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四月一九日(土)
新作お披露目会にて他の保有者の人に会う
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穏円さんのカウンセリングの二日後、自分は最寄りの東妙木から三駅の妙木ヶ丘という駅の近くにいた。
今日は穏円さんが仲間に新作ゲームを発表する日だ。
駅から歩いて二分のところにある「マグノリア」という喫茶店? に入る。
クエスチョンマークを付けたのは、この店が一体何なのか自分には判断がつかないからだ。
一般のお客さんも受け入れているけど、穏円さんが参加しているゲーム仲間の集まりによく使われている。
オーナーが穏円さんのゲーム仲間で、集まりのために店を使わせてくれているのだ。
「いらっしゃいませ。有触さん、穏円さんはもういらしていますよ」
丁寧に挨拶してくれたのが「マスター」ことこの店のオーナーの蓮林さんだ。
「じゃ、奥へ行ってます」
そう答えて店の奥にある個室へと向かう。
この個室こそがゲーム仲間の集まる場所だ。
「こんにちはー、失礼します」
中には穏円さんを含めて三名が待っていた。
個室はパーティーなどにも使えるスペースで、ニ〇人くらいが入る。
この集まりは最大で一二、三人だから、スペースにも余裕がある。
「有触さんだな、待ってたぞ。今回はテストプレイ組が進行役になるからよろしく」
そう声をかけてくれたのはテストプレイの場所を提供してくれた東神さんだ。
サワジュンさんは到着していないが今日は二組に分かれて遊ぶそうなので、テストプレイ参加組が三人いれば問題ないだろう。
「こんちわー」
「よろしくお願いします」
続々と部屋に今日の参加者が到着する。
殆ど知った顔なのだが、名前や何をしているかを知らない人が半分くらいいる。
それでもお互いが馴染めてしまうのがこの集まりのいいところだ。
最初自分が穏円さんの紹介で参加したときも大丈夫かなと思ったのだけど、皆よくしてくれた。
メンバー全員が楽しめることを重視して、他のメンバーとうまく接することができない人はその後参加させないようにしているらしい。
基本的に現在参加しているメンバーの誰かからの紹介がないと入れない集まりなので、下手な人を紹介できない。
穏円さんが紹介してくれたのだから、自分としては彼を裏切るわけにはいかない。
「今日はお集まりいただきありがとうございます。僕が作ったゲームをお披露目したいと思います。楽しんでください」
穏円さんのあいさつで、ふたつのグループに別れてゲームの説明が始まる。
今日の参加者はテストプレイ組の四人を含めて全部で九名。
穏円さんによればゲームは三人から七人用とのことだったので、四人と五人のグループに分けた。
自分は東神さんのいる五人のグループに入ることになった。
穏円さんとサワジュンさんが四人のグループに入る。
ニ〇分ほどでゲームの説明を終えて、最初のプレイが開始された。
今回、自分が穏円さんと別のグループになったのは、穏円さんからそのように頼まれたからだ。
今日の参加者の中には穏円さん、東神さん以外にもう一人保護対象の保有者がいる。
幸か不幸か今まで自分と顔を合わせたことはないけど、時々集まりには参加しているらしい。
柳河さんという人で、友人が運営しているクラフトビールの醸造所を手伝っている。
保利や来馬から名前が出たことがある醸造所なので、クラフトビール好きには知られているのだろう。
土日が休みとは限らない仕事なので、柳河さんは土日の集まりへの出席率が低めになるのだそうだ。
「柳河さんって会ったことないかな? 時々参加している保有者の人がいるのだけど、有触さんは今回彼が参加するグループに入ってほしいんだ」
昨日の何回目かの連絡のときに穏円さんがそう頼んできた。
柳河さんの名前は聞いたことがあったけど、会ったことはなかったのでそう伝えた。
柳河さんのグループに入ることについては了承した。断る理由がないからだ。
それに他の保有者と接しておくことは気質保護員として勉強になる。
「島にある塔からの脱出ですか……こういう場所からは早く逃げ出したいものですね」
柳河さんは恰幅の良い人だが、どこかちょっと顔色が悪いように見える。
ゲーム開始前にスマホでどこかと連絡を取っていたようだが、話の内容から担当気質保護員への連絡だと思われた。
詳しいことはわからないが、担当気質保護員は最低限の仕事はしているのだろう。
「逃げるのも大事なんだが、最初は敵を叩くのも大事だからな」
東神さんがカードを一枚出して構えた。ダイスを振るためだ。
「最初から気合入っているなぁ」
「マスター、遊んでいるとわかりますけど気合入りますよ。敵を叩くのは特に気合入るんだ、これが」
東神さんは絶好調のようだ。
マスターも気合が入っているようで、ダイスを握る手に力が入っている。
柳河さんの様子を見てみる。
あまり言葉を発さない人だが、楽しんでいるようには見える。
年は穏円さんより七つか八つ上と聞いており、マスターよりちょっと下らしい。
柳河さんとマスターは昔からの知り合いで、この集まりを立ち上げたメンバーなのだそうだ。
「なるほど……これは皮肉がきいています……実にいいです」
柳河さんがつぶやいた。
「ですよね。穏円さんらしい良い表現だと思います。柳河さんもガツンと行っちゃいましょう」
「ふふ……やりますか」
マスターが煽って柳河さんが敵を痛めつける。
倒すというよりダメージを与えてしばらく動けなくするという攻撃だが、これは後でじわじわ効いてくるはずだ。
二回目までのプレイが終了し、うちのグループは一回目がプレーヤー側の成功、二回目が失敗に終わった。
これには一回目を少し難易度を下げた設定にして、二回目で本来の難易度にしたことの影響もあると思う。
ここで一回休憩を入れる。
マスターが注文を取って飲み物を準備し始めた。
場所代とツードリンクプラスおやつ代は本日の会費に含まれているのだ。
「ふぅ、これだけ攻撃できる材料があれば、私も病むことなかったと思いますけど」
マスターが厨房に入ったところで、柳河さんが大きなため息をついた。
「柳河さんの話でしかわからないですけど、あれはちょっとひどかったですね」
ヤスさんというメンバーがうなずいている。
「ヤス」と呼ばれているが姓名に「ヤス」と読める文字は一文字も入っていないそうだ。
何度も顔を合わせているが、実は自分も彼の本名を知らない。
難しい名前らしくって、聞いても簡単に覚えられないし読めないので本名を教えるのが面倒らしい。
強面の人なのだけど、話すと優しい感じの人なので何となく「ヤスさん」というのはしっくりくる。
「有触さんは初めてでしたね? 何のことかわからないかもしれないけど……」
「確かに柳河さんとは初めてだったな。俺から説明しようか?」
話しにくいことなのか柳河さんに代わって東神さんが柳河さんの事情を説明しようした。
何となく予想はついているが、保有者の話を聞くのは自分のような気質保護員にとっては大事なことだ。
「いや、私がやります」
柳河さんが東神さんを遮って自ら説明を始めた。
「私はですね、保有者の仕事をする前はシステムの仕事をしていたのですが、この通りあまり人と話すのが得意ではないので……」
人と話すのが苦手という柳河さんだが、話し始めると意外に饒舌だ。
保有者では柳河さんのような人は決して少数派ではないのだけど。
柳河さんの仕事はプロジェクトによって夜勤になったり、昼間の勤務になったりで不規則だったそうだ。
そのため、八年前に体調を崩して入院して以降、体調が優れないときが少なくなかった。
体調が悪い中、苦手としている人とのコミュニケーションを強く求められるプロジェクトに当たってしまった。
今度は精神にダメージを受けてしまい、仕事に行けなくなったのだという。
これも保有者には少なくない話で、性質が穏やかなためか周囲からの攻撃対象になりやすいのだと思う。
国際的に保護が求めらるようになったのも、自分にはわかるような気がする。
今日は穏円さんが仲間に新作ゲームを発表する日だ。
駅から歩いて二分のところにある「マグノリア」という喫茶店? に入る。
クエスチョンマークを付けたのは、この店が一体何なのか自分には判断がつかないからだ。
一般のお客さんも受け入れているけど、穏円さんが参加しているゲーム仲間の集まりによく使われている。
オーナーが穏円さんのゲーム仲間で、集まりのために店を使わせてくれているのだ。
「いらっしゃいませ。有触さん、穏円さんはもういらしていますよ」
丁寧に挨拶してくれたのが「マスター」ことこの店のオーナーの蓮林さんだ。
「じゃ、奥へ行ってます」
そう答えて店の奥にある個室へと向かう。
この個室こそがゲーム仲間の集まる場所だ。
「こんにちはー、失礼します」
中には穏円さんを含めて三名が待っていた。
個室はパーティーなどにも使えるスペースで、ニ〇人くらいが入る。
この集まりは最大で一二、三人だから、スペースにも余裕がある。
「有触さんだな、待ってたぞ。今回はテストプレイ組が進行役になるからよろしく」
そう声をかけてくれたのはテストプレイの場所を提供してくれた東神さんだ。
サワジュンさんは到着していないが今日は二組に分かれて遊ぶそうなので、テストプレイ参加組が三人いれば問題ないだろう。
「こんちわー」
「よろしくお願いします」
続々と部屋に今日の参加者が到着する。
殆ど知った顔なのだが、名前や何をしているかを知らない人が半分くらいいる。
それでもお互いが馴染めてしまうのがこの集まりのいいところだ。
最初自分が穏円さんの紹介で参加したときも大丈夫かなと思ったのだけど、皆よくしてくれた。
メンバー全員が楽しめることを重視して、他のメンバーとうまく接することができない人はその後参加させないようにしているらしい。
基本的に現在参加しているメンバーの誰かからの紹介がないと入れない集まりなので、下手な人を紹介できない。
穏円さんが紹介してくれたのだから、自分としては彼を裏切るわけにはいかない。
「今日はお集まりいただきありがとうございます。僕が作ったゲームをお披露目したいと思います。楽しんでください」
穏円さんのあいさつで、ふたつのグループに別れてゲームの説明が始まる。
今日の参加者はテストプレイ組の四人を含めて全部で九名。
穏円さんによればゲームは三人から七人用とのことだったので、四人と五人のグループに分けた。
自分は東神さんのいる五人のグループに入ることになった。
穏円さんとサワジュンさんが四人のグループに入る。
ニ〇分ほどでゲームの説明を終えて、最初のプレイが開始された。
今回、自分が穏円さんと別のグループになったのは、穏円さんからそのように頼まれたからだ。
今日の参加者の中には穏円さん、東神さん以外にもう一人保護対象の保有者がいる。
幸か不幸か今まで自分と顔を合わせたことはないけど、時々集まりには参加しているらしい。
柳河さんという人で、友人が運営しているクラフトビールの醸造所を手伝っている。
保利や来馬から名前が出たことがある醸造所なので、クラフトビール好きには知られているのだろう。
土日が休みとは限らない仕事なので、柳河さんは土日の集まりへの出席率が低めになるのだそうだ。
「柳河さんって会ったことないかな? 時々参加している保有者の人がいるのだけど、有触さんは今回彼が参加するグループに入ってほしいんだ」
昨日の何回目かの連絡のときに穏円さんがそう頼んできた。
柳河さんの名前は聞いたことがあったけど、会ったことはなかったのでそう伝えた。
柳河さんのグループに入ることについては了承した。断る理由がないからだ。
それに他の保有者と接しておくことは気質保護員として勉強になる。
「島にある塔からの脱出ですか……こういう場所からは早く逃げ出したいものですね」
柳河さんは恰幅の良い人だが、どこかちょっと顔色が悪いように見える。
ゲーム開始前にスマホでどこかと連絡を取っていたようだが、話の内容から担当気質保護員への連絡だと思われた。
詳しいことはわからないが、担当気質保護員は最低限の仕事はしているのだろう。
「逃げるのも大事なんだが、最初は敵を叩くのも大事だからな」
東神さんがカードを一枚出して構えた。ダイスを振るためだ。
「最初から気合入っているなぁ」
「マスター、遊んでいるとわかりますけど気合入りますよ。敵を叩くのは特に気合入るんだ、これが」
東神さんは絶好調のようだ。
マスターも気合が入っているようで、ダイスを握る手に力が入っている。
柳河さんの様子を見てみる。
あまり言葉を発さない人だが、楽しんでいるようには見える。
年は穏円さんより七つか八つ上と聞いており、マスターよりちょっと下らしい。
柳河さんとマスターは昔からの知り合いで、この集まりを立ち上げたメンバーなのだそうだ。
「なるほど……これは皮肉がきいています……実にいいです」
柳河さんがつぶやいた。
「ですよね。穏円さんらしい良い表現だと思います。柳河さんもガツンと行っちゃいましょう」
「ふふ……やりますか」
マスターが煽って柳河さんが敵を痛めつける。
倒すというよりダメージを与えてしばらく動けなくするという攻撃だが、これは後でじわじわ効いてくるはずだ。
二回目までのプレイが終了し、うちのグループは一回目がプレーヤー側の成功、二回目が失敗に終わった。
これには一回目を少し難易度を下げた設定にして、二回目で本来の難易度にしたことの影響もあると思う。
ここで一回休憩を入れる。
マスターが注文を取って飲み物を準備し始めた。
場所代とツードリンクプラスおやつ代は本日の会費に含まれているのだ。
「ふぅ、これだけ攻撃できる材料があれば、私も病むことなかったと思いますけど」
マスターが厨房に入ったところで、柳河さんが大きなため息をついた。
「柳河さんの話でしかわからないですけど、あれはちょっとひどかったですね」
ヤスさんというメンバーがうなずいている。
「ヤス」と呼ばれているが姓名に「ヤス」と読める文字は一文字も入っていないそうだ。
何度も顔を合わせているが、実は自分も彼の本名を知らない。
難しい名前らしくって、聞いても簡単に覚えられないし読めないので本名を教えるのが面倒らしい。
強面の人なのだけど、話すと優しい感じの人なので何となく「ヤスさん」というのはしっくりくる。
「有触さんは初めてでしたね? 何のことかわからないかもしれないけど……」
「確かに柳河さんとは初めてだったな。俺から説明しようか?」
話しにくいことなのか柳河さんに代わって東神さんが柳河さんの事情を説明しようした。
何となく予想はついているが、保有者の話を聞くのは自分のような気質保護員にとっては大事なことだ。
「いや、私がやります」
柳河さんが東神さんを遮って自ら説明を始めた。
「私はですね、保有者の仕事をする前はシステムの仕事をしていたのですが、この通りあまり人と話すのが得意ではないので……」
人と話すのが苦手という柳河さんだが、話し始めると意外に饒舌だ。
保有者では柳河さんのような人は決して少数派ではないのだけど。
柳河さんの仕事はプロジェクトによって夜勤になったり、昼間の勤務になったりで不規則だったそうだ。
そのため、八年前に体調を崩して入院して以降、体調が優れないときが少なくなかった。
体調が悪い中、苦手としている人とのコミュニケーションを強く求められるプロジェクトに当たってしまった。
今度は精神にダメージを受けてしまい、仕事に行けなくなったのだという。
これも保有者には少なくない話で、性質が穏やかなためか周囲からの攻撃対象になりやすいのだと思う。
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