薬の十造

雨田ゴム長

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磁石

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楓が抱きついてきた、十造を止めに来たのだ
家が襲われていたわけでは、なかったのだ

「楓、佐助は何処だ、止めねば」

「十造、おいら、此処だよ、才蔵と一緒」

楓と一緒に、家に入ると、囲炉裏端で昌幸が、むぎの酌で酒を飲んでいた

「わっははは、むぎ女や、そう注がんでも良いわ、んん、波瑠もとな、おーおー」

昌幸は、ご機嫌であった

「あら、十造、大殿様があたしを、側室に、だとさ」

「おう、十造、むぎ女は、正室でなければ嫁がぬと、断られたわ
なーに、お主と飲もうと思うての
才蔵儂らの、盗賊の嫌疑は、晴れたのであろう、早う来ぬか、佐助何をしておる、早う」

佐助が茶化す

「大殿はご機嫌だね、領地が延びた訳でも無いのに」

「む、十造、楓に言うて、佐助を始末するように、銀八千でどうじゃ
何、六公四民だから、終いには、結構儂に戻るとな
わはははは、今宵は楽しいのう」

昌幸は上機嫌のまま城へ帰って行った

昌幸達が引き揚げた後、むぎが、十造に言う

「大殿様は、随分と淋しそうだったね
楓も、そう感じていたとさ
戦には、勝ったのだろうに」

翌日、才蔵が十造を訪ねて来、二人は外に出て、話しを始めた

「十造、上手く運び過ぎてのう、羽柴とは同盟、そしてまさかの、徳川からは、信幸様と、重臣の娘との婚儀を望まれての」

「成る程、其で淋しくなられたか、だが、此で真田は安泰ではないか、違うか才蔵」

「まあ、そうなのだが、矢張淋しかろう」

昌幸は、この度の徳川との戦に伴い、小国真田が、誰の配下にもならずに、生き延びる策を考えた
最初は越後の上杉とそして、戦となる徳川の反目、羽柴との同盟が成った
此だけでも、この小国にとっては、大成功だ、そして、上田の戦が、思わぬ成果を、もたらしてくれた
徳川は、戦って気が付いたのだ、羽柴と覇権を、争っている最中に、多大な犠牲を出してまで、真田の領地を奪っても、誰も特をしないのだ
それならば、いっその事、懐柔してしまえば、真田の領地と人は、徳川方に成ろうと言うもの

事は、昌幸の思い通り以上だった、しかし、そのお陰で親子は、羽柴と徳川方に別れてしまうのだ
そして、真田衆も、十造達も、いつの日にか、、、

ともあれ、真田に束の間の、平和が訪れた

十造の家は、総出で薬やら、薬草の栽培を行って、忙しくしていた
別に城からの手当てだけでも、十分なのだが、本業は薬屋なのだ、何時までも、忍びが続く世の中であっても困る
何しろ、むぎが、商売をしたくて、仕方がなかった

「十造、美肌の水を作ったよ、試して見てよ」

「おー、どれ、むぎの始めての仕事であるな」

十造が肌に塗ろうとすると、楓が真っ赤になって、十造から、美肌の水の入った容器を、取り上げた

「楓、何をするか、試すだけよ、返さぬか」

佐助が、横から口を出し、楓から容器を取り上げた

「じゃあ、俺が試しに、其なら良いよね」

今度は、波瑠が真っ赤になって、佐助から取り上げた

「とー様も、佐助殿も変態、気持ちが悪い、こんな物を」

「何だよ波瑠、原料作りは、やるくせに」

「お願い、むぎ様、家族意外で試して、恥ずかしい」

美肌の水の原料は、主に楓と波瑠の小水から出来ていた

佐助が、町に出て売り歩いて見ると、評判は上々、直ぐに売り切れた

「ねえ、むぎ、今度市が立つ日に売って見ようよ」

「ああ、良いね、ついでに、せんぶりとか、どくだみ健康茶とかもね
波瑠も手伝いに来なよ、勉強になるからさ」

上田城下に市が立った日に、佐助、むぎ、波瑠の三人も、小さな店を出した
佐助が、行商をしたお陰で、美肌の水は結構知られており、引き合いが有った
客は矢張、若い娘を中心に、売れて行く
中には、佐助を覚えていて、二言、三言、声をかけて行く客も居る、その度に波瑠が、眼の奥に青い炎を燃やすのを、むぎは気が付いていた

「佐助、お陰様で、売り切れ間近だよ、後は、あたしに任せて、波瑠と歩いて来なよ」

「うん、波瑠行こう、もう飽きたろう」

むぎが佐助に、こっそりと、囁いた

「波瑠に何か買ってあげな、銭は有るかい」

頷いた佐助は、波瑠と、市を見に出掛けた
波瑠は、見る物聞くもの、全てが楽しそうであった

特に反物、着物、小間物は絶対に、足を止めた
一軒の店前で、じっと立ち止まって、動かなくなった、小さな手鏡だった
その横に、朱漆に金をまぶした、櫛が置いてある
波瑠の後ろから、見ていた佐助は、鏡と櫛を手に取り

「此を貰おう、いくらかな、良い、銀で払うが、良いか」

「待って、佐助殿、家には、とー様、かー様、むぎ様、佐助殿が居るから、此を買う銭の五等分で皆に、、、」

思わず、波瑠を抱き締めたくなった

「わかったよ、波瑠、此は波瑠に買う、皆の分も買うから
こう見えても、佐助殿は、銭なら有るから」

そう言って買った品物を、波瑠に渡すと、両手で抱き締めて目を潤ませる、佐助は、人から、これ程感激される品を、買ったのは始めての事だ
嬉くしている波瑠を見るのが、とても嬉く、つい笑顔になってしまう
佐助は、皆の分も買って、三人は家に帰って来た

「おう、佐助儂にも、漆の箸をくれるのか、忝ない」

「十造、あたし達は色違いの櫛だよ」

「散財かけたのう、佐助済まなんだ
お前が皆にのう」

「実はさ、波瑠に、、、」

佐助は、波瑠とかわした、市での話を皆に聞かせた

むぎが沁々と語りだす

「本当に、あんた達の子は、良い子に育ったね、抱き締めてやる、あれっ、居ないよ」

楓が波瑠を呼びに、部屋をそっと覗くと、波瑠は鏡を見ていた、それは、自分の姿を、映している訳では無く鏡自体を見ていた
楓は思い出した、十造に始めて買って貰った品物が、鏡とビードロ玉である、勿論今でも、大切な自分の宝物だ
そして、思い出したのは、その時の気持ち、波瑠も、あの時の自分と、同じ気持ちならば、あの子は、、、
波瑠が、鏡を抱き締めている
傍らには、朱い櫛が置いてある
楓は、その場を離れた
きっと此から、毎晩寝る前に鏡を抱き締め、櫛を使うのだ

天下の情勢は、豊臣秀吉に傾きかけていた、秀吉は、拠点を大阪に置いて、有力大名を着々と傘下にしていった、織田の遺臣であり、家康との拠点の、地理的な部分でも、秀吉に部があった

しかし、両者には、決定的な違いがあった、秀吉には、まだ跡継ぎが居なかった、一方の家康は心配が無かった、家康は別に、自分の代で覇権を、握らなくとも、余裕が有ったのだ、何しろ最後は、待って居るだけで良いのだから
やがて、家康は秀吉の配下となった、その結果もあって、真田昌幸は、越後上杉を通じて、豊臣の家臣となり、家康傘下の与力となった
家康は、家臣の本多忠勝の娘を養女にしてから、昌幸の長男信幸に嫁がせた
此により、昌幸、次男信繁は豊臣方へ、信幸は徳川方へと、別れて行く

真田昌幸にとっては、悪い事でも無かった
豊臣からも徳川からも、報せが入って来るのだ
小国真田にとっては、激動を生き延びる、最善の手段である
十造や佐助、真田衆は、方々に書状のやり取りや、探索を活発に行っていた

十造と佐助も、行き違いの毎日を送っていた
どちらかが家に居ると、もう一人は、必ずと言う程、留守にしていた
そんな十造と佐助が、偶々一緒に家に居た時の事

「おう、佐助、実はな、親父殿が、どおやら、体の具合を崩されたらしい、才蔵が言うには、お前には、五日位の休みを見るとな、そこで儂と楓が、見舞いに行こうと思う、家には、むぎと波瑠だけになってしまう、後を頼めるかの」

「えっ、藤六様が、皆で行かなくても良いの、おいらも是非に」

「それも考えたが、道中素早く動くには、楓と儂、二人の方が良かろう
市が始まる、むぎの手伝いもあるしの
其に、親父殿の病状も、はっきりとは、わからぬのだ」

むぎは、薬屋の商売で、かなり繁盛していた
町中にほんの小さな長屋を借りて、店を出し、薬と、美肌の水を売っていた
それだけで、皆が食べて行けそうな勢いがあった

「わかったよ、二人が帰る迄、おいらも、むぎを手伝うよ」

翌朝、十造と楓は、藤六が、家康の城替えと共に転居した、駿河へと旅に出た

佐助、むぎ、波瑠の三人が留守番に残った

「むぎ、商売は順調なんだね、凄いや」

「うん、お陰さまでね、ただね、なかなか材料が、集まらないのさ、まったく
文句は多いけどね」

波瑠が真っ赤になって、怒り出す

「止めて、本当に恥ずかしいから、いくら、むぎ様でもゆるさないから」

「十造が言うには、何で、楓姉ちゃんと波瑠のではないと、駄目かと言うと、むぎを入れた儂ら三人のは、酒の成分が混じるからだそうな、そうすると、不純物が、余計な匂いや成分を出して、効能にも関わるとか、だから二人のゆばり(小水)なのだとか」

「波瑠、あたしが前から、言ってる通りじゃないか、あんたは、何もかも、ゆばり、までもが純粋なのさ、わかったら、もっと頑張りな
第一、美肌の水を売れば売る程、とー様も、佐助も、危険な目に会わなくて、良くなるよ
さあ、気合いを入れて、じゃんじゃん、ゆばりを溜めるんだよ、波瑠」

佐助が、良かれと思い助け船を出した

「むぎ、そりゃあいくらなんでも、牛や馬でも、あまり鞭を入れすぎると、動かなくなるよ」

「ほう、佐助殿は、波瑠と、かー様が、牛や馬に、見えるのですね
わかりました、こうしてくれる」

波瑠がいきなり、座って居る、佐助の頭を、両手でポカポカと、叩き出した

「これ、止めぬか、何をする」

「牛や馬には、言葉は通じませぬ、思い知るが良い」

むぎが立ち上がり、仕事に行こうとする

「あんた達、今日はあたしは、市の支度が有るから、帰らないからね
波瑠、火の番をたのんだよ、竈は、あんたが見るんだよ」

「じゃあ、波瑠おいらは、畑に行って来るよ」

佐助は、薬草畑を耕し、水をくれ、肥やしを撒いて、雑草を抜いての、作業を繰り返していた
昼近くに、波瑠が畑にやって来た

「佐助殿、一息つきませぬか
仕事は、今日だけでは、有りますまい」

波瑠は、握り飯と、竹の水筒を持ってきた

「おう、そうしよう、波瑠も座りなよ」

「あー旨い、やはり、千代様、楓姉ちゃん、波瑠と飯の水加減が同じだよ、旨い、旨い」

「本当に、どれ」

佐助の握り飯を持っている手を、引っ張りながら、其にかぶり付く

「わからない、第一これが、旨いと言われても、いつも通りにしているだけだし」

「波瑠、そっちの菜っ葉も、大根も、持って行きなよ、もう食べられるよ」

「佐助殿、先に帰ります、今夜は、何が食べたいの
お酒は、家に有ったけど」

「あはははは、今夜は波瑠が、おいらに、酌をしてくれるのかい、嬉しいよ、波瑠、もう何も要らないよ
楽しそうだから、すぐ帰るよ」

佐助が、畑仕事を終えて帰って来ると、波瑠が、土間に飛んで来た

「お帰りなさい、佐助殿、波瑠が足を洗いましょう
お湯も沸いておりますゆえ、この後は、風呂に入って下さいませ」

波瑠に言われるままに、佐助は、風呂に浸かった
そこへ、足をからげ、襷掛けした、波瑠が入って来た

「さあ、さあ、佐助殿、波瑠が、背中を流しましょうぞ」

波瑠が小さな時は、一緒に風呂に入っていた、それも波瑠が、物心つき始めると、波瑠は佐助とは、話す事さえ、遠ざかって行った
しかし、今日、波瑠は、あの時の様に、佐助に何の屈託もなく、接している

「波瑠、お前の背中も流してやろうか」

「きゃー、嫌ー」

波瑠は、逃げて行った、佐助は言い過ぎた、何て事を言ってしまったのだと、後悔した
すると、気配と声がした

「さあ、洗って貰いましょう、佐助殿」

屈託の無い、満面の笑顔で、あの時のままの、波瑠が現れた

「波瑠が幼き時は、きちんと、風邪を引かぬように、拭いてくれたのに、今は何故、背中だけを、雑にして終るの
しかも、波瑠は、佐助殿をきちんと、拭くと言うて居るのに、何か後ろめたい事があるのですか」

波瑠は、ぷりぷりと頬を膨らませながら、風呂を出て行った

『ある、有るから早く向こうに、、、頼むから、波瑠、収まりがつかないから
あの時の様には行かぬのだ』

佐助は、何とか囲炉裏に辿りついて、二人きりの晩飯を楽しもうと、腰を下ろしたのだが、佐助と波瑠の膳が、囲炉裏を挟んで向かい合わせだった

「え~、波瑠、遠いと思うのだが
その、おいらは、波瑠と酒を飲もうと、楽しみにしておったに」

「何と言う事を、佐助殿、風呂でさえ、あのような距離、服を着た今なら、この位が、丁度良く御座いましょう、ふん」

「よ~し、良くわかったわ、儂がお前の横に行く」

佐助が膳を持って波瑠の横へ行く、波瑠は笑いながら、自分の膳を持って動こうとする
佐助がたまらず、笑いながら、それを抑えた

「波瑠、お前も笑えて来るであろう、懐かしい、あのような時を、もう一度過ごそう、又、おいらは、いつ呼び出しがあるやもわからん」

波瑠は、いつからであろう、佐助の姿を見ると、嬉しいのに、何故か遠ざけるようになった
佐助の事を考えただけで、胸がドキドキする
でも、恥ずかしくて、佐助の顔も見る事さえ出来ない
誰にも言えない、自分だけの悩みであった
だけど、今夜は違った、幼き頃の様に佐助と、自然に過ごせそうだ
でも、向かい合わせの晩飯は、嬉しいけれど、恥ずかしい

「あー旨かった、波瑠、大根も旨かったよ、あは、波瑠は相変わらず、食うのが遅いや」

佐助がそう言うと、まだ食べて居る、波瑠の横に寝そべり、かまいだす
波瑠は波瑠で、箸で大根の煮付けを摘まんで、佐助に食べさせる、二人にとっては、何でもない事だった、お互い何を言われようが、されようが、気にしない程の親しさがあった

「佐助殿お酒は、どうするの」

「明日も、畑仕事をするからいいや
波瑠は竈、おいらは、風呂と囲炉裏の火をみて、もう寝よう」

風呂の火をみて、戻ると波瑠は、既に居なかった、佐助は、自分の部屋に戻り驚いた、波瑠が先に、佐助の布団へ入り込んでいたのだ
佐助は、思い返した、前はしょっちゅう、一緒に寝ていたのだ
今も当然、あの時のままよ、しかし、佐助は、布団を捲った時に後悔した、波瑠の薫りが、自分を刺激する
布団に入ると、波瑠が、佐助の足の間に
、自分の足を挟めて来る

「冷たい足よ」

「誰かが、風呂でちゃんと、拭いてくれぬから」

「あはははは、馬鹿を申せ、恨み深い事よ」

「この布団は、佐助殿の匂いに、満ちておる、波瑠は少し恥ずかしい」

「そうか、波瑠の薫りしかせぬわ、良い匂いだ」

波瑠を優しく抱き寄せる、佐助は情熱よりも、もっと、心の奥深くから、波瑠に対する気持ちが、湧いてくるのを感じていた
波瑠は、佐助に抱き締められて居るだけで、幸せを感じていた、このまま、時を止めて、ずっとこうしていたかった

「佐助殿、波瑠は貴方が、私の兄だと長い間、思うておりました、両親に違うと言われ、最初は悲しくなりました、でも、今なら、その方が良かった
兄妹なら、こうは行きませぬ」

「なあ、波瑠、今で無くても良いのだ、夫婦にならぬか、勿論お前の、かー様も一緒に、とー様も共に、四人で住もう、どうだ波瑠」

「フフフ、佐助殿、それでは、今までと、変わりがありませぬ、勿論むぎ様も入れて下さい
でも、嬉しい、もっときつく、波瑠を抱いて欲しい、私は、貴方の妻に、なりとう御座います
むぎ様が話してくれました、お前の身体を触って、気持ちを良くしてくれる男なぞ、幾らでも居ると、でも、抱き締められただけで、幸せを感じさせてくれる男は、人生で一人か二人、その人と暮らせと、、、
波瑠は、幸せ者です、佐助殿に、小さな時から抱き締められて、今も幸せを感じます」

佐助は、むぎの言葉の深さに驚いた、こうして波瑠を抱き締めて、改めて思う

「波瑠、俺は幸せだよ、今腕の中に波瑠が居る、離したくたくないよ、波瑠」

「はい、旦那様、でも私は、かー様の耳と口になりたい、ずっと側に居たい」

「うん、でも波瑠が、余りそれを強く言うと、あの方の性格だから、何処かへ行ってしまうよ」

「ふふ、私の旦那様は、流石に、良くご存知、そこが又、良いところ、でもここに、黒子が有るのをご存知か、ほれここにも、ここも」

佐助は、波瑠に何をされても、気にならない、しかし

「ほう、成る程そう来たか、のう儂の嫁、お前には、ここと、ここ、そしてここにも有るわ」

「キャッ、止めて、嘘です、いいかげ、、んな、ん、ん」

佐助は、もう止まらなくなった、可愛くて、愛らしくて、旦那様と呼ばれて、誰が我慢できよう
むぎが言う通りなのだが、でももう、抑えられぬ、終わった後に、又、考えよう、こんなに好きなのだ、何とかするわい

朝のようだ、鳥が姦しい、波瑠が身体を起こした

「波瑠、もう起きるのか、まだ良いではないか、寝ておれ」

「でも、火の加減もあります故に」

「むぎもまだ来ぬわ、ほれっ」

佐助が、起きかけた波瑠を、布団に引き戻し、抱き締める
波瑠も抱きついて来る、そして

「旦那様、昨夜は、波瑠が生まれて始めて、身体全体で、幸せを感じました
波瑠の心も、体も旦那様で満たされました
其につけても、旦那様は、随分と手慣れた様子ではございました、お陰さまで、波瑠は、何ら痛痒も感じませんでした、嬉しゅう御座います」

佐助は忘れていた、波瑠は、十造と楓の娘であった、忍の技は、何も教えられては無いが、感や洞察力はかなり有りそうな、、、佐助は、背中にいきなり、氷柱を差し込まれた気がしてきた

佐助は、文字通り、波瑠の口を口で塞いだ

「うぐ、ぐぐ、うー、うー」

波瑠が、佐助の下唇に噛みついて、離さない
佐助は、たまらず、声にならない声をあげた
やっと波瑠が、噛みつくのを止めて

「申し訳ございません、旦那様と違い波瑠は、このような場合、どうして良いかわかりませぬ」

白々しく、やり込めて来る

「おおそうか、その様な時ならば、こうすると良いのだ」

波瑠の胸に顔を寄せ、そっと吸い付き、手が奥に延びて行く

「きやっ、何と言う事を、駄目、だめ、ダメ」

波瑠は、下に延びて来る、佐助の手首を、抑えて防いでいたが、佐助が与える甘い刺激に、力が抜ける
佐助が波瑠の手を、取って握らせる、同時に波瑠は、佐助の指を感じた、後は何も覚えていない、恥ずかしくて、思い返したくない

佐助と波瑠は、遅い朝を迎え、佐助は、朝飯も食べずに、畑仕事に出た、波瑠は波瑠で、囲炉裏や竈の、消えかけた火を起こし、水を汲み、洗濯をしなければならない

昼近くに波瑠が、握り飯と、水を持って畑に、やって来た

「旦那様、休みませぬか、波瑠の分も持って来ましたよ」

「おう、波瑠、腹が減った、倒れそうだわ」

二人は、畦に腰掛け遅い朝飯を食べ出した
佐助は忽ちの内に、食べ終えて、足を伸ばして、飯を食べて居る波瑠の股に、頭を乗せた

「むぎ様は、今日辺り帰って来るのでしょうか」

「市も近いし、今日は大根を運んだら、店に行って見よう、波瑠も来な」

佐助を畑に残し、波瑠が、家に戻るとむぎが家に帰っていた

「波瑠、畑に行っていたのかい
お疲れ様、佐助もよう働くね」

「むぎ様丁度良かった、今日はどうするの、晩飯は」

「うん、着替えを取りに来たのさ、明日の昼近くに戻るよ、え、手伝いは要らないよ、一人で間に合うよ
きっと十造達も、明日の夕方迄には、帰って来るよ
それと、明日の晩飯は、波瑠が作らなくとも、あたしが用意するからね、佐助と畑でも、やっつけな」

波瑠が見送るなか、むぎは、城下へ戻って行った

「帰ったよ、波瑠、え、むぎが来てったのかい、そうか、では、大根を洗うとしよう」

「あ、待って旦那様、顔に土が着いておる」

手拭いで、佐助の顔を拭いてやる、そんな事は、しょっちゅうしている事なので、佐助は、黙って受け入れる、波瑠は、佐助の顔を拭き終わると、佐助の首に、両腕を回してきた、手が汚れているのが悔しかった、抱き締められぬ、爪先立てた足が可愛らしい、口をつけ、誘ったくせに、きつく目を瞑って居る
佐助は、このまま、波瑠を押し倒して、しまいたかった

波瑠が、いきなり佐助から、飛び退いた

「どうしたのだ波瑠」

「嫌らしい、旦那様は、変態ですな」

佐助の男の反応を、波瑠が感じ取ったのだ

「仕方が無いではないか、お前が愛しいから、こうなってしまうのだ」

「波瑠は、未だ晩飯の支度が有る、あっちへ行け佐助」

「くっ、良くも自分の夫になる者を、呼び捨てに、勝手にせい」

佐助が井戸に行こうと、後ろを向いた時に、波瑠が背中に飛び乗った

「佐助、井戸まで波瑠を連れて行け、ハイヨー」

そうなのだ、何をしても、されても、気にならない、波瑠は、佐助の耳朶を甘噛して来る

「ほれ、井戸に着いたわ、離れんか」

「やだ、降りぬ、このままが良い」

「ほう、そうか、今日も家には、儂らしか居らぬゆえ、何も進まんぞ」

「へえ、へい、まったく、私の旦那様は夢の無い御方、波瑠は道を、間違えたのかもしれぬ」

「波瑠、だらだらと暗くなるまで、仕事をするのと、とっとと終らせ、二人で過ごすのと、どちらが良いのだ」

波瑠が俄然張り切り出した
佐助は、楽しくて、しょうが無かった
井戸の水を汲んで、家の中へと戻る、波瑠に呼び掛けた

「おーい、波瑠、腹が減ったわい、聞こえておるのか、儂の妻女よ
何か言わぬか、これっ」

波瑠が何も言わずに、家の中に戻る、佐助は、見なくとも知っている、満面の笑顔で、照れ隠しした波瑠を

夕暮れに、井戸端で大根を、洗い終えた佐助は、土間に入ってきた

「お疲れ様でした、旦那様、足を洗いましょう」

波瑠は、佐助の足を洗い出す、其だけで嬉しい、楽しい、波瑠の薫りが好ましい

「風呂も沸いております、夜の膳も既に、どちらに、、、」

「風呂に入るよ、そして、飯にして、明日は、朝から雑草取りに行かねば」

「旦那様、足の親指に、毛が生えてますな」

波瑠がツンツンと佐助の足の毛を引っ張る

「いてててて、止めんかこれっ、痛いと言うに」

「ほらっ、こんなに長いの」

『あ~そうだ、いつもの、二人のこの感じよ、波瑠、あはははは、これよ、この感じよ』

「波瑠いいよ、もうおいら、風呂に入るよ」

風呂に浸かった佐助の前に、波瑠が、何も身に付けずに現れた

「波瑠おいで、もうお前に隠す物なんて何も無いよ、ここに来な」

もう風呂に入るのも、佐助がどんな状態であっても、全てが、ありのままであった
お互い体を洗い合い、変化があれば、それも楽しむ、佐助は、漸く気が付いた、二人でいるのは、何が有ろうと楽しいのだ

二人は、風呂の湯を半分にも減らし、漸く出てきた

向かい合わせで、晩飯を食べて居ると、佐助が急に、口を抑え痛がり出した

「大丈夫、旦那様、どうしました」

「うむ、朝方何者かが、儂の唇に噛みつきおってからに、今日一日話しすら、ろくに出来ぬのよ」

「へー、さようですか、風呂では、口やら手やら、思うがままに振る舞っておられたような」

「ふむ、手は怪我などしてはおらぬ、本来ならば、口はもっと動くはずよ」

佐助は、飯を食べ終り、波瑠の横に、寝そべる、思い直して、波瑠の膝枕にした
未だ波瑠が、飯を食べていても、気にしない、波瑠も気にせず食べていた

「波瑠、今お前が口に入れた、漬け物を食べると直るかもしれぬ」

波瑠は、躊躇いもせずに、佐助に口移しで与えた

其々の火を消し、二人だけの夜が、あっという間に過ぎた

朝が来た、波瑠は、鳥と供に、ちゃんと起きて、朝の膳を用意した
唇には、紅を引き、佐助の起きるのを待った

「え、え、え、波瑠の膳は無いのか、どうして」

「波瑠の我が儘も、今日の朝が最後、今日は、旦那様と一つの膳で、波瑠の良い様にさせて頂きます、宜しいか」

「はい、御手柔らかに、お願い申す」

波瑠は、胡座をかいた、佐助の上に、横座りで首に手を回す

「旦那様、漬け物が食べたい、飯を少し、これでは多すぎますゆえ、今少し口から取って、、、」

長い朝飯を終えて、佐助は、畑仕事を、波瑠は、家の仕事をして、一服の支度を持って畑へと向かった
畑の雑草取りも、二人で馬鹿な事や、他愛の無い口喧嘩をしながらやると、結構楽しかった、早い話が、二人で居ると、何をしても楽しいのだ
そうこうする内に、昼も過ぎようとしていた

「波瑠、皆が帰って来るよ、もう帰ろう」

「はい、旦那様」

二人が家に帰ると、既に皆が帰っていた
波瑠が皆に挨拶をする
「とー様、かー様、むぎ様お帰りなさいませ」

佐助も

「皆おかえりー」

普段ならば、十造が佐助の礼儀の無さを叱り付け、下手をすれば、楓が佐助の頭の一つも、張るところなのだが
皆が、と言うても三人が、柔らかい笑顔で、佐助と波瑠を包み混む

突然むぎが、きつい口調で

「波瑠は、風呂に入りな、佐助は、井戸で体を洗いな、早くしてよ、ほらほら、しっしっ」

二人は追い立てられるままに従った

波瑠は風呂を終えると、母楓に手を引かれ、違う部屋へと
導かれて行った
佐助は、井戸で体を洗うと、むぎが来て、むぎの部屋へと連れていかれた

佐助は、むぎの着付けで、若武者に、波瑠は、母楓の手により、何処ぞの姫御前に、仕立て上げられた

いつもは使わぬ居間に、二人は並んで座らせられた

でも、それを見ているのは、十造、楓、むぎ、の三人だけだ

「ほらほら、あんた達の娘は、中々の上物だよ、絶対に大名とか、公家に貰われるって、それがよりによって、佐助じゃね~」

酒を飲んでいた十造が

「何を言うか、佐助は佐助で、中々の出来ではないか」

「ふん、いいけどさ、どっちみち、波瑠は、佐助しか目に入らぬし」

佐助は、隣に今までで、一番綺麗な、波瑠を見ていた

場の異様さに、声もなかった波瑠が、むぎに問うた

「むぎ様、此は、、、」

「馬鹿だね、この子は、あんた達二人の祝言じゃないか
嫌だとか言わせないよ、もう、やっちゃった癖に
証拠なら有るよ、布団が一組しか干してなくて、結構な枚数の手拭いが、干してあったのさ
未だあるけど、聞くかい」

波瑠は、真っ赤っ赤になって、耳を塞いで、下を向いてしまう
むぎは、波瑠の肩を抱きながら

「良かったね、波瑠、好きな人と一緒になれるなんて、滅多に無い事なんだよ、しかも、抱かれただけで幸せを感じたんだろ
あんたの、とー様と、かー様が、喧嘩してるの見たこと有るかい、無いだろ、二人を見てわかるだろ、最後は、水や空気になるんだよ、いつもは気がつかないけど、無いと生きて行けないんだよ、わかるかい
見てごらん、二人供喜んでいるじゃないか
いいかい、波瑠、ぴったりとくっついて、絶対に、離れるんじゃないよ」

町から、料理が運ばれて来た、細やかながら、宴が始まったのだ
十造は、酔っていた、佐助が本当の、家族になった、波瑠が、何処かの唐変木に貰われずに済んだ
佐助が酒を注ぎに来る

「はいよ、父上様、母上様もはい、むぎも飲んでよ、波瑠も皆に注ぎなよ、でも、何故こうなったのさ」

むぎが話し出した

「楓が、どうやら、波瑠に、好きな人が出来たって言って来てさ、そんな事言ったって波瑠の回りの男は、佐助だけだし、こんな世の中だもの、とっとと、一緒に、してしまえってなってさ」

楓が波瑠を、じっと見ている、千代の気持ちが、今日、理解出来たのだ

「そんで、十造と楓は、旅に出て、あたしが、様子を確かめてから、祝言の手配をしたのさ
なんたって、楽しい事は、滅多に無いからね、嬉しいんだよ」

「へー、有り難う御座います」

「ばーか、佐助、此は全部、可愛い波瑠の為だよ、お前は添え物なんだよ」

「ひでえなそりゃ、まあ、波瑠が嬉しけりゃそれでいいけどさ
もう、着替えていいかい、汚しそうだよ」

「ああ、楓もう着替えさせて、いいかい、良く見たかい」

涙ぐんだ目をして楓が頷いた
嬉しい楽しい、五人だけの宴は、夜が更けても続いた
むぎが言うたとおり、滅多に無い、目出度い日であった












































































































































































































































































































    
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