでフィニッシュさ」

 誰で試したのか知らぬが、とんでもない実験をしたらしい。
 その者が不憫ふびんでならぬ。
 妾は表情に出さず、淡々と答えた。

「兄じゃ、妾はまだ死にたくないのじゃ。前にも言ったであろう」
「え? そうなの?」
「そうなのじゃ」
「・・・・・・」

 何を考えておるのか、じっと妾を見下ろした後、兄はぞっとするような冷たい目でにやりと微笑んだ。

「でもぼくは君と死にたいんだけどなぁ」

 わかったであろう、この三番目の兄ドーンは、妾と心中したいと常日頃から誘ってくる死にたがりの変人なのじゃ!
 迷惑この上ないが、一人では死にたくないらしいので、妾が断っておる間は、兄も無事でいるはずじゃ。
 兄の侍従たちにも、くれぐれも誘いに乗らないでくれと頼まれておるが、そんな誘いに乗るわけなかろう。
 大体、妾と死にたい理由も

「君がもがき苦しんでいるところを見ながら死にたい」

などという恐ろしい理由なのじゃ。
 以前にこの話を一番目の姉に話したら、ドーン兄の性癖だろうと言っておったが、意味がわからぬ。

「そっか。まだ死にたくないのか」

 がっくりと肩を落として、兄はため息をついた。

「じゃあ、また来週来るよ。気が変わったら、いつでも連絡してね」

 子犬のようにトボトボと立ち去っていく姿は哀愁あいしゅうが漂っている。
 が、妾は毒入りティーとケーキを前に

「また来週来るんかい!」

と早すぎる死神ーーもとい兄ーーの来訪予定に頭が痛くなってしまったのじゃ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

処理中です...