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1、『ブックカフェ ラーシャ』
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しおりを挟む「ん? なんだこれ?」
「あ、やっと気づいた?それがサービスよ」
「これが!?これってあのチョコだよな? まあ、さっきまではあの色食べたくなかったけど、食べてみると普通にうまいな」
「でしょ? そうだと思った! だから見えないように入れてみたの。そしたら味の感想をもらえるかなと思って」
「俺は実験台かよ!」
ビートがそう叫ぶと店内に笑い声が起こる。他のお客さんも聞いていたようだ。少し恥ずかしくなって、キッチンへ引き返そうとすると
「はは! お嬢さん面白いね」
カウンター席で本を読んでいたお客さんに声をかけられた。前髪を斜めに下ろしている、20代くらいのおしゃれな若者だ。
「どれ、せっかくなら私も食べてみようかな。チョコアイスを1つ頼む」
「は、はい!かしこまりました」
声をかけられてびっくりしたけど、チョコアイスを頼んでくれて嬉しさが広がる。さっきまで全く注文がなかったから、溶けたアイスでまた魔法の練習台になるかと。
そう思いながら、アイス生地にチョコを混ぜ合わせる。しっかり混ざったら手をかざし、手の平に魔力を集める。ポワァっと力がでるイメージがしたら完成だ。
そしてできたアイスに、今度は忘れずにスプーンを添えてお客さんに手渡す。
「お待たせしました! チョコレートアイスです!」
「うん、ありがとう。それじゃ、食べてみようかな」
つい心配でお客さんの反応を見てしまう。
いや、でもビートは美味しいって言ってたし。うん、大丈夫だ。実際、目の前の人は美味しそうに味わって食べている。
「うんうん、微かに苦味があって美味しいよ。思ったより甘くないんだね」
「はい、そうなんです。カカオ濃度を高くしてビターな感じに仕上げてみました。それなら甘いのが苦手な方でも美味しく食べていただけるかな、と」
「なるほど。お嬢さん、今度私の友人にもこれを振る舞ってもらえるかな?」
「もちろんです! お店に来ていただければいつでも!」
「ありがとう。じゃあ今日はこれくらいにして、お勘定頼もうかな」
「はい、ただいま」
お勘定を終えたお客さんを出口まで見送る。
「またのお越しをお待ちしています」
「ごちそうさま。美味しかったよ。私はエリオールだ。お嬢さんは?」
「サラといいます」
「サラさんか。また今度ね」
「はい」
襟を正し、カランカランと鈴を鳴らしながら帰っていった。
「エリオールか……」
「エリオールさんがどうかしたの、ビート」
「なんか聞いたことある名前だと思ってよ……」
「そう?また今度来たときに聞いてみたら?」
ビートはまだ思い出そうとしているのかウンウン唸っている。その様子を横目に見ながら食器を下げ、机の片付けを始めた。
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