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第六章
230:協力関係
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「OP社グループ労働者組合」結成の会見の途中、アカシが控室のドアを開けると一人の優男風の青年が姿を現した。
マスコミ関係者には知られた顔であったから、彼らから驚きの声があがった。
青年はこれらの声を無視するかのように無言でアカシの隣に腰掛けた。
アカシが青年を紹介する。
「我々は『タブーなきエンジニア集団』の活動を支持します。本日は、ここに代表のウォーリー・トワ氏にお越しいただきました。トワ代表、遠路はるばるご足労いただきありがとうございます!」
そしてアカシが立ち上がってウォーリーに握手を求めた。
ウォーリーもそれに応じる。
いささか演出が過ぎるきらいもあるが、絵にはなる。
関連会社とはいえ、ハドリの陣営の者が対決姿勢を明確にしている「タブーなきエンジニア集団」と手を組むのだ。
この様子はサブマリン島の各都市に向けて配信されている。宣伝効果は大きいだろう。
ハドリも自社に否定的なマスコミを快く思ってはいなかったが、少なくとも暴力で彼らの言論を抑え込む愚は犯さなかった。
正規の手続きを踏んだマスコミには気前良く取材を許していた。
ハドリの意に反する記事を発表したマスコミに関しても、あくまで言論で対抗しただけだ。
ハドリが許さなかったのは、正規の手続きを経ない取材、正当な根拠の無い記事、そしてハドリ自身が取材を受けることの三点のみであった。
今回はこれらのケースに該当しなかったため、会見の中継にOP社による妨害が入らなかったのだが、ウォーリーやアカシがこのことを知る由もなかった。
マスコミ関係者の注目がウォーリーとアカシの二人に集まる。
カメラのフラッシュが一斉に光り始めた。
会場が落ち着くのを待ってから、ウォーリーが先に口を開いた。
「意外な組み合わせと思うかもしれないが、意見を同じくするグループが手を組むのは不思議なことじゃない。俺達『タブーなきエンジニア集団』は……」
ウォーリーは「タブーなきエンジニア集団」が反対するのはOP社の治安改革活動と、苛烈なまでの従業員に対する規制であり、事業の存続にそのものに反対する意思はないことを訴えた。
「我々も彼ら同様OP社や関連会社の事業存続に反対するつもりは一切ありません」
アカシもこの点については同意見だ。
従業員に対する規制について他者の介入を受けることは慎重に考えたいが、と前置きした上で、あくまで治安改革活動に反対するために手を組んだことを強調している。
マスコミからはOP社の関連会社が何故、敵対している集団とわざわざ手を結ぶのか、という質問が飛んだ。
これに対してアカシは強烈なショックを与えなければ経営陣の目を覚ますことはできない、と答えた。
「タブーなきエンジニア集団」は、OP社に宣戦布告をしているも同然の状態であるが、そのような集団とOP社の内部の人間が手を組むのは問題が無いか、という質問もあった。
ウォーリーはあくまでも治安改革活動と従業員に対する規制に反対しているだけで、宣戦布告をした覚えはない、と主張した。正直なところ、「タブーなきエンジニア集団」を武闘派集団のように思われるのはウォーリーにとって心外であった。
しかし、OP社、特に社長のエイチ・ハドリの認識は質問者の方に近いであろうことは容易に想像できる。
アカシはウォーリーの意見に同調した上で、取り入れるべきところは社の方針に反することでも取り入れる、それでなければ組合としての意味がない、と答えた。
会見は一時間近くに及んだ。
しかし、OP社の治安改革センター関係者などが会見場へ現れることはなかった。
会見は無事終了し、エリックなどそれほど気の強くないメンバーはほっと胸を撫で下ろした。
ウォーリーやアカシは覚悟ができているようで、「OP社の連中が力に訴えるのなら、こっちも反撃するだけさ」と言い放った。
事実、彼らはそのような事態が訪れれば、そのようにするであろう。
だが、OP社、いやハドリが交渉のテーブルに着く、というのであればそれに応じるつもりだ。
ウォーリーの場合は一昨年の末に、だまし討ちの形で攻撃を受けたことに対する謝罪を公開で行い、更に捕らえられてまだ解放されていないメンバーを解放すれば、という条件付きだが。
好戦的なウォーリーですら、自分の本業がエンジニアであることをわきまえており、あくまで戦闘は仲間の身を守る手段であると考えている。
ただ、攻撃を受ければ話は別だ。既にウォーリーは一度攻撃を受けている。
「一度」だけというのは正しくない。
そのとき捕らえられたメンバーのうちの幾人かはまだ解放されていないからだ。
ウォーリーは彼らの解放を諦めていなかったし、そのためには武断的な対応をすることも辞さないつもりだ。
彼らに何の罪があるというのか?
罪なき仲間を拘束されるという形で「タブーなきエンジニア集団」は現在もOP社から攻撃を受け続けている。
ウォーリーがそのことを忘れたことは一度としてなかった。彼らの無罪放免を勝ち取り、OP社に正当な補償をさせることは、ウォーリーにとって最低限の義務であった。
マスコミ関係者には知られた顔であったから、彼らから驚きの声があがった。
青年はこれらの声を無視するかのように無言でアカシの隣に腰掛けた。
アカシが青年を紹介する。
「我々は『タブーなきエンジニア集団』の活動を支持します。本日は、ここに代表のウォーリー・トワ氏にお越しいただきました。トワ代表、遠路はるばるご足労いただきありがとうございます!」
そしてアカシが立ち上がってウォーリーに握手を求めた。
ウォーリーもそれに応じる。
いささか演出が過ぎるきらいもあるが、絵にはなる。
関連会社とはいえ、ハドリの陣営の者が対決姿勢を明確にしている「タブーなきエンジニア集団」と手を組むのだ。
この様子はサブマリン島の各都市に向けて配信されている。宣伝効果は大きいだろう。
ハドリも自社に否定的なマスコミを快く思ってはいなかったが、少なくとも暴力で彼らの言論を抑え込む愚は犯さなかった。
正規の手続きを踏んだマスコミには気前良く取材を許していた。
ハドリの意に反する記事を発表したマスコミに関しても、あくまで言論で対抗しただけだ。
ハドリが許さなかったのは、正規の手続きを経ない取材、正当な根拠の無い記事、そしてハドリ自身が取材を受けることの三点のみであった。
今回はこれらのケースに該当しなかったため、会見の中継にOP社による妨害が入らなかったのだが、ウォーリーやアカシがこのことを知る由もなかった。
マスコミ関係者の注目がウォーリーとアカシの二人に集まる。
カメラのフラッシュが一斉に光り始めた。
会場が落ち着くのを待ってから、ウォーリーが先に口を開いた。
「意外な組み合わせと思うかもしれないが、意見を同じくするグループが手を組むのは不思議なことじゃない。俺達『タブーなきエンジニア集団』は……」
ウォーリーは「タブーなきエンジニア集団」が反対するのはOP社の治安改革活動と、苛烈なまでの従業員に対する規制であり、事業の存続にそのものに反対する意思はないことを訴えた。
「我々も彼ら同様OP社や関連会社の事業存続に反対するつもりは一切ありません」
アカシもこの点については同意見だ。
従業員に対する規制について他者の介入を受けることは慎重に考えたいが、と前置きした上で、あくまで治安改革活動に反対するために手を組んだことを強調している。
マスコミからはOP社の関連会社が何故、敵対している集団とわざわざ手を結ぶのか、という質問が飛んだ。
これに対してアカシは強烈なショックを与えなければ経営陣の目を覚ますことはできない、と答えた。
「タブーなきエンジニア集団」は、OP社に宣戦布告をしているも同然の状態であるが、そのような集団とOP社の内部の人間が手を組むのは問題が無いか、という質問もあった。
ウォーリーはあくまでも治安改革活動と従業員に対する規制に反対しているだけで、宣戦布告をした覚えはない、と主張した。正直なところ、「タブーなきエンジニア集団」を武闘派集団のように思われるのはウォーリーにとって心外であった。
しかし、OP社、特に社長のエイチ・ハドリの認識は質問者の方に近いであろうことは容易に想像できる。
アカシはウォーリーの意見に同調した上で、取り入れるべきところは社の方針に反することでも取り入れる、それでなければ組合としての意味がない、と答えた。
会見は一時間近くに及んだ。
しかし、OP社の治安改革センター関係者などが会見場へ現れることはなかった。
会見は無事終了し、エリックなどそれほど気の強くないメンバーはほっと胸を撫で下ろした。
ウォーリーやアカシは覚悟ができているようで、「OP社の連中が力に訴えるのなら、こっちも反撃するだけさ」と言い放った。
事実、彼らはそのような事態が訪れれば、そのようにするであろう。
だが、OP社、いやハドリが交渉のテーブルに着く、というのであればそれに応じるつもりだ。
ウォーリーの場合は一昨年の末に、だまし討ちの形で攻撃を受けたことに対する謝罪を公開で行い、更に捕らえられてまだ解放されていないメンバーを解放すれば、という条件付きだが。
好戦的なウォーリーですら、自分の本業がエンジニアであることをわきまえており、あくまで戦闘は仲間の身を守る手段であると考えている。
ただ、攻撃を受ければ話は別だ。既にウォーリーは一度攻撃を受けている。
「一度」だけというのは正しくない。
そのとき捕らえられたメンバーのうちの幾人かはまだ解放されていないからだ。
ウォーリーは彼らの解放を諦めていなかったし、そのためには武断的な対応をすることも辞さないつもりだ。
彼らに何の罪があるというのか?
罪なき仲間を拘束されるという形で「タブーなきエンジニア集団」は現在もOP社から攻撃を受け続けている。
ウォーリーがそのことを忘れたことは一度としてなかった。彼らの無罪放免を勝ち取り、OP社に正当な補償をさせることは、ウォーリーにとって最低限の義務であった。
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