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激しく動き、激動となり
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戦が始まった、北条方が、真田の上野沼田近辺、名胡桃城辺りを奪い、さらに、近隣諸国をも、陥れようとしていた、最初は、関東にあまり乗り気ではなかった、秀吉だったが、家康と共に調停に乗り出した、しかし、北条も関東の覇者である、抵抗したり、調略に走ったりと、埒が明かない、従う気が無しと、判断した、秀吉は、諸将に兵を挙げさせた
此により、真田昌幸、信之、信繁を中心とした、真田方三千の兵が北方隊に参加した
真田衆も、当然加わったのだが、十造と佐助は、丸きり別の仕事を与えられた
赤松の巨木が、森の中にあった、幹の途中には、人の大きさ程の瘤がある、その直ぐ上の枝に、人らしき者が隠れていた
シュー ッと、弓矢の風切り音がして、プッと、突き刺さった
カサッと僅に草を踏む音がする、誰かが、この赤松の、木の下へ来ている
茶色い装束の男が、木の上を見上げていた
だが、見上げた途端に、目を剥いて倒れた
首に弓矢が、刺さっていた
その男が最後に目にしたのは、弓矢が刺さった、人形であった
直ぐ側の藪から草を纏った人が現れた、十造である、十造は直ぐに、地面に伏せた、 同時に木の瘤から、弓矢が飛んで行った
木の瘤が動いて、下へ降りて来た、佐助である
「三人居たら不味かったね」
「おう、人数がわかっておったからの
正直、お前が狙った奴は、何処に潜んでおったか、わからんかった」
「奴は、道具が吹き矢だったから、仕留められたよ、弓なら、どうかな、危なかったかな」
十造と佐助は、伊豆の山深くに、風魔の忍を待ち伏せしていた
豊臣秀吉は、従わぬ北条の小田原城を、大群で取り囲んでいた、北条方は、籠城戦に出ていた、北条も中々手強い、そして、取り囲む方々の、武将達へも、切り崩しの工作や、調略を図っていた
それらの、伝令には、風魔の忍衆を使っていた、風魔衆は、主な仕事先は北条であった
地の利もあれば、団結力もある、おそらく、厄介な仕事になろう
十造は、徳川家康から、真田昌幸宛の書状により、応援を頼まれ、これを引き受けたのだった
家康の依頼でなければ、断る仕事であったろうに
小田原に着いた十造は、三郎に問うた
「三郎、何故徳川方が、この仕事を、しているのだ」
「はあ、この先の、関東経営を鑑みますれば、服部様の支配下を、嫌うのであれば、他の武将に付きましょう、ならば今の内に、、、と
それに、あの風魔でさえ、残れないとなれば、徳川に与する忍も増えましょう
風魔が、越後や、毛利あるいは、新興の伊達に、行く位ならば、北条と供に、消えて貰います」
「三郎その伝で行くと、真田も危ういではないか」
「勿論です、但し、服部様が申しますには、真田衆を倒したとしても、打ち損じに、十造、佐助、どちらかが残れば、家康様が居なくなる、ましてや、二人残れば最悪だと、、、」
十造は、そんなやり取りを、三郎と交わして
から、伊豆の山中へ、佐助と入って来たのだった
「父ちゃん、この山には、さっきの二人を除いて、まだ三人、四人は居そうだね、焚き火痕と足跡を見つけたよ、どうするの」
佐助の、義理の父親となった、十造は、佐助に「父ちゃん」と軽く呼ばれていた
楠の根元で、二人は、休みながら、次の手立てを考える
「父ちゃん、おいら、糞してくる」
「おう、では、飯にするか、火を焚いて待っておるわ、養生丸しかないゆえ、何か探してこい」
「はいよ」
佐助は、茂みの中へ姿を消した、闘いが始まっていた、既に囲まれて居るようだ
十造は、極小さな火をおこした、背負ってきた道具箱から、丸い塊を取り出し、それを火に炙り出した
忽ちの内に、辺り一面白い煙幕に包まれた
もう一つ、丸い玉に火を着けた、敵の居そうな所に、大体の見当を付けて投げた、藪の中に入り込んだ玉は、ボンと鈍い音を発して、辺りが黄色い煙に覆われた、硫黄の毒煙である、吸うと咳が止まらなくなり、その場で吸い続けると死ぬ
十造が焚いた、煙幕の中心を目掛けて、弓矢が二本、別々の方から飛んで来て、楠の幹へ突き刺さった
その場には、十造は既に、いなかった
素早く楠の、後ろへ回り、藪の中へ身を隠す、
石弓に矢をつがえ、静かに呼吸を整える
相手はどうせ、咳をしている、居た、一人は見つけた、飛んで来た、矢の方向からして、あっている、だが、少なくとも後一人、いた、あの大きな杉の倒木の影だ
その時「ピーピピ、ピーピピ」と鳥が短く鳴いた、佐助が、敵を倒した合図だ、十造はすかさず、最初に見つけた、敵に向け矢を放つ
と、直ぐにそこを離れ、楠に戻った
カンと乾いた音がする、道具箱に矢が刺さっている、十造の放った矢は、相手を、手負いにさせただけであったのだ、だが、奴は死ぬ、毒矢に当たったのだから
問題は、倒木の影に居る相手だ、その時声がした
「父ちゃん、終ったよ、今出て行くよ」
佐助が、血だらけになって、出て来た
「佐助、大丈夫か、随分と、手こずった様だの」
「うん、格闘にはならんかったけど、手こずったよ
四人だったね、正面から、喉を掻き切ったから、返り血を浴びちまった
さっき水が、流れてた、洗って来るね」
佐助の無事を確かめてから、十造は、手負いとなった、相手を探して、矢が飛んで来た方向へ歩き出した
少し行くと、樹間を、伝い歩きしながら、よろよろと動く茶色い塊を見つけた、後を付けても無駄な位に、毒が回った様だ、十造は、背後から近付き、優しく声をかける
「おお、無事であったか、探したぞ、さあ帰ろうではないか、儂は、先程の煙に喉をやられたわ、ゲホ」
「お頭か、其では儂等は、やっつけたのですな」
「ああ、何とかな、お主はその体で、何処へ逃れようと、考えたのだ」
「と、取り敢えず、
し、下小屋まで」
そこまで言うと、其奴は、動かなくなってしまった、毒が回り絶命したのだった
「どう、何か言ってたの」
佐助が戻って、十造に尋ねた
「いや、但し儂を、頭と呼んでいた、佐助、先程の奴等の中に、儂位の歳格好が、おったかの」
「最後の、倒木のとこにおった奴かな、後は皆、おいら位だったような、、、」
「よし、其奴を調べて、引き揚げようぞ」
佐助が仕留めた相手は、俯せになっていた
「父ちゃん、此奴何も持って無いよ、変だね、養生丸も無いし」
「そうだな、きっと直ぐ近くに、物置小屋が有るな、最後の奴は、南西に歩いておった
おそらく、辿り付けると思っておったな
行って見るとするか」
佐助が茂みの中へ消えて行くと、十造も、敵の武器の在処を探しに動きだした
さほど、遠くも無い山の中程に、木の枝や草で偽装した、6畳間程の小屋を見つけた、そこには、弓矢や鉄砲等の、武器が置いてあった
十造は、何かの指示書きや、書状等が無いか、探して回る、すると、意外な物が見つかった、小さな柘植の櫛、女物である
佐助は、十造が入り込んだ小屋を、高い木の上から見ていた、早い話しが、十造は、囮の役目を持っていた、十造が目立つ動きで、敵が近くに来たところを、佐助が仕留めるのだ
先程から、茂みの一つが妙な動きをしている
佐助は、その回りや遠くを探っていた、自分達と同様に、敵も囮を使う事は、考えなければならない
『随分と、慎重に進んで来るね、さては一人だけかな、ここからでは、弓も届かないし、陰になる、第一父ちゃんに、知らせ様も無いな、よしっ』
佐助は、思い切って木から下り、藪に偽装した敵を、仕止めに行く
敵は、入り口正面に構え、弓を用意している
佐助が、小石を拾って小屋の壁にぶつけ、十造に知らせた
佐助の知らせに、気付いた十造は、外の気配を伺う
急ぎ小屋にあった、筵を束ね、入り口の戸を開け、外に投げ出した
「シューッ」と言う音と共に、筵に矢が刺さった
矢が飛んで来た方向を見ると、既に佐助が、敵に組み付いていた
『ん、佐助に何かあつたのか、仕止めが遅い』
佐助は、一瞬怯んだ、飛び懸かる前に、ふわりと、女の匂いを感じた
放った矢が、囮に当たり、二の矢をつがえる前に、のし掛かられた敵は、刃物を出す暇もなく、両腕の動きが止まった
佐助に両方の肩を、外されたのだ
「無理だよ、こんなの、父上におまかせ致します」
「ばかたれ、命をかけて、やる事か」
十造は、敵に情けをかけた、佐助を叱り付けた
佐助は、くノ一に止めを刺せずに、自分でも気が落ち込んでいた
十造がくノ一に話しかけた
「お前も、くノ一ならば、捕まると、どうなるかは、わかろうと言うもの
一つ取引を、しようではないか
儂の問いに答えれば、皆の所には、連れてゆかぬわ、その代わりこの、毒薬を飲ませてやる、直ぐに仲間の所へ行けるが、どうするか、お前位の若さなら、皆喜んで三日三晩、楽しまれるぞ」
「な、何を知りたい」
「簡単な事よ、仲間は、此で全部か、もし、全部ならば、最早お前の仲間は、居らぬ、従って裏切りでもない、返事は」
「う、此で全て、早う毒薬を、、、」
十造は、小さな丸薬を一つ、くノ一の口の中へ、入れてやった
「少しすると、朦朧となり、自分がわからなく成る、去らばだ」
くノ一が、痙攣し、涎を滴し、目の焦点が、合わなくなっている
「佐助、此奴を小屋まで運び、肩を入れてやれ、引き揚げる」
佐助が十造に、言われた通りにすると、最後に、十造は、くノ一の懐に、小屋にあった柘植の櫛を入れた
十造と佐助、二人は不覚にも、くノ一を女として、見てしまい、自らの手で、殺すに至らなかった
「父ちゃん、あれ、何の薬、毒薬ではないよね、おいらに外された肩を、もっかい入れさせたのだから」
「あれは、はしりどころ、と言うて、ほら此よ、山なら、そこら中に生えておるわ、此奴を料理しても、しなくとも、食すると目眩、幻覚、意識が朦朧となるわ、ただ、死にはせぬ」
「ふーん、おいらが飛びかかった時に、一瞬女の香りがして、躊躇ったのさ、其をも武器にしてたら、おいら死んでたね」
おそらく佐助は、瞬間そこに、自分の嫁である、波瑠を見てしまった
十造は、小屋に有った柘植の櫛と、此奴が最後の、風魔の忍との思いに、情けを覚え、殺す事が出来なかった
『儂も歳を取ったものよ、下らん感傷で、仲間もろとも、死する所であったわ』
「佐助、小田原に戻ったら、儂は、三郎と話しが有る、城でも見てこい」
十造の言う、城というのは、小田原城ではなく、それが見える様に作った、秀吉の城の事であった
秀吉は、そこに諸大名を集め、宴の毎日だとか、恐らく籠城している北条方に、時代は既に豊臣秀吉だと、見せつけ、ついでに参集した大名達へも、それを知らしめたい思惑もあった
外で鳥が鳴いて居る、朝なのだろうか、外にいた筈なのに、小屋の中に寝ていた
外された両方の肩も、何故か、戻っている
起き上がると、未だ目眩がして、上手く動けない、そう、確か毒薬を飲んで、死んだ筈なのに、、、
風魔のくノ一、「宮」は、佐助に両方の肩を外され、十造に毒薬を飲まされ、死んだ筈であった
動ける様になるまで、今少し時が必要である
宮は寝ながら、考えていた、仲間は埋めない、その代わりに、風魔の最後の忍として、滅ぼした者に、思い知らせてやる、止めを差さなかった、あの二人は、きっと、後悔する事になろう
半時後に、身体が元に戻って、動ける様になった、宮は西を目指して歩き出した
佐助は、およそ、自分の趣味とは、かけ離れ、全てが派手な城内の、一番派手な場所を、探して回っていた
『わかりやすくて、いいけどね、其にどうせ音や声で、、、』
カタカタと、振動している部屋を見つけ、佐助は、ここだと確信した
金色に輝く部屋へ忍び込む、そこも、金色に輝く屏風で、仕切られていた
屏風の手前は、酒器や繕が、並べられていた
『頂きまする、其にしても、椀の中、盃の中身が、勢い良く揺れてるね、凄い凄い、なんじゃこりゃ金の箸って』
佐助は、部屋の振動を感じながら、豪華な食事を始めた
カタ、カタ、カタ、カタ、カタ、カタ
「ううー、むーむー、ウウー、ふーー」
最後の大揺れと共に、あれや、これやと、物音がし出した
秀吉と女が、着崩れて襦袢一つで、屏風の向こうから現れた
「ヒー、イヤ」
女が屏風の陰へ、隠れようとするのを、秀吉が連れ戻した
「なんじゃ、来ておったか佐助、どうじゃ、良きおなごであろう、ちや姫よ、おっと、最も先程、姫ではのうなったがの、ほれ、今さら恥じらう必要もなかろう、儂の隣に来るのじゃ、早うせい」
「えーなんじゃはないでしよ、秀吉様がこんな事している間に、風魔を片付けてやったのにさ」
「おお、お前の仕事であったか、知らせは来ておるが、、、褒美なら駿河(家康)に言うのが、筋ではないのか」
秀吉は、隣に座らせた、ちや、と呼ばれる女の裾の間に手を入れながら、話をする
「あ、やっぱりね、まさか風魔の方に給金は、出てないよね」
「お前とお前の親方を、仕止めたのなら、幾らでも出すわい
しかし、前払いは、誓って、しては居らぬ、命が惜しいでの」
「そうだよね、もうこの国の殆どを、手に入れたものね」
「未だ安心出来ぬわ、こうして、どんなに守っていても、何時でも入り込む者がおるからの、安心して馬鍬う事も、出来ぬわ」
「えー、見られるのが好きなんじゃないの、知らないけど」
「わはははは、今度、聚楽第や大阪城に来るが良い、たっぷりと見せてやる」
「ご馳走様、そうだよね、そうするよ、あ、今日は暇潰しに来ただけだから、それじゃ、続きをどおぞ」
十造は、三郎と会い、風魔の始末を伝えた
くノ一の事は、何も言わなかった
「三郎、其よりも、父上の様子はどうなのだ」
「はあ、大事を取って、既に仕事からは手を引きました、諜報は、今や、全て服部様の元に集める様に、成りました」
「ほう、時代と言う事かの、のう、三郎この先暫く、豊臣の世に成ろう、儂は、当分の間薬屋で、暮らそうと思うのだが、そうして、実家に楓が居れば、千代様も、心強いと思うのだが」
「何を言われます、楓が承知せぬばかりか、母千代も、首を縦に振るわけが有りませぬ
心配無用、兄達もおります故、十造殿の、思う通り楓と共に、上田で過ごされよ
儂も思うて居った、最後の争いが、絶対に有る筈、其までは、動かなくとも良いのでは、、、」
「のう、三郎、頼みが有るのだ、お前も知っての通り、真田は豊臣と徳川に、別れてしもうた、此までのしがらみから言うても、儂は信之様へ、そして、佐助は、大殿昌幸様と信繁様方に成ろう、この先、佐助に何かあったならば、宜しく頼みたいのだ」
「お任せあれ、何しろ十造殿が言うた通り、あやつは、稀代の人たらし、我が家康様相手でさえ、遠慮無う口をきく奴、服部様でさえ、恐れております、そして、何と言うても、家康様のお気に入り、
如何様にもなりましょう、安心なされよ、波瑠が、悲しむ事等させませぬわ」
「済まぬの、波瑠もそうなのだが、儂と楓にとっても、佐助は、掛替えの無い奴なのだ、どおか宜しく頼む」
「わはは、矢張、あやつは、稀代の人たらし、佐助に何かあったならば、儂の立場が危うくなりましょう」
十造と佐助は、三郎に別れを告げて、家族が待つ、上田へと引き揚げて行った
十造は、主に真田信之の仕事を中心とした、連絡役となっていた
佐助は、真田の大殿昌幸と次男信繁が、秀吉側近の家と縁戚の為、京、大阪方面の仕事が、増えていった、佐助は、一緒になったばかりの、波瑠に会いたいが為に、仕事に出ても、何処にもよらず、直ぐに上田へ帰って来ていた
とにもかくにも、波瑠と共に居たかった
従って、秀吉にも会っては居らぬし、大阪城や聚楽第を見ても、関心を持たなかった
豊臣秀吉が、寵愛して止まない側室、淀の方様は、嫁いでからと言うもの、日を追うごとに、機嫌が悪くなってしまった、最初の子が生まれ、幼くして亡くなった後は、益々笑顔が消えて行った
秀吉は、此を不憫に思い、益々溺愛の度を、深めて行った
今日も、控えの間に居ると、遠くから秀吉の大きな声が、聞こえて来た
「淀はおるか、わはははは、まさか、寝込んではおるまいの」
ガラリと襖を開けて、派手な身なりの小男が入って来た
「お帰りなさいませ」
「おう、どうじゃ、未だ機嫌は、優れぬのか」
「申し訳ござりませぬ、其でも、日々少しずつ、ようなっておりまする」
「おお、そうか、大事にせねばのう
所で、乳は未だ出て居るのか」
秀吉は遠慮無く、懐に手を入れてくる
「あれ、ご無体な、お止め下さいまし、恥ずかしゅうございます
こんな昼日中から、、、」
淀の方様は、秀吉は恥じらう程に、燃えるのを知っていた
「おお、手を濡らす程に出て居るのか、どれ、棄てるのは惜しい、其ならば儂が飲むわい」
秀吉は、淀の方様の、乳を飲みだした
『ほっ、さあ、たんと飲みなされ、もっとなめ回しなされ
そして、わらわを抱けずに、何処かの人質とでも、思いを遂げるが良い』
「お止め下さいませ、ほんに、恥ずかしゅう、、、」
「ふっ、淀よ、甘露であるな、どれ、もう片方も、、、」
淀の方様が、思うた通り秀吉は、其以上の発露を探して、部屋を出て行った
部屋の中には、淀様と、白い百合の花が残された
佐助は、広い大阪城内を、見て回っていた
『ふーん、相変わらずだね、こんな馬鹿でかい家、いらぬでしょ
かえって、忍び易い事よ、あー、でも何処に居るか、探すの大変だよね、暇潰しに丁度良いけどね』
佐助は、土産話を、上田の皆にしてやろうと、大阪城に来ていた
『まあでも、秀吉様のことだから、派手な場所を探せば、そこであろう
げっ、儂が甘かったわい、この階は、どこもかしこも派手な事よ』
だが、直ぐに佐助が聞く、何時もの音と、声が聞こえて来た
『え、ここぉ、なんというか、派手さが無いね、らしくないよ、ま、良いや、どれ』
秀吉ならば、もっと派手な筈だが、そう思いながら、襖を開けて覗くと
「治部殿、治部殿、おお、おお、その様に激しく、、、」
『いけね、矢張違うたか、外を探さねば、
にしても、治部って誰なんだろうね
確かに、勢いが激しいよね、秀吉様はもう少しこう、、、ま、良いや、あったよ、あれだろう、桃色に金の襖、きっとそうだよね』
そこは意外と、こじんまりとした、部屋であった、中には、女が一人居た
文机に向かい、足袋も履かずに、正座をし、て書を読んでいる女がいた
その後ろ姿はあまりにも、淋しく、悲しそうであった
佐助は、危険も顧みずに、部屋に入り込み、その後ろ姿を、そっと抱き締めた
女は、佐助が首の後ろから回した腕にそっと手を添え、佐助に身体を預けた
「何しに来たの、折角忘れていたと言うのに、酷い事をしないで、、、う、う、う、うっ、馬鹿、馬鹿、もっと、きつく抱き締めて」
茶々が泣いていた、秀吉の元に行ったのだから、いつか、再会するとは思っていた、其でも、こんなに淋しくしているとは、考えても居なかった
まだ秀吉に、組み敷かれて、悶えていたのなら、諦めや割りきりも出来るのだが、こんな姿を見てしまったなら、抱き締めずにはいられない
「茶々、泣き止んだかい、すっかり、美しくなったな、お前」
「うるさい、もっと強うわらわを抱き締めよ、嬉しい、、、佐助」
「でも、茶々がここに居るとはね、凄いね、ここは、てっきり淀の方様の所だと思ったよ」
「うふふ、佐助、わらわが淀じゃ」
「えー、茶々がそうだったの、知らんかった、其にしても、何故このように淋しそうなのだ、儂と別れた時よりも、、、
欲しい物なら、何でも、手に入れられよう程に」
「入らないよ、一番欲しいのは、佐助だよ、ほら入らないよ、既に人の物だし、解るの、言わなくとも、鬢の付根を、剃ってくれる人が居られる、そんなお人は、一人だけ、違いますか」
二人共に無邪気に抱きおうた、あの時から、随分と時が過ぎた、茶々が、以前の様に佐助に股がり抱きついてきた
「佐助、ここは、わらわの籠の中、勝手に来た佐助が悪い、茶々が良いと言うまで、帰しませぬ」
綺麗に化粧をして、良い薫りがする顔が、佐助に近付いて来る
茶々が話してくれた
「佐助、あれから、妹達も引き取られて、私は、秀吉様の物になったわ、最初は、この人に尽くそうと、心に決めて、初めての夜、抱かれた時に、いろいろな事をされて、声を我慢するのが大変だったの、佐助とだったら、何時までも続いて欲しいけど、そして、やっと終わりが近付いて来たときに、市って言いながら果てたの、、、市、市って」
佐助は言葉が無かった、本当に抱きたかったのは、茶々ではなく、お市様で、茶々はその身代わりと言うことか
裏返すと、秀吉は、相当お市が、好きであったのだろう
しかも、偶然かどうかわからぬが、市の嫁いだ先は、秀吉が亭主諸とも滅ぼした、浅井と柴田である
しかし、茶々には、絶対に、通じないであろう、よりによって、最中に毎度、母親の名前を呼ばれるのだ
子供が出来て、正室北の政所や、数多の側室も無し得なかった事に、疑惑をもたれ、その子も亡くなった
悲しくも成る、秀吉の寵愛を、受ければ受ける程に、周りから疎まれるのだ
佐助は、来た時と同じく、優しく茶々を抱き締めた
「佐助、茶々は、気が付いたの、秀吉様は茶々をあれこれ弄くって、気持ち良くさせるけど、茶々は、佐助にそっと抱き締められただけで、幸せな気分になれる、其は、誰にも出来ぬ事、そう佐助にしか出来ぬ事」
「のう、茶々おいら未だ、ここに居ても良いのか」
「うん、大丈夫、秀吉様なら、評議か、女を抱いて居るから」
「あはは、元気がよいの、茶々、何故足袋を履かぬのか、冷たくなっておるではないか」
佐助は、茶々の裸足なのを嗜め、手で温める、茶々が、ぼろぼろと涙を溢す、両方の手で顔を覆って、何とか
声を押さえて、泣いている
「茶々、また来るよ」
「待って佐助、口づけしてから、お願い、元気になるから」
佐助は、茶々と別れて城内を見て回る
上田を立つ時に言われた、むぎの言葉を思い出した
「佐助、あんたは男だから、外へ出たなら、違う女を抱く時も有るさ、でも、変なのを相手にするんじゃないよ、家に持ち込んで、波瑠を泣かすんじゃないよ、わかったね」
笑いながら、聞いていたが、むぎは、やはり鋭い、男女の裏を知りつくしている
「佐助、あたしの言った通りだろ、気をつけな」
そんな声が聞こえた様な気がする
佐助は、無性に波瑠に会いたくなって、城の探索を切り上げ、上田に帰る事にした
秀吉は、執務を取っていた、各書状の確認やら、返信等大方片付け
「治部は、居るのか、後は良きに」
近習が来て、書状の類いを持って、引き下がった
「殿、広間に九州からの使者が参っておりまする」
「む、では参ろう」
部屋を出て、広間に向かう廊下の途中、突然角から、何かが秀吉にぶつかり、思わず此を受け止めた
「きゃっ、あれ、お、お許しを、どうか、お許し下さいませ」
女、、、女中であった
途端に近習が色めきだった
「無礼な、殿に対して、なんたる振る舞いか、そこに直れ、直らぬか」
ぶつかった相手は、慌てて廊下に、ぬか付いた
「まあ良い、急いで居ったのであろう、許す、その方名前は」
「み、南の方、さ、様にお仕え致しております、み、宮ノ前と申します」
秀吉の前に、雨に濡れた子犬の様に、ぶるぶると震えながら、ようやく名乗った
秀吉は、全てが気に入った、ぶつかった時の柔かな感触、何より此までに、嗅いだ事のない、花の香りが、頭の奥に残った
この、一通りの出来事を、じっと遠くで、見ている者がいた
佐助は、城から抜け出そうと、見物がてら歩き回っていて、偶さか此を見た
『はて、秀吉様ご一行は良しとして、あの女、何処かで、、、う~む、誰であったか、つい最近の様な、おお、そうか、、、』
佐助は暫く、物陰で考えに耽った
そして、考えが纏まると、宮ノ前が引っ込んだ部屋を、見張り出した
その部屋は、何人かが詰めて居る、女中部屋の様なものと見えた
佐助は、宮ノ前が出て来るのを、じっと待っていた、暫くすると、先程、秀吉に付いていた近習が一人、この部屋の前に来て、年寄り株を呼びつけ、何かを話していた
『やったね、宮ノ前、思い通りだよ、でもね、おいらは、全部見てたよ』
宮ノ前が出て来た、佐助は後を追った
「宮ノ前、殿がお呼びじゃ」
宮ノ前は、歩みを止めて、振り返ったのだが、、、
「ふっ、どの様に、動けば良いのか、解らぬであろうな、何処か話を出来る部屋に、儂を案内せよ」
三つ先の、布団部屋に入った
宮ノ前は、殺気に満ちていた
「あんたは、誰、殺すよ」
「止めておけ、お前も、儂の顔を忘れたか、人の事は言えぬがの」
「知らないね、何処の、へっぽこ忍者だい、助けてやるから、もう消えな」
「え~、伊豆で両方の肩を入れてあげたのに、そりゃないよ」
「あっ、お主」
格闘の気配を見せたが、佐助は余裕があった
「止しなよ、おいら相手なら、声をかけられた時じゃなけりゃ、無理なのは、解るだろ、おいらにしても、殺るなら、あんたは、生きてはいない、違うかい」
「話とは、何か」
「うん、宮が誰を狙ってるかは、わかるよ、それを止める心算はないしね、好きにしたら良い、ただ一つ頼みが有るんだ、凄く勝手な頼みが、その前に、宮は、死ねない何かがあるね、だって、あの時ぶつかった時に、ブスッと殺っとけば、良かったのに」
「あやつは、今や押しも押されぬ天下人、そう簡単には、出来ぬと思うて、おったまでの事」
「其では、答えになっておらぬ、恐らく、次は、徳川家康を狙う、家族を守る、外にも傭い先がある、の何れかであろう、時が惜しいのだ、答えを早うに」
「次は、徳川さ、そして、伊達と縁があってね」
「わかったよ、此からの話しは、宮にとっても、仕事がしやすくなると思う、、、」
佐助は、茶々の話しを出会いから全て、宮ノ前に語った
「、、、て訳さ、宮さえ承知ならば、おいら、此から戻って、淀様に話して来るよ
何れにしても、秀吉様のお気に入りが、二人で組んだ方が良いよ、敵が沢山居そうだもの、違うかい」
宮ノ前は、淀の方様が羨ましかった、こんな男に心配されて、そして、佐助の話を聞いて、信じてみようと考えた
何しろ、十造と佐助に、命を助けてもらったのだから
「わかったよ、取り敢えず、昼過ぎから呼ばれたから、上手く籠絡出来てからの、話しだけどさ」
「うん、其なんだけれど、秀吉様は、ああ見えて、女に気を遣って、自分からあれこれ動き回るのさ、まあ、相手が何処ぞの、姫様ばかりだからね、だから、何もさせないで、動いてやると、きっと、喜ぶと思うよ」
「あんたは、覗きもするのかい、意外と悪趣味だね、結構好きなんだ、そういうの」
「違うよ、何時も秀吉様に会いに来ると、いたして居る最中なのさ」
「ふっ、そんなにかい、あんたは、あたしの腕前を、試さなくて良いのかい、ここが丁度いい場所じゃないか」
花の香りが佐助に抱き付いて来た、何とか正気を保てた佐助は、
「わはは、今度にするよ、それよりも、淀の方様に、この話をしにゆかねば
それと、治部様って誰だい」
「何と気が小さいね、誰にもばれなきゃ、良いじゃないか
治部と言えば、今や秀吉の片腕、石田三成だよ、かなりな遣り手だね、そのお陰で、秀吉は淀の方様と、落ち着いて、乳繰り会うことができるって、専らの噂だよ、あ、ごめんよ、言い方が悪かったね、治部が、どうかしたのかい」
「いや、良いんだ、それがなあ、いたして居ったのよ、多分密会だね、あれは」
「ふーん、何かこの大きな城の中は、生臭い奴等ばかりだね、調べてみるよ」
「あ、おいらは、別にそんな事、どうでも良いのさ、茶々いや、淀様に、関係無ければさ」
「佐助、あんた、肝心な事が、わかってないね、淀の方様は、今や、関白秀吉様に継ぐ実力者なんだよ、関係して来るに、決まってんじゃないか」
『ああ、誰かにそっくりと思うていたが、宮ノ前は、むぎに似て居る、きっと悪い奴ではない筈、、、』
佐助は、宮ノ前に、自分と秀吉、家康の関係、そして、真田以外には、特に興味が無い事を話した
「ふーん、わかったよ、出来ればさ、あたしを淀の方様御付きの、中郎になれる様にして」
「わかったよ、必ずそうして貰うから、、、其では頼むよ」
「佐助、約束しな、今度会うたら、必ずあたしを抱くって、でなけりゃこの話しは、御破算だよ」
「え~、わかったよ、今度必ずな
さ、ここを出よう」
宮ノ前と別れて、佐助は、再び、茶々の部屋へと戻って来た
中に気配がする、恐らく秀吉が、訪れて居るのであろう
『いたしてはおらぬな、何しろ秀吉様は、これから、宮ノ前と会うのだから
仕方ない、おいらは、今少しあの布団部屋で、寝ていよう、宮ノ前は、良い場所を教えてくれたわ』
暫くして、佐助は、淀の方様の部屋にいた、とうに昼は過ぎていた
「わかりました、茶々は、佐助の言う通りにします、でも、本当に宮ノ前は、関白様に、気に入られるので有りましょうな」
「そりゃあ、間違い無いさ茶々、おいらが請け負うよ」
「何故、佐助が、宮ノ前の、床の上手さを知っておるのか、その自信は、何処から来るのか、教えて欲しい
第一佐助からは、わらわと違う香りが、漂うておる」
茶々の瞳が、すーッと細くなった、佐助は思わず、背筋が伸びた
「うぐっ、あいつは、くノ一だからして、そう言うただけよ、何もしてはおらぬわ」
「ふん、どうだか、それを証明するまで帰さぬわ」
そう言うと、茶々は、佐助に股がって抱きついた
秀吉は、宮ノ前に、すっかり絡め取られていた
為す術もなく、ただ黙って寝ているだけであった、自分がしたい事、されたい事、全てを実現させてくれた、今までの女子なんぞ、宮ノ前と比べたら、誰もが木偶人形よ、しかも、事が終わっても、きちんと、時間をかけて、始末をつけてくれる
秀吉は珍しく、二回も挑んでしまった
宮ノ前が、与えてくれたあれや、これやを思い出すと、もう当分他の木偶人形は要らぬ、淀(茶々)と宮ノ前だけで、当分良いわ
一方、宮ノ前も、相手を完全に、堕とした事を確信した
「これ、宮ノ前、そなた何か、望みでも有ろうか」
「いいえ、関白様、宮は特には何も、ただ、以前に廊下で、淀の方様とすれ違い、あの方に、お優しい御言葉をかけて頂きました、出来る事ならば、宮は淀の方様の、御面倒を見させて、頂きとう存じます」
「うむ、淀が承知したならば、叶うであろう」
そう言うて、関白様は、少しふらつきながら、寝所を出て行った
二日後、宮ノ前は願い通り、淀の方様の、御付きとなった、それは、淀の方様からも、宮ノ前の名前を、関白に、伝えたからでもあった
佐助が、既に上田に向けて、発った後の事であった
この時期辺りから、関白秀吉は、寝所での動きが活発となり、日を追うごとに、弱り出して来た
やがて、淀の方様の出産、二度の朝鮮出兵、家康の江戸移封等、関白秀吉にとって、豊臣家にとっても、大変な時期を迎える事になった
此により、真田昌幸、信之、信繁を中心とした、真田方三千の兵が北方隊に参加した
真田衆も、当然加わったのだが、十造と佐助は、丸きり別の仕事を与えられた
赤松の巨木が、森の中にあった、幹の途中には、人の大きさ程の瘤がある、その直ぐ上の枝に、人らしき者が隠れていた
シュー ッと、弓矢の風切り音がして、プッと、突き刺さった
カサッと僅に草を踏む音がする、誰かが、この赤松の、木の下へ来ている
茶色い装束の男が、木の上を見上げていた
だが、見上げた途端に、目を剥いて倒れた
首に弓矢が、刺さっていた
その男が最後に目にしたのは、弓矢が刺さった、人形であった
直ぐ側の藪から草を纏った人が現れた、十造である、十造は直ぐに、地面に伏せた、 同時に木の瘤から、弓矢が飛んで行った
木の瘤が動いて、下へ降りて来た、佐助である
「三人居たら不味かったね」
「おう、人数がわかっておったからの
正直、お前が狙った奴は、何処に潜んでおったか、わからんかった」
「奴は、道具が吹き矢だったから、仕留められたよ、弓なら、どうかな、危なかったかな」
十造と佐助は、伊豆の山深くに、風魔の忍を待ち伏せしていた
豊臣秀吉は、従わぬ北条の小田原城を、大群で取り囲んでいた、北条方は、籠城戦に出ていた、北条も中々手強い、そして、取り囲む方々の、武将達へも、切り崩しの工作や、調略を図っていた
それらの、伝令には、風魔の忍衆を使っていた、風魔衆は、主な仕事先は北条であった
地の利もあれば、団結力もある、おそらく、厄介な仕事になろう
十造は、徳川家康から、真田昌幸宛の書状により、応援を頼まれ、これを引き受けたのだった
家康の依頼でなければ、断る仕事であったろうに
小田原に着いた十造は、三郎に問うた
「三郎、何故徳川方が、この仕事を、しているのだ」
「はあ、この先の、関東経営を鑑みますれば、服部様の支配下を、嫌うのであれば、他の武将に付きましょう、ならば今の内に、、、と
それに、あの風魔でさえ、残れないとなれば、徳川に与する忍も増えましょう
風魔が、越後や、毛利あるいは、新興の伊達に、行く位ならば、北条と供に、消えて貰います」
「三郎その伝で行くと、真田も危ういではないか」
「勿論です、但し、服部様が申しますには、真田衆を倒したとしても、打ち損じに、十造、佐助、どちらかが残れば、家康様が居なくなる、ましてや、二人残れば最悪だと、、、」
十造は、そんなやり取りを、三郎と交わして
から、伊豆の山中へ、佐助と入って来たのだった
「父ちゃん、この山には、さっきの二人を除いて、まだ三人、四人は居そうだね、焚き火痕と足跡を見つけたよ、どうするの」
佐助の、義理の父親となった、十造は、佐助に「父ちゃん」と軽く呼ばれていた
楠の根元で、二人は、休みながら、次の手立てを考える
「父ちゃん、おいら、糞してくる」
「おう、では、飯にするか、火を焚いて待っておるわ、養生丸しかないゆえ、何か探してこい」
「はいよ」
佐助は、茂みの中へ姿を消した、闘いが始まっていた、既に囲まれて居るようだ
十造は、極小さな火をおこした、背負ってきた道具箱から、丸い塊を取り出し、それを火に炙り出した
忽ちの内に、辺り一面白い煙幕に包まれた
もう一つ、丸い玉に火を着けた、敵の居そうな所に、大体の見当を付けて投げた、藪の中に入り込んだ玉は、ボンと鈍い音を発して、辺りが黄色い煙に覆われた、硫黄の毒煙である、吸うと咳が止まらなくなり、その場で吸い続けると死ぬ
十造が焚いた、煙幕の中心を目掛けて、弓矢が二本、別々の方から飛んで来て、楠の幹へ突き刺さった
その場には、十造は既に、いなかった
素早く楠の、後ろへ回り、藪の中へ身を隠す、
石弓に矢をつがえ、静かに呼吸を整える
相手はどうせ、咳をしている、居た、一人は見つけた、飛んで来た、矢の方向からして、あっている、だが、少なくとも後一人、いた、あの大きな杉の倒木の影だ
その時「ピーピピ、ピーピピ」と鳥が短く鳴いた、佐助が、敵を倒した合図だ、十造はすかさず、最初に見つけた、敵に向け矢を放つ
と、直ぐにそこを離れ、楠に戻った
カンと乾いた音がする、道具箱に矢が刺さっている、十造の放った矢は、相手を、手負いにさせただけであったのだ、だが、奴は死ぬ、毒矢に当たったのだから
問題は、倒木の影に居る相手だ、その時声がした
「父ちゃん、終ったよ、今出て行くよ」
佐助が、血だらけになって、出て来た
「佐助、大丈夫か、随分と、手こずった様だの」
「うん、格闘にはならんかったけど、手こずったよ
四人だったね、正面から、喉を掻き切ったから、返り血を浴びちまった
さっき水が、流れてた、洗って来るね」
佐助の無事を確かめてから、十造は、手負いとなった、相手を探して、矢が飛んで来た方向へ歩き出した
少し行くと、樹間を、伝い歩きしながら、よろよろと動く茶色い塊を見つけた、後を付けても無駄な位に、毒が回った様だ、十造は、背後から近付き、優しく声をかける
「おお、無事であったか、探したぞ、さあ帰ろうではないか、儂は、先程の煙に喉をやられたわ、ゲホ」
「お頭か、其では儂等は、やっつけたのですな」
「ああ、何とかな、お主はその体で、何処へ逃れようと、考えたのだ」
「と、取り敢えず、
し、下小屋まで」
そこまで言うと、其奴は、動かなくなってしまった、毒が回り絶命したのだった
「どう、何か言ってたの」
佐助が戻って、十造に尋ねた
「いや、但し儂を、頭と呼んでいた、佐助、先程の奴等の中に、儂位の歳格好が、おったかの」
「最後の、倒木のとこにおった奴かな、後は皆、おいら位だったような、、、」
「よし、其奴を調べて、引き揚げようぞ」
佐助が仕留めた相手は、俯せになっていた
「父ちゃん、此奴何も持って無いよ、変だね、養生丸も無いし」
「そうだな、きっと直ぐ近くに、物置小屋が有るな、最後の奴は、南西に歩いておった
おそらく、辿り付けると思っておったな
行って見るとするか」
佐助が茂みの中へ消えて行くと、十造も、敵の武器の在処を探しに動きだした
さほど、遠くも無い山の中程に、木の枝や草で偽装した、6畳間程の小屋を見つけた、そこには、弓矢や鉄砲等の、武器が置いてあった
十造は、何かの指示書きや、書状等が無いか、探して回る、すると、意外な物が見つかった、小さな柘植の櫛、女物である
佐助は、十造が入り込んだ小屋を、高い木の上から見ていた、早い話しが、十造は、囮の役目を持っていた、十造が目立つ動きで、敵が近くに来たところを、佐助が仕留めるのだ
先程から、茂みの一つが妙な動きをしている
佐助は、その回りや遠くを探っていた、自分達と同様に、敵も囮を使う事は、考えなければならない
『随分と、慎重に進んで来るね、さては一人だけかな、ここからでは、弓も届かないし、陰になる、第一父ちゃんに、知らせ様も無いな、よしっ』
佐助は、思い切って木から下り、藪に偽装した敵を、仕止めに行く
敵は、入り口正面に構え、弓を用意している
佐助が、小石を拾って小屋の壁にぶつけ、十造に知らせた
佐助の知らせに、気付いた十造は、外の気配を伺う
急ぎ小屋にあった、筵を束ね、入り口の戸を開け、外に投げ出した
「シューッ」と言う音と共に、筵に矢が刺さった
矢が飛んで来た方向を見ると、既に佐助が、敵に組み付いていた
『ん、佐助に何かあつたのか、仕止めが遅い』
佐助は、一瞬怯んだ、飛び懸かる前に、ふわりと、女の匂いを感じた
放った矢が、囮に当たり、二の矢をつがえる前に、のし掛かられた敵は、刃物を出す暇もなく、両腕の動きが止まった
佐助に両方の肩を、外されたのだ
「無理だよ、こんなの、父上におまかせ致します」
「ばかたれ、命をかけて、やる事か」
十造は、敵に情けをかけた、佐助を叱り付けた
佐助は、くノ一に止めを刺せずに、自分でも気が落ち込んでいた
十造がくノ一に話しかけた
「お前も、くノ一ならば、捕まると、どうなるかは、わかろうと言うもの
一つ取引を、しようではないか
儂の問いに答えれば、皆の所には、連れてゆかぬわ、その代わりこの、毒薬を飲ませてやる、直ぐに仲間の所へ行けるが、どうするか、お前位の若さなら、皆喜んで三日三晩、楽しまれるぞ」
「な、何を知りたい」
「簡単な事よ、仲間は、此で全部か、もし、全部ならば、最早お前の仲間は、居らぬ、従って裏切りでもない、返事は」
「う、此で全て、早う毒薬を、、、」
十造は、小さな丸薬を一つ、くノ一の口の中へ、入れてやった
「少しすると、朦朧となり、自分がわからなく成る、去らばだ」
くノ一が、痙攣し、涎を滴し、目の焦点が、合わなくなっている
「佐助、此奴を小屋まで運び、肩を入れてやれ、引き揚げる」
佐助が十造に、言われた通りにすると、最後に、十造は、くノ一の懐に、小屋にあった柘植の櫛を入れた
十造と佐助、二人は不覚にも、くノ一を女として、見てしまい、自らの手で、殺すに至らなかった
「父ちゃん、あれ、何の薬、毒薬ではないよね、おいらに外された肩を、もっかい入れさせたのだから」
「あれは、はしりどころ、と言うて、ほら此よ、山なら、そこら中に生えておるわ、此奴を料理しても、しなくとも、食すると目眩、幻覚、意識が朦朧となるわ、ただ、死にはせぬ」
「ふーん、おいらが飛びかかった時に、一瞬女の香りがして、躊躇ったのさ、其をも武器にしてたら、おいら死んでたね」
おそらく佐助は、瞬間そこに、自分の嫁である、波瑠を見てしまった
十造は、小屋に有った柘植の櫛と、此奴が最後の、風魔の忍との思いに、情けを覚え、殺す事が出来なかった
『儂も歳を取ったものよ、下らん感傷で、仲間もろとも、死する所であったわ』
「佐助、小田原に戻ったら、儂は、三郎と話しが有る、城でも見てこい」
十造の言う、城というのは、小田原城ではなく、それが見える様に作った、秀吉の城の事であった
秀吉は、そこに諸大名を集め、宴の毎日だとか、恐らく籠城している北条方に、時代は既に豊臣秀吉だと、見せつけ、ついでに参集した大名達へも、それを知らしめたい思惑もあった
外で鳥が鳴いて居る、朝なのだろうか、外にいた筈なのに、小屋の中に寝ていた
外された両方の肩も、何故か、戻っている
起き上がると、未だ目眩がして、上手く動けない、そう、確か毒薬を飲んで、死んだ筈なのに、、、
風魔のくノ一、「宮」は、佐助に両方の肩を外され、十造に毒薬を飲まされ、死んだ筈であった
動ける様になるまで、今少し時が必要である
宮は寝ながら、考えていた、仲間は埋めない、その代わりに、風魔の最後の忍として、滅ぼした者に、思い知らせてやる、止めを差さなかった、あの二人は、きっと、後悔する事になろう
半時後に、身体が元に戻って、動ける様になった、宮は西を目指して歩き出した
佐助は、およそ、自分の趣味とは、かけ離れ、全てが派手な城内の、一番派手な場所を、探して回っていた
『わかりやすくて、いいけどね、其にどうせ音や声で、、、』
カタカタと、振動している部屋を見つけ、佐助は、ここだと確信した
金色に輝く部屋へ忍び込む、そこも、金色に輝く屏風で、仕切られていた
屏風の手前は、酒器や繕が、並べられていた
『頂きまする、其にしても、椀の中、盃の中身が、勢い良く揺れてるね、凄い凄い、なんじゃこりゃ金の箸って』
佐助は、部屋の振動を感じながら、豪華な食事を始めた
カタ、カタ、カタ、カタ、カタ、カタ
「ううー、むーむー、ウウー、ふーー」
最後の大揺れと共に、あれや、これやと、物音がし出した
秀吉と女が、着崩れて襦袢一つで、屏風の向こうから現れた
「ヒー、イヤ」
女が屏風の陰へ、隠れようとするのを、秀吉が連れ戻した
「なんじゃ、来ておったか佐助、どうじゃ、良きおなごであろう、ちや姫よ、おっと、最も先程、姫ではのうなったがの、ほれ、今さら恥じらう必要もなかろう、儂の隣に来るのじゃ、早うせい」
「えーなんじゃはないでしよ、秀吉様がこんな事している間に、風魔を片付けてやったのにさ」
「おお、お前の仕事であったか、知らせは来ておるが、、、褒美なら駿河(家康)に言うのが、筋ではないのか」
秀吉は、隣に座らせた、ちや、と呼ばれる女の裾の間に手を入れながら、話をする
「あ、やっぱりね、まさか風魔の方に給金は、出てないよね」
「お前とお前の親方を、仕止めたのなら、幾らでも出すわい
しかし、前払いは、誓って、しては居らぬ、命が惜しいでの」
「そうだよね、もうこの国の殆どを、手に入れたものね」
「未だ安心出来ぬわ、こうして、どんなに守っていても、何時でも入り込む者がおるからの、安心して馬鍬う事も、出来ぬわ」
「えー、見られるのが好きなんじゃないの、知らないけど」
「わはははは、今度、聚楽第や大阪城に来るが良い、たっぷりと見せてやる」
「ご馳走様、そうだよね、そうするよ、あ、今日は暇潰しに来ただけだから、それじゃ、続きをどおぞ」
十造は、三郎と会い、風魔の始末を伝えた
くノ一の事は、何も言わなかった
「三郎、其よりも、父上の様子はどうなのだ」
「はあ、大事を取って、既に仕事からは手を引きました、諜報は、今や、全て服部様の元に集める様に、成りました」
「ほう、時代と言う事かの、のう、三郎この先暫く、豊臣の世に成ろう、儂は、当分の間薬屋で、暮らそうと思うのだが、そうして、実家に楓が居れば、千代様も、心強いと思うのだが」
「何を言われます、楓が承知せぬばかりか、母千代も、首を縦に振るわけが有りませぬ
心配無用、兄達もおります故、十造殿の、思う通り楓と共に、上田で過ごされよ
儂も思うて居った、最後の争いが、絶対に有る筈、其までは、動かなくとも良いのでは、、、」
「のう、三郎、頼みが有るのだ、お前も知っての通り、真田は豊臣と徳川に、別れてしもうた、此までのしがらみから言うても、儂は信之様へ、そして、佐助は、大殿昌幸様と信繁様方に成ろう、この先、佐助に何かあったならば、宜しく頼みたいのだ」
「お任せあれ、何しろ十造殿が言うた通り、あやつは、稀代の人たらし、我が家康様相手でさえ、遠慮無う口をきく奴、服部様でさえ、恐れております、そして、何と言うても、家康様のお気に入り、
如何様にもなりましょう、安心なされよ、波瑠が、悲しむ事等させませぬわ」
「済まぬの、波瑠もそうなのだが、儂と楓にとっても、佐助は、掛替えの無い奴なのだ、どおか宜しく頼む」
「わはは、矢張、あやつは、稀代の人たらし、佐助に何かあったならば、儂の立場が危うくなりましょう」
十造と佐助は、三郎に別れを告げて、家族が待つ、上田へと引き揚げて行った
十造は、主に真田信之の仕事を中心とした、連絡役となっていた
佐助は、真田の大殿昌幸と次男信繁が、秀吉側近の家と縁戚の為、京、大阪方面の仕事が、増えていった、佐助は、一緒になったばかりの、波瑠に会いたいが為に、仕事に出ても、何処にもよらず、直ぐに上田へ帰って来ていた
とにもかくにも、波瑠と共に居たかった
従って、秀吉にも会っては居らぬし、大阪城や聚楽第を見ても、関心を持たなかった
豊臣秀吉が、寵愛して止まない側室、淀の方様は、嫁いでからと言うもの、日を追うごとに、機嫌が悪くなってしまった、最初の子が生まれ、幼くして亡くなった後は、益々笑顔が消えて行った
秀吉は、此を不憫に思い、益々溺愛の度を、深めて行った
今日も、控えの間に居ると、遠くから秀吉の大きな声が、聞こえて来た
「淀はおるか、わはははは、まさか、寝込んではおるまいの」
ガラリと襖を開けて、派手な身なりの小男が入って来た
「お帰りなさいませ」
「おう、どうじゃ、未だ機嫌は、優れぬのか」
「申し訳ござりませぬ、其でも、日々少しずつ、ようなっておりまする」
「おお、そうか、大事にせねばのう
所で、乳は未だ出て居るのか」
秀吉は遠慮無く、懐に手を入れてくる
「あれ、ご無体な、お止め下さいまし、恥ずかしゅうございます
こんな昼日中から、、、」
淀の方様は、秀吉は恥じらう程に、燃えるのを知っていた
「おお、手を濡らす程に出て居るのか、どれ、棄てるのは惜しい、其ならば儂が飲むわい」
秀吉は、淀の方様の、乳を飲みだした
『ほっ、さあ、たんと飲みなされ、もっとなめ回しなされ
そして、わらわを抱けずに、何処かの人質とでも、思いを遂げるが良い』
「お止め下さいませ、ほんに、恥ずかしゅう、、、」
「ふっ、淀よ、甘露であるな、どれ、もう片方も、、、」
淀の方様が、思うた通り秀吉は、其以上の発露を探して、部屋を出て行った
部屋の中には、淀様と、白い百合の花が残された
佐助は、広い大阪城内を、見て回っていた
『ふーん、相変わらずだね、こんな馬鹿でかい家、いらぬでしょ
かえって、忍び易い事よ、あー、でも何処に居るか、探すの大変だよね、暇潰しに丁度良いけどね』
佐助は、土産話を、上田の皆にしてやろうと、大阪城に来ていた
『まあでも、秀吉様のことだから、派手な場所を探せば、そこであろう
げっ、儂が甘かったわい、この階は、どこもかしこも派手な事よ』
だが、直ぐに佐助が聞く、何時もの音と、声が聞こえて来た
『え、ここぉ、なんというか、派手さが無いね、らしくないよ、ま、良いや、どれ』
秀吉ならば、もっと派手な筈だが、そう思いながら、襖を開けて覗くと
「治部殿、治部殿、おお、おお、その様に激しく、、、」
『いけね、矢張違うたか、外を探さねば、
にしても、治部って誰なんだろうね
確かに、勢いが激しいよね、秀吉様はもう少しこう、、、ま、良いや、あったよ、あれだろう、桃色に金の襖、きっとそうだよね』
そこは意外と、こじんまりとした、部屋であった、中には、女が一人居た
文机に向かい、足袋も履かずに、正座をし、て書を読んでいる女がいた
その後ろ姿はあまりにも、淋しく、悲しそうであった
佐助は、危険も顧みずに、部屋に入り込み、その後ろ姿を、そっと抱き締めた
女は、佐助が首の後ろから回した腕にそっと手を添え、佐助に身体を預けた
「何しに来たの、折角忘れていたと言うのに、酷い事をしないで、、、う、う、う、うっ、馬鹿、馬鹿、もっと、きつく抱き締めて」
茶々が泣いていた、秀吉の元に行ったのだから、いつか、再会するとは思っていた、其でも、こんなに淋しくしているとは、考えても居なかった
まだ秀吉に、組み敷かれて、悶えていたのなら、諦めや割りきりも出来るのだが、こんな姿を見てしまったなら、抱き締めずにはいられない
「茶々、泣き止んだかい、すっかり、美しくなったな、お前」
「うるさい、もっと強うわらわを抱き締めよ、嬉しい、、、佐助」
「でも、茶々がここに居るとはね、凄いね、ここは、てっきり淀の方様の所だと思ったよ」
「うふふ、佐助、わらわが淀じゃ」
「えー、茶々がそうだったの、知らんかった、其にしても、何故このように淋しそうなのだ、儂と別れた時よりも、、、
欲しい物なら、何でも、手に入れられよう程に」
「入らないよ、一番欲しいのは、佐助だよ、ほら入らないよ、既に人の物だし、解るの、言わなくとも、鬢の付根を、剃ってくれる人が居られる、そんなお人は、一人だけ、違いますか」
二人共に無邪気に抱きおうた、あの時から、随分と時が過ぎた、茶々が、以前の様に佐助に股がり抱きついてきた
「佐助、ここは、わらわの籠の中、勝手に来た佐助が悪い、茶々が良いと言うまで、帰しませぬ」
綺麗に化粧をして、良い薫りがする顔が、佐助に近付いて来る
茶々が話してくれた
「佐助、あれから、妹達も引き取られて、私は、秀吉様の物になったわ、最初は、この人に尽くそうと、心に決めて、初めての夜、抱かれた時に、いろいろな事をされて、声を我慢するのが大変だったの、佐助とだったら、何時までも続いて欲しいけど、そして、やっと終わりが近付いて来たときに、市って言いながら果てたの、、、市、市って」
佐助は言葉が無かった、本当に抱きたかったのは、茶々ではなく、お市様で、茶々はその身代わりと言うことか
裏返すと、秀吉は、相当お市が、好きであったのだろう
しかも、偶然かどうかわからぬが、市の嫁いだ先は、秀吉が亭主諸とも滅ぼした、浅井と柴田である
しかし、茶々には、絶対に、通じないであろう、よりによって、最中に毎度、母親の名前を呼ばれるのだ
子供が出来て、正室北の政所や、数多の側室も無し得なかった事に、疑惑をもたれ、その子も亡くなった
悲しくも成る、秀吉の寵愛を、受ければ受ける程に、周りから疎まれるのだ
佐助は、来た時と同じく、優しく茶々を抱き締めた
「佐助、茶々は、気が付いたの、秀吉様は茶々をあれこれ弄くって、気持ち良くさせるけど、茶々は、佐助にそっと抱き締められただけで、幸せな気分になれる、其は、誰にも出来ぬ事、そう佐助にしか出来ぬ事」
「のう、茶々おいら未だ、ここに居ても良いのか」
「うん、大丈夫、秀吉様なら、評議か、女を抱いて居るから」
「あはは、元気がよいの、茶々、何故足袋を履かぬのか、冷たくなっておるではないか」
佐助は、茶々の裸足なのを嗜め、手で温める、茶々が、ぼろぼろと涙を溢す、両方の手で顔を覆って、何とか
声を押さえて、泣いている
「茶々、また来るよ」
「待って佐助、口づけしてから、お願い、元気になるから」
佐助は、茶々と別れて城内を見て回る
上田を立つ時に言われた、むぎの言葉を思い出した
「佐助、あんたは男だから、外へ出たなら、違う女を抱く時も有るさ、でも、変なのを相手にするんじゃないよ、家に持ち込んで、波瑠を泣かすんじゃないよ、わかったね」
笑いながら、聞いていたが、むぎは、やはり鋭い、男女の裏を知りつくしている
「佐助、あたしの言った通りだろ、気をつけな」
そんな声が聞こえた様な気がする
佐助は、無性に波瑠に会いたくなって、城の探索を切り上げ、上田に帰る事にした
秀吉は、執務を取っていた、各書状の確認やら、返信等大方片付け
「治部は、居るのか、後は良きに」
近習が来て、書状の類いを持って、引き下がった
「殿、広間に九州からの使者が参っておりまする」
「む、では参ろう」
部屋を出て、広間に向かう廊下の途中、突然角から、何かが秀吉にぶつかり、思わず此を受け止めた
「きゃっ、あれ、お、お許しを、どうか、お許し下さいませ」
女、、、女中であった
途端に近習が色めきだった
「無礼な、殿に対して、なんたる振る舞いか、そこに直れ、直らぬか」
ぶつかった相手は、慌てて廊下に、ぬか付いた
「まあ良い、急いで居ったのであろう、許す、その方名前は」
「み、南の方、さ、様にお仕え致しております、み、宮ノ前と申します」
秀吉の前に、雨に濡れた子犬の様に、ぶるぶると震えながら、ようやく名乗った
秀吉は、全てが気に入った、ぶつかった時の柔かな感触、何より此までに、嗅いだ事のない、花の香りが、頭の奥に残った
この、一通りの出来事を、じっと遠くで、見ている者がいた
佐助は、城から抜け出そうと、見物がてら歩き回っていて、偶さか此を見た
『はて、秀吉様ご一行は良しとして、あの女、何処かで、、、う~む、誰であったか、つい最近の様な、おお、そうか、、、』
佐助は暫く、物陰で考えに耽った
そして、考えが纏まると、宮ノ前が引っ込んだ部屋を、見張り出した
その部屋は、何人かが詰めて居る、女中部屋の様なものと見えた
佐助は、宮ノ前が出て来るのを、じっと待っていた、暫くすると、先程、秀吉に付いていた近習が一人、この部屋の前に来て、年寄り株を呼びつけ、何かを話していた
『やったね、宮ノ前、思い通りだよ、でもね、おいらは、全部見てたよ』
宮ノ前が出て来た、佐助は後を追った
「宮ノ前、殿がお呼びじゃ」
宮ノ前は、歩みを止めて、振り返ったのだが、、、
「ふっ、どの様に、動けば良いのか、解らぬであろうな、何処か話を出来る部屋に、儂を案内せよ」
三つ先の、布団部屋に入った
宮ノ前は、殺気に満ちていた
「あんたは、誰、殺すよ」
「止めておけ、お前も、儂の顔を忘れたか、人の事は言えぬがの」
「知らないね、何処の、へっぽこ忍者だい、助けてやるから、もう消えな」
「え~、伊豆で両方の肩を入れてあげたのに、そりゃないよ」
「あっ、お主」
格闘の気配を見せたが、佐助は余裕があった
「止しなよ、おいら相手なら、声をかけられた時じゃなけりゃ、無理なのは、解るだろ、おいらにしても、殺るなら、あんたは、生きてはいない、違うかい」
「話とは、何か」
「うん、宮が誰を狙ってるかは、わかるよ、それを止める心算はないしね、好きにしたら良い、ただ一つ頼みが有るんだ、凄く勝手な頼みが、その前に、宮は、死ねない何かがあるね、だって、あの時ぶつかった時に、ブスッと殺っとけば、良かったのに」
「あやつは、今や押しも押されぬ天下人、そう簡単には、出来ぬと思うて、おったまでの事」
「其では、答えになっておらぬ、恐らく、次は、徳川家康を狙う、家族を守る、外にも傭い先がある、の何れかであろう、時が惜しいのだ、答えを早うに」
「次は、徳川さ、そして、伊達と縁があってね」
「わかったよ、此からの話しは、宮にとっても、仕事がしやすくなると思う、、、」
佐助は、茶々の話しを出会いから全て、宮ノ前に語った
「、、、て訳さ、宮さえ承知ならば、おいら、此から戻って、淀様に話して来るよ
何れにしても、秀吉様のお気に入りが、二人で組んだ方が良いよ、敵が沢山居そうだもの、違うかい」
宮ノ前は、淀の方様が羨ましかった、こんな男に心配されて、そして、佐助の話を聞いて、信じてみようと考えた
何しろ、十造と佐助に、命を助けてもらったのだから
「わかったよ、取り敢えず、昼過ぎから呼ばれたから、上手く籠絡出来てからの、話しだけどさ」
「うん、其なんだけれど、秀吉様は、ああ見えて、女に気を遣って、自分からあれこれ動き回るのさ、まあ、相手が何処ぞの、姫様ばかりだからね、だから、何もさせないで、動いてやると、きっと、喜ぶと思うよ」
「あんたは、覗きもするのかい、意外と悪趣味だね、結構好きなんだ、そういうの」
「違うよ、何時も秀吉様に会いに来ると、いたして居る最中なのさ」
「ふっ、そんなにかい、あんたは、あたしの腕前を、試さなくて良いのかい、ここが丁度いい場所じゃないか」
花の香りが佐助に抱き付いて来た、何とか正気を保てた佐助は、
「わはは、今度にするよ、それよりも、淀の方様に、この話をしにゆかねば
それと、治部様って誰だい」
「何と気が小さいね、誰にもばれなきゃ、良いじゃないか
治部と言えば、今や秀吉の片腕、石田三成だよ、かなりな遣り手だね、そのお陰で、秀吉は淀の方様と、落ち着いて、乳繰り会うことができるって、専らの噂だよ、あ、ごめんよ、言い方が悪かったね、治部が、どうかしたのかい」
「いや、良いんだ、それがなあ、いたして居ったのよ、多分密会だね、あれは」
「ふーん、何かこの大きな城の中は、生臭い奴等ばかりだね、調べてみるよ」
「あ、おいらは、別にそんな事、どうでも良いのさ、茶々いや、淀様に、関係無ければさ」
「佐助、あんた、肝心な事が、わかってないね、淀の方様は、今や、関白秀吉様に継ぐ実力者なんだよ、関係して来るに、決まってんじゃないか」
『ああ、誰かにそっくりと思うていたが、宮ノ前は、むぎに似て居る、きっと悪い奴ではない筈、、、』
佐助は、宮ノ前に、自分と秀吉、家康の関係、そして、真田以外には、特に興味が無い事を話した
「ふーん、わかったよ、出来ればさ、あたしを淀の方様御付きの、中郎になれる様にして」
「わかったよ、必ずそうして貰うから、、、其では頼むよ」
「佐助、約束しな、今度会うたら、必ずあたしを抱くって、でなけりゃこの話しは、御破算だよ」
「え~、わかったよ、今度必ずな
さ、ここを出よう」
宮ノ前と別れて、佐助は、再び、茶々の部屋へと戻って来た
中に気配がする、恐らく秀吉が、訪れて居るのであろう
『いたしてはおらぬな、何しろ秀吉様は、これから、宮ノ前と会うのだから
仕方ない、おいらは、今少しあの布団部屋で、寝ていよう、宮ノ前は、良い場所を教えてくれたわ』
暫くして、佐助は、淀の方様の部屋にいた、とうに昼は過ぎていた
「わかりました、茶々は、佐助の言う通りにします、でも、本当に宮ノ前は、関白様に、気に入られるので有りましょうな」
「そりゃあ、間違い無いさ茶々、おいらが請け負うよ」
「何故、佐助が、宮ノ前の、床の上手さを知っておるのか、その自信は、何処から来るのか、教えて欲しい
第一佐助からは、わらわと違う香りが、漂うておる」
茶々の瞳が、すーッと細くなった、佐助は思わず、背筋が伸びた
「うぐっ、あいつは、くノ一だからして、そう言うただけよ、何もしてはおらぬわ」
「ふん、どうだか、それを証明するまで帰さぬわ」
そう言うと、茶々は、佐助に股がって抱きついた
秀吉は、宮ノ前に、すっかり絡め取られていた
為す術もなく、ただ黙って寝ているだけであった、自分がしたい事、されたい事、全てを実現させてくれた、今までの女子なんぞ、宮ノ前と比べたら、誰もが木偶人形よ、しかも、事が終わっても、きちんと、時間をかけて、始末をつけてくれる
秀吉は珍しく、二回も挑んでしまった
宮ノ前が、与えてくれたあれや、これやを思い出すと、もう当分他の木偶人形は要らぬ、淀(茶々)と宮ノ前だけで、当分良いわ
一方、宮ノ前も、相手を完全に、堕とした事を確信した
「これ、宮ノ前、そなた何か、望みでも有ろうか」
「いいえ、関白様、宮は特には何も、ただ、以前に廊下で、淀の方様とすれ違い、あの方に、お優しい御言葉をかけて頂きました、出来る事ならば、宮は淀の方様の、御面倒を見させて、頂きとう存じます」
「うむ、淀が承知したならば、叶うであろう」
そう言うて、関白様は、少しふらつきながら、寝所を出て行った
二日後、宮ノ前は願い通り、淀の方様の、御付きとなった、それは、淀の方様からも、宮ノ前の名前を、関白に、伝えたからでもあった
佐助が、既に上田に向けて、発った後の事であった
この時期辺りから、関白秀吉は、寝所での動きが活発となり、日を追うごとに、弱り出して来た
やがて、淀の方様の出産、二度の朝鮮出兵、家康の江戸移封等、関白秀吉にとって、豊臣家にとっても、大変な時期を迎える事になった
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