薬の十造

雨田ゴム長

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郭公(かっこう)

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十造と静は、街道を順調に進んで行く、もう二人の右手、東側には琵琶湖が見える、西側の京都境も過ぎて、大津も過ぎようとしていた
後ろから着いて来る静に話し掛ける

「静、ここまで来たならば、知り合いの家がたんとある、もう野宿の必要もないわ」

「湯に浸かることが出来ましょうか」

「おお、出来ようとも、ゆっくり出来るぞ
飯も旨かろう」

「嬉しゅう御座います」

何か様子が変だ、顔が赤い
第一元気が無いのだ
静の額に手を当てると、かなり火照っていた
薬売りの行商で使う、大津の寺が一番近い筈だ 、今夜はそこへ向かうとしよう
戦に巻き込まれてなければ良いのだが
ひとまず、通りの端に座らせて、調合した薬を与え、静に自分の荷物を背負わせて、静をおぶった
寺はかなりぼろくなっていたが、住職に流行り病かも知れぬからと、無理を言って離れを借りる事が出来た
風呂どころか、静は寝たきりになってしまった
十造は、静の寝顔を見つめながら後悔していた、両親や兄を失くし、見ず知らずの男と、野宿をしながら、山賊に怯えながら旅をする、若い娘にとって、それがいかに過酷な事か
少し考えると解る事ではないか、済まぬ事をしたものよ
これで死なせでもしたら、あの世の家族に申し訳がたたぬ

幸いにも、薬は効いているようだ、後2~3日は動けないであろう、熱が冷めても、体力が回復するまでは動けまい
まあ、それも良かろう、その間に、新しい情報もつかめるだろうて
十造は、静が恥ずかしがると思い、住職に頼み、世話人の女を一人雇うて貰った、流石に若い女が、男に下の世話をしてもらったと知ったら、大変な事になろう

それは、十造にとっても都合の良い事だった
昼間あちこちへ赴き、諸諸の情報を見て、聞く事が出来た

静が寝込んで二日がたった頃「十造様、静はおかげさまで、明日にも動けそうです
心配をお掛けいたしました」

「いや、心配せずとも良い、静が寝込んでおる間、諸諸の話を聞く事が出来た
この近辺は、織田がしっかりと働いておるわ、何の騒乱もない
ゆっくり養生するのだ、よいな」

「なれど、奉公人まで雇うては、、、」

「ハハハ、金なら心配せずとも良い
こう見えても、儂は評判の薬売りよ、この辺りの売り掛けを集めて回れば倉が建つわ
案ずるでない」

「この辺りで評判の、腕っぷしの間違いではありませぬか、銭が無くなると、又、山賊から取り上げるつもりで御座いましょう」

キラキラと笑いながら話す静を見て、十造は、やっと回復してきた事に確信を持った

そんな面倒なことはせぬわ
本当に銭が欲しければ、とうの昔にお前を売り払っておる
そう思いながら
「さあさあ、今日はもう遅い、評判の薬屋の薬を飲んで休んでおれ
儂は出掛けて来る、もうじき婆さんが来るであろう」

次の日、十造が目を覚ますと衝立ての向こうで寝ている筈の静が居なかった
厠かと思ったが、戻らない、訝しげに戸を開けると、静が大きな手洗で洗濯をしていた

「起きられましたか、静はこの通り元気になりました
只今お茶を御持ちします」

静の笑顔を見て、嗜める気が失せた、心配してきた事が全て失せた
十造は、静の笑顔が自分の心の薬になった事には、気がつかない

「さあ、十造さま、お茶を
あ、その前に、ここのお坊様から浴衣を借りてまいりました、どうぞこれに着替えてくださいまし」

「何と、このままで良いわ、早よう、茶を寄越さぬか」

「いいえ、十造様そのままでは、野良犬同然、私が褌からなにから全て洗って差し上げます、お脱ぎくださいまし」

どうやら静は本気らしい、十造を脱がそうと進んで来た
根負けした十造は、着ている物を全て、褌までも差し出した

「やい静、これでは追い剥ぎ、山賊どもと変わらぬではないか」

「何と何と、命だけは、助けてしんぜましょう」

静は、白い歯を見せ、ケラケラと笑いながら洗濯に戻った
明日にも、出立出来よう、準備をせねばならぬ

洗濯を終えた静に、明日にも出立する旨を伝え、準備を済ませた
大して荷物も無いのだ、時間があるので、静に問われるままに、近隣諸国の話をした
「金ヶ崎から引き揚げた織田信長は、軍の体制を整えて、岐阜を目指した、その途中各要所にや城に主な武将を配置しながら、琵琶湖の下、南の千種街道を通って無事に岐阜に着いた
金ヶ崎で織田を挟み打ちに出来なかった、浅井・朝倉は当然、北・西・東近江と北陸を固めて、静のいた若狭も朝倉が取り敢えず実権をつかんでおる
ただ、織田・浅井の領地以外は、一揆やら、造反やらで乱れており、京の都も、織田が居ないのを良い事に乱れておる」

「十造様の、甲賀の里はどうなのです」

「うむ、近江全てを治めておった六角が、計らいを間違うて、浅井や織田に苦戦している、京に登る信長とも計らいを違え、甲賀の方面へ落ちた、しかし、旧来よりの名家今だ味方も、資金も潤沢なのだが、信頼がたらん、蒲生家に見放されて、織田に回られた、そう長くはないだろう
甲賀の方面は、今の所、表むきは、安定しているらしい、
が、六角が、浅井・朝倉と組んで、掻き回そうとたくらんでおる
これに、各地の一揆と叡山のような寺衆も絡んでおる
其れでも、織田の軍勢は盛り返しておる」

「まさしく、サイコロの目のように、情勢が変わるのが早いですね」

「そうだな、そして、静の叔父上がおられる、駿河も近頃三河の徳川が押して来ている、武田も北条も狙うておるわ」

何しろ静に、褌までも脱がされ洗われたので、部屋を出る事も出来なかった、問われるまま答えていた

「十造さま、静は早く甲賀の里に行きとう御座います
十造様のお屋敷を、拝見しとうございます」

「静、儂の家は屋敷ではないぞ、拝見ではなく、一瞥出来よう、ワハハハハハ」

「兎に角、早う行ってみとう御座います」

翌日、寺を辞した二人は、歩みも順調で、難なく瀬田も通り過ぎた、足取りも軽い静が、段々とその歩みを遅くして行く、ついに、耐えきれず前を行く十造の背中に、声をかけた

「十造様、何か物凄く嫌な匂いがいたしますね」

「死臭よ、どうやら戦があったらしい」

戦国の世に楽しい旅などある筈もない、静は改めて思い知らされた
「2~3日位のものよ、じゃが、ある意味では、この辺りでは、当分争いはない、とも言える」

「恐ろしいこと、それ以上に十造様は悲しい能力を御持ちですね」

「はて、悲しいとは、どのような意味なのだ」

「そうでありましょう、死体の匂いで、その有り様を知ることが、生きて行くのに必要な能力の世の中など、静はその様な世の中は嫌いで御座います」

返す言葉もみつからぬ、まさしくその通り、されどしかし、、、

「そしてそのおかげさまで、私は、生きていられます
今の有り様は、正に
朝は紅顔、夕べには白骨」

「どうやら、寺に寝泊まりして、抹香臭くなってしもうた、やれやれ、、、むっ、静草影に早く、、、」

静の細い肩を抱くように、草影に二人で潜む
低い声で静かに
「いかがしました」

「微かに火薬の匂いがしてな、なにもなければ笑い話よ」

ダダーン、ダダーン銃声が聞こえ、微かに人の雄叫びも遠くに聞こえる
様子を知りたかったが、甲賀の里へ帰るのが先だ
なにやら、芳しい香りがする、静を庇って抱いていた事に気が付いた

「よし、遠ざかっていった、もう良い、行くぞ」

「鉄砲の音は、私が以前聞いたものより、小さく聞こえましたが」

「今の音では、三十間以上離れておるな、あれよりも大きな音を聞いたら、兎に角臥せるか、物陰にかくれるのだ」

街道に戻った二人は、甲賀の入り口まで来ていた

「静、ここから山が急になる、今日はこの辺りで泊まってもよいが」

「今日中に着くのでしたら、私は十造様の所が良いです」

何か答えようとしたら、急ごしらえの、関所が見えてきた

「静、笠を深くかぶるのだ」

全員、鎧姿である、弓、槍、鉄砲、三十騎ほどの集団である、山賊とは大違いであり、又、人を簡単に殺める殺気をはらんでいた

「まてぃ、この先六角領内、行き先と目的、名を申せ」

「伊賀の里、奥の住人、薬売り新造なれば、此度は、丹波の住人覚三が養女、静を娶うて帰る途中でございまする、どうかお通しくださいまし」

「きゃあっ」
「どうしたのだ、静」
「この方が私の尻を、、」
静は一人の侍を指差し目を吊り上げて怒っていた
「ふん、減るもんでもあるめーし、毎晩もっと凄い事してんだろーが
引っ掻きやがったな
今度は乳でももませろやい」

静の目が怒りに燃えていた
十造は背負っていた薬箱を外しながら

「まあまあ、皆様、妻は旅の
疲れで、少々気がたっておりましてな
擦り傷をおった方には塗り薬を、お疲れの方には、この丸薬をお使いくださいましな
あなた様には、私が塗ってしんぜましょうぞ」

静は、今まで見たこともない十造に、ぞっと鳥肌を立てていた、言葉使いは、今まで耳にした事がない位上品なのだが、目が笑ってはいなかった、十造様は、何かをする積もりなのだ
想像はつくが、考えたくもない事を、、、

十造は満面の笑みで、静の尻を触った男に軟膏を塗っていた
「おや、ここにも何やら切り傷がありまするな、いけませんな、塗っておきましょうぞ
そうそう、途中に何やら戦の後の匂いがしましたが」

「おう、あれは織田に組する蒲生の奴らとの小競り合いよ、死体を引き取るところを帰り打ちにしてやったわ」

「ほう、勇敢なことですな、しかし、死体の匂いを長く嗅ぐと身体に障りますぞ、お気を着けなさいまし、そう言うお方を何回と目にいたしましたゆえ
ところで、私どもは通っても宜しいので、、、」

「ああ、もうよいぞ、そうかい、あの臭いは、やはり身体に悪いのか、ところで、薬は貰ったぞ」

「はい、お安い御用でございます、御免くださいまし」

関所を過ぎてから静が話し掛けてきた

「先ほどは、何をなさったのですか、私はあれ程怖い十造様を初めて見ました」

「ふん、お前を触った奴は明日辺り全身腫れ上がって悶えておるわ、他の奴らは当分何を食うても吐き戻しよ
其れで勘弁してやったわ
原因は儂の薬ではなく、死臭と頭に刷り込まれてな」

「殺してしまいそうな目でした」

其れでも良かったのだが、後が面倒だった、何しろここは既に甲賀の里だ

「お前に害を為すものはああなる、それと、この甲賀の地で、我が物顔でふるまう奴等も、同じよバチが当たって、当然の事よ」

今まで、甲賀も伊賀も、独立した小領主が、ゆるくつながっていたが、今やより強大な大名のもと、どちらに付くかを迫られる事になった
生きずらくなったものよ

「おーい、静、見えて来たぞ、お前の言う儂のお屋敷が」

小高い山の中腹に、十造の家は、ポツンと建っていた
廻りには、他に家が見当たらない

「やっと着きましたな、かっこうの鳴き声を、こんなに近くで聞くのは初めてです」

「静、この、かっこうと言う鳥は、誠にとんでもないやつでな、自分の卵を他の鳥の巣へ産み付けて、そこの鳥に、巣立ちまで面倒を見させる、不届きものよ」

「まあ、鳥の世にも、ちゃっかり者がおるのですね
のどかな、鳴き声なのに
それよりも十造様、水はどこで汲むのでしょう
あと、足桶を」

家に入り、裸足になると、静が足桶を差し出した
片足を入れ洗おうとすると、
静に手を払われた

「私が洗います、十造様、長の旅お疲れ様でございました、私をともに連れて、つツッつ、うっううっ」

静の、か細い肩が震えていた、今この瞬間、静の頭の中は、若狭を出てからの、万感が去来している、十造は右手をそっと静の肩に乗せ、天井を見上げて鼻をすすった

「十造様、竈や囲炉裏、風呂にも火が欲しゅうございます、台所の材料は有るのでしょうか、酒などは、どういたします、布団は、茶碗は、、、は」

「えーい、少し休まぬか、これでは、自分の家に帰った気がせぬわ
今日は、もう良いではないか」

「嫌でございます、それさえ、済ませたり、教えていただければ、十造様は寝転んで酒でもどうぞ、後はこの静が全て賄います
さ、早ように」

十造があれや、これやを終えて、囲炉裏でうとうとと、船を漕いでいると

「十造様、湯が沸きました、お入り下さいまし」

「お、静が入れ、儂はこのまま寝るのががよいわ」

「なりませぬ、旅の垢をながさねば、静は一晩中、十造様に話し掛けますぞ、よろしいか」

「えーい、わかった、わかった、入る、入るわい」

風呂と言っても、外に作った簡単なものだ、屋根すら付けていなかった
今日は一段と星が騒がしい、静が外へ出て来て言う

「着替えはここにおきます、必ず着替えてくださいまし」

白い歯を見せ、上機嫌で
立っていた

「まだ何かしなければいかんのか」

「いいえ、私があなた様の背中を流さねばなりませぬ」

それから三日後

「十造様、伊賀の四郎さまと言うかたが、いらしてます」

十造は、静がこの家に来てからは、何もしていなかった、正確には、させて貰えなかった
四郎は、入って来るなり、気色ばんでいた

「ずいぶんと水臭いですな、嫁を娶ったならば、何故我らに知らせてくれませぬのか、父も我らも、祝いに喜んで、駆けつけましたのに」

「馬鹿を申せ、よく聞け、そして良いところに来てくれたわ、ところで四郎は、何の用事なのだ」

「私は、先だっての、給金とお礼を持って、さあ、聞かせて貰いましょうか」

実はと、話し始めて、かなりの時間が必要だった
静が茶を運んできた

「十造様に、御世話になっております、静と申します
どうぞ、お見知りおきくださいませ、四郎殿」

静が三つ指立てて挨拶したので、四郎が慌てて辞儀を返した
どんな戦場でも、表情一つ変えない四郎が、あたふたするのを十造は、初めて目にした

「事情はわかりましたが、要件のほうは、、、何か」

静が外で、洗濯をしている頃合いを見計らって

「実は、静の縁者が、駿河にあっての、吉良様らしいのだが、儂は三河から向こうは、余り縁が無い、藤六殿ならと思うての
事は早い方が、良いのだが、静を一人にして、ここを離れる訳にもいかんで、どうしたものかと、案じておったところよ
そして、ここに書状をしたためたよって、これをまだ見ぬ静の縁者を探し、渡して欲しいのよ、頼めるかの四郎よ」

「はい、私から言えるのは、父も十造様の願いならば喜んで協力しましょう
そして、十造様、私達兄弟には、三郎の上に、一郎と次郎がおります、この二人は、徳川様家臣の服部半蔵殿の家来、そして、半蔵殿は父の幼馴染みです」

「おお、そうか、首尾よく行けば嬉しいの
どうか宜しく頼む、この通り」

「わかりました、もう頭を上げて下さい、こんなに真剣な十造殿は、初めて見ました」

静が入って来て、四郎は嬉しそうに話し掛けていた

「十造様、お客様には、酒か何か御持ちしなくてもよろしいのですか」

「四郎、腹は空いてないのか、酒でも飲むか」

「おお、静様の酌で馳走まで頂けるのですか、ありがたや、ありがたや
京の都に行ってもこれ程の美しき人は、滅多におりませんぞ、十造様が羨ましい」

「ああ、そうとも、儂には、解る、恐らく次の返事があれば、三郎が持って来るのであろう、違うか」

「違いますな、一族郎党引き連れて参ります、正しく目の保養とは、この事」

四郎は、静の酌で上機嫌で伊賀へと帰って行った

四郎が帰ってから、七日ほど過ぎた頃

「十造様、三郎殿と申される方がおみえです」

静が茶を運んできた、十造は笑いながら

「静、面倒じゃ、茶はいらぬわ、酒と肴を持って来るのじゃ」

静も、日頃会うのが、十造と、人以外の生き物なので、来客があると、嬉しそうだった

「三郎かたじけない、わざわざ出向いてもろうて、すまなんだ」

「止めて下さい、儂らの中で、それにしても、三郎が言うておった通り、三国一の美しさですな
それから、家の中がこざっぱりしましたな」

「で、どうであったかな」

「はい、十造様の見立ての通りでした、但し今現在、吉良様は徳川家臣そして、静様は、既に内藤家に側室として御決まりの身、これは、ご本人にも伝わっておる筈だとの事でした
若狭の混乱は、徳川にとっても、直接関わった事でした、よって、静様の実家の事もその後の事も両家は、知っておりました
そして、もし存命ならば、予定通り話を進めたいとのことです
後、詳しくは、これに全て書いてあります
お読み下さい」

「そうか、そうであったか、手間をとらせたの、この恩は必ず返す、かたじけない」

「何の、言うことを聞くと、美女の酌がまっていると、聞き及びましたぞ」

「おーい、静、三郎がお前の酌を待っておるぞ」

「はい、只今参ります」

「しかし、本当によろしいのですか、その、、、」

「しっ」

静が入って来た

三郎は、静の見送り付きで、笑顔で上機嫌に帰って行った

その夜

「嫌です、静はここに居りとうございます、十造様と一緒にここで暮らします
なき父が交わした約束など、何の効果が有りましょう
お願いでございます、ここに置いて下さいまし、十造様」

十造は、この家に来てから、静の二度目の「嫌」を聞くと、静かに話し出した

「静、儂は、この様な稼業よ、一度この家を出たならば、何時帰るか解らぬ身、そうなると、又、儂と出合うた時の様に一人になってしまう、そんなことはしたくはない、第一お前が居なければ、家が、家の名が、血筋が無くなってしまう
邪魔でも嫌いでもない、どう考えても、それが一番良いと思う」

この家で、儂と一緒に居ろ、そう言いたい自分の心を何とか押さえ、苦渋の言葉を口にした
最初から解っていた事、こんな所に居てはいけない、住む世界が違う人なのだ
ここに静が来てからの生活は、全て夢よ、だからあんなに楽しく明るかった、だから今こうして夢から覚めたではないか
それにしては、あまりにも心が痛むが、、、

「わかりました、十造様が、そうしろと言うなら、静は従います
して、出立はいつでございますか」
「そうよな、書状をしたため、これの返事を待ち、して、、、後二十日後位に」

静が泣きもしなければ、騒ぎもせず、案外と大人しく受け入れた事に、十造は少しの驚きと、寂しさを覚えた

「その変わり、静からお願いがございます、聞いていただければ、静は必ず、十造様の言う事を聞き入れます」

「何でも、申してみよ、儂に出来る事であれば、きっとかなえるわ」

改まった顔で、静が口をひらいた

「今日、今宵から静を抱いて下さいませ、十造様と一つの床で毎日夜を過ごしとうございます」

それは、十造にとって一番堪えていた事であった、正常な男にとって、つらく苦痛な事だった
否やは無かった、只、これから、離れ離れになるのがわかっているのに、これ以上深い関係になれば、別れが来たときの衝撃に、耐える自信が無かった
そして、静にそんな事を言わせてしまった、自分を恥じた

「良しわかったぞ、静、お前の言う通りにする
今宵からは、床は一つにな
儂は先に湯に入る」

床に入って来た、静と抱き合い、口をつけた、それが合図の様に、お互い固く抱き合ったまま動かない、二人ともそれだけで、ため息が出るほど幸せを感じた
夜目に静の白い肌が浮かぶ、十造は乳房に手を置き、優しく揉んで、口をつけた
そして、手を下に持っていくと、もう十造を受け入れる準備は出来ていた、腰を進める十造は、躊躇っている静をおさえ一つになった
静の美しい顔が眉間に皺をよせ、のけぞり、白く細い首が弧を描いていた
家の外では、蛙や虫が姦しい夜だった

明るさを感じて、目を覚ますと、朝は過ぎようとしている
視線を感じて横を向くと静が十造を見ていた、自然と腕枕をして抱き寄せる、静の良い匂いにうっとりする

「起きていたのか」

「私の旦那様の顔を眺めておりました、何も考えずに」
笑顔が、白い歯が愛おしい

「そうか」
十造は、しきりに右手の指をかざしたり、匂いを嗅いだりしている
静は、十造の脇に顔をよせながら聞いた

「手をどうかしたのですか、先ほどから気にしておられますが」

「静の匂いを確かめておったのよ」

「旦那様は変態でございますな、何と言うことを、お止めください」
真っ赤になって背中を向けた

「はて、匂いが薄れたわ、どれもう一度」

一度堰をきれば、後は狂おしい程に、昼も夜も肌を重ねた、二人で朝を迎える度に、最後の朝も近づいていた

既に、三河から書状が届き、出迎えとの、待ち合わせ場所への出立日となった
未だ丑三つ時を過ぎた頃、十造は眠らずにいた、静は今宵が限りと、激しく十造を求めた、それでも眠れる訳がない

「旦那様、眠れないのですか、未だ早ようございます」

「ああ、気するな、横になっているだけでも疲れは取れる」

「それでは、静が眠れるまじないをかけてしんぜましょう、動くとまじないが、とけまする」

言うと、静は十造の上になり、十造の乳首をなめだした、手はやわやわと十造のものを弄り出した、それが十分育つと、静は十造の股間に顔を埋めた、技巧も何もなく、ただ愛おしそうに、咥えたり舐めたり、擦ったりしていた
十造は、感動で堪えきれなかった、静が自分の為に喜ばそうと、確かに最近十造は、静にしていたが
すぐ込み上げて来て、静の頭を優しく押さえ、自然に腰が浮いた、軽く呻いて静かに息を吐いた、静が残りをしごき取り、呑み込む音が聞こえる
そのまま眠りに堕ちて行った

とうとう朝が来た、二人で無言の朝飯を食べた、何の味もしなければ、何を食べているかも解らなかった

旅の仕度を終えて外に出ると、静は、家に一礼し、若狭の方角に手を合わせて

「参ります、十造様準備は
整いました」

「では、参ろうか、急ぐ旅ではない、刈谷までなら四日もあれば十分よ」

まだ三十歩も歩かないうちに静が言い出した

「十造様、静は竈の火が心配でございます、もう一度見て参ります」

荷物を置いて、もう一度家に戻り、取り越し苦労であったと、十造に伝えた
同時に、何かに気が付いたように、辺りを見渡した

「どうしたのだ、何か」

「いえ、もう、かっこうが鳴いておりませんね」

「ああ、ちょうど、豆撒時期になると、何処かへ翔んで行ってしまうのだ」

「私と、何から何まで同じとは、、、」

「ん、何か言うたか」

「何でもありませぬ、今度こそ、参りましょう」

二人は、三河へ向けて歩き出した、その背中は、まるで葬式に向かう様に、丸まって見えた






































































































































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