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プロローグ

百万の命運

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「ついに、この時が来てしまったか……」
 虚空に浮かぶ金属の箱の中で中年の男性がつぶやいた。
 金属の箱もかなり巨大なものではあるのだが、大宇宙の中では砂の一粒かそれ未満の大きさでしかない。

「イナ代行、やれるだけの準備はやりました。それに今を逃せば次のチャンスはあるかどうかもわかりません。今までやったことを信じるしかありません」
 先ほどの中年男性よりは少し年上に見える男性が、中年男性をたしなめるかのように言った。イナというのが先ほどの中年男性の姓であった。

「イナ代行、コントロールセンターへ向かいましょう。ステーション長がお待ちです」
「……専務、わかった。私が行ったところで事態が変わるとも思えないのだけど」
 専務と呼ばれた男性はイナを導くかのように先を歩き出した。
 言葉遣いから専務よりもイナの方が上の地位にあると思われるが、専務の方がはるかに貫禄がある。というよりイナが頼りなさすぎるというのが正しい。

「入ります」「失礼します」
 専務に連れられてイナが「操縦室」のプレートが掲げられた部屋へと移動した。
 プレートをよく見ると「操縦室」の文字はテープの上に書かれたものであった。
 もともとは別の表示がなされていて、それを修正したことが見てとれた。

「お待ちしておりました。シートにおかけになってください。シートベルトも忘れずにお願いします」
 操縦室の中には二〇名ほどの人の姿があった。
 一名を除いてすべて席に着いていて、パネルや計器などと格闘している。
 唯一座っていない女性が専務とイナの方に歩み寄ってきた。

「ステーション長、お待たせしました」
「いえ、この後のためにも代行や専務には助かってもらわないとなりません。準備は……大丈夫ですね。では、ご不便をおかけしますがしばらくご辛抱をお願いします」
 ステーション長と呼ばれた女性は、専務とイナがシートベルトを正しく装着したことを確認して一段高いところにある席に着いた。

「それでは、着陸オペレーション開始します。普段通りやりましょう!」
 ステーション長の指示に、室内のあちこちから「はい」とか「承知しました」の声があがった。

「これだけの質量のものを地面に着けるというのは、技術者としては願ってもない機会ですね」
「何か潜水艦みたいな形をした島ですね。ご丁寧に潜望鏡まである」
 室内のあちこちから声が聞こえてくる。
 緊張を含んだ声であったが、明るい調子なのは敢えてそうしているのだ。

 百万を超える人々の命運は今まさに、室内の者達の手に託されたのだった
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